こんにちは、滋賀をこよなく愛する、すしログ(@sushilog01)です。
さて、滋賀県・大津市萱野浦に在る、行楽庵さん。
2017年に訪問して以来、何度かお伺いしている滋賀の名店です。
ご主人の増田 廣行さん(73)が、2021年に「現代の名工」に選出されました。
これには僕も心から嬉しく思いました。
しばらく記事に書いていませんでしたが、これを機に最新の記事を更新します。
なお、「現代の名工」の「技能功績の概要」については、以下の通りです。
氏の卓越した技術が端的に示されるのが、研鑽を重ねた包丁さばきであり、鱧をお造りに仕上げることを可能とする。
また、豊かな感性を駆使した『五味五色五法』を巧みに使いこなした四季折々の料理は、一品が見事に完成するにとどまらず、それぞれが繋がり一つの物語を創り上げる。
この確かな技術に裏打ちされた、想像力と構成力が創り出す料理の見事さから料理雑誌への掲載も多数あり、芸術品ともいえる料理こそが氏の真骨頂である。
現在も自店にて後進の料理人の育成にも取り組む。
すしログ
僕も「芸術品」と言う形容がピッタリな御料理だと思います!
それでいて、創作的な仕事もさらっとやってのける点が行楽庵らしい御料理です。
滋賀県・大津市「行楽庵」の御料理の魅力とは?
「行楽庵」さんは1997年にオープンされた日本料理店です。
ご主人の増田 廣行さんは大阪府出身で、1948年生まれのベテラン料理人です。
京都、滋賀で修業された後、天橋立にある天皇御用達の宿と言われる「玄妙庵」にてキャリアを積まれました。
そして、大阪市北区の老舗料亭である「料亭芝苑」(1953年創業)で、長い間、総料理長を務められました。
ちなみに、「料亭芝苑」は将棋の名勝負の対局場として知られる格式の高い料亭ですが、コロナ禍のあおりをうけて2020年5月25日に閉店してしまいました。
老舗料亭としては珍しく食べログのスコアは3.63あり、ミシュランの一ツ星も獲得していたため、複雑な心境です。
閑話休題。
「行楽庵」の増田さんは後世の育成にも熱心なようで、調理専門学校で講師も務められているそうです。
さらに、古式四条流包丁道の師範でもあるそうなので、お弟子さん達のご活躍も楽しみです。
御料理の魅力を一言で述べると、「守破離を成し遂げた日本料理」。
日本料理の要である、吸い地(出汁)、包丁、季節の表現が高い次元まで突き詰められています。
古典的な調理法や食材を用いつつ、全く古臭くなく、新たな発見の喜びを与えてくれる御料理です。
お店の看板には「椀・向・八寸」と掲げられているので、これだけでテンションが上がります。
日本料理で最も重要なものを突き詰められてきた姿勢が瞬時に分かります。
掲げられたもので最もエキサイティングなものは、八寸です。
伝統、革新、季節の表現が高度に表されていて、日本料理の醍醐味を実感します。
個人的に「日本で五指に入る八寸」だと感じます。
お店はJR瀬田駅から1.8km、石山駅から2.4kmほど離れた場所にあり、琵琶湖に面しています。
近江大橋の南側なので開けてはいませんが、風景が良い事には変わりありません。
離れた場所とは言え、僕は景色も味わうため歩いて伺うことが多いです。
店内はカウンターではなくテーブル席で、気兼ねなく寛げる空間です。
それでは、実際に頂いた御料理の詳細をご紹介します。
「行楽庵」の御料理の詳細
直近で頂いた2022年1月のお昼の御料理と、2017年4月に初訪問した際に頂いた御料理の詳細をご紹介いたします。
2022年1月に訪問した際の記事
2022年1月に訪問した際に頂いた御料理の詳細です。
お昼は5,500円のコース一本です。
夜は11,000円、14,300円、17,600円、22,000円と細かく分けられていて、僕は17,600円でお願いすることが多いです。
しかし、廉価なコースでも十分に楽しませて頂けることが、お昼の訪問で分かりました。
先付
昆布巻き、ごまめ、車海老の黄身寿司、卵黄の味噌漬け、鱧の塩辛。
八寸のように種類が豊富で、お正月を意識した内容になっている。
香りの良い昆布、カリッと食感の良いごまめ、クルミ入りの松風焼き、卵黄の味噌漬け…
【車海老の黄身寿司】は行楽庵さんの八寸で定番と言え、黄身酢が爽やか、実にきめ細かい!
【玉子焼き】も同様にきめ細かい。
そして、器に入っているものは、意外性のある鱧の塩辛!
鱧に鱧の卵をまぶして塩で漬け込んでいて、嬉しい珍味だ。
椀
白味噌椀で、出汁が抜群!
出汁と白味噌の塩梅が良くて媚びたところが全く無い。
心が安らぐ味。
これぞ西の味と言った感だ。
椀種は柔らかく炊いた金時人参、大根、八つ頭と、お餅。
造り
鯛と烏賊。
イワタケが添えられている点が嬉しい。
鯛は脂がたっぷり乗っているので、うっすらと黄色がかっている。
香りも良い。
実に美味しく、旨味も強い。
烏賊にはきめ細かく包丁が入れられていて、技を感じる。
なお、奥にある羽子板のような植物は、信楽焼の山に生えているそうだ。
鶉の小鍋
鶉の丸と鶉の燻製の小鍋。
鶉に加えて、たっぷりの九条ネギが嬉しい。
鶉の丸は、ぷるんぷるんと柔らかい食感。
骨も使用しているが、非常にきめ細かく叩いてるので、柔らかくむっちりしているのだ。
山椒も利かせていて、味わい深い丸である。
燻製は鴨で言うところのロースだろうか。
薫香が付けられていて、もぎゅもぎゅ食感が丸とのコントラストを楽しませる。
出汁も言わずもがな申し分ない。
鰆の味噌漬け焼き
笹には雪化粧が施されている。
良い景色だ。
鰆はしっかりと漬け込む古典的な手法を採っている。
みちっっと凝縮した身は、噛み締めるとむぎゅむぎゅと力強い食感。
添えられているのは、ゆべしとチョロギ。
ゆべしは甘みが控えめで、爽やかな酸味と皮の苦味が嬉しい。
鰆の仕事に合っている。
極めて古典的な仕事であるが、古臭さを感じさせない絶妙な塩梅がある。
子持ちわかめと数の子
子持ち昆布ではなく子持ちわかめだそうだ。
数の子も入っていて、異なる食感を楽しめるのが面白い。
味付けについては上品で、塩気は控えめで、甘みがほのかにあり、酒の香りを付けている。
蓮根蒸し
頂く前から実に香りが良い!
そして、甘い。
百合根、帆立、香ばしい焼き穴子などが入っている。
全て発掘して嬉しい具材たちだ。
山葵が混ぜ山葵なのは不思議だ。
わかめの赤出汁
わかめをとろっと炊いていて美味しい。
ただ、とろっとしつつ、シャッキリ感もわずかに残っているところが非常に魅力的。
香ばしく甘みのある赤味噌もほっこりする味わい。
お食事
鯛めし。
香の物は大根の醤油漬け、京菜の浅漬け、奈良漬け。
見た目からして美味しそう!
海苔、錦糸卵、貝割れに針生姜と、飽きが来ない工夫がされている。
鯛は煎りつけて、ほぐし身をご飯に混ぜている。
塩をきかせた鯛に甘みのある味付けの鯛そぼろが美味しい!
山椒と実山椒も良いアクセント!
個性的で美味なご飯だ。
水菓子
グレープフルーツゼリーとグレープフルーツ果実を使用。
酸味と苦味でスッキリする、爽やかな水菓子だ。
2017年4月に初訪問した際の記事
2017年4月に初訪問した際に頂いた御料理です。
夜のコースは1万円、1.3万円、1.6万円の3つが用意されており、1.6万円のコースをお願いしました。
お酒は滋賀のお酒を2種類頂きました。
北島酒造・近江米のしずく、竹内酒造・明尽。
北島酒造さんは1805年(文化2年)、竹内酒造さんは1872年(明治5年)創業の滋賀を代表する酒蔵です。
美味しいお米、美味しい水が揃った滋賀県は日本酒好きには堪らないエリアの一つですね。
御料理の前に、まずは桜茶。
強い塩気と共に香りをたっぷりと楽しませてくれる。
そして、一献頂き、御料理に。
先付
白魚、山芋、胡麻ペースト。
シンプルな調理ながらに度肝を抜かれた。
山芋に浸透した出汁と胡麻ペーストが調和し、自然への畏敬すら沸いてくる味わい。
鰹節の軽やかな香りが立ち、白魚の淡い苦味がアクセントに。
八寸
一つ一つが強い個性と存在感を放つ、圧巻の芸術的八寸。
あるいは一品一品が笑顔の連鎖を生む八寸だと感じる。
鰻の八幡巻き、蓮根サーモン巻き、玉子焼き、海老の黄身寿司、小芋、海胆帆立、
擬製豆腐、赤こんにゃく、鮒鮓、白魚おかき揚げ、タラの芽炊いたん、若竹の白味噌木ノ芽餡と花山椒、つくし炊いたん、キャヴィアなど。
海老の黄身寿司は淡くサラリと溶ける食感で秀逸。
擬製豆腐は生姜と出汁で固め直したもの。
赤こんにゃくですら美味しい仕事が施されており、ニヤリ。
近江八幡の名物であるが、細やかな包丁を入れて出汁を浸透させ、歯切れも良い。
鰻の八幡巻きは土の香りがダブルで香り、芳醇。
他の料理にも、香りによるアクセントが八寸の小宇宙に光る。
鮒鮓はチーズを混ぜており、酸味とコクが多重化している。
パンには海胆が塗られており面白い。
白魚おかき揚げは徹底的に軽やかな衣。
塩気が強めなので、酒肴として最適。
つくしは非常に若いものを採取し、丁寧に灰汁を抜いている。
あしらいが珍しく、何とこごみの茎。
筍に木ノ芽餡をまぶし、花山椒をあしらった嬉しい一品。
季節、伝統、個性を感じさせる完成度が極めて高い八寸だった。
椀
胡麻豆腐、車海老、わらび、こごみを用いた吉野仕立て。
胡麻豆腐の中から海胆が現れる。
胡麻豆腐はねっちりとした食感で、柔らかく深い甘み。
海胆の甘みと協奏する。
吸い地は強めの鰹出汁だが、とても円やかで、二重奏の甘みや吉野葛のとろみが力強さを打ち消し調和している。
海老に隠し包丁を入れている点も嬉しい。
鯛の造り
鯛は一塩しており、ねっちりした食感に旨味を封印。
塩気の強い〆方だが、付け合わせが梅肉餡と煎り酒なので、爽やかに頂ける。
煎り酒は梅の酸味を押し出した味付け。
旨味的にも香り的にも塩気的にも酒肴になる向付である。
尚、鯛の奥に潜むのは莫大海(ばくだいかい)。
造り
針魚、赤貝、鮪トロ、紋甲烏賊。
ちり酢は辛味が強めで、ネギの香りを利かせている。
先ず驚いたのが紋甲烏賊。
安いと言うイメージが強い烏賊だが、実に甘みが強い。
ねっちりした身を噛み締めると、ひたすらトロトロととろけ、甘みが満ち溢れる。
下手なアオリイカ以上で、驚いた。
包丁も細やかでありながら過剰ではなく、個性を残す技がある。
針魚はプリプリな食感に(〆で)仕上げており、香りと優しい旨味を楽しめる。
煮浸し
青柳、アスパラガス、サヤインゲン、生姜の細切り、椎茸、大根。
青柳は甘みが来た後に香りが漂う。
全体として複合的な甘みと香りの協奏が魅力的!
サヤインゲンの食感がリズムを作り、素材の個性が滲み出た最後のツユがまた美味である。
ホンモロコの木ノ芽醤油焼き
表面はカリッと照り焼きにして、中はしっとり仕上げている。
味付けは甘辛く強めの味付けで、微塵切りの木ノ芽との相性が良い。
ガブリと頭からかじれば、心地良い苦味に包まれ、後に立ち上がる香りが良い。
氷魚とともに、ブラックバスに駆逐され、漁獲量が減っているそうで悲しい限り。
付け合わせは蕗の葉を醤油強めの味付けで炊いたもの。
凛々しいモロコを引き立てる器が余りにも印象的だったので、底面を見たところ、「大明嘉靖年製」の印字。
よって、17世紀末頃の有田の金襴手かと思われる。
鮑の柔らか煮と鯛の白子
正攻法の日本料理が続いた後に、驚くべき変化球。
本当に柔らかく炊いた鮑を、油を引いて焼いている。
ただ、鮑は柔らかいものの、柔らか過ぎず程良い歯応えを残す。
鮑の香りが立ち、濃厚な肝ソースが抜群に旨い。
コースの流れ的に次第に味を強めていき、展開の速さが面白い。
畳み掛けるような力強さを感じさせる。
鯛の白子も火入れが良く、プツッと皮がはちきれた刹那、とろ~りととろけ出る。
マスタードも妙に映える。
穏やかな創作色がサポートに回り、順当にコースを纏めている。
酢のもの
蛸、トリ貝、オクラ。
蛸はさっと茹で、吸盤がコリッコリで快感。
味付けは酢が強めの加減酢でキリッと引き締める。
器が大変良かったので伺ったところ、萩焼との事。
思わず様々な側面から撮影してしまった(笑)
炊き合わせ
なんと桜餅を用いた炊き合わせ!
桜の器から桜の香りが漂い、桜色の桜餅(餡は無し)が現れる。
そして、若竹、蕗と嬉しい春の組み合わせ。
桜餅は米粒がしっかりしつつ、口の中でホロリとほどける。
良い塩梅に挽いた道明寺だ。
よって、炊き合わせに用いても違和感ないし野暮ッたさが無い。
お食事
立て続けになんと(笑)、田楽ご飯!
これは良い。田楽味噌のパンチがありつつ、料理として上品にまとめておられる。
豆腐は歯切れ、口溶けの良い絹ごし豆腐。
ご飯にはわさび菜と蕗が混ぜられており、風味と食感に一捻りがある。
地ものの近江米は非常に小粒で、甘みが強く、粘度は低い。
ざっくばらんなご飯だが、一体感とメリハリがあり、食べる喜びに満ちていた。
水菓子
イチゴゼリーにオレンジのソース。
イチゴがたっぷりで嬉しく、オレンジの酸味も爽やか。
ソースにはコアントローなどの洋酒(リキュール)に加えて、レモンも混ぜられている。
そして、ゼリーは口溶けが良いので伺ったところ、ご主人が探し抜いて見つけたゼラチンを使用しているそう。
水菓子
うすい豆を用いた金団。
うすい豆の香りがしっかり!
お薄
苦味を強調した抹茶がキリッと引き締める。
季節を変えて訪問したくなる、いや、訪問せねば!と感じた次第です。
食べる事が好きな、大切な人と訪問したいお店です。
「行楽庵」のお店情報と予約方法
予約については、お電話のみとなります。
店名:行楽庵(こうらくあん)
予算の目安:お昼5,000円、夜10,000円〜
TEL:077-545-6335
住所:滋賀県大津市萱野浦25-1
最寄駅:瀬田駅から1,700m
営業時間:12:00~13:30(L.O)、18:00~21:00(L.O)
定休日:不定休
※駐車場は、脇道の奥にある「瀬田レイクガレージ」の21番~23番です
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滋賀で精緻な日本料理に惚れ惚れする、すしログ(@sushilog01)でした。
本記事は「日本料理編 No. 78」に最新情報を追加しています。
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