(No. 298とNo. 232の記事を統合しました)
2018年の6月に初めて訪問した札幌の「鮨しののめ」さん。
初訪問時は食べログのスコアは3.06で、ネガティヴなレビューも散見されました。
しかし、信頼する鮨好きのクールな女性から紹介されて訪問したところ、クリティカルヒット!
「知る人ぞ知るお店」ながらセンスが良い職人さんなので、これは確実に伸びるだろうと確信しました。
そして、記事に書いて以来、訪問するレビュアーやインスタグラマーが増えたようで、今や人気店の一つになった模様。
紹介して良かったな〜と感じつつ、僕も次の訪問を楽しみにしている鮨店です。
タップできる目次
「鮨しののめ」の立地と雰囲気
お店は札幌の中でも名店が集まる、円山公園エリアにあります。
北海道の鮨業界を牽引してきた「すし善」さんや、僕が札幌トップクラスの鮨店と思う「和喜智」さんなどがあります。
ちなみに、界隈の西洋料理だとフレンチの「モリエール」さん、イタリアンをベースにしたイノベーティブの「TAKAO」さんが僕のオススメです。
「鮨しののめ」さんは閑静な円山公園エリアのビルに入っています。
ビルと言っても猥雑な雑居ビルではなく、非常にスタイリッシュなビルの2階。
階段を上がるとすぐそばにあり、控えめな扉をくぐると、カウンター8席の静謐な空間が出迎えてくれます。
席の間隔はゆとりがあり、親方の手元も見えるカウンター席なので、ゆったりと寛ぎながらライブ感たっぷりの握りを頂く事ができます。
親方・中原渡さんの仕事とシャリについて
中原さんは上川郡東川町のご出身です。
27歳から5年間の修行を経て、2016年7月にお店をオープンされました。
鮨職人としては遅めのスタートであり、且つ短い修業期間と言えるでしょう。
しかし、親方の握りには江戸前の確かな仕事と、センスあるアレンジが加えられています。
そして、生命線であるシャリの完成度も高いです。
親方は物静かな理系タイプの方で、握りは渋い印象を与えます。
タネには熟成を巧みに掛けており、厚みのある切り付けが男らしい。
その力強いタネを受け止めるシャリは硬すぎず、それでいてお米の輪郭があります。
やややんちゃなお米かもしれませんが、酢と巧く合わせておられます。
再訪時にはシャリを変えておられ、指摘したところ親方に驚かれました。
お米は東川のななつぼし、水は東川旭岳の水を使用されています。
これは、ご自身の地元の味を札幌で伝えたいと言う想いあっての事でしょう。
お酢は飯尾醸造の3種類の酢をブレンド。
つまり、10年熟成の「赤酢プレミアム」と「純米富士酢」と「富士酢プレミアム」です。
飯尾醸造のお酢なので、赤酢の塩梅は穏やか。
酸味は割と強めですが、塩気も利かせてバランスを取っている印象です。
酸味、塩気がともに強すぎないので、食べ疲れしない配合だと思います。
シャリの印象を一言で形容すると「渋い」シャリ。
粒が細長いななつぼしを低加水で炊く事により、独特の舌触りと歯応えとなっています。
古米の玄米を都度精米されているそうですが、それも要因かもしれません。
渋く、幽玄な印象を与えるシャリだと感じます。
シャリの温度も管理が行き届いていて良く、握りの所作も物静かで美しいです。。
捨てシャリや掌ポンも無く、丁寧に素早く握られております。
また、山葵をかなりこまめに擂られているいるのも好印象です。
なお、店名は親方が東川町出身である事に加えて、夜明けを意味する事から、「初心を忘れない」と言うメッセージが込められています。
ポテンシャルは非常に高く、札幌で今後とも応援したい親方の一人です。
鮨しののめさんの特徴
再訪した際、名店が数多ある札幌の中で明確な個性を確立していると再認識しました。
その理由は主に2つで、一に食材の仕入れ、一に創作的なアレンジ性。
道産食材の選び方も良いのですが、その他地方の食材も巧みに仕入れておられ、かなり面白い素材を使われております。
東京では同じ仲買人(お店)から仕入れる人が増えておりますが、それだと似通ってしまうリスクが存在します。
仕入れレヴェルで個性を出す、と言う事も今後重要になるのではないかと思います。
親方の中原さんは九州の神経締め漁師から仕入れ、道内外問わず人を楽しませる味に仕上げておられます。
そして、次に、親方はコラトゥーラやエシャレットを用いるなど洋風なエッセンスも採り入れておられるのですが、しっかり鮨店の枠組みの中に落とし込んでおられるので嫌味になりません。
この上品なアレンジ性が今後どのように変化するのかは楽しみです。
鮨しののめさんのおまかせの詳細
今まで2回訪問したので、順にお伝えします。
再訪時に頂いたもの(酒肴と握りの詳細)
2019年8月訪問
頂いたお酒
サッポロクラシック、山城屋・Dry超辛口純米大吟醸、上川大雪・特別純米
玉蜀黍の冷製茶碗蒸し、じゅんさい
とにかく甘い!香り良い!
低温でじっくりと茹でて糖化させた玉蜀黍は、北海道の恵みを伝えてくれる。
鰯
根室産。香りを楽しめる鰯。
少し脂が弱いので伺ったところ、根室の漁師は近場で獲れる時は沖に出ないため小型ばかりとの事(笑)
利尻産バフン海胆、アカシマエビ
「アカシマエビ」は標準和名モロトゲアカエビか?
両方の甘みもさる事ながら、食感の組み合わせも良い。
海胆はとろけ、海老はねっちりと絡む。
そして、異なる香りで魅せる。
鮟肝
鮟肝は天塩町産との事で初めて頂いたが、脂がメチャクチャ濃厚。
夏鰊の炙り、ポン酢ジュレ
初手はポン酢の酸味が勝つか…と思いきや、鰊の脂と風味が超えてくる。
夏なので産卵後となるが、魚味が回復している。
鰊は風味が強い魚だが、包丁が奏功しており、上品に仕上げている。
炙りの香りも行き過ぎていない。
蒸し鮑
シャリと肝を合わせる酒肴は今やお馴染みとなっているが、中原さんはソースとして用いている。
海苔の佃煮を混ぜる事で磯の芳しさが加わり、シャリの軽い酸味が活きており、これはソースだと感じた次第。
この後、握りに移行します。
ガリ
アオリイカ
最初の食感が個性的でただトロトロではないのは包丁仕事のお陰。
メイチダイ
熊本産。脂が強く、旨味もしっかり。
北海道で珍しいタネを用いるなと思ったところ、某神経〆の名手の魚を仕入れておられた。
北寄貝
この、もの凄い甘みには心底驚いた!
長万部の黒北寄貝との事。
大変肉厚ながらに繊維質のほどけは良い。
ジャクジャクと良い音を立ててほどけゆく。
香りは上品ながらに十分楽しめる。
さらっと火を入れておられ、甘みを感じさせる温度帯も良い。
鮪トロ
何と美国産!夏場にこの海域で揚がっているとは驚いた。
味わいは、脂が強く、それなりに香りも楽しめる。
魚で生態系と気候の変化まで感じられるのは嬉しい。
一昔前のようにブランド産地で脊髄反射するだけでは、今後の漁業を考えられない。
マスノスケ(オオスケ)
漬けにして、エシャレットの微塵切りと共に。
エシャレットの香りは嫌みが無く、合っている。
脂の乗ったマスノスケを活かしている。
小鰭
〆て5日との事で、かなりの脱水感。
朧を噛ませているが、その必然性のある小鰭の仕事。
漬け鮪TKG(勝手にネーミング)
これは見た目を裏切らない、誰もが喜ぶ味(笑)
海胆
イチカワの赤利尻で、ランクはピンク。
無添加の箱海胆で濃密な甘みなので、昆布塩が合う。
いくら
仕事が面白く、西京漬けにしている。
真夏の新ものと言うだけで嬉しいが、独創的な仕事も魅力的だ。
皮は柔らかく、とろーんととろける。
干瓢巻き
味わいに加えて食感も力強い干瓢は、正しくクラシカルな江戸前仕事。
椀
玉子
みっちり且つしっとりな玉子。
ぷにゅっと反発する感じもある。
海老の香りが良い。
ゴールドキウイのソルベ、パンナコッタ
ゴールドキウイのナチュラルに強い酸味を、ミルクが受け止める。
初訪問時に頂いたもの(酒肴と握りの詳細)
2018年6月訪問
この度頂いた日本酒
華味之至(しかみ)吟醸1,100円、まる田特純750円
華味之至は山形の酒米・山酒4号を使用する北海道の吟醸酒。
華やかな甘みが広がった後にアルコールのピリッとしたアクセントを感じ、
米の風味がまろやかに残る。
酒器や器には、岩見沢のこぶ志窯のものを複数使用されている。
冷製茶碗蒸し
余市産の海胆と秋田産のじゅんさい。
かなり滑らかな口当たりで美味い。
塩気も良い塩梅で、海胆の甘みを活かす。
松川鰈のコラトゥーラ漬け、キャヴィア
これが件の一品。
恐る恐る頂いてみたが、理に適った調理であった。
松川鰈は寝かせて旨味を強化した上で漬けている。
それも、強めに。
身はプリプリでありつつ、熟成による柔らかさがあり、この食感がコラトゥーラの風味に合っている。
コラトゥーラとは南イタリア産のカタクチイワシを原料とする魚醤。
故に発酵の風味があり、あたかも塩辛のよう。
よって、キャヴィアの熟成感とも調和する。
見た目は心配だったが(笑)、杞憂に終わる。
鰯の海苔巻き
〆た鰯に葱、ミョウガを合わせて海苔で巻いている。
杉田さんのオマージュだろうか。
初訪の冒頭だったので、流石に尋ねず。
頂いてみると鰯の香りが広がり、旨味が満ち溢れる。
とろろんととろける鰯の脂を海苔がバリッ!と受け止める。
鰯の状態が良かったので産地を伺ったところ、根室だった。
蛍烏賊串焼き
意外な時期の蛍烏賊
大ぶりでとろんと旨い。
太刀魚酒蒸し
香り良く、身は柔らかすぎず良い感じの火入れ。
太刀魚が柔らかすぎると残念に思う次第。
強めのポン酢も合っている。
鮟肝
奈良漬と干しイチジクをあしらう。
鮟肝は脂が非常にしっかりで、厚い切り付け。
食感は柔らかで、プリン的。
蒸し鮑
鮑の下は肝を用いたリゾット。
同様の酒肴は鮨店に定着した感があるが、海苔の佃煮を混ぜてオリジナリティを出されている。
海苔の佃煮は使用量が良く、巧く接続されている。
磯の香りが良い。
余韻としての香りもある。
60分で握りに入りました。
非常にテンポが良く、好印象です。
おまかせのお店でダラダラ出されたり、ダラダラ飲み食いしたりするのは好きではないので。
ガリ
甘みが割と強いが、辛みもあり、食感はしっかり。
お茶は濃く熱い。
縞鯵
食感は縞鯵らしくバツッとしているが、少し寝かせている模様。
香りは雄々しく、旨味がグイグイと高まる。
熟成を掛けておられ、6日との事であったが、食感や香りなどに熟成の腕を感じさせられた。
鮪中トロ
沖縄産。
切り付けは嬉しい程に肉厚だが、包丁の入れ方が細やかで良い。
中トロは夏らしい旨味の後に、甘み、酸味が広がる。
トキシラズ
漬け。割と長めに漬けていたが、力強い風味がある。
仕事に負けておらず、肉厚な切り付けも奏功。
バツッとした後に、しっとりとほどけ美味。
ノドグロ(アカムツ)
流行りのタネであるが、こちらは独自性が高い。
仕事は恐らく、熟成を掛けた上で皮目を残して切り付け、浅葱を噛ませて握り、皮目をごく軽く炙るだけ。
非常に脂の強いノドグロであり、トロトロながらに食感もある。
しかも、脂が焦げると過剰に香ばしくなってしまうので、これは巧いやり方。
ノドグロへの上品なアプローチである。
産地は対馬との事であった。
小鰭
しっかりした〆でありながら、香りは上品で、噛み締めると旨味が増す。
白板昆布の甘酢も嫌味が無い塩梅。
何よりもシャリとのバランスが良かった。
アオリイカ
6日熟成で甘みがかなり高められているが、包丁で食感を生み出している。
甘み成分グリシンが最も豊富なイカがアオリイカだが、反面、食感の緩さをどうするかが握りの上での課題となる。
こちらは肉厚に切り付けた後、効果的に包丁を入れ、中心はとろりだが、表面にゴリッと切れるような食感を表現している。
鮪赤身
まさかのTKG!
ご飯に生卵を混ぜ、浅葱、海苔を散らし、漬けにした赤身を乗せる。
海胆
利尻産の本物の無添加。
ある海胆屋さんが独自開発しており、使用している店舗は6店のみの希少品である。
ある種ナッツのような深い香ばしさが印象的で、更にスッキリ抜ける爽やかな香りもある。
旨味は言わずもがな。
余韻に爽やかな磯の香りがあり、初夏に北海道を訪れる喜びを伝えてくれる。
掛けられた昆布塩も嫌味が無い。
穴子
海苔で挟み、意外な形で登場(笑)
産地は対馬だろうか。
磯の香りがある江戸前や瀬戸内のものであれば海苔は不要だが、脂の強い対馬であれば納得できる食べ方である。
干瓢巻き
干瓢巻きを出されるとは、嬉しい。
最近の若手職人さんのお店では、干瓢巻きを出す方が非常に少ないので。
お客に干瓢巻きよりもトロ巻きを好む方が増えているのも原因かもしれないが、個人的には鮨の煮もので重要なタネだと思う。
干瓢は甘すぎず、食感がしっかりで美味しい。
「干瓢巻きも出されるとは、良いですね」とお伝えしたところ、「こう言う手の掛けたやつ好きなので…まあ地味ですけど(笑)」と、素敵な回答。
玉子
甘エビを使用しており、塩気は程良く利かせ、みっちり、しっとりした食感。
スイーツぽさは低い玉子である。
玉子の香りと穏やかな甘みが好ましく、海老の香りは上品に漂う。
椀
しじみの味噌汁。
味噌は上品な使用量。
旨味がグイッと奥歯に広がる。
生パイナップルとフローズンヨーグルト
鮨しののめさんの店舗情報と予約方法
WEBサイトについては、食べログ、ぐるなびより可能です。
予約のタイミングについては、最近の傾向的に、連休の場合は1ヶ月前に予約した方がベターです。
ただ、訪問数日前でも取れる事も多いので、助かっています。
店名:鮨しののめ
シャリの特徴:飯尾醸造のお酢を3種類ブレンド。温度や硬さなど良好で、幽玄な印象を与えるシャリ。
予算の目安:おまかせ12,000円~
最寄駅:円山公園駅から400m
TEL:011-215-4144
住所:北海道札幌市中央区南1条西22-2-15 シーズンビル2F
営業時間:17:00~22:00
定休日:木曜
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