古典鮨の魅力を伝えてくれる老舗!5代続く日本橋・蛇の市(じゃのいち)

こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)です。

今回ご紹介するお店は再開発が続く日本橋で、5代続く老舗の鮨店です。

こちらのお店は、インスタで日本橋グルメを中心にポストされている方の写真を見て、「おお!」と思って気になりました。

「おお!」と思ったポイントは2つ。

  1. 極めて古典的な【のの字巻き】を出されている点
  2. 煮ツメの濃度が非常に高い点

すしログ

マニアックな着眼点ですみません(笑)

でも、これらは意識の高さを感じるポイントです。

蛇の市のの字巻き

▲これが【のの字巻き】!これも「江戸前鮨」です。

 

そして、訪問したところ、伺って良かった!と心から感じました。

老舗の息子兄弟で伝統の味と仕事を守っておられますが、現代的な感覚も採り入れている点が素敵。

しかも、価格はリーズナブル。

今後の鮨業界でこのような試みは極めて価値があると実感しました。

 

実際に、福塚親方島津親方といった非常にモダンな鮨を握る職人さんも、古典・老舗が好きだと仰っています。

古典とモダンの相互作用こそ、今後注目されるファクターかと思います。

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日本橋・蛇の市の歴史と名前の由来について

蛇の市暖簾

創業は1889年(明治22年)で、もともとは屋台から始まったそう。

なので、江戸前鮨の源流に近い創業と言えます。

▶参考:鮨職人の系譜〜鮨の歴史と修行先を知ると更に面白くなる!

日本橋は築地の前に市場があった場所。

魚河岸の屋台として人気を博した模様です。

※日本橋から築地への移転は1935年。移転時に相当もめたそうです(出典:文春オンライン)

 

店名は「蛇の市じゃのいち」と一風変わっていますが、創業当時は屋号が異なり「蛇の目鮨」だったそうです。

「蛇の目鮨」と言えば新富町にあり(現存)、1865年創業の「蛇の目鮨本店」が頭に浮かびます。

こちらも老舗で【助六寿司】の発祥とされるお店ですが、関係性は無いようです。

 

…しかし、余談ですが、鮨店で「蛇の目」を屋号に掲げるお店って多いですよね。

何故なのでしょうか?

すしログ

「装飾が施されて綺麗な和傘」である「蛇の目傘」にあやかっているのでしょうか…

理由をご存じの方、教えてください!

 

話を戻すと、「蛇の目」から「蛇の市」に屋号を変えたきっかけは、文豪の志賀直哉とのことです。

これは、鮨マニアならば「なるほど」と思うところですよね。

志賀直哉は鮨好きな文豪として知られます。

そして、「志賀直哉×鮨」と言えば、『小僧の神様』が頭に浮かびます。

志賀直哉は初代・寶井たからい市太郎氏の頃から「蛇の目鮨」に通っていた模様。

そして、初代のあだ名である「蛇の目の市ちゃん」から「蛇の市」という屋号を考えたそうです。

『小僧の神様』は主題の好みはさて置き、当時の鮨店と東京の街の描写が大変印象的なので、鮨好きで(小説好きな)未読の方は是非是非!

 

蛇の市さんはもともと「日本橋室町1-6-7」にありましたが、再開発を受けて2020年2月に「日本橋室町1-12-10」に移転されました。

間隔はわずかに120メートル!

良い場所に物件を見つけられましたね。

 

移転前は僕も何度か店の前を通ったことがありますが、「いかにも老舗の街場寿司」と言う風貌でした。

しかし、移転後はモダンな雰囲気にリニューアルされ、若い人でも入りやすくなりました。

 

お店のカウンターは白木に加えて黒塗と朱塗の漆の塗り物で構成され、入店時に目を惹きます。

かなりスタイリッシュです。

すしログ

いざ頂く時に鮨の姿が凛々しく映えるので、一瞬頂くのが惜しくなるほどです(笑)

まあ、写真撮影を含めて9秒以内に食べますが。

 

さらに、店外にはなんと中庭と東屋があります。

蛇の市内観

カウンターから見て気になったので伺ったところ、作ったばかりとのこと。

蛇の市本店テラス席

すしログ

これはいわゆる「テラス席」じゃないですか!

高層ビル街の日本橋にあって、大変貴重な空間ですね!

禁酒法が解禁されたら友達と利用させて頂きたい…

蛇の市の親方と伝統の味について

現在は5代目の寶井たからい英晴氏と弟さんと、お弟子さん数名で切り盛りされています。

敢え無くコロナの影響…というか、緊急事態宣言と「禁酒法」によって、現在はお持ち帰りのお客さんの方が多いそうです。

「禁酒法」は想像以上にお店・経済へのダメージが大きく、エビデンスに基づいていないし、実績も出ていないので、「令和の愚策」であることは間違いありませんね。

 

蛇の市さんが素晴らしいところは、以下の5点だと感じます。

  1. シャリは創業以来の味を守る
  2. ガリも創業以来の味を守る
  3. 仕事は代々受け継がれるもの
  4. それでいて新しいことを許容する懐の深さ
  5. 温故知新

1〜3については、鮨好きならば否応なしにテンションが上がるところ。

江戸時代〜明治の頃の味を守っているなんて!

人気店や新規店をスタンプラリー的に巡る方の琴線には触れないでしょうが、伝統を知らずして本質は知り得ません。

 

4については、先代のお父さんのお言葉が素晴らしいです。

「新しいことをしても良いし、変えても良い。しかし、変える時は更に良くしろ」と言った意味のお言葉。

そのお言葉を受けて、5代目は試行錯誤されています。

 

その結果、明治以来のシャリを用い、現代的な桜鱒サクラマスの鮨を握りつつ、伝統的な【のの字巻き】を復刻させる、と言った個性的な構成に繋がっています。

【のの字巻き】は非常に古い江戸前鮨なのですが、先代までは出されていなかったそうなので、5代目のアイディアによります。

伝統の再解釈で後世に残そうする気概と着想が素晴らしいです。

 

さて、肝心な創業以来のシャリとは?

「調味は赤酢と塩のみで砂糖不使用」と言う、昭和(戦後)以降の影響下に無いシャリです。

そして、形状は江戸前鮨で理想とされる「扇の地紙型じがみがた」。

蛇の市本店小鰭

「扇の地紙」とは扇の紙の部分で、かつて拙ブログのアイコンに使用していました。

すしログ旧アイコン

すしログ

今見ると垢抜けませんが(笑)、小鰭と扇の地紙型のシャリをイメージしています。

 

シャリの味わいとしては、赤酢を用いつつ、酸味が穏やかで塩気も程よい塩梅。

温度は今の時代のトレンドからすると少し低めですが、老舗としては高めで、これは良いです。

粘度は低く、それでいて噛み締めた時にお米の甘みを感じさせます。

お米の粒は立っていて、羽釜で巧みに炊かれています。

 

メインのお酢はミツカンの三ツ判山吹のようですが、恐らく優選をブレンドして酸味を調整しつつ、赤酢の旨味を活かしているように感じました。

※三ツ判山吹は江戸時代に生み出された赤酢で、優選は1949年に誕生した赤酢です

お米は能登の生産者から直接仕入れているそうで、品種は鮨専用品種である「笑みの絆」。

塩はもともと静岡の戸田塩を使用されていて、お婆ちゃんが東京まで売りに来ておられたそうですが、ご逝去された後、沖縄の海塩に変えられたとのことです。

 

お話を伺って、調味料への細やかな配慮を実感し、最適な調味料を模索するお姿に感銘を覚えました。

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蛇の市の鮨についての詳細

メニューは豊富で、色々な方のニーズに応えられる内容です。

お昼も夜も非常にリーズナブルです。

お昼

  • 江戸前鮨(6貫+玉子巻、巻物、味噌汁)1,980円
  • 雪(6貫+玉子巻、巻物、味噌汁)2,860円
  • 月(8貫+玉子巻、巻物、味噌汁)3,850円
  • 花(10貫+玉子巻、巻物、味噌汁)5,500円
  • 江戸前ばらちらし(味噌汁付き)3,300円

  • おきまり江戸前鮨8貫+玉子巻、巻物3,850円
  • おきまり江戸前鮨10貫+玉子巻、巻物5,500円
  • 江戸前ばらちらし(味噌汁付き)3,300円
  • おきまり江戸前鮨+肴のコース6,600円〜11,000円
  • おきまり江戸前鮨コース13貫8,800円
  • おきまり江戸前鮨コース15貫11,800円

こちらはお好みも可能なので、僕はお好みで頂きました。

握り7貫と玉子巻き、干瓢巻きを頂き、合計5,280円でした。

お好みの場合、当日のタネのメニューを頂けるので、誰でも安心だと思います。

蛇の市本店メニュー

ちなみに、「ボリューム」を求める方はお決まりに追加する方法が最もリーズナブルです。

これはどこのお店も同様ですが。

 

漬物各種

蛇の市本店漬物

べったら漬け、奈良漬け、牛蒡漬けの3種セット。

ガリよりも先にこれらを出すのも、創業から続く伝統とのこと。

すしログ

親方は「なんでなんでしょうかね…」とのことでしたが、握りの前に軽く飲みたい人向けのサービスでしょうか??

 

ガリ

蛇の市本店ガリ

薄切りで食感はシャキシャキしていて、お酢が利いていてスッキリ味。

同時に辛さは弱め。

甘みが無く、これもシャリと同様に昭和(戦後)以降の影響を受けていない。

どうしても「甘みのあるガリ」がクラシカルに感じられるが、これは昭和以降の人間にとってであり、本当はシャリもガリも甘みが無いものであった。

 

蛇の市本店ヒラメ

昆布〆で、みちっと脱水しつつ中心部分は生っぽさを残す〆加減で面白い。

昆布の香りとグルタミン酸の転移も少ない。

老舗でありながら上品な〆加減と言える。

 

小鰭

蛇の市本店小鰭

これはしっかり〆で、みしっとした食感。

お酢の酸味を浸透させていてスッキリ味の小鰭だ。

そこに、オボロと甘みのある煮キリを加わえ、バランスを取る。

柚子の皮も相まって全体的に爽やかな小鰭である。

 

桜鱒

蛇の市本店サクラマス

漬け。桜鱒の香りを楽しませる漬けの塩梅。

これも煮キリの甘みが相性良い。

老舗でありながら(伝統的な江戸前鮨に無い)桜鱒を出す理由は、親方のチャレンジ精神に加えて、もともとは関西鮓で使用されているため。

江戸時代に江戸前の握り鮨が生み出された時も、初めは関西鮓と混在していたのが史実。

歴史的裏付けを押さえた上で表現されているのが素晴らしいと感じた。

 

鮪中トロ

蛇の市本店鮪中トロ

脂、香り、旨味のバランスが良く、余韻もある。

繊維のほどけ方も良好。

老舗でありながら鮪にも力を入れておられる。

 

鮪漬け

蛇の市本店鮪漬け

「づけ」との表記だったので、てっきり赤身を湯霜した漬けかと思ったが、実際は大トロでサプライズ。

昔から大トロの漬けを出されていたそうだ。

鮪のトロと言えばご近所の吉野鮨本店(1879年創業)が初めて使い始めたとされるタネ。

蛇の市さんもトレンドをいち早く採り入れて、定着したのかもしれない。

 

煮穴子

蛇の市本店煮穴子

ふわふわの穴子に、濃厚な100年モノの煮ツメを合わせる。

煮ツメは独特の香ばしさがあり、穴子の炙りと合う。

本来ならば蝦蛄も頂きたかったが、売り切れだったので次の楽しみに…

 

車海老

蛇の市本店車海老

みっしりした食感の茹で置きで、甘酢〆。

甘みと酸味は程良く上品。

すきやばし次郎以降、茹で上げの車海老が優勢だが、茹で置きにも魅力があることを伝えてくれる仕事。

 

干瓢巻き

蛇の市本店干瓢巻き

干瓢はもぎゅっもぎゅっと力強い食感で、味付けは醤油主体で、甘みは穏やか。

 

玉子巻き

蛇の市のの字巻き

これが【のの字巻き】。

甘みのあるカステラ玉子で、海苔と胡麻入りの酢飯を巻く仕事。

鞍掛けの玉子焼きの握りとは異なる魅力がある。

【のの字巻き】は、もともとは花街向けに考案された(可能性が高い)贅沢な鮨。

今の時代に頂き、喜びひとしおである。

蛇の市のお店情報と予約方法

老舗なので電話予約のみかと思いきや、WEB予約にも対応されています。

しかも、前日でも予約できるのは、ふと鮨を食べたくなった時に助かります。

蛇の市(ヒトサラのリンク)

蛇の市(食べログのリンク)

 

コロナ緊急事態宣言や禁酒法が無ければお昼は混んでいるようなので、訪問前にWEB予約でなくとも、お電話されたほうが無難です!

 

店名:蛇の市 本店(じゃのいち ほんてん)

予算の目安:お昼のお決まり2,860円など

最寄駅:三越前駅から240m

TEL:03-3241-3566

住所:東京都中央区日本橋室町1-12-10

営業時間:お昼11:30~14:00(13:30LO)、夜16:00〜22:00(21:00LO)

定休日:日曜、月曜、祝日

 

【関連する記事】

同じく日本橋の老舗で、「與兵衞壽司」の流れを汲む名店、吉野鮨

 

人形町でお気に入りの老舗、喜寿司さん、六兵衛さん

 

古典に興味がある人は押さえておきたい、鮨職人の系譜

 

冒頭で言及した鮨ふくづかさん、島津さん

 

古典好きの若手職人さんに注目する、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)でした。

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