こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
今回ご紹介する鮨店は、東京では非常に珍しい試みをする気鋭の鮨店です。
ふれこみが「関西流の握り」であったため訪問しました。
結果的に、東京のような赤酢のシャリではなく、まさに大阪らしい酢飯を切られていました。
さらに、「食いだおれの街」として知られ美味しいものにシビアな大阪らしく、酒肴のレヴェルも高いところが特徴です。
個人的には「江戸前鮨の酒肴は和食とは一線を画すべき」と考えていますが、「鮨 やま田」の金光親方の試みは「東京に新たな鮨店のカタチを作る」ことだとお見受けし、応援したいと感じました。
すしログ
お若い親方が、東京で何を生み出すのか、今後が大いに楽しみです!
西麻布「鮨 やま田」と金光将輝親方の魅力とは?
上記の「鮨 やま田の金光親方」という文章を見て、「えっ?」と思われた方がいるかもしれません。
店名は「鮨 やま田」ですが、親方のお名前は金光将輝さん。
これには理由があります。
金光親方は大阪出身で、16歳の頃に鮨職人ではなく板前としてキャリアをスタートされました(記事執筆2022年8月時点で29歳)。
日本料理の修行経験は、バッチリ現在の酒肴に活きています。
気になる店名の由来は修行先の師匠の方のお名前だそうです。
師匠は御年80歳ほどで、現在はお店を畳まれている模様。
お店は心斎橋で現在人気を博す「もめん」の近くにあり、通好みの割烹だったようです。
尊敬の気持ちを込めて、現在の店名にされたと伺いました。
金光親方は和食畑で7年間の確かな修行を積んだ後に、鮨職人に転身されます。
大阪で某予約困難店の立ち上げから6年間勤め、2020年12月に東京に進出。
「鮨やまけん」を展開する株式会社S.H.Nが支援を行って独立されたようです。
金光親方は大阪時代にシャリを切られていたそうなので、実質的に大将(関西なので親方ではなく大将)に比肩する腕前を持っておられたご様子です。
しかし、修行先のお客さんを奪ったり、繋がりで人気になったりするのはポリシーに反するようで、敢えて修行先を公開されていないそうです。
親方のキャリアの話はこれくらいにして、味の話に移ります。
冒頭の通り、こちらの鮨は正しく「関西流」です。
実は訪問前は「キャッチコピーで使っているだけかも…」と危惧していたのが正直なところですが、名刺代わりの一貫目を頂いて杞憂に終わります。
金光親方のシャリは、東京のシャリとは完全に異なります。
甘味と昆布の旨味を感じますので。
東京の赤酢のシャリが大阪を席巻し、東京同様の鮨バブルを起こしているのは周知の事実。
しかし、もともと関西の酢飯は砂糖で甘味を付け、昆布出汁を利かせる仕事。
一昔前に東京の赤酢のシャリに慣れた人が大阪に行き、「酢飯が甘い」と言っていることが多く、僕はそれを良しとしていませんでした。
シャリは土地の味が表れて然るべきものであると思います。
なにもスタイルが江戸前鮨(握り鮨)であってもシャリが江戸前である必要はありませんし、そもそも「江戸前のシャリ」を定義することは現代においては至難です。
金光親方は見事に「関西流の江戸前鮨のシャリ」を東京に輸入されました。
僕が知る中では初めての方かと思います。
当のシャリは、大きめの粒のお米をやや硬めに炊き上げて、ぱらりとほどけつつ、甘味を感じさせます。
関西らしい砂糖の甘味をアタックで感じますが、噛み締めるとお米自体の甘味を十分に堪能出来て、もっちりとした食感とともにα化します。
甘味を用いつつお米の立て方が巧い。
味付けの面では、酸味ならびに塩気は非常に穏やか。
全体を考慮し正確に述べると、「関西流のシャリを現代的に洗練させた関西流のシャリ」だと思います。
以上の感想を一貫頂いて感じられたので、金光親方のシャリの存在感は大きいと断言出来ます。
また、シャリについて驚くべき点は、お酢のブレンド数。
なんと10種類以上をブレンドしているそうです。
米酢を7種類ほど合わせてから、赤酢を調整していくスタイルで、お酢を20種類以上試した結果にレシピを編み出したとのこと。
僕は「お酢を多数ブレンドし過ぎるのは無粋」だと書いてきましたが、ここまで多く、しかも厳密にブレンドされていると、もはや正道に迫る亜流だと息を呑むほかありません。
何よりも、多数ブレンドのネガティブな部分である、味の迷いが無い点に確かな信念を感じる次第です。
そして、「鮨やま田」のコースで特筆すべきは、酒肴です。
金光親方のキャリアが活きており、和食店に迫る完成度です。
上述の通り鮨店で酒肴を和食に寄せ過ぎると無粋になってしまうところですが、こちらは鮨と和食を巧みに融合しています。
「鮨懐石」と表現すると安ッぽくなるのが常ですが、こちらはまとまりのあるコースを組んでいます。
これは金光親方の料理のセンスもさることながら、現在アシストされている方の功績もあるようです。
和食の料理人をされているご尊父の後輩のベテラン板前を大阪から呼び寄せたと聞いて、驚きました。
結論としては、東京で初の試みを行っている職人さんなので、今後飛躍されるのは間違いないと思います。
ただ、仕事の中で疑問を感じた点もあり、それは小鰭の仕事です。
〆とシャリの味覚のバランスが欠けていて、これは勿体ないと感じます。
訪問したのは時期的に小鰭が弱い時期ではありますが、美味しく仕上げるお店は多々知っています。
大阪では小鰭への指摘が甘いのかもしれません。
しかし、江戸前鮨において小鰭は主役です。
小鰭を出すならば仕事に向き合い、他のどのタネよりも美味しく仕上げる必要があります。
具体的には、小鰭の旨味と脂が弱く、魚味が淡過ぎるところに、シャリの甘味が強く主張しています。
小鰭の握りで重要である要素、すなわち小鰭の旨味、脂、香り、塩気、酸味、食感と、シャリの酸味、塩気、甘味のバランスが今後の課題だとお見受けしました。
個人的には、小鰭の塩気をもう少し強めながら、食感の面では軽めに仕上げる〆を行った方が、握りとしての一体感が向上するのは間違いないと思います。
そして、重要なポイントとして、〆加減に加えて、〆てからの寝かせる時間も長くした方が良いと感じました。
これは、技術的に可能である職人さんだからこそ、敢えて書きます。
東京で関西流の鮨を出す試みは応援したい。
しかし、東京と言う土地では、仕事系のタネが重要になります。
独創的なコースだからこそ伝統的な仕事系のタネと向き合えば、稀有な職人になれると思います。
西麻布「鮨 やま田」のおまかせコースの詳細
「鮨 やま田」おまかせについては、20,000円になります。
コースの構成は、握り11貫、手巻き、酒肴5品、椀、水菓子。
酒肴に注力しているお店ですが、あくまでも握りが主体である点は大変好ましいところです。
この度頂いたお酒
- ビール
- 福祝、夏の純吟 瓶燗一火(北海道産彗星60%、酵母非公開)
- 手取川、大吟醸 星 -hoshi-(麹・山田錦、掛・五百万石、45%、自社酵母)
- 日高見、純米大吟醸 ブルーボトル(兵庫県東条町松沢産山田錦40%、宮城酵母)
- 刈穂、大吟醸 限定販売品(山田錦、美山錦45%、AK-1)
グラスについては全てスガハラ(Sghr)製で、重厚感と高級感があります。
ガリ
柔らかめで甘みがあり、お店のスタイリッシュな雰囲気とは裏腹に意外性がある。
それでいて甘味だけでなく、辛味も強めの味付けだ。
柔らかさと甘味の強さに意表をつかれるが、これも東京へのアンチテーゼだと解釈する。
メイチダイ
脂とともにむちむちした食感を楽しませつつ、シャリの甘味が広がり、脂の甘みと合一する。
一貫目の白身魚で、香りをきっちりと提示する点に好感を覚えた。
お店の立ち位置を考慮すると、魚種の選択は良い名刺代わりと言えるだろう。
コチ
白瓜、モロヘイヤのお酢とともに。
コチには昆布〆をバシッと利かせて、爽やかなモロヘイヤ酢と調和させる。
味覚的にも食感的にもコントラストがあり魅力的だ。
見た目こそスタイリッシュに仕上げているが、味わいは決して軽薄ではない点に親方の和食センスを感じる。
鮑
白眉。
なんと生での提供であるが、生鮑の握りの既成概念を崩す!
素晴らしい歯切れで、薄いのに旨い。
一般的な生鮑の握りにありがちな、ゴワゴワしていて香りが弱く、旨味も感じにくければ酢飯との一体感が無い事も無く、計算されている仕事だ。
2日寝かせて使用されているそう。
アオリイカ
ひたすらトロットロであるが、ほのかにプチってした食感もある。
もちろん甘味を表現するための包丁だ。
この方向性のアオリイカで魅力に感じた点は、シャリの酸味のアタックが弱いため調和するところだ。
アオリイカで強烈な甘味を表現しつつ、シャリの酸味が強い鮨が多いと感じるが、それはバランス的にはあまりよろしくない。
冷たい炊き合わせ
なすび、冬瓜、トマト、鰻、白和え。
濃厚な白和えは「和のソース」になることを伝えてくれる。
しかし、「ソース」であっても行きすぎない点は和食ならではだ。
油脂や乳製品を用いる亜流とは異なる酒肴。
冬瓜の仕事も良い。
出汁や食感や味覚の調整に見るべきものがある。
鮪赤身
少々長めの切り漬けを行いつつ、食感が良い。
穏やかな味わいだと思いきや、ねっちり食感よりも手前のむっちり食感を感じさせ、赤身の酸味と血の香りが高まる。
さっぱりした味なので伺ったところ、やはりインドマグロであった。
ご自身のシャリと合わせるため、夏はインドマグロを選択されているそうだ。
漬けの仕事で魅力を高める試みが良い。
鮪トロ
脂がじゅわっと広がり、赤身のコクや血の香りは無い。
これはインドマグロらしい大味なトロ。
ウメイロの天麩羅
ウメイロとは面白い魚を持ってくる。
沖縄の魚に詳しい人以外には珍しいのではないだろうか?
野菜はトウモロコシとズッキーニで、調味料は玉ねぎ醤油。
衣はふんわりと軽やかで、ウメイロの身はしっとりしていて瑞々しさもある。
皮がくにゅっとしている点が食感的に面白い。
玉ねぎ醤油の味覚的調整も良く、鮨店で天麩羅を出しても嫌味にならない方向性だ。
もちろん使用している油の状態も、油切れも問題なし。
小鰭
〆で酸味を利かせているものの、小鰭についてはシャリの甘味が勝つ。
小鰭自体は脂と旨味が極弱い。
また、小骨も食感があるため、〆てからの寝かせが甘いことが分かる。
椀
まさかの日本料理の出汁で驚いた!
ただ、吸い地は鮨店仕様に調整しており、全体的な流れの中で淡すぎない味付けだ(故に必然的に吸い口も調整されているのかと推察)。
椀種はスズキと、夏の江戸前鮨店らしい選択。
肉厚で香りが良く、味わい深い。
縞鰺
身はむっちり且つ、ばっつりと良い歯ごたえがある。
脂と旨味が炸裂し、シャリとの相性は抜群だ。
余韻も良い。
トキシラズの蝋焼き
卵黄を掛けて焼く蝋焼きとは、手が込んでいる。
見た目こそ濃厚そうだが、漬け地の味付けは軽やかだ。
魚種的にも調理的にも、アカムツの塩焼きなどを出すよりも遥かに嬉しい焼き物である。
北海道のバフン海胆
唐津の赤海胆
一口サイズなので少々つかみにくくはあるが、魅力的な産地の組み合わせ。
ともに甘味のあるシャリとの相性がバッチリである。
海胆の甘味と香りを楽しせてくれるのは、甘味のみならず温度も考慮されていて、温かめであるためだ。
長芋そう麺
非常に魅力的な口直しだ。
見た目も味も非常に爽やかで、包丁の技術も見せてくれる。
極細切りの長芋はトゥルンと滑らかに口に滑り込み、すぐさまシャキシャキと気持ち良く切れゆく。
太刀魚
素晴らしいテクスチャーだ。
みちっと凝縮していると思いきや、すぐにホロホロと消え去る。
限り無く繊細な口溶け。
酢橘を用いつつ、太刀魚の香りも立たせていて、火の入れ方だけでなく香りの調和も考えている点が良い。
伝助穴子
穴子で300g以上の特に大きいサイズを「伝助穴子」と呼ぶが、江戸前では120g前後の小型の「めそっ子」が伝統的に使われてきた。
今回使用された「伝助穴子」のサイズは、なんと1キロアップ。
対馬産だと脂が多くもたれそうなものだが、関西のものを使用されているようで、そのような事はない。
何よりも仕事が秀逸である。
皮目は凝縮しながら張り付きつつ、身はホロホロとほどけるが、この繊維質が素晴らしく、繊維の食感すら楽しませてくれる穴子は未体験であった。
江戸前の仕事と同じく煮てから焼いているそうだが、凄い食感の表現だ。
甘味などの味付けも控え目で、穴子そのものの風味も楽しませる計算が良い。
椀
吸い物だけでなく、鮨店らしい蜆の味噌汁も提供。
これは煮ものの後に落ち着くものである。
干瓢とカッパの手巻き
干瓢を温めているのが面白い。
細切りのキュウリは大量に使われていて、シャキシャキと瑞々しい。
水菓子
かりんとう饅頭。
ガリガリとハードな食感の黒糖生地から、サツマイモ餡がとろ〜りと滲み出てくる。
魅力的な自家製菓子だ。
餡に用いている塩気の塩梅にセンスを感じる。
お茶
濃厚な玄米茶。
お茶も手抜かりない点に、芯の強さを見る。
西麻布「鮨 やま田」の立地と雰囲気
「鮨やま田」さんは、西麻布交差点の近くにあり、看板が出ていません。
さらに地階なので知らないと訪問しづらい場所にあります。
階段を降りると、店名の看板が掲げられています。
入り口はマジックミラーなので店内が分かりづらいですが、決して怪しい雰囲気ではないので、ご安心を(笑)
店内のカウンターは8席のみで、広々としています。
漬け場とのレベル差はほとんどなく、開放的で寛げる雰囲気です。
西麻布「鮨 やま田」のお店情報と予約方法
WEB予約については、一休経由で可能です。
当日、前日の予約の場合は電話となり、お昼12時以降がスムーズとのことです。
店名:鮨 西崎(すし やまだ)
シャリの特徴:甘味と昆布出汁を効かせる関西流。それでいて上品に仕上げていて、硬さと温度は適切。
予算の目安:おまかせ20,000円
最寄駅:広尾駅から600m、六本木駅から1,000m
TEL:050-5890-3928
住所:東京都港区西麻布4-2-6 L1stビル B1
営業時間:【一部】18:00~20:00、【二部】20:30~22:30
定休日:日曜、月曜
新たな表現に出会うと応援したくなる、すしログ(@sushilog01)でした。
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