「瀬戸内じざかな日和」レポートNo. 1:「瀬戸内じざかな日和」とは?「鮨 広島あじろや」のレポート

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こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。

2022年8月に、広島県から地魚のブランディングに関するアドバイザーのご依頼を頂きました。

「広島の地魚の魅力を高める」ためのプロジェクトである「瀬戸内じざかな日和」で、鮨と地魚に関してアドバイスを行う業務となります。

すしログ

故郷の広島で大変光栄なお声がけです。

関係各位に心より感謝いたします。

その後、広島県に3回飛び、以下の業務を遂行しました。

  • 既存協力店舗の営業実証
  • 広島市中央卸売市場の見学
  • 実食モニター座談会のファシリテーター
  • 有識者とのパネルディスカッション
  • 次年度に向けての店舗開拓
  • 東京で開催されたイベントへの参加と調査

遂行する過程で広島の地魚の魅力だけでなく、色々な課題が見えてきました。

ついては、トータル3回に分けて、広島の地魚についてのレポートをお送りします。

本記事「No. 1」では、「事業の概要」「協力店(鮨 広島あじろや)に関するレポート」をお届けします。

すしログ

長年、食べ歩きながら鮨を研究し、全国・世界で6,000軒以上のお店を巡ってきて良かった!と痛感します。

食のプロジェクトには「美食」の観点に欠けるものが散見されるので、自分は「美食」を貫きます。

なお、僕は「食は未来の日本を豊かにするコンテンツだ」と確信していますが、料理の前に、料理の根幹である食材に向き合わねば明るい未来はありません。

他者や食材への敬意を忘れて「我」を出しがちな人が多い世の中……僕は生産者さんと料理人さんが有名になり、地域の食文化を底上げする事を志向します。

本記事がオススメな方
  • 広島に関心がある方
  • 広島在住、広島出身の方
  • 魚、鮨が大好きな方
  • 広島の職人さん、料理人さん、生産者さん
  • 広島以外で郷土性を志向する職人さん、料理人さん

 

続編記事

「瀬戸内じざかな日和」とは?

「瀬戸内じざかな日和」は、広島県農林水産局が主催する、地魚のPRプロジェクトです。

▶「瀬戸内じざかな日和」公式サイト

プロジェクトでは、瀬戸内海の地魚の魅力を発信するとともに、協力店舗での実食モニターのアンケート調査が行われています。

さて、カキ以外に何が浮かびますか?

さて、広島県の地魚と言えば「牡蠣カキ」が圧倒的な知名度を誇っています。

他にどんな魚介が頭に浮かびますか??

…カキが強すぎて、他の魚のイメージが弱いのが現状だと思われます。

 

実際に、東京の鮨職人さんや料理人さんにヒヤリングを行ったところ、挙がる魚種名が限られていました。

豊洲市場の仲卸さんで扱っている魚も、広島県産の魚介が少ない状況です。

 

ただ、実際には、様々な魚種が揚がり、広島ならではな正に「地魚」もいます。

瀬戸内じざかな

こちらには載っていませんが、「タモリ」や「タマガンゾウビラメ」などインパクトある名前の魚や、カキイカダの上からハサミで挟んで獲る「イカダカワハギ」などユニークな魚もいます。

上記画像は「瀬戸内じざかな日和」に掲載されていて、公式サイトの特設ページでは魚の写真をクリックすると詳しい説明が見られます。

是非ともチェックしてみてください。

魚好きな自分としても勉強になる情報が多々ありました。

 

ただ、広島の漁業をめぐる課題も散見されるので、それらについては「No. 3:広島の江戸前鮨の現状と地域グルメを活性化する方法」で述べます!

例えば、少し前までは豊漁だった穴子は今や全く獲れなくなり、東京と同じく対馬産・韓国産に頼っている現状です。

「瀬戸内じざかな日和」の協力店舗リスト

そして、「瀬戸内じざかな日和」のもう一つの目玉は、協力店舗での実食モニターのアンケート調査です。

広島県が公募・選出した協力店舗は、以下のとおりです(リンクはGoogle Map)。

この実食モニターには、性別、年齢が様々な一般の方々が参加されました。

申込みの倍率はかなり高かったそうで、当選された方は食好き、旅行好きな方ばかりでした(座談会で実感)。

 

そして、僕がお伺いしたお店は「鮨 広島あじろや」さんです。

こちらの経営母体は「広島駅弁当株式会社」なので、実は少々不安を抱きました。

しかし、実際には期待以上の内容でしたので、この後、レポートをお届けします。

そして、もちろん忖度無しで記載します。

忖度ありありの提灯記事はお店の本質的な発展に寄与しないので、寧ろ失礼に当たる筈。

また、読者の方にも不誠実なので、僕は提灯記事は決して書きません。

お店の良い部分と、改良すれば更に良くなる部分を客観的に示します。

 

なお、現在の協力店舗は資本力があるお店が多いので、来年度以降は若手~中堅の個人店が増えると更に良いと感じます。

若手の個人店が人気になれば、土地の魅力が一気に向上します。

グルメ情報が溢れかえるこの時代。

「そこでしか食べられないもの」や「突き抜けた個性や感性」、「スペシャリテ(看板メニュー)」があるお店こそ、全国の都市部に住むグルメ層が旅の目的にするお店です。

 

なので、本記事を見て頂いた広島の鮨職人さん、料理人さんで、ご関心のある方はご連絡ください。

県のプロジェクトなので、僕には決裁県は無く、決定は県庁さんで行う事になりますが、グルメの立場から推薦いたします(もちろん料理の精度は注意深く確認させて頂きます)。

 

それでは、自身が参加した「鮨 広島あじろや」さんのレポートをお届けします!

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「鮨 広島あじろや」の営業実証レポート

「鮨 広島あじろや」さんの営業実証レポートについては、以下のとおりです。

「鮨 広島あじろや」の雰囲気やサービス

「鮨 広島あじろや」さんは、広島駅の真ん前にある「ビックフロントひろしま」に入っています。

ビルの4階なので高層階ではありませんが、周囲は開けているので、カウンターからの景色は高層階のようです。

 

そして、雰囲気は非常に落ち着いています。

広島では貴重なデートや接待で使える鮨店だと感じました。

とは言え、什器や内装は適度にカジュアルなので、気負う必要はありません。

 

また、良い鮨店の必須条件とも言える店内の匂いも申し分なく、清潔感があります。

「店内の匂い」はグルメ調査の際に見落とされがちですが、鮨店で臭いを感じるのは論外です。

臭いに鈍感な職人さんは当然の事ながら嗅覚が弱いので、料理に粗があるものです。

東京の人気店であっても臭いに遭遇する事があるので、これは本当に気を付けるべき要素です。

 

サービスについてはきめ細かく、緊張感を感じさせず、付かず離れずなところが好印象です。

「鮨 広島あじろや」の魅力について

「鮨 広島あじろや」さんの魅力については、地魚を多用する点です。

県産の魚介類を季節ごとに提供しようという気概を感じました。

これは今回のプロジェクトに関わらず提供されているようなので、今後が楽しみです。

 

また、海水魚だけでなく淡水魚(太田川の落ち鮎)も出されるところも魅力に感じました。

魚と言えば海水魚のみになりがちですが、淡水魚は日本人が歴史的に寵愛してきた経緯があります。

古代の朝廷への献上品を例に取ると、献上されていた魚介類は13種類に規定されていて、以下のとおりです(養老律令賦役令(757年)より)。

  • 堅魚(カツオ)
  • 鮒(フナ)
  • 年魚(アユ)
  • 烏賊(イカ)
  • 海鼠(ナマコ)
  • 棘甲贏(ムラサキウニ)
  • 甲贏(バフンウニ)
  • 鰒(アワビ)
  • 螺(サザエ)
  • 貽貝(ハマグリ)
  • 白貝(北寄貝/青柳)
  • 辛螺(ニシ貝)
  • 海細螺(シタダミ)

意外にも「魚」は、堅魚(カツオ)、鮒(フナ)、年魚(アユ)の3種のみ。

しかも、海水魚はカツオだけです。

よって、淡水魚を用いる伝統がある土地の場合は淡水魚も用いた方が面白く、食文化の再考に繋がると考えています。

 

流通が全世界を網羅し、「飽食の時代」と呼ばれて久しいですが、和食の根底には、四里四方しりしほう(16km四方)で獲れる食材を食べるのが健康に繋がると考える「身土不二しんどふじ」の思想があります。

これを厳密に実践するのは今や大半の人にとって不可能ですが、淡水魚も含めて魚食文化を考える事こそ和食の本質だと思う次第です。

 

そして、「鮨 広島あじろや」さんは、コストパフォーマンスも魅力的です。

ランチには【特上にぎり(12貫)】を4,180円で提供していて、夜のおまかせは【桔梗】8,800円から【月下美人】16,500円まで細かく4つの価格帯で提供しています。

老若男女問わず楽しめる価格設定です。

「鮨 広島あじろや」の酢飯(シャリ)について

「鮨 広島あじろや」さんのシャリについては、甘味があり、温度が低めな、クラシックな仕様です。

低温については、シャリ切りの時間を握りの提供時間から逆算して設定すれば改良出来ます。

甘味については強すぎないので、郷土の味として楽しめます。

 

東京で「塩気と酸味が効いた赤酢のシャリ」が流行って以来、大阪でも流行っている状況ですが、本来はシャリは土地の味があるもので、関西から西は甘くなる傾向があります。

どちらが良いと言う話ではなく、東京の味を模倣するのではなく元々の味付けの要素も採り入れると選択肢が増える次第です。

この点については、消費者も同様で、「東京のシャリの味と違う」と否定的な事を言う人が散見されますが、何か一つを絶対視してしまうと食で得られる体験価値は大幅に下がります。

自己相対化に加えて、土地の味を相対的に楽しむクセを付けると、旅が更に楽しくなります。

 

ちなみに、使用されているお酢は広島県産の米酢の2種ブレンドとの事です。

「鮨 広島あじろや」のコースの内容

それでは、実際に頂いた内容をご紹介します。

訪問時期については、2022年11月中旬です。

 

先付:ワタリガニ(山口県産)と焼き茄子

先付

甘味が強いワタリガニに、焼き茄子の香りで力強さを与えているのが魅力。

足し算が上品で嬉しい。

土佐酢のジュレも酸味のアタックが弱く、繊細な方向性で好感が持てる。

ワタリガニの甘味に巧く調整している。

広島のワタリガニは、問答無用で美味い。

 

ウマヅラハギ(地物)

ウマヅラハギ

肝については、火入れして裏ごしした後に自家製のポン酢で伸ばしている。

臭みは無く、良い仕込みである。

身は軽く脱水しているようで、みっちりしており、肝ペーストとのコントラストを生み出していて良い。

ウマヅラハギやカワハギで身がゆるいのは現代的ではない。

 

牡蠣(安芸津産)と岩もずく(能登産)の小吸い物

牡蠣(安芸津産)と岩もずく(能登産)の小吸い物

冷製ではなく温製での提供が時期的に良い。

出汁の塩梅も過剰ではなく上品。

牡蠣の産地は安芸津で、ふくらみ始めのもので嬉しかった(11月中旬)。

 

鰆(岩国沖)

鰆(岩国沖)

脂が乗っていて、身は柔らかくとろけ、旨味が滲む。

 

鰤(北海道産)

鰤(北海道産)

北海道余市の鰤は10月までが漁期だが、最後のタイミングで仕入れ、熟成を掛けて提供。

このような提供方法は広島において貴重であり、多くの広島県人にとって嬉しい筈だ。

脂が非常に乗っている鰤なので、寝かせの仕事が奏功している。

熟成に伴う旨味も乗っているため、脂が過剰にならず、味わい深く感じる次第だ。

 

地蛸(三原産)の柔らか煮

地蛸(三原産)の柔らか煮

柔らかいだけでなく、香りも良いので旨い。

東京で一般的となっている【桜煮】でない点が好印象だ。

地蛸の美味しさをストレートに伝えるなら、強い味(特に甘味)を付けない選択肢がベターである。

 

口直し

口直し

ワカメとキュウリで、胡麻が金胡麻である点が嬉しい。

 

真鯖(瀬戸内産)

真鯖(瀬戸内産)

塩〆して1日寝かせて、昆布を当てているそう。

〆鯖に昆布とは珍しい仕事だが、瀬戸内の鯖は脂が少ないために昆布を使用しているそうで納得する。

また、昆布の旨味と香りの浸透加減についても行き過ぎておらず上品に仕上げている。

 

生の数の子の漬け

生の数の子の漬け

生の数の子とは、地物でなくとも嬉しいサプライズだ。

生の漬けであっても、卵のリズミカルなプチプチ感はまさに数の子らしくて面白い。

生の数の子の漬け02

消費者には全がて地物でない事を嘆く方もいるが、構成さえ良ければ全く問題無い。

 

太刀魚の焼きもの

太刀魚の焼きもの

厚みがあり、脂も乗っている。

付け合せは甘酢漬けの菊蕪。

焼き加減がウェルダンで古典的だったので、よりジューシィに仕上げると現代的になる。

 

唐墨の茶碗蒸し

唐墨の茶碗蒸し

茶碗蒸しは「す」が入っておらず、滑らかで美味。

具が入っていないところも素晴らしい。

唐墨を上品に用いていて、センスが良いと実感した。

 

鮎(太田川産)の甘露煮

鮎(太田川産)の甘露煮

産地で太田川で、秋の落ち鮎を煮たもの。

海魚だけではなく淡水魚も使っている上に地物であるところに郷土性が表れている。

海魚がセオリーである鮨店において淡水魚を使う選択が出来る職人は決して多くないので、職人さんのセンスを感じた瞬間だ。

 

ガリ

ガリ

既製品のベタ甘なクラシカルタイプでない点が良い。

 

鮃(ヒラメ)

鮃(ヒラメ)

肝ポン酢。

鮃は塩で脱水していて、みっちりしている。

この提供方法に脱水は必要であるが、過脱水であると感じた。

 

鯵(アジ)

鯵(アジ)

薬味は定番のあたり葱。

鯵は香りが強く、身質はしっとりしている。

 

剣先烏賊

剣先烏賊

使用している調味料がトリュフ塩なのは頂けない。

香りが邪魔だ。

烏賊がむっちりした後にとろりととろける食感の表現は良いので、安易な調味料の足し算に走らなくても良い。

烏賊の魅力は、食感と甘味、旨味だと考える。

鮮度や寝かせ、包丁によって食感を表現しつつ、烏賊の旨味と甘味をどこまで引き出せるかが重要だ。

 

小鰭(コハダ)

小鰭(コハダ)

広島の鮨店で小鰭を出す心意気に痺れた。

身は滑らかで、皮目も柔らかく仕上げる方向性の〆加減。

地方の江戸前鮨店では過脱水になっているケースが多いので、これは良い〆加減。

小鰭をしっかり〆るのは江戸時代の江戸前仕事で、今の時代には異なる仕事がある。

また、柔らか目に仕上げると生じやすい臭みも無い。

 

椀

アラ汁ベースの味噌汁で、椀妻は三ツ葉、椀種は少量の豆腐。

まろやかな味わいの椀で、これは広島の味らしくて良い。

 

鮪(マグロ)

鮪(マグロ)

豊洲の超有名な仲卸「やま幸」から仕入れたボストン産で、219キロ。

味は大味。

豊洲に足を運べない都道府県のお店は、必ずしも豊洲から鮪を仕入れなくても良いと考える。

タネのコストが勿体無い。

ご当地江戸前鮨において、鮨に鮪は必須でない。

あるいは、お客さんの来訪が県内外かで鮪を出し分けても良いだろう。

 

穴子(アナゴ)

穴子(アナゴ)

食感は、ふわんふわん、しっとり。

甘味が軽い点が良い。

ハンディバーナーではなく、笹の葉の上で炙るスタイルなどがベターである。

 

梅紫蘇と長芋の手巻き

梅紫蘇と長芋の手巻き

大葉、金胡麻も使用していて、香りが良い。

そして、海苔がパリパリで、香りと旨味もある点が嬉しい。

鮨店の海苔は、お店の格式を示すものなので好印象だ。

 

玉子焼き

玉子焼き

黄身と白身を別に仕上げてコントラストを生み出す調理が面白い。

江戸前鮨と言えば「カステラ玉子」が人気だが、これはこれでお店の個性を感じさせるので良い提供だと思う。

 

水菓子

水菓子

鮨店は玉子焼きでフィニッシュでも構わない。

 

全体的に満足度が高いコースですが、酒肴が11品に対して握りが6貫のみだったので、握り主体だと魅力が向上すると感じました。

今の時代、人気店の90%以上は酒肴よりも握りを重視していて、酒肴5~6品に握りを10貫以上出す構成がオーソドックスです。

一昔前は握りと酒肴を織り交ぜるスタイルが流行りましたが、現在は揺り戻しがあり、握り中心の構成を好む職人さんが増えています。

 

江戸前鮨が定着していない土地では、「鮨店=飲んで鮨を軽くつまんで締める場所」と言った「寿司割烹」が受けるきらいがありますが、それでは県外の方やグルメな方は呼び込めません。

これは飲食店だけでなく消費者の課題でもあるので、意識改革が進むよう、敢えて記載いたします。

県外から伺う場合には、「握り主体でお願いします」と予約時に伝えておくのが良いでしょう。

「鮨 広島あじろや」のお店情報と予約方法

「鮨 広島あじろや」さんは、ヒトサラ経由でWEB予約が可能です。

 

【店舗情報】

店名:鮨 広島あじろや 本店

営業時間:11:30~14:00、17:00~22:00

定休日:月曜

電話番号: 082-263-1555

住所:広島県広島市南区松原町5-1 BIGFRONT広島 4F

 

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今後のスケジュール

今後については、以下の順にレポートをお届けします。

 

本記事がきっかけで、広島と広島の魚介に関心を持って頂ければ幸いです!

鮨を心底愛する、すしログ(f:id:edomae-sushi:20201002142555p:plain@sushilog01)でした。

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