こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
さて、今回ご紹介する鮨店は「鮨 惠万(エヴァン)」と言う、鮨店としては変わった響きのお店です。
ありがたい縁があり、こちらのオーナー「食農夢創」および「CRAFTED JAPAN」の仲野社長と知り合ったので訪問しました。
「食農夢創」は農林漁業者の経営支援を行う会社で、「惠万」を営む「CRAFTED JAPAN」は「全国のCRAFTED(洗練された)食材を生産者の想いと共に世界へ発信する」がコンセプト。
生産者、料理人、消費者の循環は僕自身が探求しているテーマでもあるので、期待を込めて訪問しました。
そして再訪してみたところ、前回気になってお伝えした点をバッチリ改良されていて感動しました。
シャリが大幅に美味しくなっていて、全体的に魅力を向上されています。
そして、「鮨と料理」というコンセプトが一層明確になっていました。
経営者の仲野さんいわく、協力される生産者さんも増えているそうです。今後さらなる飛躍を遂げるだろうと期待をしています。
男女ペアの場合、必ずレディファーストで提供される点も素晴らしいです。
鮨店で初めて見ました。
なお、店名については、「伝道師」を意味する「エヴァンジェリスト」が語源です。
「食材のエヴァンジェリストでありたい」と言う想いが込められているそうで、生産者さんファーストな信念を感じます。
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お店の魅力は、ズバリ他にはない食材と自由な発想で組み立てられる御料理です。
「鮨 惠万」の親方は赤坂見附の「鮨 若尊」(株式会社エー・ピーホールディングス系列)で店長をされていた高橋 篤さん、そして料理長は「銀座しのはら」で3年勤め煮方(三番手!)を任されていた堀内 伴竜さん。
そう、鮨職人と板前の二人三脚体制が、こちらの特色になります。
提供は初めに名物の【焼き八寸】が登場して、早々に握りに入ります。握りを重視されている点が素晴らしいです。
そして、握りの合間に日本料理の技とセンスを活かした酒肴(と言うよりも御料理)が挟み込まれます。…とは言え、握りの邪魔をせずコースに馴染む味覚設計や構成なのが嬉しいところ。
堀内さんは立ち上げ前ではなく途中から参加されたそうですが、いち早く調整されたことが分かります。
酒肴は見た目から予測がつかない味わいで工夫を感じます。
握りの合間に登場して、イメージを裏切る味わいを楽しませてくれるので、コースの中で強いアクセントになっていて好感を覚えました。
生命線のシャリは千葉県産「笑みの絆」と鳥取県産「きぬむすめ」のブレンドという珍しい仕様です。そして、お酢は飯尾醸造さんの富士酢を中心にブレンドされているそうです。
初手の印象としてはアッサリなシャリ。酸味がふわっと広がり、パラッとほどけ、温度は程良い。ソツ無く仕上げていますが、お米の甘味やもっちり感は非常に弱いので存在感に欠けます。結果的に、脂や甘味が強いタネには威力を発揮するものの、淡白な味わいのタネの時にタネ先行の鮨だと感じてしまいます。
浸漬、炊飯、味付けが噛み合えば口腔でアルファ化し、タネを活かすシャリになる筈。これについては、口頭でお伝えしました。お米の甘味を引き出してこそのシャリだと思うので、頑張って頂ければと思います。
【2024年12月追記】
再訪したところ浸漬時間を長めに取られたようで、改良されていました。調整をできる職人さんならば今後も安心です。
また、シャリ以外で気になった点としては、光物も煮物も無いところ。これは東京の鮨店としては画竜点睛を欠くので、心から懸念しました。鮨通に「江戸前鮨に何を求めるか?」と尋ねれば、高確率で返ってくるのが光物もしくは煮物です。その両方が無いというのは、敢えて自らハードルを上げる行為なので非常にリスキーです。鮨好きならば片方無いだけで満足感が自動的に下がってしまうので…。これはグルメな方のリピート率に関わる点なので、早急に改善された方が良いと断言します。
【2024年12月追記】
こちらについても改善されていました。若手職人さんのために、メッセージ自体は残しておきます。
おまかせコースはお酒コミコミで16,500円ですが、これは驚異的なCPだと実感しました。
価格が全てではありませんが、今の時代にありがたく、老若男女幅広い層が安心して笑顔で楽しめるおまかせだと断言します。
2024年11月下旬にお伺いした際に頂いた内容です。
茨城産シラウオの天麩羅、じゃこと有馬山椒の炊いたもの、ほうれん草ジュレがけ、むかご、歯舞のギンポの幽庵焼き。
ギンポは脂が乗っていてきめ細かい繊維質。香りを広げながらほどける。ほのかな薫香のあるジュレには軽い甘味を付けて柔らかな味わいへ。
誰もが嬉しい定番の一品。ただ、気になったのが鮪の温度。冷たかったので、八寸を提供する前から空気に触れさせて常温近くに戻すと良い!
北海道。寝かせてしっとりした食感で、旨味を楽しませる方向性の仕事。縁側の食感と脂を効果的なアクセントに用いている。名刺代わりの一貫目から、前回よりも加水(浸漬)の技術が向上している!!と実感。
岩手。かなりきめ細かい包丁で次第にとろける方向性に仕上げている。調味料は塩のみで、柑橘を用いない事によって甘味の印象を引き立てている。
宮城。寝かせてもっちり、とろりとする食感。縞鯵の力強い香りが広がる。
松前漬け。しっとりホロホロ。濃いめの味を乗せて酒肴として調理されている。
甘海老の甘味と海老オイルの強い甲殻類の香りが一体化。クリームチーズは鉄板とも言える酒肴だが、紹興酒漬けは面白い。紹興酒のフレイバーはかなり軽く、クリームチーズのコクと酸味を楽しめる酒肴。
鮨店で出会えるとは思えない吸い地だ!昆布の旨味と香りが広がり、鰹節の旨味と酸味がキリッと味を引き締める。端正な方向性。塩味は軽く、個々の椀種の味わいの輪郭を明瞭にする。
塩竃、157キロ。香りが強く、身はしっとりしている赤身。香りと旨味が徐々に高まる。時期的により北のものよりは味が軽い。…が、味わい良し。その理由はシャリ温が高いところで握り、鮪の温度も馴らしているためだ。
鮪の個性を引き出す良い包丁!柔らかく仕上げて香りと脂を前面に出す。包丁の仕事で鮪を旨くしている。
熊本。肉厚で、みっちりした食感の小鰭。脂が乗っていて旨い。塩と酢は軽く、小鰭を活かしつつネガティブな香りは皆無で、良い仕事だ。さらに上を目指すならば、塩をもう少し当てて〆を強めて、さらに寝かせを長くすると一層美味しくなるのは間違いない。
香ばしくカリサクな衣で、鮟鱇はジューシィでぷりぷり。ビアフリット的な揚げ物。
これは凄い。鰹出汁を効かせた餡で、混ぜると一体感が抜群!葛も粘度の上で活きている。
長万部。かなり生に近い火入れで、北寄貝の香りも強く伝える仕事。磯っぽさを感じさせる個性的な表現だ。
濃密な白湯仕様の潮汁。
対馬。しっとり、ホロホロな繊維を楽しめる煮方。穴子の香りを楽しめるのは個人的に嬉しいが、香りの中に泥っぽさが少々含まれている。甘味はバッチリの塩梅で、程良い。
もっちもち。良き和スイーツ。
2024年9月上旬にお伺いした際に頂いた内容です。
お店の名物として考案された「焼き八寸」。母体企業の強みを活かして、各地の生産者さんの食材を駆使し、季節感を表現する魅力的な一品目だ。この度は、秋鮭の筋子の紹興酒漬け、愛知県産じゃこと万願寺唐辛子、知床産鰤の幽庵焼き、千葉県・三つ豆ファームのおおまさり、魚介と烏賊のなめろう、胡桃といちじくの胡麻和え。非常に早い走りの鰤は焼き立てで提供され、「焼き八寸」の名前通り。なめろうの味付けで、調味が間違いない事を実感する。軽やかで美味い。
特に印象深かったのはおおまさりで、香りが非常に良く、甘い。夏場の鮨店の定番は枝豆であるが、異なる魅力を気づかせてくれた。地味なポイントかも知れないが、仕入れを活かして食材で差異化を図っている点が印象深い。この「焼き八寸」は今後どんどん魅力を増すはずだと実感した。
厚焼き卵に鮪と海胆、いくらを加えた巻物。皆が喜ぶ食材の取り合わせであるが、中でも厚焼き卵が良い仕事をしている。
シャキシャキした食感で、辛味と酸味のあるスッキリ方向のガリ。
山口県産。むっちりして旨味が強く、ピュアな美味しさが印象的。手当を伺ったところ海中神経〆で納得。そして、10日の熟成を掛けているそう。名刺代わりの一貫目で白身魚を配置し、仕事で楽しませるのは非常に好印象だ。魚介と向き合っていると実感する。こだわりの漁師さんの丁寧な手当が光る魚介類を増やしていけば、確実に他店との差異化が果たせるだろう。
大船渡産。アオリイカのような濃密な甘味とトロトロト食感の剣先烏賊だ。
ボストン産、140キロで仕入れはやま幸。味わいは軽めだが、香りが良い。この方向性の赤身であれば生ではなく、仕事を施す方が正解だろう。自分であれば漬けにしてから低温調理を試みる。結果的に、お店の全体的な方向性を考慮すると鮪は有名仲卸から入れなくても良いと感じた。コストの配分的に鮪よりも独自の仕入れルートを活かした「厳選食材」に振った方が満足度は確実に高くなるはずだ。鮪は「資本主義系の鮨種」なので、グルメな人には分かってしまうので。
バターナッツの甘味と香りに【海老の塩辛】がアクセントになっている。それでいて御料理全体の塩気は軽やかに仕上げている点がこれみよがしではない。
五島産。地元名はヤイト。調味料は、玉ねぎおろしに梨おろし!素晴らしい脂のノリのスマだ。
そして、酸味が爽快。また、野趣ある香りがじわじわと広がる。薬味も上品な使い方。鮪よりも、このような食材で勝負する方がお店の未来に繋がると確信した次第である。
葛をほとんど使わずにとろみを付けていて、調理面でのサプライズがある。そして、鰹出汁の効かせ方が良い。鱧は香ばしい。加熱すると雄々しさを高める魚だ。
松前産、昆布〆。昆布の旨味や香りを上品な範疇に収めており、鮃自体の味を楽しめる。揚げ鱧の後に出される点がユニークな構成だ。
柔らかく旨い。赤身よりも印象が良い理由としてはトロの脂であり、脂のあるタネに合うシャリだと実感する。
唐津の小田さん仕入れ。皮を残しているのが良い。脂が乗っていてピュアに旨い。当日仕入れとのことだが、寝かせて脂が回った状態とは異なる旨さがある。
産地は小川原湖。揚げてからサッと甘酢にくぐらせているので「瞬間」南蛮漬け。クラシックな甘酢の南蛮漬けだと、いささか野暮ッたく感じる時代なので、これは魅力的な提供方法だ。衣も軽やかで、サクサク感を楽しめる!八街産の【白丸茄子】も甘く、香りが良い!
もっちもちで旨い麺。海胆の餌である昆布出汁を合わせる試みが素晴らしい。
長万部産。柑橘を少し強めに効かせている。
水分量が少なく、ねっちりしている海胆。よって、甘味を強く感じて美味しい。
濃密ながらネガティブな味わいは無く、魚介類の香りが嫌味無く広がる。
見た目も味わいも素晴らしい葛饅頭だ。残暑を感じる9月上旬の訪問であったので、清涼感があり嬉しい水菓子。手作りである点も嬉しい。
お店は田町駅から徒歩4分ほどの場所にあり、アクセス至便です。
田町は勤務している人以外馴染が薄い場所かと思いますが、お店の周囲は静かで、店内では落ち着いて頂けます。
価格設定はリーズナブルであても、決して安っぽくは無いので、その点はご安心ください。
「鮨 惠万(エヴァン)」さんは、食べログ経由でWEB予約が可能です。
店名:鮨 惠万(すし エヴァン)
シャリの特徴:千葉県産「笑みの絆」と鳥取県産「きぬむすめ」のブレンド
予算の目安:おまかせ飲み物込み16,500円
TEL:03-6722-0366
住所:東京都港区芝5-19-6 BIASTA TAMACHI MITA 1F
最寄駅:三田駅から75m
営業時間:17:00〜22:30
定休日:日曜
新たな流通による鮨店に期待する、すしログ(@sushilog01)でした。
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