こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
さて、2015年9月に初めて訪問し、深い感銘を覚えた「鮨舳」さん。
当時は食べログのスコアは3.5でしたが、福岡の「さかい」さんと並ぶ、西日本を代表する鮨店だと確信しました。
その後、2016年8月、2017年7月に訪問しつつ、6年半の時を経て2024年1月に訪問。
結果として、標題のとおり香川県という土地を超えて素晴らしい試みをされている事に感銘を覚えました。
親方は江戸前鮨に真摯に向き合っておられ、同時に郷土寿司も再構築されている点が凄い。
東京のバブル鮨店がキャヴィアやトリュフなどを使って商売人へと堕ちる中、高松の佐藤親方は生粋の職人を貫いておられ粋そのものです。
克己の精神を感じます。
鮨職人の生きざまは顔や眼に表れる…と強く感じます。
「鮨舳」さんは写真撮影禁止なので、渾身の力を込めて魅力を表現します!
タップできる目次
過去にお伺いした際には、「鮨舳」の佐藤 裕哉親方は地魚を駆使してご当地らしい江戸前鮨を構築されている点に感銘を覚えました。
江戸前仕事の巧みな応用が魅力だと。
しかし、時を置いて再訪すると印象が変わりました。
より江戸前鮨の古い仕事に着目されて仕事を掘り下げておられる点が圧倒的だと気づいた次第です。
それは、以下の点で容易に気づくことが可能です。
- 店内に種札を掲げていて、仕込みの数が多い点
- おまかせ一本ではなくアレンジして頂ける点
- 穴子の仕事が3種類あり、【爽煮】まで仕込んでいる点
- おぼろも仕込んでいて、【おぼろ巻き】がある点
- 驚くべき事に【ひよこ】もある点
これは驚嘆に値します。
僕は終盤に【ひよこ】、【爽煮】、【おぼろ巻き】と頼みましたが、感動そのもの!!
今の東京で滅多に味わえない江戸前鮨の深い感動に浸りました。
この凄さを念のため説明すると、以下のとおりです。
各々の仕事の説明で、「鮨舳」佐藤親方の魅力もお伝えすることが出来るでしょう。
【ひよこ】は江戸前鮨初期の仕事で茹で卵を用いる変わり種の鮨ですが、今は無き京都の名店「松鮨」さんや人形町「㐂寿司」さんくらいしか出されていない、古典中の古典です。
「㐂寿司」さんは創業こそ1923年(大正12年)と「新しめ」の老舗ですが、「與兵衞壽司」の流れを汲む現存店の一つです(残りもう一軒は創業1879年の日本橋「吉野鮨」さん)。
「㐂寿司」さんでは「ひよっこ」と呼んでおり、これは江戸弁特有の訛りです。
茹で卵の黄身の部分を抜き取り、黄身と海老おぼろを混ぜたものを詰めて握る、ユニークな鮨です。「㐂寿司」さんクラスの古典鮨を、高松の職人さんが表現されるとは…と驚嘆を覚えます。
そして、【爽煮】について最も有名なお店は、言わずもがな浅草「弁天山美家古寿司」さんです。
「弁天山美家古寿司」さんの創業は1866年(慶応2年)で、「鶴八」一門の原点のお店です(「弁天山美家古寿司」さんから出た柳橋「美家古寿司」の加藤博章親方は「江戸前鮨の神様」と呼ばれ、「鶴八」師岡幸夫親方を指導されました)。
さらに言うと、「鶴八」一門の「しみづ」さんは現在の赤酢のシャリの塩梅に大きな影響を与えた職人さんであり、「しみづ」さん出身で活躍する職人さんは数多いらっしゃるので、江戸前鮨のメインストリームの一つの流派と言えます。
【爽煮】に話を戻すと、これは穴子を真っ白に仕上げる仕事で、従来のようなメイラード反応を帯びた茶色系の煮方、漬け込み方ではありません。
これまた、まさか香川県で出会うとは…と感じた次第ですが、むしろ産地ゆえに最適な仕事を選択されたのではないか?と感じました。
その心は、現在の穴子の主流産地は対馬や韓国なので、脂が乗っていて、繊維質が柔らかいものが多いです。
よって【爽煮】よりも現在主流の煮方がベターとなります。
かつての江戸湾の羽田沖の穴子のようなものだからこそ、佐藤親方は【爽煮】を選択されたのではないかと感じたのです(職人に何でもかんでも尋ねるのは無粋なので、僕は推察する事も重視しており、理由を聞いていません)。
つまり、江戸前仕事原理主義に陥らず、味を見極めて古い仕事を選択されているので、その点においてもセンスがあると感じる次第です。
他者の調理法を全く同じ方法でコピペしたり濫用したりするのは三流。
一流は取捨選択や換骨奪胎をしてナンボですね(これはビジネスにも言えますが)。
最後に【おぼろ巻き】。
芝海老などのおぼろを仕込む職人さんが極端に減っているので、これは本当に素晴らしいことです。
なにも古典を盲目的に礼賛しているわけではありません。
おぼろ自体が抜群に美味しい江戸前の鮨種だから言っています。
おぼろは昔のスタイルだと甘味が勝つ傾向にありますが、現代的に調整すれば素晴らしい種として昇華されます。
海老の甘味や香りを楽しめるのは勿論、シャリの味を伝えてくれるのもおぼろの魅力。
干瓢も素晴らしい巻種ですが、シャリの味わいをより鮮烈に伝えてくれるのは、おぼろだと思います。
さらに言ってしまうと、おぼろはおろか、巻物すら作れず手巻き一辺倒の職人さんも増えています。
これは江戸前鮨の危機です。
表層だけ見ていてはその料理の本質を知る事は不可能なので、本質的な古典にも向き合って頂きたいと感じます。
鮨の一人前は握りと巻物によって構成されるものです。
お金で買える油脂系の種や江戸前鮨としてはまがい物のキャヴィアやトリュフを揃えるのではなく、仕事が分かる種を仕込んで頂ければ、江戸前鮨がより楽しく発展していくでしょう。
僕は普段からそのように考えているため、高松で頂く佐藤親方の【おぼろ巻き】に江戸前鮨の深淵を見た次第です。
期せずして訪問の直前に神保町「はる駒」にて田島親方の【おぼろ巻き】を頂いていたので、温故知新を強く実感しました(田島親方は前述の「鶴八」の暖簾を長く守っていた方です)。
佐藤親方が用意されている種札の数は、なんとタネの数20枚、巻物の数3枚(他にも好みで巻いて頂けます)。
質のみならず量もかね揃える仕事ぶりです。
おまかせ一本で、追加の種を用意しない職人さんに見習って頂きたい仕事です。
追加を聞いても、仕事をしていない赤鯥(ノドグロ)や黒鯥、金目鯛、甘鯛などでは実に味気がありません。
おまかせを頂いた後に、これらを食べたいと思うお客は真の鮨食いではないでしょう。
真の鮨食いが食べたいと思う仕込みをされる職人さんは、江戸前鮨業界の光だと断言できます。
しかも、佐藤親方は江戸前仕事の掘り下げだけでなく、郷土寿司のアレンジも行っておられる点が語弊無く感涙モノです。
どのような寿司が登場したかは後ほど詳述しますが、僕が出会った中でもトップクラスにイノベーティブな鮨です。
それを古典、伝統の温故知新を基に行っている点が実に崇高。
「イノベーティブ」と聞くと、最新の調理技術や流行りの食材、提供方法などが頭に浮かぶかもしれませんが、伝統からインスパイアされる手法もイノベーティブである点はnomaが証明済みです。
佐藤親方の試みは温故知新の革命と言えます。
なお、シャリについては、過去から変えられているようです(時が経っているので、そりゃそうですね)。
お米は小粒が主体で、ぱらりとほどけ、温度は温かめ。
塩気と酸味は上品で、お酢の熟成香がふんわりと漂います。
メーカーを伺ったところ、ヨコ井「與兵衛」とミツカン「優選」のブレンドとの事でした。
ちなみに、佐藤親方はもともと米酢のシャリと赤酢のシャリを2種類併用されていましたが、2018年以降に赤酢一本に絞られました。
2種類併用時も共に完成度の高いシャリを切られていましたが、一本に絞られるとは実に硬派です。
「鮨舳」さんは、厳密なおまかせコースを用意されているわけではなく、お客の好みに調整して提供されます。
よって、僕が今回頂いたものが定型ではありません。
ただ、ほぼフルで頂いたので、ご参考にして頂ければ幸いです。
オーダーについては、昔から多用しているフレーズ「酒肴については、握りで出されない、あるいは酒肴の方が最適な種を頂き、握り主体でお願いします」とお伝えしました。
その後、追加を行っています。
下記が2024年1月訪問時に頂いた内容です。
この度頂いたお酒
悦凱陣、石鎚純米吟醸、土佐しらぎく
当日の朝に締めた鮃。
もちろん弾力がありつつ、甘味と香りが込み上がる。
爽やかな味わいの鮃だ。
嬉しいことに三切れあるので、調味料なし、塩、醤油の順で頂くのが良い。
切り付けのタイミングで香りが伝わる!
食感はしっとり柔らかく、さっくりと切れる。
煮ることよりも切り付けの厚みによって食感を表現出来る煮方だ。
蛸は旨味が強い。
実に旨いなー!と笑顔になった。
観音寺市・伊吹島産。
標準和名はヨシエビ。
半透明に火を入れていて美しい断面!
もちろん味も良く、食感と甘味を引き出す火入れのバランスだ。
甘味が強くてプリプリ食感も楽しめる!
愛媛県産。
ガリのお酢で作った自家製ポン酢で頂く。
脂が乗り乗りで、香りも良し。
ポン酢は甘味と香りが良く、鰆の味を引き立てる。
地物の牡蠣を用いた牡蠣味噌と北海道産の鮟肝。
牡蠣味噌は、香りと甘味が抜群で、ネガティブはゼロ。
鮟肝は提供方法が理に適っている。
共に調味の塩梅が良い。
酸味がキリッと強めに効いていて、辛味がピリリと走る。
味を切る方向性のガリだ。
名刺代わりの一貫目は小鰭!
赤酢でしっかりと〆た上で寝かせている。
それでいて、噛みしめるとしっとり感のある繊維質で、ジューシィさもある。
脂は強くないものの、江戸前の仕事で仕入れた小鰭を最大化させている。
これもネガティブな香りや味わいはゼロだ。
墨烏賊=コウイカの西日本で使われる名前。
コリコリ感の後に甘味を感じさせつつとろりととろけてゆく。食感はゴリゴリまで行かず、コリコリ感で留まる。
産地は伊吹島。
酢洗いで身を軽く収縮させている。
厚みがある赤貝なので、仕事が良い。
昆布様の香りは上品ながら、後から次第に込み上げてくる。
旨味だけでなく甘味が強い点が魅力的な味わいだ。
小鯛笹漬と蕪の千枚漬けを用いる事が多い郷土寿司のアレンジだ。
実に素晴らしい試み!
部屋の温度で鯖の脂が滲むのが分かる。
頂くと、蕪の食感から鯖の脂と香りが活きてきて、これが赤酢に合う!
赤酢で作っている職人さんは他に出会った事が無いので、実に良い経験をさせて頂いた。
赤酢なので小鯛ではなく鯖に変えたのはジャスティスだ。
金沢を中心とする石川県の郷土寿司のアレンジだ。
しかも、残ったシャリに麹を用いて発酵させている点が崇高な志!!
発酵、熟成期間は2週間。
舌だけでなく喉で感じる複雑な味わいに魅了される。
麹による甘味がアシストしてくれる点も江戸前鮨に無い持ち味であり、提供の必然性を感じる。
そして、酢飯ベース故のサッパリ感がある。
なんて先端的!!!
部位ははらもで、仕事は漬け。
しかも10日との事!!
これは日数ではなく、選択する部位の必然性に感銘を覚えた次第。
皮目を残しつつ湯霜にして漬けている模様。
産地は長崎で、芥子を添えて。
実に理に適っている産地に対する仕事であり味わいだ。
文化圏外の食材をただ出すのでは凡庸であり疑問が残るが、自身にしか出来ない仕事を用いる試みがセンス抜群である証左
食感はプリプリしていて、脂のアタックは強すぎず、漬けと言う仕事の可能性を試している。
逆に蛤は漬け込みにより、しっかりな色合いだ。
いざ口に運んでみると、素晴らしい味わいで、まず香りが濃密!!
旨味もさる事ながら香りに魅了された。
漬け込みに伴う塩味や甘味も軽く、テクスチャーも軽やかでぷりっとしている。
味覚調整と仕事の見極めが実に良い。
漁法は延縄で、仕事は漬け。
旨味があり、酸味も楽しませてくれる赤身だ。
噛みしめると香りが込み上げる。
持ち味の柔らかさが良い。
脂がありつつ酸味も効いていて、脂の甘味をスッキリと楽しませてくれるトロ。
頂く前から香りが良い。
テクスチャーとシャリの一体感が秀逸な仕事。
牡蠣味噌を噛ませて味わいの重層感もある。
小川。
海苔の香りも申し分無く、清涼感のある海胆だ。
甘味がありつつ、キリッとした後味。
地物が入ったからとの談。
産地に関する仕事の選択理由は前述のとおりだ。
穴子はぷりっとしつつ、ホロホロとほどける。
これはこの仕事でしか味わえない楽しみ。
そして、本家の仕事よりも精度が高い。
15分ほどの火入れだそう。
産地は韓国で、海苔を合わせる。
穴子の産地を使い分けて、仕事を選択されているのが素晴らしい。
脂が乗った韓国産の穴子を焼き込んで凝縮感を出し、海苔も炙ってから使用している。
味わいや香りのコントラストに妙がある。
意表を付く巻物だが、関西を中心とする椎茸の仕事を応用している。
こっくりと甘く味付けを行い、コリッとした食感に炊いている。
木ノ芽を用いる点も関西酢の定番の仕事だ。
卵黄の色が濃い卵を使用されていて、オレンジに近い見た目だ。
そして、中心部はとろりと軽い火入れで、二重構造になっている。
黄身酢おぼろではなく玉子おぼろを使用!
出会えて嬉しかったのは上述の通り…。
白身の冷たさから黄身の甘味が広がり…終盤に良いなあとしみじみ。
卵に切り込みを入れている点は親方のアレンジ!
良いと思う!
最後におぼろ巻きで〆る幸福を高松で頂けるとは感慨無量である。
こちらが2015年に初めてお伺いした時の記事です。
若手ながらに香川で注目を浴びている職人さんがいる…と聞いて、かなり期待して訪問しました。
それと言うのも、ネットで見る握りの写真が端正だったので。
しかし、伺ってみて、期待を遥かに超える満足度で、驚嘆を覚えました。
まず素晴らしいのが、店内の香り。
実は、都内の高級店でも香りに乱れがあるお店はザラにありますが、こちらは清浄な空気に酢の香りが滲み、大変気持ち良い。
次に素晴らしいのは、お茶の差し替えのタイミング。
こちらほど正確にお茶を替えられるお店を、僕は他に知りません。
決して差し出がましくなく差し替えて頂けるのですが、さりげなく、きめ細かい。
特に、強い味わいのタネの後、確実に新しいお茶に替えて頂けるのは気持ちが良かった。
そして、肝心の握りの方も面白い。
シャリは、前半は米酢のもの、後半は赤酢のものと使い分けられるのですが、違和感無く、両方のシャリの完成度が高い。
2つのシャリを使われて違和感が無いお店は少ない。
ご主人の握りは精確で、捨てシャリをする事は無く、手元に乱れがありませんでした。
仕事の方も瀬戸内の素材を江戸前の枠組みで解釈されており、独自の世界観を提示してくれます。
なお、シャリは口に入れるや否や鳳仙花の如く米が弾ける。
硬めに炊き上げ、握り加減が良い。
味付け的には、酢がやや強めで、現代的な味わいです。
赤酢のシャリの方は、ヨコ井の酢を使用されているそうです。
最後に、山葵の管理も良かった。
こまめにすりおろされ、乾かぬよう慎重に皿を返す。
…とどのつまり、全てにおいて「もてなしの心」が顕れた稀有な鮨店だと感じました。
ガリ
甘みが無くスッキリした味わい。
真鯛
歯応えがあり、香りが強く、抜群の甘みを楽しめる。
一貫目で確信を覚えるタネのクオリティ。
アイナメ
昆布で〆ているが、塩梅が良い。
昆布の香りと旨味を移し過ぎず、アイナメの魅力を高めている。
エボダイ
珍しい酢橘〆を使用。
酢橘は抑制が利いており、上品な香りを残す。
ハリイカ
江戸で言う墨烏賊。
厚みのある切り付けだが、歯切れは良く、甘みたっぷり。
鮃
昆布〆だが、鮃の香りは非常に強い。
聞けば青森産との事。
噛みしめると滲む甘みは鰈とは異なり、季節の移ろいを感じる。
鮪赤身
漬け時間は1分程度。
ここから赤酢のシャリに変わります。
産地は大間ですが、特にこだわりは無く、一番美味しいと思うものを使うとの事。
甘みの引き立て方が巧く、食感はねっちり、シャリとの相性が抜群。
小鯵
所謂ジンタか(鯵の新子)。
程良い酢加減で〆ており、合わせた調味料が良い。
葱とすりおろした生姜をペースト状にしたもの。
ミル貝
ミル貝も赤酢とは驚いたが、甘みを引き立てている。
いくら軍艦
これは県外のタネだが、人気のために使用か。
浅い漬け加減で、粒たちは爽やかに溶ける。
上品な口当たりと広がりのある余韻。
カマス
炙ってあり、とにかく懐かしい香り。
鯖
脂、香り共に中々時期を考慮してか〆加減は弱めで良い。
鰆
漬け。
甘めの煮キリを使用しており、面白い。
鮪中トロ
温度の戻し加減が良い。
小鰭
皮目の食感は瑞々しく、酢をそれなりに用いつつ香りを活かしている。
シャリは米酢の方で。
蛤
煮ツメは濃い口でタイプ。
赤海胆
淡路産で、訪問の翌日から禁漁になるとの事でラッキー…
苦味が無く非常に美味しい。
椀
真鯛のあら汁
車海老
茹で上げ。
肉厚ながらに甘みを活かす良い火入れ。
鰆
今度は軽く炙ったもので、皮はとろとろ、脂が滲む。
穴子
ふんわり柔らかな仕上げ。
玉子
良質の練り物のような食感。
甘く無い。
非常に満足度の高い内容だった上、トータルで19貫(+椀、玉子)なので、お会計を待つ間、「覚悟」しておりました。
しかし、お会計は14,000円。
タネのクオリティを考慮すると圧倒的なコストパフォーマンスです。
味わい、サーヴィスを兼ね揃えた名店である事は間違いありません。
全国で鮨を食べておりますが、個人的に三ツ星クラスの地方江戸前鮨店かと思います。
2016年8月訪問時に頂いた内容です。
前回、お昼に伺って感銘を覚えた鮨舳さん。
この度、夜に訪問してみました。
今回は酒肴を少し、握り中心で頂いたところ、以前に抱いた感動は色褪せず。
むしろご主人の完成度の高い仕事に惚れなおす事となりました。
東京には「酒肴を少し」と伝えているのにバンバン出してくる職人さんがいますが、あくまでも握り主体で満足感を与えてくれるのが素晴らしい。
しかも、驚いた事に、お好みにも対応されておりました。
満席だと言うのによくぞ…と東京で失われつつある江戸前鮨職人の魂を香川の地で感じました。
この度、頂いた酒肴は三品となります。
マナガツオ
昆布で〆たお造り。
香川の東側で獲れたものとの事。
焼きよりも香りと甘みがストレートに感じられ、一品目から驚き。
生の刺し身ではなく、仕事を施した刺し身を出されるところにもグッと来る。
昆布のグルタミン酸もマナガツオとのバランスが良く、かなり良い〆!
黒鮑
小豆島産。
圧倒的な香りと旨味で、一口一口ごとに前の味わいを超えてくる。
ひとえに仕事によるもの。
肝は雑味が少なく海藻を彷彿させる爽やかな香りが心地良く、苦味が極めて柔らかい。
鰻
岡山市旭川産。
力強い香りと強い甘みを楽しませてくれる鰻。
素晴らしい火入れで、身はふっくら柔らかくジューシィで、皮はパリパリと軽やかに弾ける。
タレは甘みを利かせているが、全く嫌みが無く、あくまでも素材が勝つ。
この後、握りに移行します。
アマテガレイ
江戸前で言う、真子鰈。
力強い食感の身を噛み締めると、香りと旨味が横溢する。
そして、シャリとの相性も素晴らしい。
一日弱寝かしているようだが、食感、香り、旨味の三拍子が揃っていた。
マメアジ
切り身を三枚付けに。
しっかり〆ており、噛み締めると旨味が弾け出る。
下処理、仕事ともに秀逸。
鯵
これも〆加減はしっかり。
下北沢の小笹寿しで岡田周三氏が生み出した葱と生姜を叩いた薬味を噛ます。
〆の仕事により旨味が凝縮されており、薬味と一体となって、鮮烈な味わい。
鯵の清々しい香りも鼻を抜け、夏の海を髣髴とさせる。
剣先烏賊
これは素晴らしい包丁。
僕は烏賊は墨烏賊にしても包丁を楽しむタネだと考えているが、
ご主人の包丁は食感を計算されており、歯切れが抜群。
歯応えと柔らかな歯切れが相まって、食感の奥から身を現す甘みが甘美。
シズ
標準和名イボダイで、東京ではエボダイ、隣の徳島県ではボウゼとも。
ご主人お得意の酢橘〆。
抑制が利いた酢橘の香りが、やはり上品。
マナガツオ
こちらは赤酢のシャリで。
皮目がサラリと消えるように溶けた後、甘みが口腔を満たす。
炙り加減が奏功している。
クロメ入りの藻塩も塩気が尖っておらず、ミネラル分が多く旨い。
ちゃりこ
いわゆる春子(血鯛の春子)。
うーん、素晴らしい。
〆により甘みが凝縮されており、食感はしっとり。
イシガキガイ
これは岩手産。
磯の香りがとても良く、甘みが圧巻。
シャクシャクと気持ち良い身を噛み締める度に魅力を感じる。
赤酢のシャリが貝に足りない部分を補い、相乗効果を生み出している。
鮪赤身
軽く漬けにしており、酸味が心地良い。
噴火湾の30kgのものと、小さい魚体。
鮪トロ
これは圧巻。
鮪の甘み、シャリの旨味、煮キリの塩気のバランスが絶妙で、夏場の鮪の魅力を完全に引きだしている。
完全にご主人のセンスによって活性化された鮪。
小鰭
味はしっかり〆ていたが、小鰭はしっとり目の〆加減。
香りと旨味を引き立てており、小鰭の時期を計算した仕事だと感じる。
余韻が極めて長く、夏の小鰭とは思えない仕事ぶりに銀座の青空さんで頂いた小鰭を思い出す。
剣先烏賊
愛媛県産。
ここで煮烏賊とは!
煮ておりながらパツパツとした食感が魅力的。
山葵を多めに使用し、濃厚な煮ツメとの塩梅が良い。
ここで、次に来られるお客さんの分のシャリを切られ、驚き。
ここまで徹底している江戸前鮨店は稀有だ!
車海老
地物を茹で上げで。
繊細に包丁を入れ、丁寧に背肝を処理されたのが印象に残る。
しかし、言葉を失うほどに素晴らしい火入れ!
柔らかく仕上げ、シャリと調和する温度に調整してから握っておられ、甘みの伝達が圧倒的。
ここまでの海老の仕事を出来る職人は、日本に何人いるだろうか?
鰯
北海道産。
脂が乗っているため、酢を強めに入れて〆ており、トロトロな食感。
これだけ、少し残念ながら、最後に鰯の嫌な部分の香りがかすかに漂ったが、恐らく感知出来る人は少ないレヴェルかと(僕は嗅覚が強いので…)。
赤海胆
淡路産。
舌に乗せた瞬間にとろけ、官能的な甘みと香りが!!
このクオリティは凄まじい。
今年頂いた淡路の赤海胆ではトップレヴェル。
赤海胆
愛媛県大島産。
ねっとりした甘みの後にシャープな香りが一閃…
この針葉樹ないし松を思わせるキレのある香りは紛れも無く、今治〜松山あたりの海胆の特徴。
淡路の赤海胆とは全く異なる面白さがある。
いやあ、コレは嬉しい食べ比べだった。
穴子
トロトロと消え去る。
濃厚な煮ツメとのバランスも長けている。
一言、旨い。
香川県牟礼の穴子との事だが、希少性が非常に高く、今年は10本ほどしか手に入っていないとの談。
玉子
車海老以外に複雑な旨味を感じたので、伺ったところ、マナガツオも混ぜているとの事。
そして、山芋に加えて使用する砂糖は和三盆。
香り、食感の両方が秀逸な玉子。
以上、酒肴3品、握り18貫、玉子、日本酒3合を頂き、19,000円弱。
頂いた日本酒は、【悦凱陣 純米吟醸ブルー 山田錦】、【勇心 純米 おいでまい】、【悦凱陣 純米 阿州山田錦】。
コストパフォーマンスの高さよりも、握りの技術の高さと仕事の完成度に感服しました。
また機会を作って訪問したいと思います。
2017年8月訪問時に頂いた内容です。
去に何回か伺い、西日本の若手職人さんの中で有数の腕を持つと思うお店です。
この度、初めて7月に訪問しました。
訪問当初は食べログで3.5ほどだったので、ここのところのスコア高騰には驚くばかり。
また、敢え無く写真撮影不可になってしまいましたが、その分集中して頂けるのは嬉しいと考えましょうか(笑)
再訪して、矢張り相当の実力をお持ちな職人さんであり、今後の可能性を感じさせて頂きました。
この度頂いた日本酒。
土佐しらぎく、船中八策、勇心、石鎚。
今回は酒肴は3品のみ。
握り主体で頂きました。
真子鰈
肉厚!極めてぶりぶりな食感で、強い甘み。
個人的に大変好みの白身の寝かせ方。
旨味と香りもバッチリであり、3日以上寝かせて食感がダレたものとは異なる。
蛸
地もの。3分のみ茹でたとの事。
蛸としては大変短い火入れだが、噛み締める喜びがある。
噛むごとに香りが高まる。
今や鮨店で定番中の定番となった【桜煮(柔らか煮)】とは異なる魅力。
蛤
桑名の蛤。
身はトロトロで、煮ツメが良い仕事。
蛤の苦味と旨味に寄り添い、異なる旨味で引き立てる。
この後、握りに移行します。
タネの後に記載している(白)、(赤)は使用する酢の違いとなります。
合わせたワインではありません(笑)
→その後、酢飯を赤酢一本に絞られました。
真子鰈(白)
昆布〆。
最初に鰈の旨味が来て、ねっちりした食感と共に昆布由来のグルタミン酸が感じられる。
酢の酸味との相乗効果が良く、理に適った昆布〆。
最初の一貫として、穏やかに盛り上げてくれる。
剣先烏賊(白)
肉厚な烏賊に超細の包丁を入れている。
徹底的にトロトロした食感を演出しており、甘い!
蝦蛄(赤)
大ぶりの子持ち蝦蛄で、思わず「おおっ」と声が漏れる。
しっかりと漬け込んでおり、煮ツメで提供。
淡白な2貫の後に面白い流れ。
卵の含有量が多く、細かくプチプチと弾ける。
小鰭(白)
しっかり目に〆ているが、しっとり感もあって美味。
酢の浸透も強めだが、小鰭の香りがふつふつと立ち上がる。
鮑(赤)
蒸した鮑に肝を噛ませている。
切り付けが面白く、厚みのある部分と薄い部分があり、波を打たせている。
香りが抜群で、柔らかな身からゼラチン質がたっぷりと滲み出て、旨味に流されそうになったところで、肝の苦味と風味が味わいを調整する。
緩急の付いた味わいである。
赤酢のシャリとの味覚的なバランスも良好。
味わいが良いので産地を伺ったところ、小豆島産との事。
鯵(白)
超大ぶりの鯵を半身使用。
叩いた青ネギを噛ませている。
シャリの酸味との相乗効果がこれまた高く、旨い。
塩2分、酢2分で〆ているそう。
ノドグロ(赤)
炙っているが、ほぼ皮目だけの炙りで、身は生。
身の旨味を活性化させつつ、生の魅力も楽しめる。
エゾイシカゲガイ(赤)
雑味無くミルキーな甘みに満ちており、食感も抜群。
エゾイシカゲガイ(イシガキガイ)は都内でも頻繁に用いられるようになっているが、全てが全て美味しいと言う訳ではなく、仕入れのセンスも要求される状況にあると感じる。
蔵前の幸鮓さんは早い段階から使用されていた。
マナガツオ(赤)
炙って皮をパリパリに仕上げ、皮が弾けるや否や旨味が横溢。
赤酢のシャリと香ばしさ、脂の旨味が良く合う。
真鯛(白)
後半戦に真鯛とは、面白い流れ。
香りが強く、旨味は上品。
2キロ弱との事で、瀬戸内の鯛は夏にもう少し旨味を増す。
鮪赤身(赤)
20秒くらいの短い漬け。
爽やかな鉄分を楽しめる。
煮キリを変えておられ、たまり醤油的なコクが奏功している。
鮪中トロ(赤)
サラッとした旨味だが、脂はシャリの酸味と結合し魅力を増す。
海胆(白)
由良の赤海胆で、形が非常に綺麗。
冷えているのに一瞬で溶け去り、ただただ旨味が残る。
ミョウバン入りの海胆は室温で馴染ませる必要があるが、上質な塩水海胆は低い温度帯でも口どけが良く、旨味を瞬時に感じられる。
鰯(白)
ひたすら、トロトロトロトロ。
抜群の脂の旨味。
〆加減が素晴らしい。
叩いた青葱と生姜を噛ませている。
焼き穴子(赤)
煮穴子(赤)
穴子を東西2通りの調理法で供されるのは、大変面白い。
香りが炸裂し、煮穴子はトロトロ。
焼きで食感と香りを楽しんだ後に、煮穴子で甘みを楽しむ。
玉子
車海老とマナガツオを使用した贅沢な玉子。
大変味わい深い。
「鮨舳」さんは高松の繁華街エリアからちょっとだけ離れた瓦町にあります。
飲食店が点在している、閑静なエリアで落ち着きます。
店内はリニューアルされていて、直線のカウンターからL字型に変更されていました(2017年ころにリニューアルされた模様)。
緊張感を抱くこと無く、それでいて上質な時間を楽しませてくれる素敵な内装。
女将さんとの二人三脚で鮨との出会いを穏やかに楽しませて頂けます。
ちなみに、写真撮影禁止というのもありますが、客層は非常に良いです。
鮨の人気向上に伴ってモラルが無い人が増えましたが、本質的に鮨は成熟した人間以外立ち入るべきではない業態。
職人さんならびに食材と、空間をともにする他のお客さんへの敬意が無い人間は、決して訪問するべきではありません。
無用に騒ぐ人は人間として未熟であり鮨店訪問は時期尚早だと断言します。
「鮨舳」さんはお電話のみの予約となります。
訪問月の前月1日が解禁日となります。
お電話を取りやすい時間帯は午後13時以降とのことでしたので、ご参考にされてください。
店名:鮨舳(すしとも)
シャリの特徴:塩気と酸味は上品で、お酢の熟成香がふんわりと漂う赤酢のシャリ。
予算の目安:30,000円~40,000円 ※2024年7月よりおまかせ33,000円(税サ込)
TEL:087-833-9377
住所:香川県高松市瓦町2-8-17
最寄駅:瓦町駅から150m
営業時間:月〜金18:00〜、20:30〜、土・日12:00〜、18:00〜、20:30〜
定休日:不定休
ものごとの進歩は紛れもなく人がもたらすものだと、すしログ(@sushilog01)でした。
※本記事はNo. 112(2015年10月)、No. 160(2016年8月)、No. 201(2017年8月)を統合して、最新の情報を盛り込んで再構成しました。
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