こちらは伝統的な江戸前仕事を独自の解釈で進化させておられる、渡部佳文親方のお店です。
渡部親方は湯島に在る「一心」で修業され、その折に「握りの神様」と呼ばれた加藤博章氏に師事されました。
加藤博章氏は、1866年創業の弁天山美家古の流れを汲む柳橋美家古の親方でしたので、伝授された仕事は正しく江戸前中の江戸前と言えます。
故に、同じく柳橋美家古の仕事を継承する、鶴八のような仕事をイメージしてお伺いしたのですが、実際に頂いた握りはオリジナリティに溢れており、良い意味で期待を裏切られた次第です。
お店は銀座のど真ん中にあり、ビルの3階。
席数は9席と少ないものの、間取りはゆったりと取られており、ゆったり寛げます。
掃除が丁寧に行き届いており、檜のカウンターも清々しい。
渡部親方は年配でありながら生気に満ちており、大きな手と凛々しい顔つきが印象的。
当初は少し怖い方なのかと思いましたが、話すと非常に気さくで、同時に職人気質も強く感じます。
正に鮨職人と言った粋な雰囲気があり、鮨好きとしてはこのような親方と握りを介してやり取りするのが至福の限り。
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銀座わたなべさんの酒肴と握り
白バイ貝
大ぶりな貝から身を取り出して頂いているのが嬉しい心遣い。
真鯛のお造り
愛媛・八幡浜。身を噛みしめると程良い反発があり、皮目から甘みが滲み出てくる。
2kgのものを1日寝かせた程度との事だが、食感、旨味、香りのバランスが絶妙。
親方は熟成には懐疑的で、白身はせいぜい3日だろうと。
正しく同感。
添えられた白胡麻塩との相性も良い。
〆鯖
長崎(五島?)。面白い事に、辛味大根が添えられている。
これが相性抜群で、しっかりと〆て肉厚に切られた鯖に爽やかな印象を付加。
噛みしめると鯖特有の香りが広がるも、瞬時に大根の風味、辛味が覆い、相乗効果を発揮。
鯖の余韻を個性的に楽しませてくれる仕事。
尚、ツマはキュウリの極細切りに大葉を混ぜており、清涼感がある。
鮪トロと芹の胡麻和え
胡麻が濃厚で甘みもあるが、芹の香りと鮪のほのかな酸味が混ざり、トロに加えて赤身も混ぜており、コクがありつつも軽やかな味わいに仕上げている。
なお、酒肴でありながら白身、〆もの、鮪と明確なストーリーがある。
非常に良い流れ。
ナマコと穴子の酢の物
ナマコは能登、穴子は対馬。
穴子の酢の物と、素朴な料理であるが、完成度は高い。
穴子は焼いた後に細切りにしており、穴子自体の甘みが酢の酸味とナマコの食感によってくっきりと際立つ。
蛸の柔らか煮
神奈川・走水。じんわりと旨味や香りが伝わる火入れ。
単体でも美味いが、濃厚な旨味を持つ煮ツメが魅力を増幅する。
マカジキの幽庵焼き
宮城・気仙沼。突きん棒漁との事だが、気仙沼とはビックリ。
突きん棒と言えば、千葉のイメージが強いため。
旨味がしっかりあり、筋や皮の周辺が濃厚な味わいで旨い。
酸味はそれほど強くなく、繊維質はみっちりしつつも硬くなく、火を入れると鮪との違いが歴然となる。
以上、酒肴は7品でした。
握り主体のイメージだったので比較的多めだと感じましたが、
鮨店の酒肴として行き過ぎておらず、個性もあり、印象深い内容でした。
そして、ここから握りに…。
握りの前にタネは室温に十分慣らされておりました。
シャリは古典的な仕事を継承する鮨屋らしくやや柔らかめですが、
口の中でのほどけ加減は絶妙。
握りの技でシャリを活かしております。
きちんと空気を含ませる技があれば、柔らかめであってもパラリとほどけるもの。
温度も良好に保たれており、塩と赤酢のみでバランス良く仕上げている。
穏やかな味付けながらに飽きさせない良いシャリです。
ガリ
甘みがあるが、ストレートな辛味もあり、食感しっかり。
若手職人のガリとは異なりますが、古典を一歩先に進めたガリかと思います。
鯵
鹿児島・串木野。初めて頂く鯵の産地でしたが、出水のものに匹敵する味わい。
走りではあるものの同じ時期の出水と互角に近い。
大葉を噛ませているところが面白く、脂のまろやかな甘みが広がった後にサラッと味を纏める。
アオリイカ
墨烏賊ではなく、ちょっと驚く。
古典を継承するお店では墨烏賊を選ぶ事が一般的であり、アオリイカは初夏のイメージが強いタネなので。
細切りにしており、アオリイカらしいねっとりした食感と甘みを活かす。
カボス、柚子皮を使用し、塩で甘みを強調。
鰯
江戸前。白眉。
しっかりと酢を浸透させ〆、それ故に甘みと香りが突き抜ける。
鰯のマイナスポイントを消し去り美点のみを際立たせた、これぞ江戸前の技!
梅肉餡を添えているところは珍しいが、濃厚な旨味を活かす。
そりゃあ、鰯と梅干の相性の良さは煮物で周知の通りですよね…。
真鯛
お造りが背側だったのに対して、握りは腹側。
背側より強い甘いが走った後、充満する香り、香り!
東京の鮨店で頂いた鯛としては極めて印象的な香りの活かし方。
強い身を噛みしめれば噛みしめる程に魅了されてゆく真鯛。
子持ち槍烏賊
つけ台奥に置いてあり、酒肴で出てこなかったなぁ…と名残惜しく眺めていたところ、まさかの握り。
形状的に結構高度だが、さらりと握られ、柚子皮と柚子胡椒をあしらう。
レアに仕上げたトロトロの卵と身の柔らかさのバランスが素晴らしい。
食感が調和している。
柚子胡椒の使用量も丁度良く、ピリ辛で、香しい。
海老
サイマキ~マキの小さなサイズで、しかも茹で置きだが、甘みは強く、温度も適切に戻されている。
見た目との嬉しいギャップがあり、細やかな仕事を感じさせる海老。
鮪トロ
アイルランド。魚体は200kg。
脂の旨味は濃厚ながらに、後味はさっぱり。
産地に拘泥される方は情報を聞いて下に捉えるかもしれないが、「同時期の大間より確実に上を行く」との談。
確かに、船上で-78℃で急速冷凍された身は手当ての悪い国内産を凌駕する。
蛤
しっとりした柔らかな火入れで、噛みしめるとじゅわっとほどける。
煮蛤が「煮」と言うよりも「漬け込み」である事を実感させる素晴らしき仕事。
煮ツメも旨味がたっぷりで濃厚な味わい。
モダンな洒脱さを纏った古典的な蛤かと私見。
北寄貝
北海道・長万部。
とろとろと柔らかな身を噛むと、青い苦みが来た後に、確かな甘みが広がる。
基本的に、タネを固定するための海苔は好きではないが、極細く切っており邪魔にならず、海苔の香りも合っている。
穴子
皮の活かし方が巧く、とろとろながらに食感もあり、それでいて臭みは皆無。
甘み、香りの引き出し方も秀逸。
マカジキの握りを追加しようとするも、当日はタネが無く断念。
代わりに巻物を追加しました。
干瓢巻き
しっかりした歯ごたえがあり、甘みは割と控え目。
醤油も強すぎるという事が無く山葵との相性が良い。
オボロ巻き
酢飯と頂くと、オボロの海老の風味と、シャリの味わいがくっきり分かる。
椀
青森・小川原湖の蜆。
玉子
芝エビの香りはほのかで、甘みが強くジューシーなところが特徴。
あくまでもシャリと合わせる事を目指されている為、
今や主流となっている「カステラ」玉子とは味わいも食感も異なる。
どちらが好きかは完全に好みだけど、鞍掛の玉子を頂くと何とも安らぐ。
上記、酒肴7品、握り10貫+玉子、椀に巻物を1本分追加し、日本酒は、加賀鳶、貴、石鎚の純米吟醸(2人でシェア)。
トータルで17,250円と言う価格は、場所を考えると非常に良心的です。
そして、何よりも、魚を旨くする江戸前の仕事を満喫出来る点が素晴らしい。
昨今、どうもタネの質を気にされる方が増えているように感じますが、鮨は仕事が奏功して初めて鮨と言えるかと思います。
そのような意味で、若手の職人さんや地方の職人さんにもオススメしたい名店です。
銀座わたなべさんのお店の情報
店名: 銀座 鮨 わたなべ
シャリの特徴:塩と赤酢のみを用いつつ、バランス良好。温度も最適。
予算の目安:15,000円~20,000円
最寄駅:銀座駅から100m
TEL:03-3572-3330
住所:東京都中央区銀座5-6-14 銀座ビルディング3F
営業時間:17:00~23:00
定休日:日曜、祝日
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