名古屋で一門を作った創作系の鮨店・本郷「おけい鮨」

おけい鮨暖簾

こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)です。

東京や大坂と同様に予約困難な鮨店が複数生まれている、名古屋。

その名古屋において一門を形成するのが「おけい鮨」さんです。

「おけい鮨」の橋本博親方は独自の仕事を多数生み出し、銀座の名店「さわ田」の澤田親方が名古屋時代に修業されました。

また、橋本親方は塩マニアで、塩好きが高じて、日本各地で塩の講演をされることもあったため、名古屋では「塩にこだわる職人さんのお店」として知られています。

創作寿司・街場寿司の範疇に入るお店ですが、今なお魅力的な仕事が多数ありますので、この度ご紹介します!

名古屋・本郷「おけい鮨」の魅力とは?

「おけい鮨」の魅力を簡潔に述べると、「気兼ねなく寛げる雰囲気」と「独創性の高い仕事」の2点です。

お店は名古屋の中心地から電車で30分弱離れた住宅街にあります。

外観から肩の力が抜けて良い感じの雰囲気です。

店内は靴を脱いで上がる掘りごたつのカウンター。

一見でも気軽にリラックスできるはずです。

 

今回は酒肴と握りがフルで付く【梅幸ばいこう】コースを頂きました。

酒肴は親方が各地で食材開拓して集めた上質な食材で構成され、各種調味料へのこだわりは半端ありません。

間違い無く、食材や調味料好きにはヒットするはずの内容です。

 

親方の橋本博さんは六本木で創業1917年の老舗「福鮨」で修業された方。

こちらは「英語対応可能・バーラウンジ併設」と謳うだけあり、六本木らしい鮨店です。

そして、息子さんは銀座にあった「鮨仙」で修業されたとのことです。

「鮨仙」は昭和初期に創業を遡る老舗で、小笹寿しの並びにあった模様。

 

「おけい鮨」は元々極めて創作性が強い鮨を出されていたそうです。

例えば、バルバリー種の鴨をルッコラと握ったり、炊いたフォアグラを煮凝りと握ったりと、今の鮨バブルを凌駕するほどのバブル寿司を握っていたとの談。

しかし、現在はフランス・ゲランドのフルールドセルとオリーブオイルを酒肴に使う程度に落ち着いていて、地に足の着いた創作寿司を出されていると感じました。

大衆的な意匠の器もあいまって、「鮨と対峙する鮨店」というよりは「笑顔になる寿司店」です。

 

ちなみに、ヒトサラに掲載されている橋本博親方は頑固者のようで、昔ながらの職人さんの気風を感じさせますが、実際には温厚で優しい方でした(笑)

一見客の自分にも細かく丁寧にご説明頂きました。

そして、橋本博親方はキャラクターが濃ゆくて素敵です。

ファイザー製のワクチン保管用の冷凍庫はマイナス80℃も出るので、食材冷凍用に欲しくなり、知り合いのドクターに「コロナが収束したら譲って欲しい」と電話を入れたと伺い、大変魅力的な方だと感じました(笑)

「おけい鮨」一門について

「おけい鮨」は本郷店の橋本博親方のお兄さんである橋本武夫親方が営む「本店」が桜山に、本店の二番手さんが独立した「分店・本山」が本山に、本店の御子息の橋本達也親方が営む「鮨橋本」が四間道にあります。

東京で「おけいずし」と言えば、名門・二葉鮨から新家安蔵氏が独立して1933年に創業したおけい寿司(御慶ずし)が頭に浮かびますが、上記の通り関連性はなく、名古屋の「おけい鮨」は家族経営で生み出された一門です。

▼参照:すしログ鮨職人の系譜

本郷「おけい鮨」出身の職人さんは多数いらっしゃるようですが、最も有名なのは冒頭に記載した通り、銀座「さわ田」の澤田幸治親方です。

ちなみに、澤田親方は高校卒業後に「おけい鮨」で修業され、その後東京に出てきよ田、青木、水谷などで修業され、独立資金を稼ぐために佐川急便で働いた挙句に最優秀ドライバー賞を取ったと言う豪胆なエピソードがあります。

 

名古屋では、堀田の「春勢」、森下の「鮨Diningおぐら」(おけい鮨に20年勤務)が「おけい鮨」出身として確認できます。

名古屋も江戸前鮨が主流となっていますが、「おけい鮨」は江戸前の仕事をベースに創作性を高めた、名古屋らしい鮨の一つだと言えます。

「おけい鮨」のシャリについて

シャリについては、訪問して意表を衝かれました。

名古屋の老舗なのに、シャリが赤酢だったためです。

僕はお店を訪問する際、感性のノイズにならないよう情報を入れずに訪問するので、驚きました。

 

…いや、愛知県は赤酢発祥の地なので、赤酢を使う事は理に適っているのかもしれません。

しかし、ミツカンではなく岐阜の内堀醸造の赤酢だったのは、重ねて驚きました。

 

「おけい鮨」さんは内堀の赤白ブレンドです。

味付けは酸味も塩気も穏やかで、砂糖も用いて甘みを用いています。

甘味の強さは一般的な関西と東京の間くらいです。

 

お米の炊き加減は柔らかめですが、比較的ホロッとほどけます。

温度はやや低めなので、甘み、硬さ、温度は老舗らしいシャリだと言えます。

 

橋本博親方は現在サポートに回っておられ、息子さんが一番手として握られています。

少しの捨てシャリを行いつつ、手を返すとき宙を舞うようなモーションが特徴的で、手数は少ない握り方です。

 

全体的に創作的な仕事に合うシャリだと感じました。

シャリ単体で頂くと恐らく甘みが強いと感じると思いますが、タネと頂くことでバランスが取られます。

本郷「おけい鮨」のメニューとおまかせの詳細

本郷「おけい鮨」のメニュー名は、粋です。

  • 芝翫しかん 8,800円
  • 璃寛りかん 9,900円
  • 路考ろこう 11,000円
  • 舛花ますはな 11,000円
  • 梅幸ばいこう 13,200円

これらの熟語が何を意味するか、お分かりですか?

分かった方は相当の教養をお持ちですね。

 

これらは江戸時代に人気を博した色の名前です。

歌舞伎役者好みの色として、俳名からネーミングされています。

リストに「団十郎」が無いのが、なんとも硬派な印象です(笑)

おけい鮨メニュー

メニューの違いは、芝翫しかん璃寛りかんは握り主体で、路考ろこう舛花ますはな梅幸ばいこうは酒肴が付くコースです。

2021年7月に頂いた【梅幸】の詳細

この度頂いたお酒

・土佐鶴、純米酒

おけい鮨お酒

お店の方向性は「飲み鮨」ですが、置いている日本酒は1種類。

このあたりも昔ながらの鮨店らしいですね。

 

りゅうきゅう

おけい鮨りゅうきゅう

一品目が大分県の有名な郷土料理とは驚いた。

優しい甘みのあるゴマだれ漬けの魚料理だ。

つまみながら、酒を頂きつつ、どのコースにするか思案した。

 

知多半島産の蛸、長野県・佐藤愛子さんトマト

おけい鮨知多半島産の蛸

強い甘みだけでなく酸味も上品に楽しませるトマト。

フランスのフルールドセル(と言うことは恐らくゲランド)、オリーブオイルとともに。

知多半島産の蛸は柔らかく、コリコリした食感も残されていて旨い。

添えられている白い食材はモッツァレラチーズのようだが、実際には豆腐。

変化球的な一品目だが、食材は日本のものを使用されている。

 

刺身

おけい鮨刺し身

トキシラズ、鰹のタタキ、真子鰈。

外国産のサーモンではなく北海道産のトキシラズを使用されている点が嬉しい。

また、真子鰈は地物。

中でも白眉だったのが、鰹のタタキ。

おけい鮨カツオのたたき

藁は岐阜県・郡上八幡と愛知のものをブレンドしていて、ともに無農薬。

ブレンドする理由は理想の香りを表現するためとのことで、素晴らしい(笑)

頂く前から燻香の良さに心を奪われ、いざ頂いてみると香りと鰹の酸味が実に魅力的な調和。

刺身の山葵は何故か混ぜ山葵であったが許容範囲内かな(笑)

 

タイラギ、太刀魚

おけい鮨タイラギ太刀魚

ともに地物。

タイラギにはやげん堀のオリジナルブレンド七味を使用。

東京の七味らしく辛味が強いが、通常のものよりも陳皮(温州みかんの果皮)の香りが爽やか。

太刀魚はしっとり、ホロホロに焼かれている。

 

地元のワタリガニと北海道産イバラガニの内子

おけい鮨地元のワタリガニと北海道産イバラガニの内子

これは贅沢な組み合わせ!

毛蟹にイバラガニでないところが良い。

ワタリガニの身の甘みに内子の旨味と香りが絶妙に合う。

北海道産イバラガニは希少性が高まっているが、親方が昔開拓したルートで確保が出来ているそうだ。

 

酒肴の盛り合わせ

おけい鮨酒肴の盛り合わせ

紀伊長島(三重県)のボラで作った唐墨、地物の煮鮑、地物の蝦蛄。

唐墨はかなりソフトな口当たりで、塩気も優しい。

粒がほろりほろりとほどけ、香りが高まる。

上品に仕上げた魅力的な唐墨だ。

鮑は大根と炊かれていて、甘みのある味付け。

なんとも家庭的な味。

高級感が無く、恭しくないところが良い。

懐かしい味わいの鮑で、癒される。

蝦蛄は子持ちで、香りが良い。

変に高級感を出した酒肴盛り合わせよりもよっぽど魅力的である。

 

汲み上げ豆腐

おけい鮨汲み上げ豆腐

握りの前に、口直し的に豆腐が供される。

「おけい鮨」さん専用に豆腐屋さんで作ってもらった豆腐との事だ。

非常に濃密な味で、大豆の香りと甘みが濃い。

塩は希少性が高い石川県の角花家の塩。

豆腐に使うにがりも、角花家のものらしい。

角花家の塩は伝統的な揚げ浜式製塩で作られ、角花家は珠洲地域で製塩方法を守ってきた生産者だ。

今でこそ揚げ浜式製塩を行う生産者は増えたが、塩の専売制時代に文化遺産として守られてきたのは角花家の尽力のお陰だ。

その甲斐あって2008年に国指定重要無形民俗文化財に指定された。
※1905年~2002年まで、日本たばこ産業以外は塩を販売する事が出来ず、日本たばこ産業の塩は塩化ナトリウム99.5%以上(ミネラルに乏しい)精製塩であった

 

ガリ

おけい鮨ガリ

甘みが低く、塩気は穏やかで、辛味のあるサッパリ味のガリ。

 

真鯛

おけい鮨真鯛

塩昆布とレモンを合わせる創作寿司の仕事だが、不思議とバランスが良い。

個人的に鮨にレモンを選択するのはネガティブなスタンスを取るが(レモンの香りは柚子やカボスなど他の柑橘類も鋭いため)、バランスの良さに相好を崩す。

 

甘海老

おけい鮨甘海老

甘海老であるが、意外にもファーストバイトがみしりと力強い食感。

また、海老味噌を用いた調味料も魅力的。

海老の香りが濃厚で、食欲を刺激してくれる。

 

海胆

おけい鮨海胆

北海道産の塩水キタムラサキ海胆。

口どけが抜群で、濃厚かつ雑味が無い。

通常であれば、近海の海胆を使用されるそうで申し訳なさそうにされていたが、味はバッチリ。

 

鮪中トロ

おけい鮨鮪中トロ

千葉勝浦産。

香りが夏っぽくなく、脂と身がペースト的にとろけて一体化する。

これは時期モノを冷凍されているように思われた。

 

おけい鮨椀

大ぶりの地浅蜊を用いた味噌汁。

茶碗蒸しとの2択であったが、お酒を頂いているので貝類を選択。

 

赤烏賊

おけい鮨赤烏賊

レモン塩。

むちりむちりと食感が良い。

 

縞鯵

おけい鮨縞鯵

むっちりした身で、脂の乗りは程ほど。

 

ツブ貝

おけい鮨ツブ貝

北海道産。調味料は柚子胡椒。

コリコリした食感と柚子胡椒の相性が良い。

 

ノドグロ

おけい鮨ノドグロ

ノドグロ(アカムツ)は昨今流行り過ぎているほどに流行っているタネだが、10年以上前から出されていた模様。

炙りではなく、焼いているので、脂がジューシィでトロトロ。

 

穴子

おけい鮨穴子

柚子塩と煮ツメの2種。

柔らか過ぎない煮加減で、繊維質はみしっみし、ほろり。

 

最後の1貫は選べるシステムとの事。

名古屋在住の他のお客さんは【イバラガニの内子の軍艦】を頼まれていた。

親方ご自慢の仕事の一つ【巨大椎茸の鮑風の煮もの】も気になりつつ、選んだのは愛知県の県魚である車海老だ(1990年に選定された)。

 

車海老

おけい鮨車海老

三河産の天然モノ。

 

玉子

おけい鮨玉子

芝海老と大和芋を使用した江戸前の玉子焼き。

大変香ばしく、塩気が利いていて、ビターな味わい。

東京の流行はスイーツ志向の玉子焼きであるが、こちらのものは「大人の玉子焼き」と言う味わい。

 

巻物も選択制で、5種類(干瓢、浅葱と本枯節、山ごぼうの漬物、梅紫蘇キュウリ、トロたく)から選べる。

干瓢は自分の中でマストなので、目の前に鎮座する枕崎産の本枯節を見て悩んでいたところ、なんとハーフ&ハーフで巻いて頂いた。

おけい鮨巻物

削り立ての本枯節と浅葱の相性は抜群。

スモーキーフレイバーの強い鰹節で、旨味もある。

干瓢は食感があり、甘みは強すぎず、醤油をきかせた干瓢だ。

鉄砲(山葵入り)でない点もクラシカル。

 

水菓子

おけい鮨スイカ

巨大なスイカが夏に嬉しい(笑)

 

全体を通して、ほっこりする街の名店だと感じました。

本郷「おけい鮨」のお店の情報と予約方法

予約については、電話予約のみです。

 

おけい鮨(ヒトサラのリンク)

おけい鮨(食べログのリンク)

店名:おけい鮨(おけいすし)

シャリの特徴:赤酢と米酢をブレンドして甘みを付けた、優しい味わいの名古屋らしいシャリ

予算の目安:おまかせ8,800円〜

TEL:052-774-1789

住所:愛知県名古屋市名東区上社2-71

最寄駅:本郷駅から185m

営業時間:17:00~21:00

定休日:木曜 ※市場の休みを利用して水曜、木曜の連休となることが多い

【関連記事(名古屋でお気に入りのお店)】

期待の若手職人さん、鮨功。

名古屋は久々だったので、訪問から時がたっているお店が多いですが、きっと今も良いお店たちです

花いち@浄心

すし 弥助@桜山

あま木@久屋大通

 

モダンなお店だけでなく、古くから土地に馴染んだお店も愛す、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)でした。

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