(No. 256、No. 260、No. 347を統合しました)
2018年に一目惚れならぬ一口惚れした、横浜・関内の常盤鮨さん。
当時の時点で神奈川県を代表する鮨店の一つだと確信しましたが、この度(2020年9月に)再訪したところ、更に腕を上げられていて感銘を覚えました。
タップできる目次
常盤鮨の立地と雰囲気について
常盤鮨さんは横浜・関内で1952年から続く老舗鮨店です。
関内で歴史を誇るだけあって、ビルの谷間にありながら、妙に存在感を放っております。
そして、漬け場には現在、2代目と3代目が親子で立っておられます。
家族経営の鮨店は実に鮨店らしくて、鮨好きとしては心が踊りますよね。
3代目は今は無き名店「水谷」で修業された若き俊英です。
修行後にご実家に戻り、お店をリニューアルされました。
なんでも「親に無理を言って案を通した」そう。
内装や黒塗りの漆器も上質で、特別感を演出してくれます。
親方・林ノ内勇樹さんとシャリについて
3代目親方の林ノ内勇樹さんは上述の通り、名店・「水谷」で修業されました。
既に自身の仕事を確立されていて、今後の伸び代は同世代(40歳前後)の職人さんの中でも非常に大きい方だと確信します。
それを感じたのは仕事=調理のみならず、シャリも一因です。
こちらのシャリは米酢のみで、酸味と塩気を利かせた硬派なもの。
修行先の系譜を感じさせる酸味と塩気を利かせたシャリなのですが、試行錯誤されています。
すしログ
直近訪問した際の印象としては、酢の酸味がキリッと利いていて、塩気も割と強めながら、赤身にも白身にも合うシャリを模索されている印象…
現時点で、ひとえに美味しいです。
お酢はミツカンの白菊主体で、他に酸味を立たせるためのブレンドもされています。
砂糖を用いつつ「端正な味」を維持し、粒は粘度が穏やかで、硬すぎずほろりとほどけます。
如何に粘度を抑えるか?を模索されているので、更に美味しくなる事は容易に予想されます。
シャリの温度もバッチリです。
お米は以前のササニシキの古米からあきたこまちに変更されています。
味付けの変化は詳細を伺う前に分かりましたが、お米も変えるとは、結構な英断ですね。
昨今は赤酢のシャリが流行している状況ですが、僕は今後米酢のシャリの再評価が進むと予測しています。
完全に異なる魅力があり、それ故にタネや仕事へのアプローチも変わります。
食べログやSNSを見ると、現在の赤酢に慣れている人が米酢のシャリや関西のシャリをdisっている事がありますが、全然違うもの。
米酢のお店が増えると鮨が更に面白く進化するのは間違いないので、米酢を用いる凄腕職人さんに出会うと、応援したくなります。
常盤鮨のオーダー方法・おまかせ握りについて
今までに夜も昼もお伺いした事がありますが、いつも握りをおまかせで頂きます。
ランチについてはおきまりを決めておられないので、貫数をお伝えしてコースに仕上げて頂けます。
僕は「10貫強」をお願いして、計13貫頂きました。
また、夜のオーダーは「握りで出されない食材の酒肴を数品頂きつつ、握りメインでお願いします」とお伝えする事が一般的(僕の中で)。
握りは大体「16貫+巻物」を頂きます。
昼も夜も満足度が高く、鮨好き、握り原理主義者としては大変貴重なお店です。
常盤鮨のおまかせ握りの詳細
今までの訪問について、昼、夜、夜の順でご紹介します。
3回目の訪問時に頂いたもの(昼)
2020年9月
ガリ
薄切りで食感があり、甘みをつけつつ媚びない甘みのガリ。
鮃
肉厚な切り付けで、もっちりした身を噛みしめると香りがぶわっと広がり、旨味も舌をグイグイと刺激する。
インパクトがある白身の握り。
寝かせ日数は2日で、非常に良い。
クロムツ
塩で軽く脱水した後に昆布〆を行っている。
よって、特徴的な食感で、ねっちり、とろりながら引き締まっている感じだ。
昆布の香りは少し強めに付け、それがクロムツに良く合っている。
鰆
漬け。鰆の香りを感じさせる仕事で、これは嬉しい。
食感は漬けによりねっちり、まろやか。
春子
橙酢〆と面白い仕事。
しっとりと非常に柔らかい身は個人的に理想的な春子の〆加減。
鮪赤身
三厩…なので、釣りモノの鮪だ。
赤身の酸味が利いていて、旨味も楽しませてくれる。
夏から旬の秋に入っていく事を、味の変化で伝えてくれる味わいの赤身。
鮪トロ
濃厚な脂だが、タイセイヨウクロマグロとは異なり、さらりとした脂の質。
ちなみに、親方は結乃花(ゆのか)の鮪を初期から使用されているが、最近取り扱う鮨店が増えているそうだ。
良い鮪を扱う仲卸さんなので、頑張って欲しい。
墨烏賊
バツバツ感が強くなってきた新烏賊。
まだとろり感があるので、秋に入り墨烏賊らしい食感になるのが毎年楽しみだ。
特にシャリが美味しい鮨店となると。
小鰭
皮はぷちっと弾け、身はしっとりほどける。
旨味を引き出していて良い〆。
香りも良い。
小鰭の産地は天草(有明海南部)だが、産地違いで佐賀(有明海北部)のナカズミを頂いた。
サイズの違いはあれども旨味が強く、脂が非常に乗っていて驚く。
ナカズミサイズの小鰭は酒肴として出されているらしい。
いくら軍艦
皮はぷちっと弾け、さらっと溶ける。
卵の味を活かすため、バラす温度は38℃程度と低温だ。
車海老
茹で上げで、良い温度。
甘みをたっぷりと楽しませてくれる。
車海老は元々の味に加えて仕事で甘みが大きく変わる。
産地は大分。
海胆軍艦
甘みが十分な海胆で夏の名残を満喫させる。
シャリが存在感を示して魅力的な味のバランスの軍艦。
穴子
ふわんふわん、とろとろな穴子。
玉子
先代から続く美味しい出汁巻き玉子。
鯵
江戸前内湾の鯵。
とろり、むっちりとグラマラスな食感。
しかし、それ以上に香りが独特で楽しい。
どことなく磯の香りがある。
薬味はおろした生姜を中に噛ませる。
椀
2回目の訪問時に頂いたもの(夜)
2018年12月
先付
有明海の生クラゲの酢の物。
乾物のクラゲよりも瑞々しい食感。
鮟肝
とろとろで、香りが良い。
ノドグロ(アカムツ)の酒蒸し
身はホロホロで、皮と皮下脂肪はとろろん。
柑橘強めのポン酢が端正に引き締める。
鮃
むっちりした食感から濃厚な旨味が滲む。
昆布〆にしており、凝縮感もある。
牡蠣
長崎・小長井産。レア寄りに火入れされているが、熱は通っている。
苦みと甘みのバランスが良く、香りが実に濃厚で小長井らしい。
墨烏賊
とろんとした食感優先で、その後にバツリと弾け、またとろり。
鰆
漬け。まずは濃密な脂が広がり、最後に香りがふんわりと漂う。
青柳
ごく軽く炙り。肉厚で食感が強い。
香りしっかり目の青柳。
小鰭
前回とは裏腹にややなまくらで食感が柔らかだが、旨味はしっかりと楽しめる。
鮪赤身
三厩の170キロ。
まろやかな旨味に酸味が滲む。
鉄の香りの余韻が印象深く、冬よりも夏の鮪の要素に近く、意外に思う。
三代目も意外な味わいだったので入手したとの事であった。
中々面白い経験となる。
鮪中トロ
酸味が先に来て、旨味が高まる中トロ。
これのみフジタ水産さんからの仕入れ。
鮪はがし身
これは強烈な旨味と脂のインパクト!
赤身、中トロとのコントラストが実に印象深い。
鯖
脂がとろっとろに滲むが、これは〆ているからこその楽しさ。
赤貝
香りが強い赤貝で、甘みも中々。
閖上は質にバラつきがあるため、産地にはこだわらずに仕入れておられるそう。
金目鯛
昆布〆。脂がしっかりだが、昆布の旨味が引き締めてくる点が面白い〆加減。
針魚
しっかり脱水して食感を楽しませる針魚。
車海老
愛知の天然モノで、とにかく甘みが強い。
また、香りも良い。
蝦蛄
雄。しっとり!そして香りが高まりゆく。
蛤
やはり煮ツメが旨いと再認識。
いくら軍艦
かなりのとろけ加減。
噛んだのではなく、溶けたんじゃないのかと思う程。
干瓢巻
甘みを利かせた仕様なので、今回のシャリには少しだけ勝ってしまった。
1回目の訪問時に頂いたもの(夜)
2018年11月
ガリ
甘みを付けつつ、生姜の辛味があるためダレない。
針魚
しっかりと昆布〆。
そこから甘みが横溢し、シャリの酸味が支える。
針魚の仕事として完成度が非常に高い。
縞鯵
旨味が強くねっちりした食感で、香りはごく弱い。
熟成を掛けて旨味主体の仕事に纏めておられるのかと感じた。
墨烏賊
バツッ!と弾け、とろりととろける。良き包丁。
赤貝
豊後湾産!赤貝と言えば言わずもがなで閖上がピンであるが、個人的に豊後湾のものも上質であると思う。
鯖
八戸産。香りの後に身から脂がとろとろ溢れ出てくる。
これは美味しい鯖。
鮪赤身
三厩産。頂いてみて、クオリティの高さに驚く。
鮪背トロ
赤身よりも更に印象深い味わい。
旨味がしっかり乗っており、同時に爽やかな風味。
鮪大トロ
脂の口溶けが良く、濃厚な脂を満喫させてくれる。
ひとえに、温度の馴らし方が巧い。
鮪自体、押しなべて上質であったのでお話を伺ってみたところ、予想した通り結乃花(ゆのか)であった。
今後伸びてくる仲卸であるのは間違いないと確信している。
小鰭
素晴らしい〆加減。
しっかりした繊維質としっとりした繊維質が同居し、食感が気持ち良い。
皮目はしっとり仕上げている。
〆てから5日寝かせているそう。
鰆
香りが活きているが、寝かせて旨味を高めている。
仕事は漬け。
いくら軍艦
プチンプチンと気持ち良い食感の後に、飲み物のように喉に流れる(笑)
車海老
茹で上げで甘く、食感も柔らかくて美味。
蛤
ジャクジャクと力強い食感で、煮ツメが旨い。
海胆軍艦
昆布森の塩水海胆。
実に旨い。
ミョウバンの収斂味はゼロに近い。
穴子
これもまた煮ツメが奏功。
旬の時期に頂いてみたいところ。
玉子
意外にも出汁巻き!
これはこれでほっこりするので良いと思う。
小鰭 追加
前述の通り秀逸だったので追加。
バツバツ、トロトロ、じゅわっと…食感の変化が魅力。
鯖 追加
旬なので追加(笑)
最初に頂いたものよりも脂が多く、〆仕事がバシッと決まっていた。
干瓢巻
中庸の食感。硬くも柔らかくもない。
甘みはやや強めで、醤油はそこまで強くない。
シャリを活かす仕事の干瓢。
常盤鮨の店舗情報と予約方法
予約については電話の他に、一休経由で可能です。
店名:常盤鮨(ときわずし)
シャリの特徴:米酢のみで塩気も酸味も端正なシャリ。→今回は前回訪問時よりも穏やかであった→酢の香りと酸味を利かせつつ、程良い塩気と少量の砂糖でまとめたシャリ
予算の目安:お昼だいたい1貫800円のイメージ、夜は軽い酒肴、16貫、巻物、日本酒2合で18,000円強
最寄駅:関内駅から300m
TEL:045-681-2065
住所:神奈川県横浜市中区常盤町4-44
営業時間:お昼12:00~14:00、夜17:00~22:00
定休日:日曜、祝日