
こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
この度、富山県が推進する「寿司といえば、富山」キャンペーンに惹かれて、6年ぶりに富山に行きました。
鮨研究家として現在の富山の鮨を体感せねば、と。
そして、2店舗目にお伺いしたのが、「和香奈(咊香柰)」さんです。
親方の領毛 龍生さんは2代目で、代替わりのタイミングで現代的な鮨へと大幅に舵を切られたそうです。
結果として、富山屈指のセンスを誇る鮨店であり、こちらのために富山に旅行する価値があると感じました。


魚介の活かし方と言う後天的な技術だけでなく、味覚という先天的な感覚がアドバンテージ。
それらをセンスによって唯一無二の仕事に昇華されています。
握りも理想的な扇の地紙型で見事!

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「和香奈」の領毛 龍生 親方は、氷見がご出身とのことです。
修行中に先代のご尊父が倒れてしまったため、暖簾を継いだそうです。
ゆうに20年、23歳の頃から当地の漬け場に立っているそうで、キャリアはバッチリです。
そして、いただいた感想としては、北陸の鮨だけでは発想しえない自由な思考に基づいていると感じました。
しばらくお話をして理由に納得。
領毛親方は鮨の食べ歩きが大好きとのことでした。
なるほど…食べ歩きでインスピレーションを得て、ご自身の鮨をブラッシュアップされているとは、信頼できる鮨職人です。
高松の「鮨舳」の佐藤 裕哉 親方のように完全にオリジナルな鮨を握る方は、他店で良いインスピレーションを得て伝統を換骨奪胎できる職人さんです。
高岡は富山No.2の都市でありながら、圧倒的多数の人は富山市に行ってしまう状況ですが、ゆくゆくは新潟県新発田市の「登喜和鮨」小林 宏輔 親方のように、鮨を食べるために人を惹きつけるお店になると感じました。

東京以外の「御当地江戸前鮨」を高度に成り立たせる要因として、僕は、江戸前鮨の確かな技術、郷土性、アレンジのセンスは必須だと考えます。
そして、味覚。
これらの要素をあわせ持つ鮨職人は稀有な才能を持っている方です。
正直なところ、才能の前では知名度など大した意味を持ちえません。
才能というものは、その才能に気づく人と魅力を広げる他者が必須で、人なくして人の才能は開花しないと実感します。
領毛親方がさらに素晴らしい方と出会い、関係性が広がってゆけば、確実に全国区から人が来るだろうと感じた次第です。
現在においてもかつて存在した名店の職人さんの仕事を応用されたり、郷土料理や郷土寿司のエッセンスを江戸前鮨に落とし込まれたりと、素晴らしい試みをされていますので。

領毛親方のシャリは赤酢も用いて酸味を効かせながら、タネを活かす方向性です。
米粒はもっちりした食感で、噛みしめる喜びがあります。
砂糖を用いていないシャリなので、お米の甘味が活きます。
温度はトレンドからすると少し低めですが、むしろ個性となっていて仕事とも合っていると感じました。
お伺いしたところ、コシヒカリを冷蔵庫で一年半寝かせて糖分を落としてから使用し、岩手県の契約農家のササニシキの祖先的な品種(ササシグレでしょうか?)をブレンドされているとの談でした。
鮨の生命線であるシャリに対して真摯に向き合う姿勢を感じます。
そして、お酢については赤酢と米酢のハイブリッドで、醸造蔵は「石川県の蔵のもの2種に京都の蔵のもの2種」との談でした。
静置醗酵を行っている蔵として、今川酢造さんと飯尾醸造さんが頭に浮かびます。
「和香奈」さんのコースについては、11,000円、15,400円、19,800円に分かれています。
僕は追加が前提なので、11,000円のコースを予約しました。
お酒については、地酒を中心に非常に多く揃えておられ、魅力的です。







酒器にもセンスが光り、見どころです。



ジャクジャクと力強い食感のもずくで美味。

なんて魅力的な取り合わせだろうか。

ヤリイカの印籠詰めのアレンジであるばかりか、ホタルイカの肝と、シャリ、タラノメを合わせると言う、これまた魅力的な取り合わせ!ホタルイカの風味とコクを楽しめて、シャリの酸味で後味はスッキリ。酒肴にもなる万能選手だ。

酸味と辛味をバッチリ付けた、口直しとしてのガリだ。薄切りで食感もある。たまにガリをサラダか酒肴のように食べ過ぎる方がいるが、それは無粋というもの。ガリは口直しである。

脂が乗っていて旨い!ぷちりとした食感も魅力。煮キリではなく、地元のお酒である勝駒(清都酒造場)を用いた煎り酒で提供するところも魅力的だ(煎り酒は江戸時代に醤油が誕生する前に使用されていた伝統的な調味料)。タネと調味料に旨味の相乗効果があり、印象的な名刺代わりの一貫目であった。

富山湾の稚鮎!嬉しい出会いだ。木ノ芽を噛ませて提供。上品に〆ていて、香りを上品に楽しませる仕事。木ノ芽も程良い塩梅で調和する。鮎の走りらしい繊細さを表現することに成功している。

標準和名で提供されるとは珍しい。鮨好きなら誰もが知る江戸前鮨の代表選手、墨烏賊だ。軽くぷっちりと切れる食感があり、その後、むちむち感の後にとろとろととろける。あたかも新イカのようなテクスチャーでサプライズがある。墨烏賊はバツバツした食感が実に江戸前鮨的であるが、御当地江戸前鮨でこのようなテクスチャーでの意外性を与える選択は魅力的だと学ばせていただいた。

酒〆。むっちりした食感で、ぷちりと気持ち良く弾け、実に針魚らしい。奥様の故郷が熊本なので、柚子胡椒を噛ませつつ上品に用いるセンスが良い。鮨好きならば、かつて東銀座に存在した名店「すし処とゝや」さんのリスペクトであることが分かる。実際に領毛親方は「すし処とゝや」さんをお好きであったようだ。図らずとも富山県高岡の地で、在りし頃の仕事を楽しませていただいたのは僥倖である。なお、「すし処とゝや」の関根 博 親方からは、江戸前鮨について大切なことを色々と学んだ。例えば江戸前鮨店では「大将」と言う呼称は無粋なので、「親方」と呼んで欲しいということなど。以来、僕は関西以外では「大将」と言う呼称は使っていない。亡き関根親方はじめ、熟練職人さんが教えてくださったことは決して忘れずに僕よりも若い代に伝えていきたい次第だ。閑話休題。

軽い昆布〆を施している。途中ふんわりと昆布の香りが漂いつつ、フィニッシュは白海老の甘味で、昆布の旨味は上品な範疇で広がってゆく。「昆布で〆ました!」とすぐに分からない昆布〆が江戸前鮨においては粋である。富山は郷土料理に昆布〆の魚があるので、繊細な〆加減だと「昆布の香りと味がしない」と言われそうだが、そこは江戸前鮨の職人であれば「私の鮨は江戸前鮨なので」とお伝えいただければよろしいだろう。

氷温寝かせによって魅力的な食感だ。ぷちりと弾けて、とろりととろける良い食感。卵は塩漬けにして、さらに海老味噌を噛ませている。一体感が高く、味覚のコントロールも魅力的だと実感する。

氷見、10キロ。香りも味わいもしっかりとあり、脂の甘味がシャリの酸味と合う。醤油は香ばしく、メイラード反応が強いもの。高岡から南西にある小矢部市の「畑醸造」さんの醤油であるそうだ。調べたところ製麹から自社で行っている醤油蔵であった。

ねっちりしたテクスチャーでコクがある赤身。漬けの塩梅も良く、トロの後に出す必然性を味覚をもって知ることができる。

七尾。甘海老のオボロと塩〆、酢〆のバランスが良い。小鰭の旨味を感じ、その後に酢〆による酸味が広がり、広がりすぎない間合いでオボロの甘味が加わる。しっかり〆て寝かせてオボロを用いる。そして、芝海老ではなく甘海老。江戸前鮨の温故知新と郷土性の表現を成功させている小鰭だ。〆時間は40分~50分と推測したところ、40分であった。寝かせ期間は聞くのを失念したが、3日以上だろうかと。

一週間寝かせつつパツパツした食感があり、力強い脂を楽しませてくれる。さらに、香りもこみ上げてくる。小鰭の後に力強い味わいを仕事で引き出した白身魚を配置する構成も見どころだ。

非常に力強い食感に強い旨味、そして磯の香りと甘味が調和しながら幅広く広がってゆく。実に美味いアオバイガイだ。
なお、アオバイガイは「オオエッチュウバイ」とも呼ばれ、15cm、300gほどにもなる大ぶりなバイガイだ。通常は10cmほどで、水深200m〜500mの海域で漁獲されるところ、「オオエッチュウバイ」は500m~1,000mの海域なのでいただけたのは嬉しい。今までいただいたバイガイの中でも突出して美味しかった。

もっちりとした独特のテクスチャーから脂と香りが広がる。張り付くような舌触りともっちり感で鯵の味を感じやすい。また、香りも良い。大変魅力的な食感を表現する仕事だったのでお伺いしたところ、2日寝かせているそうであった。2日寝かせて柔らかくならない魚のポテンシャルが凄い。

煎り酒を使用。もっちりとした食感で、脂はしっかり乗っている。桜鱒自体が美味しいが、仕事も魅力的で、塩〆の前に砂糖〆を行って、白醤油に漬けている。つまり、脱水して味わいを強めつつ、脂の甘味と調味料の甘味を図る仕事だ。

春バージョンでウルイを使用されている。桜の香りがしっかりと広がる。肉厚なノドグロで、これは嬉しい提供方法だ。白金の「良月」さんとは異なる蒸し寿司の表現を楽しませてくれる。ノドグロの活かし方が良い。ノドグロの蒸し寿司は2022年11月に閉店した金沢の「太平寿し」さんのオマージュとの談。閉店されたベテラン職人の仕事をアレンジして未来に繋げる発想は応援したくなる。

アラ汁。濃密な旨味でネガティブな点はゼロ。コクが強く、ゼラチン質がたっぷりだが、脂は多すぎない濃厚志向のアラ汁だ。

地物。煮てから炙っていて、香ばしい。煮ツメは古典的で素晴らしい。コクとホロ苦さがあり、実に美味い。地物の大ぶりな穴子を江戸前スタイルで魅力的に表現されている。

甘味を上品に付けて醤油も程良い。酢飯の味、特に酸味を楽しませてくれる干瓢だ。

北陸の郷土料理である【鱈の子つけ】をアレンジした仕事。鮃は昆布〆されていて、これが子と合う。実に良い郷土料理アレンジの鮨である!

脂が乗っていて酢飯とバッチリ乳化する!コクがある鰯なので、当たりネギと合う。使用する薬味に味覚的な必然性があるのは良い。テキストどおり、流行りどおりに使用しない制限は自身の仕事を昇華させる。

玉子も抜かりなし。非常にきめ細かい食感で、鮃を使用されているそうだ。卵も良いものを使用されていることが風味でわかる。

お茶の器が僕も大好きな中里太亀さんのもので、しかも持っているタイプで嬉しかった。
「和香奈」さんは、お電話での予約となります。
店名:和香奈(わかな)
予算の目安:おまかせコース11,000円、15,400円、19,800円
TEL:0766-22-3542
住所:富山県高岡市末広町37
最寄駅:高岡駅から500m
営業時間:応相談
定休日:不定休
富山市でお伺いした「鮨 難波」さん

富山湾の恵みに惚れ惚れする、すしログ(@sushilog01)でした。
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