こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
さて、今や「流行り」を超えて「一つの型」となった、強い赤酢のシャリ。
ヨコ井(横井醸造)の「與兵衛」をメインに使った酢飯は、強烈なインパクトがあり、ブームを起こしました。
5年以上前は関西で赤酢のシャリと言えば京都の「鮨まつもと」さん(しみづさん出身)などに限られていましたが、今や大阪には数えきれない程のお店が存在します。
今回ご紹介する「はっこく」の佐藤博之親方は、そんな「強い赤酢のシャリ」を流行らせた方の一人だと踏んでいます。
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佐藤博之親方のシャリと「はっこく」の魅力
近年に鮨好きになった方にとって「與兵衛の赤酢のシャリ」は自然なものかもしれませんが、実は比較的最近定着したシャリです。
そして、それを「江戸前鮨原点のシャリ」と紹介するメディア・雑誌がほとんどですが、これは間違いです。
なぜなら江戸前鮨原点のシャリが赤酢である事は間違いありませんが、江戸時代に使用されたお酢はミツカン(中埜)の「山吹」でしたので。
「山吹」が1845年(弘化2年)頃に生み出されたのに対して、横井醸造は1937年(昭和12年)の創業なので、90年以上のタイムラグがあります。
ただ、時は流れ平成・令和の時代になると、横井醸造の流通量がミツカンを圧倒しました(一線を張る江戸前鮨店に限ります)。
今や「與兵衛」を仕入れられない新規店も多数現れ、関東外の新規店には出さないと言われているそうです。
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また、京都の飯尾醸造の赤酢も鮨業界で忘れてはならない存在ですね。
これほどまでに急激な與兵衛の浸透は、やはり「ブーム」が理由だったと言えるでしょう。
そこに「鮨バブル」と言われる鮨の人気高騰が重なり、定着したのだと推察します。
話を本筋に戻すと、與兵衛を使用した強い赤酢のシャリを流行らせた張本人は、佐藤博之親方だと思います。
従来は新橋「しみづ」さんが横井醸造の赤酢を用いて酸味と塩気が強いシャリを切っておられましたが、さらにパンチを強めたのが「鮨とかみ」在籍時代の佐藤親方です。
佐藤親方のシャリは米酢で言うと「青空」さん程のパンチがありましたが、ベテランの鮨好きの心もつかみ、一躍スターダムに躍り出ました。
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赤酢のシャリのお店の増加とインバウンド需要、職人の早期独立によって鮨の人気が高まったと踏んでいます。
ちなみに、お酢にご関心のある方は、下記の記事もご参考にされてください。
「はっこく」の佐藤博之親方とシャリについて
佐藤親方は元々グローバルダイニングが展開する「ZEST」でウェイター、店長として勤務されていた方です。
しかし、ご実家が鮨店だった事も影響して25歳から鮨の道に入り、恵比寿の「秋月」で31歳まで6年間修業されました。
そして、2013年3月、35歳の時に鮪仲卸「やま幸」が経営する「鮨とかみ」の親方に就任。
あっという間に人気店に育てた後、2018年2月に独立され「はっこく」をオープン。
一風変わった店名の由来は、「はっこく=白黒」で、「白黒はっきりつくまでは引き下がらない侍をイメージ」したとのことです。
「はっこく」は今までの鮨店に無いシステムを採用し、斬新な鮨店として脚光を浴びました。
それらについては後ほど詳述します。
まずはシャリの話を。
今回久々に佐藤親方のシャリを頂いた感想としては、「今となれば味わい的にまろやかだ」と感じました。
ご参考までに、「鮨とかみ」時代の感想です。
▲「鮨とかみ」時代の【鮪の突先】、冒頭ではなく最後に出されていた頃
こちらのシャリは圧倒的な個性を持っております。
赤酢をアグレッシヴに用い、砂糖は使わず、酸味と塩気を程良く利かす。
相当強いシャリなのですが、尖った香りや味わいはなく、非常に完成度の高いシャリです。
個性的ながらに好き嫌いが大きく分かれないようなシャリ。
ブログ設立時から記載している最後の店舗情報にあるシャリの項目についても、「赤酢を全面に出したアグレッシヴなシャリ」と述べました。
しかし、現在は酸味のキレはあるが、塩気はイメージよりも控えめで、穏やかだと感じました。
世の中に赤酢のパンチが更に強い鮨店が増えたためですね。
過去も現在も変わらぬ共通項であり美点は「與兵衛」をメインに用いつつ、特有の香りが抑えてある点です。
「與兵衛」は「劇薬」だと考えます。
「與兵衛」に頼り過ぎる職人さん、あるいは「與兵衛」が入手できず他の強い赤酢で「與兵衛」を志向する職人さんは、香りの強さに鈍感になってしまうケースが多々あります。
この点については佐藤親方は前述したミツカンの「山吹」を巧みにブレンドされて抑えられています。
かつて「鮨とかみ」時代はお弟子さんのシャリ交換の精度が低く、温度がちぐはぐだったシャリも、現在は安定しています。
硬さもパラッとほどけるものの決して硬炊き過ぎないので、きっちりお米の甘みを感じます。
そして、上に述べた通り「はっこく」は今までの鮨店に無いシステムで斬新です。
「はっこく」の斬新なシステムについて
例えば、最も分かりやすい点が握りの貫数。
【30貫コース】一本で、酒肴は無いスタイルです。
老若男女問わず30貫と言うのはインパクトがありました。
そして、部屋を3つ設けて、価格も分けた点は既存の鮨業界の常識をブチ破りました。
当初の価格設定
- 親 方:30,000円(税サ別)
- 2番手:25,000円(税サ別)
- 3番手:22,000円(税サ別)
従来は、鮨は「人ではなく店の看板で握るもの」と言う意識が強く、親方だろうが二番手さんだろうが価格は同じなのが当たり前でした。
これは修業が厳しく長いため、漬け場に立った以上、職人はお店を代表する人間であると言う美学があるのだと思います。
属店的な価格設定から、属人的な価格設定に変えた試みは、非常に斬新に映りました。
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ただ、2021年に【25貫コース】に変更され、親方、2番手、3番手問わず全て27,830円(税サ込)に変更されました。
現在の価格設定
- 親 方:27,830円(税サ込)
- 2番手:27,830円(税サ込)
- 3番手:27,830円(税サ込)
また、他には「鮨のグランメゾン」を志向して、ウェイティングスペースを備えているところも凄いです。
「和風な待合」のある鮨店は昔もありましたが、完全にモダンフレンチなどのウェイティングスペースらしい空間が、EVを降りて直ぐの場所にあります。
アプローチなども世界観が統一されており、鮨文化を広げている鮨店である事は間違い無いと感じました。
同時に、佐藤親方は外国人職人さんも積極的に登用(研修)されており、この点は僕が一番素晴らしいと感じているところです。
最も有名な方だとMads Battefeldさん。
デンマークはコペンハーゲンに「Sushi Anaba」をオープンされ、予約困難店となっているそうです(ドイツ在住の鮨好きの方からClubhouseで伺いました)。
世界的に見ると本物の江戸前鮨は認知度が低く、中国人や韓国人、東南アジア人経営の創作寿司店が江戸前を名乗っている事が多々ある現状。
本物の江戸前鮨のお店が日本発で世界に広がるのは、鮨文化の向上においてなすべき事だと思います。
僕も世界規模で鮨の魅力を広げたい、本物の江戸前鮨の味を伝えたいと強く感じます。
佐藤親方はビジネス、営業の手腕にも長けているので、その点はサービスマン出身です。
広尾に2020年7月に「氣志團」公認の「寿志團」をオープンしたり、渋谷に2021年10月に鮪丼のお店「まぐろとシャリ」をオープンしたり、活動の幅を広げています。
佐藤親方は鮨職人であると同時に、サービスマンでありイベンターでもあると感じます。
なにせ今の時代に飲みながら握る職人さんなので。
個人店とは異なる準資本系的な展開で鮨の魅力を広げる姿勢に、今後も目が離せません。
それでは、実際に頂いたおまかせの内容をご紹介します。
「はっこく」のおまかせコースの詳細
以下が今回頂いた【25貫コース】の内容です。
この度頂いたお酒
- みむろ杉 特別純米辛口 露葉風
- 九頭龍 純米
- 播州一献 純米超辛口
- 早瀬浦 特別純米 夜長月
上記の通り1.8Lで2,500円〜2,800円ほどの日本酒が主体の模様です。
4種で4,000円ほどでした。
なお、和らぎ水はレストランでは有料の「アクアパンナ」で驚きました。
ガリ
甘みが極弱く、酸味がキリッと利いていて辛味も引き締めてくれるガリ。
突先
佐藤親方と言えば、な名刺代わりの1貫目。
産地は大間産で、これは流石の味わい。
鮪の脂とシャリの酸味が乳化する。
鮪でシャリの酸味が活きる。
バーニャ・カウダ
握りのみのコースだと思っていたので、結構ビビった。
食べ疲れないための工夫だろう。
鮃
青森産。
食感はむっちむちで力強い。
寝かせない鮃は好印象だ。
春子
鯛は血鯛。
しっとり滑らかな食感で、鯛の繊細な香りを出している。
いくら軍艦
4貫目とは意外なタイミングでの軍艦登場。
旬モノのいくらを早々に楽しませる図らいだろうか。
シャリとの相性が高く、絡まり、濃厚。
秋刀魚
幾何学的な切りつけに、ついつい別の確度からも写真を撮りたくなってしまう。
生姜と浅葱を別々に噛ませている。
包丁はデザインだけでなく食感にも影響していて、トロトロととろけ美味しい。
さらに秋刀魚の香りも楽しめる。
鮨店でもたまに当たる骨はゼロ。
クロムツ
昆布出汁でしゃぶしゃぶにしている。
それによって、身が少し引き締まり、脂も少々落ちている点が良い。
それでいてクロムツの香りは飛んでいない。
ボタンエビ
ボタンエビらしくむちっとした食感もあるが、トロトロ感が非常に強く、寝かせいているのだろうか。
濃密な甘さを堪能させてくれる。
鰆
西京味噌漬けの炙り。
鰆の西京漬けを鮨で表現し、完全に「飲める鮨」の方向性の仕事だ。
西京味噌の香りと甘みを強めに感じる。
そして、漬けなのでねっちりとした食感だ。
シラカワ
白甘鯛の昆布〆。
鄙びた昆布の良い香りがふわっと漂う。
寝かせてダレておらず、ぶちりとした食感である点も魅力だ。
貫数が多いお店で白身が熟成主体だと、食感的にも旨味的にも失速感に繋がるので。
焼き野菜
小蕪とズッキーニ。
繰り返しになるが、握りのみかと思っていたので、シャレオツな野菜が繰り出されて驚く(笑)
鮟肝
安定感抜群な濃厚味。
墨烏賊
これは墨烏賊ながら、ぷにゅぷにゅと柔らかめの食感。
鮪中トロ
酸味と香りが強い中トロ。
やはり、佐藤親方のシャリは鮪向けに設計されている。
鮪大トロ
大トロだが酸味があるため重々しい味ではない。
鮪赤身
漬け。
鮪の血の香りを残す漬けの仕事。
小鰭
大きめの小鰭をみっしり、しっとりに〆ている。
みちみちした身を噛みしめると香りと甘みが引き立つ。
佐藤親方のシャリで柔らかめの小鰭だと、味わい的に空中分解してしまうだろう。
ピーマンと塩昆布の和え物
車海老
車海老はひたすら柔らかく、甘みがあり、臭みは無い。
シャリが崩れそうで不安だったが、これは良い車海老の仕事。
鯵
身はむっちりしていて噛みごたえがあり、脂は時期的に落ち着いて来ている。
タイラギ
甘みよりも香りを感じるタイラギ。
赤貝
中に紐を噛ませている。
初手から香る昆布香は予想通り閖上産。
旨味の強さはまだ「走り」の感だが、いつもながら毎年良いなと思う閖上の「走り」(赤貝の漁期は9月~6月だ)。
鰹
皮目をかなりカリカリに炙っていて、脂が乗った戻り鰹の印象が強化される。
生姜と浅葱を混ぜずに乗せているのは、やはり美しさのためだろうか。
金目鯛
むっちりした食感から、脱水をしっかり掛けているのが推察される金目鯛。
むにゅっとダレたところが無く、噛みしめていると脂がとろりとろりと滲んでゆく。
勿論、佐藤親方のシャリとの相性が良い。
毛蟹
毛蟹を初めてこのスタイルで出しのは「すし通」時代の藤永親方だろうか…
どこでも安定感のある味わいだ。
お店ごとの差を大きく分けるのは使用量だろう。
海胆軍艦
小川の海胆で、トロトロと甘い。
穴子
煮穴子を皮パリパリに焼き上げている。
甘みは穏やか。
新たな仕事を模索されているの分かるところが良い。
椀
玉子
完全にキャラメリゼを行い、デザート志向で作られた玉子。
「はっこく」のお店情報と予約方法
WEB予約については、OMAKASEのみとなります。
「現在の予約受付期間」は「不定期」となっていますが、随時受け付けを行っているようです。
佐藤親方のカウンターは予約難易度が高いので、ちょくちょくチェックすると良いでしょう。
店名:はっこく
シャリの特徴:ヨコ井の與兵衛とミツカンの山吹を効果的にブレンドした強い赤酢のシャリ。
予算の目安:25貫コース27,830円(税サ込)
TEL:03-6280-6555
住所:東京都中央区銀座6-7-6 ラペビル3階
最寄駅:銀座駅から200m
営業時間:17:30~20:30(最終入店)
定休日:日曜、祝日、不定休
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