
こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
この度、笠間にある「鮨松榮」さんを訪問したところ、「早くお伺いすれば良かった!」と感じました。
実は、過去に親方からインスタのDMをいただいていたことがありました。
「世界シャリサミット2022」開催後に、「次回があれば私も参加してみたい」とご連絡をいただいたのです。
その時点で、シャリに向き合う素敵な職人さんが笠間にいるのか!と訪問を決意したのですが、ふだん笠間・茨城には車で行くことが多いので、遠いイメージだったため中々伺えませんでした。
しかし、この度お誘いをいただき訪問したところ、上野から特急で1時間ほどだったので殊のほか近く、「早くお伺いすれば良かった!」と感じた次第です。


こちらは東京から最も近い「御当地江戸前鮨」の優良店なのではないかと思います。
唯一無二の「常磐前」を多くの人に味わっていただきたいです!

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「鮨松榮」さんの鮨は、咀嚼した時の味覚の波状性が凄い点が魅力です。
味の広がりが素晴らしく、力強い存在感を放つ御当地江戸前鮨だと感じました。
「鮨松榮」の親方である臼井 幸紀さんは、「常磐前」を志向される職人です。
キャリアの大部分は海外で築いたそうで、築地や銀座で修行された後、ニューヨーク(トランプタワー!)、カタール、ニューデリー、スイスを渡り歩いてきたそうです。
そして、2015年にご実家を継ぎ、2023年に大規模リニューアルをされています。
海外が長い職人さんは吉と出るか凶と出るか大きく分かれると経験則で感じますが、臼井親方は完全なる大吉です。
海外で握られてきた中での柔軟な発想が、「常磐前」となって今に活きているのではないか…と感じました。
創作性に浮ついたところが無く、江戸前鮨の進歩として表現する事に成功しています。

臼井親方の「常磐前」に使用される魚は、クオリティが非常に高く、全国で魚を食べ歩いている自分でもかなり驚きました。
もちろん、いわきの名店「鮨いとう」さんでも魚の美味しさに驚くばかりですが、より南の久慈港でも一級の魚が揚がるとは、嬉しい新発見でした。
もちろん臼井親方の仕事が光り、上質な魚を仕事で旨くしているのは言うまでもありませんが、親方いわく「常磐前」を可能にしているのは久慈港の仲買人のお陰のようです。
その方とは、「大内商店」の大内さん。
「魚の仕立て屋」として今後名を高めるだろう御仁です。
お話を伺うと、魚の手当が秀逸で、長井漁港の長谷川さんのような徹底っぷりだと感じました。
魚種や調理法に合わせて〆方を変えたり、輸送時に魚の向きを最適化したりと、先進的です。
良い生産者、良い料理人の二人三脚が成立しているので、消費者としては安心して遠方からお伺いできると言えます。

生命線のシャリについては、飯尾醸造の赤酢プレミアムを使用。
パラッと硬めに炊き上げつつ、硬めながらお米の甘味を活かす塩梅で、無糖である点も奏功しています。
酸味については酸っぱくない範囲で効いていて、塩分濃度も軽やかです。
そして、聞いて驚いたのは、お客さんによってシャリをカスタマイズされている点。
お客さんの好みや訪問頻度に応じて、使用するお酢と砂糖の有無を調整されているそうです。
地の不利をものともしないサービス精神と配慮だと舌を巻きました。
都会の鮨店ならば「うちのシャリはこれ!」とバーンと出すことに粋がありますが、立地次第では粋ではなくエゴになりかねませんので。
…ちなみに、僕は上級者向けのシャリで問題ないと判断いただけたそうです笑
「普段はもっと硬め」とのことですが、個人的にはアルデンテがほぼヒットしない範囲内での炊飯が良いのではないかと思いました。
お米がアルファ化して糖の甘味を感じるシャリでしたので、琴線に触れた次第です。
「鮨松榮」さんのおまかせコースについては、恐らくお客さんに応じて臨機応変に変えられているようです。
結構な魚種を仕入れておられ、熟成もかけられているので。
僕は下記の内容に女将さん渾身の日本酒ペアリングを付けて、32,670円でした。
「常磐前」は漁港に支えられているので、時価も影響してくるのでご参考までに。

なお、女将さんのペアリングは魅力的です。
県内外のお酒を個性的に組み立てて提供いただけます。
お酒が好きな方は頼んでみてください!
2025年4月に訪問した際にいただいた内容です。

特別純米としては香りがあり、甘味がありつつ軽くキリッと苦味も楽しめる。酸味は割と穏やか。ピリッとした苦味のフィニッシュが特徴である。

大洗のメジマグロに、笠間の自然薯、さらに親方の摘み草による蕗の薹の衣と、一品目から「ここに来て良かった!」と感じる酒肴が供される。食材の取り合わせについても、季節感についても、親方の摘み草にしても、素晴らしい。メジマグロは競りの前に漁師から直接買い付けているため豊洲には流れない逸品。魚体は8キロ。食べ応えあるポーションてご提供いただき、実に爽やかな味わいだ。自然薯のとろろとは郷土性があり、高級感もあって嬉しい。蕗の薹の香りとサクサク食感も魅力的なアクセントだ。海と山の食材の共演は「笠間でいただく常磐前」にふさわしいのではないだろうか?

日立久慈港の鰆のオランダ揚げ!そして、摘み草の花山椒。江戸料理のアレンジとはテンションが上がる。鰆は厚みがあり、ふっくらジューシィ。甘味を付けて塩気は軽やか、ほっこりする味付けだ。「極めて上品な鯖の味噌煮」的な鰆の調理で、この調理法は意外性があり嬉しい。

シャリに使用している米の藁で炙る。これは美味い!皮目から脂がじゅわりと滲み、味わいも香りも強い。藁の炙りがしっかり効いているが、実にバランスが良い。メジマグロの濃厚な味と香りも楽しめて、最後は酸味がふんわりと込み上げてくる。

お隣、栃木県のお酒。ミルキーな香りが特徴的で、ヨーグルト系の方向性なので、酒肴の後半にピッタリ。

蓮根の甘味と香りにタラノメの油脂的なコクが合わさり、これまた魅力的な酒肴。摘み草の天然物ゆえのタラノメの濃厚な味わい。野菜料理を挟むのが良いなあ…と実感。

墨烏賊は久慈港。意表を突く西洋料理のアレンジだが、親方が海外でキャリアを築かれたことと、味わいの完成度が高いことを考えると全く違和感が無く、またいただきたいとすら強く思う。抜群に美味しい変化球だ。墨烏賊の身とゲソを用いており、ベシャメルソースと墨烏賊の墨を合わせている。まず、墨の香りが良い!ペースト状で売られている海外産のものとは異なる香りだ。ゲソのコリコリ食感も面白い。濃密で細かくサクサクな衣も良い。

強烈な旨味!そして辛味が広がる。さらに甘味と酸味もある、パワフルなガリだ。聞けば、醤油やアガベを加えているそうだ。アガベを使用する理由は、ニューヨークで頻繁に使っていたためだそう。そして、三年モノのガリとの談で、旨味に納得である。

クロケットと同じく久慈港。肉厚なので包丁を細かく入れつつパツパツ感もある。食感を満喫させつつ、甘味も引き出す良い塩梅の仕事だ!
仙禽はここに照準を合わせているそうで、バッチリの相性であった。お酒の酸味とミルキーさが調和する。

〆ものに向けて森嶋。

大内さん仕入れ。針魚の旨味を活かす〆方で、旨味のアタックが印象的だ。包丁を入れてパツパツよりもパラッとほどけてパツリと切れる食感を表現。これは面白い仕事。針魚のようなタネで強い個性を表現されると鮨好きとしてはギアが上がる。昆布水で〆ているそうだ。

これは江戸前のもの。豊洲の大宗さん仕入れ。昆布〆ながら旨味と香りの当て方が上品で、鱚の身をしっとりさせつつ後から昆布の旨味と香りがふわっと広がる味覚の設計。鱚の味わいを活かす〆方で、これも独自性がある。

大洗の北寄貝とは珍しい!「ももいろホッキ」と呼ばれているそうだ。まず、食感が魅力的で、包丁によって柔らかくも食感を楽しませる塩梅に仕上げている。結果としてシャリとの一体感が高い。北寄貝はピュアな香りで、甘味の強さもさることながらコハク酸が強い。旨味の強さに驚いたので親方に伺ってみたところ、実際に「ももいろホッキ」は旨味が強く、北海道の北寄貝よりも成分的にグルタミン酸、アラニン、タウリンなどの含有量が多い点が特徴だそうであった。情報を知らずとも舌で感知できる旨味の強さである。

1キロアップ(1.2mくらいを超えるもの)を「ドラゴン」と呼ぶが、いただいた魚体は2キロアップ!脂が乗っていて、同時に繊維質も引き締まっている。これは明らかにガス火ではなく、炭火焼きであることが奏功している。そして、シャリの粒感と酸味やお米の甘味を感じさせる良い提供方法だ。脂と酢で乳化させる短絡的な提供方法を採っていない点が野心的である。

鮪に向けて投入との談だが、鮪に春陽を合わせるとは!とテンションが上がった。春陽は低グルテリン品種なので、これを酒造りに使うといわゆる「4mmp」と言う香気成分を発し、これはソーヴィニヨン・ブランや一部のホップが持つ香りである。挑戦的なペアリングだ。


塩釜の延縄、119.6キロ。さっくり感の後に旨味と上品な血の香りがふんわりと広がる。シャリ温を上げて乳化を試みる心がけも現代的で魅力だ。
ペアリングについては、お酒の甘味を感じつつ、キリッとした苦味や酸味が味を切る。

時期を疑うような旨味と脂であった。香りもまろやか。実にパンチがある中トロ!

筋を丁寧に剥がして、自ら握りの難易度を上げてから握る。技が光る大トロは粋だ。濃厚な脂とコクをストレートに楽しませる。

地ものと聞いて驚いたが、のれそれやしらす漁で取れる大洗のものだそう。しっとりしたテクスチャーで、とろりととろける。かなり浅〆でフレッシュな小鰭を表現されている。これについては評価が分かれるところで、個人的にはしっとりな方向性であっても水分はある程度脱いた方が小鰭らしい旨味と香りが引き立つのではないか?と感じた。

訪問の10日ほど前に「大内商店」で仕入れたもので、2日間活け越して、ストレスを抜いてから神経〆を施しているそうだ。熟成させた鯛を皮つきでクラシックなスタイルで握るところが魅力的!そして、驚くほど複雑な味わいの鯛だ。旨味と強い脂が波状的に織り混ざる。食感についても、しっとりなところとコリコリなところが共存している。香りは芳醇。食感と味わいの多様性が凄い熟成仕事で白眉であった。

3週間ほど熟成されたものであるが、熟成とは思えないぷりっとした食感と香りであった。旨味の後に濃密な脂が溢れ、香りが広がる。大内さんの確かな仕事を感じる熟成の仕事であった。

鹿島の蛤のオボロを噛ませる唯一無二の仕事!!ねっちり、むっちり、しっとりと魅力的な食感の春子の後に、蛤オボロの甘味と香り、旨味が広がる。そして、酸味や山葵の香りが広がる。春子は白板昆布を用いて〆ているため、昆布の旨味や香りが極めて上品であった。

冷酒で通すならば後半にふさわしいお酒。

これも独自性が高い仕事で、握る前にサッと茹でて、ラップで蒸すように予熱火入れを行う。福島から海底を歩いてやってくる「渡りダコ」だそう。噛み締めた瞬間に芳醇な香りが広がり、咀嚼する中で味わいも深まる。そして、海苔の香りが調味料的に合わさり、身がほどけてゆく。絶妙な食感である。写真だけ見ると「海苔バンドとは街場寿司のようだな…」と思う方もいらっしゃるかもしれないが、いざいただいてみると海苔の必然性を感じる。風味が広がるタイミングが計算されている幅であり、蛸の味を阻害せずに盛り上げる役割を力強く担っている為だ。

笹の葉に挟んで温めるクラシックな仕事。穴子は非常に分厚い。脂がありつつ繊維の力強い存在感があり、穴子の香りも気持ちよく楽しめる!しっとり、ほろほろ、むっちりと、食感が複雑な穴子で感動が大きい。脂までベタッとしておらず、むっちりしてぃる印象を受ける。素晴らしい穴子に驚嘆した次第だが、これも地物で、しかも漁港で仕入れてから30分以内に煮ているそうだ!!状態が良いものしか扱わないので、結果的に年に10回くらいしか出せない穴子だそうだ。香りが香ばしいクラシックな煮ツメも奏功している。
お酒の旨味や甘味を強めてのご提供が嬉しく、来福愛山は余韻にビターな苦味があるため味の強いタネにも合う。

半切りの大ぶりな海苔を炭火で強めに炙ったネギトロ手巻き。薬味は葱ではなく、無農薬の赤タマネギを使用(念のため記載するが、「ネギトロ」の「ネギ」は葱ではなく、鮪の身を骨から剥がす作業を「ネギる」と言うためのネーミングである)。赤タマネギの香りが非常に合う。海苔も存在感があり、香りが強く、旨味も十分にある。タフな海苔だ。岡山県の「邦美丸」の海苔で、玉野市・胸上漁港産とのことだ。

大洗。煮蛤ではなく、しゃぶしゃぶでの提供!いただく際に蛤出汁を掛けるスタイル。まず、蛤の歯切れが素晴らしい。蛤の旨味と香りが芳醇な出汁には甘味を付けており、煮ツメ代わりに使用している。食感を楽しませつつほどけゆき、余韻へと繋がる。

これまた美味しく、しかも個性的な干瓢だ。

あたかも海苔の佃煮のような香りとコリッコリの食感!これは本当に素晴らしい干瓢巻きである。戻してから茹でずに煮るスタイルとのことだ。
「鮨松榮」さんは、お電話での予約となります。
店名:鮨松榮(すしまつえい)
予算の目安:おまかせコース+日本酒のペアリングで30,000円~40,000円
TEL:0296-77-0317
住所:茨城県笠間市東平1-1-21
最寄駅:友部駅から200m
営業時間:17:00~22:00
定休日:月曜
※完全予約制です
茨城県で訪問すべき蕎麦店。

新たな御当地江戸前鮨の誕生にワクワクする、すしログ(@sushilog01)でした。
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