こちらは鹿児島が誇る唯一無二の鮨店です。
地ものを中心とした近海のタネに江戸前仕事を施した握りは、「地方で鮨を頂く喜び」に満ちております。
さらに、仕事が個性的なだけでなく、圧感のボリュームを誇り、こちらに伺うだけで鹿児島の海の幸を網羅的に楽しむ事が出来ます。
日本酒の品揃えも豊富なので、料理に合わせてお任せ(ペアリング的な)で頂くのがオススメです。
お店の雰囲気は鮨屋っぽくない民芸調の設え、流れる音楽はスティング!
その上、親方のファッションもスタイリッシュ。
麻のシャツにピアスを付けておられ、まるっきり鮨職人とは思えない雰囲気です。
しかし、雰囲気のみならず、仕事と味わいも型破りな点、それこそが野村さんの魅力なのではないかと感じました。
調味料にも気を払い、醤油を自製されている点には驚嘆(煮キリを、ではありません)。
親方の「トーク」が有名なお店ですが、個人的にはトークだけでなく、料理の魅せ方に長けた親方だと、頂いた後に実感しました。
頂いた日本酒
黒龍純吟、清泉純吟、天の戸美稲、麒麟山純辛、真澄、
酔鯨純吟、寒北斗純吟秋限定、船中八策
頂いた酒肴は下記の通りです。
蛸の子
明石市の名産品・海藤花の原料である蛸の子。
卵でも、蛸の香りがしっかりあり美味。
ところてん
静岡産の天草を使用した、瑞々しく食感が抜群に良いところてん。
使用している水も上質な印象。
飛び魚の薩摩揚げと出汁巻き卵
屋久島の飛び魚を使用。ふわふわで甘みたっぷり。
フエダイ
ボディに白い星が入っている、珍しい魚。
九州南部から沖縄にかけて生息している。
11時に神経〆したとの事だが、旨味がたっぷりで非常に佳き味。
カラフルな南方系の魚の中でも屈指の魚味だと感じる。
メイチダイ
フエダイと香りが完全に異なり、食べ比べが面白い。
フエダイに比べて渋めの香り。
柔らかな甘みがあり、旨味はじんわりと広がる。
真蛸
900g。火入れが良く、レア感を残し、香りは芳醇。
コリコリ感と柔らかみを共に楽しめる。
付け合せの調味料によって千変万化するところが面白い。
お酒が進んでしまう!
平政
超濃厚な脂の旨味に強く上質な香りが追いかける。
平政は脂が強いと独特のクセが出るが、皆無で、余韻は圧巻。
縞鯵
一晩寝かせたもの。
こちらも縞鯵としては香りが上品で、旨味も強い。
鯵
根付きの鯵。
鯵らしい香りも当然あるが、まろみがあり豊か。
特製の酢味噌で頂くと、甘みが引き立つ。
こちらの酢味噌は甘みをほとんど付けておらず、キリリと爽やかだ。
お造りの流れも秀逸だと感じる。
ハガツオ
東京では珍しい魚で、今回は東シナ海産。
柔らかな酸味が心地良く、甘みはしっかりしており、じーんわりと舌に広がる。
海胆の茶碗蒸し
唐津産。紛れもなく上質な赤海胆で、溶ける。
そして、香りが広がり、甘みが横溢する。
筋子、烏賊、椎茸に加えてサツマイモが入っているところが鹿児島らしい。
この後、握りに移行します。
こちらのシャリは米の香りが感じられるが、嫌みは無く、米酢のみを使用しつつ、尖ったところが無い。
そのくせ、タネによっては酸味が立ち味覚をサポートする。
塩気は穏やかで、温度がやや高めだが、全体を通して合っている。
かなり小ぶりで、お酒を飲めるシャリ。
アオリイカ
ねっとりとした食感、甘みがシャリに合う。
個人的に鮨はイカで決まると感じているので、シャリとの相性に親方の技術を実感。
鹿児島らしくカボスを使用しているが、イカを邪魔しない。
アカムツ
舌を甘やかすようにとろけ、甘みが強い。
キジハタ
2日寝かせているそうだが、食感を楽しめ、
甘みがグイグイと牽引する。
鰆
16kgの巨体だが、思ったよりも大味でなく、優雅な旨味。
ナミクダヒゲエビ
過去に2度ほどしか頂いた事の無い海老なので、嬉しかった。
伝統的な漁法である「とんとこ漁」によって獲られた深海の海老。
海老の香りがバシッと鼻孔に響き渡り、力強い甘みが魅力。
余韻も長く、強い。
縞鯵の土手っ腹
圧倒的な脂の甘み!
車海老
塩、煮キリの両方で調味するところが斬新。
海老の甘みがたっぷりで笑顔になる。
余韻も強い。
お造りでも感じたが、タネの構成=ストーリー性が非常に良い。
新子
酢は浸透させているが、塩気、〆加減は穏やか。
香りがまず立ち、旨味が広がる。
三枚づけ。
海胆
これまた素晴らしく味わい深い海胆。
問答無用の甘みが席巻し、とろけて消える。
滅菌水で洗っただけで無添加との事。
軍艦にしていない点も良い。
黒鮑
唐津産、400g。
9月中旬だが香りはしっかりあり、ゼラチン質由来の旨味が上質。
食感も良好で、柔らかく仕上げつつ鮑らしさを残している。
蝦蛄
活きたものを茹で上げで提供され、嬉しい。
甘みと香りが心底素晴らしく、繊維のほどけ加減に勢いがある。
茹で上げは茹で置きとは全く違う。
煮ツメ不要の甘みの強さが魅力だ。
蝦蛄の爪
甘み、香りともに強く、印象に残るのが蝦蛄の爪。
筋子
ぷちぷちぷちっ!と弾ける食感は快感の一言。
弾けるやいなや旨味が充満し、それでいて香りが上品、余韻はスッキリ。
ガリ
塩気と酢を利かせ、甘みは無し。
お酒の美味しい鮨店に合う味わい。
ハガツオの土手っ腹
とにかく甘い。旨味たっぷりだが、クドくない。
スマガツオ
脂の質は鮪に近いが。サラッとしており、程良い酸味。
余韻もスッキリしている。
バショウカジキ
秋が旬の鹿児島のカジキ。
マカジキとは全く異なる香りが面白く、脂は程良い。
脂の質に関しては9月下旬以降が真骨頂か。
鮪
鹿児島産、80kg。中トロに近い部位で、脂が結構乗っている。
しかし、鮪特有の酸味も強いところが興味深い。
太刀魚
口に入れた途端、サラッとほどける火入れ。
脂の旨味に加えて固有の香りも楽しめる。
穴子
とろりとタイプの穴子と思いきや、キリリとした繊維が活き活きと跳躍する。
そして、穴子らしい香りが漂う。
これは久々に強い個性を感じさせる穴子の仕事。
自家製醤油、山椒も穴子を盛り上げてくれる。
秋刀魚
まさかの、最後の握りが秋刀魚!
しかも、これが抜群に美味く、「敢えて鹿児島で秋刀魚を使う意義」を感じた。
塩と酢で一分ずつ軽く〆ており、トロトロの脂と豊穣なる香りが堪らない。
ユーモアとともに季節を大切にする親方の心意気を感じさせてくれた。
海胆・筋子丼ぶり
ダメ押しの海胆丼!
海胆と筋子が重なる短い季節だけ頂ける、至福の一杯。
椀
アオサ、微塵切りの山芋、シメジ。
たっぷりの浅葱が爽やか。
キュウリ
農家直送の瑞々しく香りのあるキュウリ。
〆のキュウリは岡山の魚正さんでも頂いたが、癒される。
この度は海胆を沢山出して頂き、素材のクオリティも一級品だったため、お会計は25,000円ほど。
しかし、この内容、お酒の構成を考えると、決して高くはない。
食も飲みも大満足した。
最後に、通常の人にとっては瑣末な事かもしれないが、江戸前らしくお茶は濃い目の粉茶を出している点、水も旨い点などは心から好印象。
「総合力」を感じさせる鹿児島の名店である。
店名:鮨匠のむら(すししょうのむら)
シャリの特徴:米酢のみを使用したオーソドックスタイプかと思いきや、随所でタネとの調和を見せるシャリ。
予算の目安:20,000円~25,000円
最寄駅:天文館通駅から550m
TEL:099-226-1210
住所:鹿児島県鹿児島市松原町6-2 松原ハイツ1F
営業時間:応相談、予約次第で昼も可能
定休日:予約の無い日(笑)