こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
2021年4月10日にオープンした「鮨 奥」さん。
浅草「橋口」さんで2代目親方を務めておられた、奥親方のお店です。
前回2021年5月の訪問の後も、何度かお伺いしようとしたのですが、タイミングが悪く入れないことが続きました。
今回はかなり前もってお電話をして、約1年ぶりに再訪した次第です。
すしログ
結果的に、奥親方らしい鮨は健在で、特に小鰭などの〆ものと煮ものは堂に入っていると感じました!
他にはない握りで、価格もかなり良心的な点が素晴らしいです。
タップできる目次
「鮨 奥」の親方・奥勝次さんについて
奥親方の来歴については、橋口さんの記事にも記載していますが、改めてご紹介します。
親方の奧勝次さんは、かつて浅草で一世を風靡した「高勢」で修業された職人さんです。
しかし、変わったことにキャリアの途中で鮨職人を辞められた時期があります。
飲食とは全く別のお仕事に就かれ、さらにその後、天麩羅職人としてキャリアを再スタートされました。
鮨職人は「職人」と付くだけあり鮨一筋の方が多く、別の業界であっても和食(日本料理、会席料理店)が一般的です。
鮨→非飲食→天麩羅→鮨は結構珍しいのではないでしょうか。
そして、天麩羅店で働いている時に、鮨橋口の先代・橋口親方からお声が掛かったそうですが、一度ご辞退されたそうです。
しかし、二度目に呼ばれた際に橋口親方のお気持ちに応えるべく、鮨職人として復活されました。
橋口親方も「高勢」出身ですが、兄弟弟子の信頼関係を感じました。
だからこそ、橋口親方がご逝去された後も暖簾を守り続けられたのだと思います。
すしログ
「修行不要論」やパトロンによる早期独立が目立つ時代だからこそ、昔ながらの徒弟制度や職人気質の美しさが際立つと感じます(もちろん、それが全てではない事は百も承知ですが)。
奥親方は職人らしい信念を持たれていると同時に、お客さんへのホスピタリティも強い方。
初めてお伺いした時から鮨の味だけでなく、人間味にも惚れたので、足を運び続けています。
僕のように鮨マニアだけでなく、若くして鮨に興味のある皆さまにも心からオススメします!
「鮨 奥」のシャリと仕事について
もともと、奥親方は橋口さんの頃より、「江戸前鮨王道」のタネと仕事を用いながら、十分な個性を表現されていました
これは言うは易く行うは難いこと。
王道で個性を確立することは、基礎が徹底していて、センスもないと実践できませんので。
奥親方の鮨は写真の見た目以上に存在感のある味でした。
そして、独立開店された後は表現の幅を更に広げられた印象です。
小鰭や干瓢などは古い仕事の影響が大きく、鮨マニア好みの仕事を楽しませてくれます。
しかし、古典的でも古臭さは皆無です。
そして、同時に北寄貝で特徴的な食感を表現されたり、東京では珍しい走りのトキシラズを用いたりと、サプライズも盛り込まれています。
すしログ
シャリについては橋口さんの頃と同じヨコ井醸造の與兵衞(赤酢)と金将(米酢)のブレンドです。
ただ、以前よりも酸味の立ち方が強く感じたので伺ったところ、塩分濃度を変えられたそうです。
より「当世好み」の赤酢のシャリになったと思います。
桂太さんや冨所さんのシャリが好きな方の琴線に触れるように感じます。
やや硬めに仕上げたお米、ほんのりと温かい温度、ともに安定感があり、最初から最後までブレが無く楽しめます。
【2022年6月追記】
その後、味付けのバランスを変えられていました。
砂糖を用い、甘味を付けていた点にはビックリ。
ただ、甘味のバランスが良いので、違和感は無く楽しめる上品な塩梅です。
そして、お酢も高瀬の特注品であるヨコ井の「特白寿」をブレンドされているとの事でした。
酒肴については橋口さんの頃よりも心なしボリュームを落とし、握りに注力されている印象です。
酒肴も大変美味しいのですが、握りが好きな鮨好きの方に間違いなくヒットします。
ちなみに、握りも飲める方向性の鮨なので、日本酒を飲みたい方も安心です。
「鮨 奥」のおまかせの詳細について
おまかせの価格は16,500円と、今の東京にあって大変リーズナブルです。
一斉スタートのお店ではなく、さらに親方はお客さんの食べるスピード・飲むスピードに合わせて巧みに提供されます。
お客としては様々な用途で伺える優良鮨店です。
2022年6月に訪問した際の記事
2022年6月に頂いた内容は、下記のとおりです。
真子鰈
むっちむちで、香りが強い!
肝は濃厚な味わいだ。
蛸
佐島産。
みちっとした食感の後に、しっとりホロホロとほどける。
塩と山葵で食べると最高の味わいになる。
鰯
根室産の鰯を〆て、大葉、胡麻、ガリを海苔で巻いて。
脂が乗っていて、香りも良い鰯だ。
ホタテとこのわたの茶碗蒸し
実に魅力的な組み合わせだ。
このわたの風味がしっかり楽しめ、ホタテの甘みがじんわりと広がる。
ゴロゴロ入っていて嬉しい。
ホタテは凝縮感があり、甘い。
タイラギのオイル焼き
焼き切って凝縮させている。
みっちりとした身から、旨味と甘み、ホロ苦味が滲む。
旨味の強さはしっとり仕上げとは段違いだ。
キンキの漬け焼き
皮目を香ばしく焼き、身はとろっとろ!
香ばしくて旨い焼きもの。
お皿の使い方がユーモラスだ。
唐墨
2021年10月に仕込んだものを厚切りで。
この後、握りに移行します。
小鰭
ギリギリの柔らかさを攻めている!
皮はひたすら柔らかく、艶めかしくとろけるよう。
身もしっとりしつつ、脂も乗っている。
香りも良い。
柔らかさを志向する〆で巧みにバランスを取っていて、時期を考慮すると尚更印象に残る。
アオリイカ
いきなりとろけるのではなく、ぷつっと切れるや否やバラバラッとほどけ、次第にとろけゆく。
言うまでも無く包丁で表現される仕事だ。
とろけ優先でないところが良い。
アオリイカ自体の甘みは勿論、仕事の面でも見せてくれる一貫。
スズキ
昆布〆で1日。
むちっとした身から昆布の旨味がしっかりと広がりつつ、スズキの旨味も追いかけて合致する。
鮪大トロ
年末にストックされた戸井産の160キロの鮪。
超濃厚な脂だ!
香りもどっしりしていて、夏鮪の香りとは完全に異なる。
海外産から切り替えるために冷凍ストックを考えたそう。
旬を味わう魅力とは異なるが、これはこれで魅力的だ。
甘海老
濃厚でとろっとろ!
一滴のみ使用した酢橘が利いている。
鯵
横須賀産。
滑らかでとろっとろ。
脂が強くて、柔らかい鯵。
蛤
程良い柔らかさとじゃくじゃく食感。
じんわりと香りが高まってゆく。
海胆
利尻のキタムラサキ海胆。
これは濃密!
爽やかなのに甘い!
爽快感はこれぞ、と感じる時期物だ。
穴子
身はホロッホロで、かすかに香りが広がり野趣を感じさせる。
産地は対馬とのことだが、香りが強く、江戸前のものに近しい持ち味だ。
椀
蜆の椀。
蜆から薬品臭を感じたが、これはジェオスミン(ジオスミン)由来かと思われる。
植物プランクトンが発生させる物質で、これを取り込んだ蜆は特有の臭いを濃縮する事になる。
数日後に、江戸前の蜆を購入して同様の臭いを感じたので、時期的に影響が出ていたのか。
アイナメ 追加
昆布〆。
ぶちっぶちっと食感が強く、噛みしめると旨味が広がる。
干瓢巻き
超濃厚な凝縮感があり、これは正にメイラード反応の賜物!
シャリの酸味を実感し、パンチのある唯一無二の干瓢巻きだ。
玉子
しっとりとジューシィでホロッホロ。
ホロホロ感が非常に印象的な玉子焼きだ。
2021年5月に訪問した際の記事
2021年5月に頂いた内容は、下記のとおりです。
真子鰈
脂が乗っていて旨い真子鰈で、同時に香りも楽しませてくれる。
真子鰈の扱いが良いと、鮨職人さんとして信頼度が上がる。
青柳
甘みが強い青柳。
下にいるヒモは、甘みに加えてコリコリ食感と香りを楽しめる。
蛸
佐島産なので香りが良い。
身は噛みしめる喜びのある火入れだが、皮はとろり。
貝柱と帆立の真薯椀
塩と鰹出汁をしっかりと利かせた吸い地は東京らしい味わいで、そこに帆立の甘みと小柱の食感が加わる。
ふんわりと柔らかく、香りと甘みが横溢する真薯には、一口目から甘やかされてしまう。
優しさとキレをあわせ持つ椀だ。
ミンク鯨の尾の身
開店祝いをお持ちしたところ、親方がサービスで出してくださった。
これが素晴らしいクオリティ。
尾の身は高級部位として知られるが、殊に柔らかく、クセが皆無で旨い!
脂ではなく旨味が強い部位なので、これは嫌いな人はいないのではないだろうか?
是非ともシーシェパードの面々にもブラインドで食べて頂きたい。
毛蟹
安定の美味しさの毛蟹。
たっぷりと満喫出来て嬉しい。
酢橘を使用されているが、風味と酸味のアクセント程度の使用量なのが上品だ。
ノドグロの漬け焼き
橋口さんの頃にキンキや太刀魚などで頂いた、奥親方の漬け焼き。
ノドグロ(標準和名アカムツ)も大変美味しく、ふわっ!とろっ!じゅわっ!の三重奏。
嫌味なくほどけてとろける繊維から脂が横溢して口福そのもの。
ノドグロで唸ることは決して多くないが、久々に驚いた。
伺ったところ対馬の紅瞳と言うブランド。
味付けやお弟子さんの焼き加減もバッチリで、ブランドのイメージを強めることに奏功している。
ブランドは使用者のセンスが無いと無粋であるのはファッションや車と同じだ。
この後、握りに移行します。
ガリ
甘みがあるものの、甘さがクドくないガリ。
シャリの酸味や塩気を計算して調味されている。
小鰭
奥親方の名刺代わりの一貫目は、いつも小鰭である。
しっとり感を重視し、小鰭の香りを立たせる仕事。
皮の艶めかしさが奥親方らしさだ。
独特の〆加減で、小鰭好きならいきなり心を掴まれるだろう。
アオリイカ
トロットロでひたすら柔らかい。
寝かせた上に、さらに細やかな包丁を入れた柔らかさと甘さを出している。
しかし、烏賊らしさを残していて、ほのかにプチッとちぎれる感覚もある点が秀逸だ。
北寄貝
肉厚でシャクシャク、かつトロットロ。
両方の食感を楽しませてくれるため、おお!と笑顔になった。
火入れと包丁の入れ方が巧み。
食感に加えて甘みも申し分ない。
産地は網走とのこと。
春子
昆布〆で、身はむちっしつつ、とろっとほどけゆく。
昆布と塩をしっかりと利かせ、シャリの酸味とバランスを取る仕事だ。
鮪トロ
非常に濃厚な脂に強い香りのトロ。
車海老
むちっと肉厚な車海老は甘みが非常に強い。
程よい量の黄身酢オボロを噛ませている。
車海老は茹で上げの仕事で、少し置いて温度を落ち着かせている。
それでも甘い理由は車海老の茹で方にあり。
詳細は割愛するが、奥親方は細部に説得力のある理論を持っておられる。
蛤
香りとホロ苦味、旨味の三拍子が揃った煮蛤で、申し分ない。
さらに食感も良く、柔らかながらシャクシャク。
濃い口の煮ツメが華を添える。
鯵
むちっとして肉感的な食感で、脂が即座に滲んで舌の上で溶ける。
鹿児島出水の鯵だろうか…美味しい。
浅葱を噛ませている。
トキシラズ
これが冒頭に書いたサプライズだ。
北海道の初夏(5月下旬〜6月中旬ころ)限定のタネであるトキシラズ。
藁で燻して漬けにしている。
むっちりした食感で、トキシラズの香りの後に藁のスモーキーフレイバーが上品に漂う。
そして、喉にトキシラズの旨味が残る。
これは珍しさだけでなく味わいとしてもサプライズがある。
海胆
とろける上に海胆の粒感をほのかに楽しませてくれる。
椀
浅蜊とアオサの味噌汁。
穴子
ふわっと柔らかい穴子で、炙りの香りに加えて煮ツメの香りも魅力的。
濃厚かつ香りの良い煮ツメは印象を強める。
鮪赤身 追加
アイルランド産の冷凍モノで味わいは弱い魚体であるが、仕事で食感と香りを引き立てている。
漬けで表現したむちっむちっとした食感に魅力があり、香りもあるのが好印象だ。
小鰭 追加
小鰭に始まり小鰭に終わろうと、ついつい追加してしまった。
コース内のものと追加で切りつけを変えている点がマニア的に涙モノである。
素敵な親方。
皮をソフトに楽しませ、身とシャリがしっとりと馴染む感じ、そして軽やかな酸味は最後に頂いても美味い。
トロタク巻き 追加
誰もが好きな組み合わせで、もちろん僕も好きだ。
干瓢巻き
個人的に必食の干瓢。
奥親方の干瓢は本当に美味しい。
超濃い口で、食感はゴリゴリと力強い。
一週間炊いては寝かせ…を繰り返して作られた珠玉の名作。
山葵入りの「鉄砲」が実に映える干瓢巻きである。
玉子
デザート志向ながら芝海老の香りがしっかりしているので、鮨店らしさのある玉子焼き。
「鮨 奥」の立地と雰囲気について
お店の場所はいわゆる「観音裏」、つまり浅草寺の北側のエリアにあります。
この界隈は昔ながらの風情があり、下町情緒を感じます。
そして、実力派の鮨店が点在する場所でもあります。
個人的に好きな、久いちさん、一新さんなどもご近所ですが、全てがハッキリ異なる個性を持っておられるのが、楽しいです。
さらに、浅草と言えば…な老舗、弁天山美家古寿司、紀文寿司も合わせると、誰もが鮨の多様性を感じられると思います。
浅草は今も昔も鮨の聖地の一つであり、銀座とは異なる魅力があります。
お店の雰囲気は橋口さんの頃とは異なり、モダンで瀟洒な内装です。
橋口さんは総ヒノキの数寄屋造りで渋く落ち着いた空間でしたので、つけ場に立たれた際の印象は異なります。
現状、浅草で一番モダンな雰囲気の鮨店です。
カウンターの席数は9席で、席の間隔が取られていて大変リラックスできます。
親方の手元は全席から全て見えるような設計なので、一人でもグループでも、劇場的な趣も満喫できる空間だと思います。
ちなみに、橋口さんはどうされるのか伺ったところ、賃貸に出すご予定とのことです。
大変立派な建物なので、独立を考えている職人さん、もしくは趣味人の資本家の方は、是非ともコンタクトを取ってみてください。
浅草寺の二天門近くと言う好立地なので、個人的に「早いもの勝ち」な物件だと思います。
【2022年6月追記】
現在は、「七凪瀛(ななみ)」さんと言う鮨店が入っているようです(2022年1月オープン)。
「鮨 奥」のお店情報と予約方法
予約はお電話のみとなります。
何度かお電話させて頂きましたが、正午〜営業時間前までお電話は繋がりやすかったです。
店名:鮨 奥(すし おく)
予算の目安:おまかせ16,500円〜
TEL:03-6802-4474
住所:東京都台東区浅草3-42-12 浅草ダイカンプラザ天仁ビル1F
最寄駅:浅草駅(つくばEXP)から280m、浅草駅から1,100m
営業時間:17:00〜
定休日:日曜、祝日
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文中で言及した浅草の名店たち。
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