こんにちは、食と旅が大好きな、すしログ(@sushilog01)です。
この度ご紹介するお店は、魚介類が登場しませんし、和食でもありません。
しかし、志が高く、今後の多大なポテンシャルを秘めたお店なので、執筆を決意しました。
使用している食材は、昆虫。
そう、虫です。
「昆虫食」と聞くと、ゲテモノや罰ゲームのようなものが頭に浮かぶかもしれません。
しかし、世界を旅してきた自分としては、昆虫食を「ネタ」として扱ってきたメディアに違和感を感じていました。
もちろんあらゆる食材は人によって得手不得手があるので、嫌ならば仕方ありません。
ただ、命ある虫を「ネタ」として扱うのは、正に「一寸の虫にも五分の魂」を軽んじる愚行であり、人のエゴに過ぎないと感じる次第です。
のっけから真面目なトーンになりましたが、この記事で僕が言いたいのは、昆虫食にはポテンシャルがあると言うことです。
馬喰町にある「ANTCICADA(アントシカダ)」さんは、昆虫を魅力的に料理に昇華され、人の意識を変える気鋭のお店です。
昆虫だけでなく、未利用魚※も使用しており、サステイナビリティの高いコースを作られています。
※漁獲量が中途半端なため市場に流通しない魚、美味しくとも知名度が低いため流通に乗らない魚
すしログ
僕は学生の頃から「食材に貴賎は無い、あるのは美味いか不味いかだ」と考えて生きていますが、ANTCICADAさんのお料理は「美味しい」です。
かのジャン=アンリ・ファーブル博士のように、好奇心で探求しましょう!
タップできる目次
ANTCICADA(アントシカダ)の魅力と料理の特徴とは?
ANTCICADA(アントシカダ)は、2020年6月4日にオープンした気鋭のレストランです。
6月4日?
昆虫食のレストランで「むしの日」にオープンとはユーモアがありますね(笑)
使用する食材の性質上、オープン時には食好きの間で騒然となりました。
ランチには入門編となる【コオロギラーメン】を出されていると聞いて、まずはそちらを頂こうと思っていましたが、機会を作れずにいました。
そして期せずして今回、ある信頼する食好きの方に誘って頂き、フルコースでの訪問を果たしました。
フルコースの内容
- ようこそ〜スナック / コオロギビール
- 冒険のエントランス〜蜂の前蛹,発酵冬瓜,ふきのとう / 上川大雪 つけたろう酒店
- クレープ〜コオロギ麺,ビスタチオ,タガメ / 大治郎 吟吹雪 純米生
- 草陰〜いなご,カリフラワー,春菊の泡 / YASO GIN TONIC
- セミの気持ち
- 鯰,ルタバガ,ハーブたち / ウッドフォードリザーブ ほうじ茶割
- 猪,人参,蚕沙 / カンティーナ・マルゴ ティニャモンテSASHIMA TEA H2
- コオロギラーメン / WAKAZE 蛋沙どぶろく生
- フェモラータオオモモブトハムシ
- 栗好きの仲間たち〜モミ,チョコ,クリシギゾウムシ / カモミール,エルダーフラワー
スラッシュの後は、ペアリングのドリンクです。
御料理の魅力は、以下のとおりです。
お料理の魅力と昆虫食のネガティブな要素
御料理の魅力について、個条書きします。
- 美しい見た目
- 食感の再構築
- 昆虫の旨味の活用
- 発酵の技を駆使
- 極めて個性的なマリアージュ
これらは、僕が考えている「昆虫食のネガティブな要素」の逆を行きます。
「昆虫食のネガティブな要素」
- 見た目
- 食感
- 臭い
日本だけでなく世界でも昆虫食に触れてきた自分でも、以上の要素はネガティブに感じます。
ハッキリさせるため、具体的に述べます。
まず、見た目。
見た目が昆虫そのものだと、「食材」として見なす事が出来ず、文化的なブロックが掛かります。
あらゆる食材は文化的なコンテクストの中で「普通」か「普通でない」か自動認識されます。
例えば、日本人なら苦手な人が少ないタコやエビなどは好例で、忌避する国も多々あります。
鮨(生魚)だって、一般的なアメリカ人や中国人にとっては忌避する料理です。
食材が文化的なコンテクストから離れるためには、まず見た目が「アレンジ」される必要があります。
そして、食感。
多くの昆虫料理で使われる節足動物は、節や殻が食感を損ねます。
世界で幅広く食べられている幼虫も、表面の舌触りや独特の弾力的食感が感覚的に嫌がられるところ。
これらはタイ北部イサーンで実感し、「食感の再構築」は必須だと感じています。
例えば、多くの節足動物は、殻ごと食べると殻や脚の食感が「いかにもな虫」を想起させます。
故に、使用する部位を選択したり、調理によって食感(と見た目)を変化させる必要があります。
刻む、高温で揚げる、擂るなどの調理法が有効です。
最後に、臭い。
虫は生活圏が家畜とも魚介類とも異なるので、独特の臭いをまとうことがあります。
また、フェロモンを発するため、タガメのような良い香りの虫以外は、「香り」ではなく「臭い」として認識されます。
これが、幼少の頃に昆虫採集をしたことのある人には「いかにもな虫」を想起させ、虫に馴染みが無い人には違和感として認識されます。
よって、魚のトリメチルアミンのように意識的に対処する必要があります。
ANTCICADAはこれらを巧みに回避して、紛れも無い料理として構築しています。
そして、御料理を頂き、上記のネガティブな要素は、何も虫に限ったことではなく他の食材であっても同じだと実感しました。
そのまま食べて美味しい食材は意外にも少なく、調理を施すことで美味しくなるのだと。
まさに料理は「理を料る」行為。
「虫を食材として許容できるかどうか?」については、文化的な許容性が多分に重要である、と学びました。
好奇心が強く、自文化の文脈を逸脱できる人ならば、ANTCICADAの御料理は最適と言えます。
ANTCICADAのメンバー
そして、ANTCICADAを率いる面々は、1992年~1995年生まれとお若く、才気あふれる面々です。
- 篠原祐太さん:慶應義塾大学卒。昆虫食歴23年。狩猟免許や森林ガイド資格保持
- 山口歩夢さん:東京農業大学大学院卒。醸造学修士。フォーブス「30 UNDER 30 JAPAN」
- 豊永裕美さん:東京農業大学卒。虫取りを新たな産業にする事を目標としている
- 白鳥翔大さん:服部栄養専門学校卒。「L’Effervescence」で6年、デンマーク「manfreds」「relae」「koks」で修業
結果として、食材として使用するだけでなく、虫を発酵させて醤油などの調味料造りまで成功されています。
魚介料理の専門店でも魚醤を造るお店は稀有。
世間的にイレギュラーと思われる食材だからこそ、調味料まで自作される姿勢には感銘を覚えました。
もちろん虫由来の調味料なので料理との相性は抜群で、それが高度に結実しているのがコオロギ醤油を使用している【コオロギラーメン】でしょう。
最後に、着目すべきは山口歩夢さんの手と舌による、個性的なマリアージュです。
山口歩夢さんは全国から注目を集める醸造家。
「Forbes 30 Under 30」でフード部門に選出された方で、26歳の現時点で既に幾つものプロジェクトを成功させています。
ANTCICADAではドリンクの味覚調整を行っておられ、他の方には出来ないマリアージュを実現しています。
では、実際に頂いた御料理をご紹介します。
ANTCICADA(アントシカダ)のコースの詳細
ANTCICADAのコースは6,400円で、ペアリングが3,600円です。
マーケットが限定されるジャンルであるのにリーズナブルな点は非常に好感を持てます。
世間に広めようという意思を感じる。
ちなみに、使用されている国産コオロギは仕入れ値がキロ1万を超えるそうなので、高級魚と同じくらいの原価です。
使用量こそ魚とは異なりますが、仕入れ値を聞いて純粋に驚きました。
コース料理は完全予約制となり、金曜と土曜のみ提供されています。
日曜には予約不要の【コオロギラーメン】を出されていて、こちらは見た事がある人も多いはずです。
フルコースに自信がない人は、【コオロギラーメン】から試してみてください!
フルコースの内容
- ようこそ〜スナック / コオロギビール
- 冒険のエントランス〜蜂の前蛹,発酵冬瓜,ふきのとう / 上川大雪 つけたろう酒店
- クレープ〜コオロギ麺,ビスタチオ,タガメ / 大治郎 吟吹雪 純米生
- 草陰〜いなご,カリフラワー,春菊の泡 / YASO GIN TONIC
- セミの気持ち
- 鯰,ルタバガ,ハーブたち / ウッドフォードリザーブ ほうじ茶割
- 猪,人参,蚕沙 / カンティーナ・マルゴ ティニャモンテSASHIMA TEA H2
- コオロギラーメン / WAKAZE 蛋沙どぶろく生
- フェモラータオオモモブトハムシ
- 栗好きの仲間たち〜モミ,チョコ,クリシギゾウムシ / カモミール,エルダーフラワー
お冷はフリーフローで、良心的。
バタフライピー入りの氷なので、次第に青く色を変える。
ようこそ〜スナック / コオロギビール
コオロギ出汁のチップス。
ラーメンの出汁を固めて揚げているそうで、100%コオロギ。
しかも、3種類ブレンド!
産地は、徳島と埼玉のフタコシコオロギ、福島のヨーロッパイエコオロギとの事だ。
ブレンドする理由は、エサで味が変わるためだそうだ。
チップスは、頂く前から食欲をそそる香り。
頂いてみると、実に旨い!
喉で旨味を感じる事も出来て、これは完成度の高いコオロギチップスだ。
コオロギチップスは市販品もあるが、レストランのレヴェルで表現されている。
極軽い酸味を感じたので、調味料を伺ったところ、発酵マッシュルームと唐辛子を少々使用されていた。
合わせるのはコオロギビールのスタウト。
ビールの方はコオロギの何たるかが分からなかったが、チップスとの相性は良好である。
冒険のエントランス〜蜂の前蛹,発酵冬瓜,ふきのとう / 上川大雪 つけたろう酒店
発酵冬瓜の出汁に、スズメバチ、ハナビラタケ、ピンクペッパー、ふきのとう。
酸味と旨味があり、香りが複雑に絡むスープ。
スズメバチはむっちりしていて、食感が良い。
噛み締めると軽くとろっとして、旨味が滲む。
使用している油はヘーゼルナッツオイル。
クレープ〜コオロギ麺,ビスタチオ,タガメ / 大治郎 吟吹雪 純米生
オスのタガメ、コオロギを練り込んだ麺用の生地のクレープ
使用しているのはタガメ。
タガメは柑橘的な香りのフェロモンを出すことで有名だが、この度頂いた香りは、青リンゴのようだ。
クリームにフェロモンを含む身の部分を混ぜ込んでいる。
青リンゴのような香りが菜の花の苦味を合わさり、独特の味わいを楽しませてくれる。
甘みの付け方が良く、力強い日本酒と合わせる。
合わせるお酒は、精米歩合60%で、米の甘みがどっしりと存在する日本酒。
苦味こそ軽いが、根底に頼れる感じが常にあるお酒であった。
草陰〜いなご,カリフラワー,春菊の泡 / YASO GIN TONIC
イナゴのいる草むらをイメージした御料理。
これは参加者が満場一致で「純粋に美味しい」と感じた。
ビーツ、イナゴ、大麦、春菊の泡。
春菊の泡はイナゴの見た目をマスキングする役割もあるが、香りが実に爽やかだ。
イナゴはイナゴを発酵させて造ったイナゴ醤で味付けした上で揚げている。
食感も香りも良い。
オオムギのむっちりした食感が素朴なアクセントになる。
イナゴ醤はイナゴに米麹、塩と水のみで発酵させ、2年熟成させている。
80種類もの薬草を発酵させて造るクラフトジン、YASO GINトニックとの相性が抜群。
複雑な香りが草むらの景色に奥行きを与える。
セミの気持ち
これはインターミッション的な箸休め。
ストローでシロップをすすり、セミの気分になる趣向だ。
シロップが入っていない外れの穴があるところが泣かせる。
器はもちろん、特注品だ。
シロップの味はマスカットにゴマのブレンドに、キャベツと2種類。
正答率は4%と5%だそうだ。
鯰,ルタバガ,ハーブたち / ウッドフォードリザーブ ほうじ茶割
アメリカナマズ、ルタバガソース。
アメリカナマズは霞ヶ浦に移送して、餌をあげて半養殖的に育てたもの。
臭みは全く無く、美味しい。
淡白な味わいの身に、ルタバガのソースが相性良い。
甘みと酸味があるソースで、どことなくケチャップ的なニュアンスもある。
多用なハーブによって一口一口異なる香りなところが面白い。
バーボンの苦みと香りがソースに合う。
しかし、アメリカナマズにバーボン(アメリカ由来のウィスキー)とは、ユーモアがある。
猪,人参,蚕沙 / カンティーナ・マルゴ ティニャモンテSASHIMA TEA H2
ふとももの肉を一ヶ月寝かせて使用。
人参ソース、玉ねぎピクルス、蚕沙(カイコの糞)のスープとともに。
これのみ疑問符が浮かび、構成としてちぐはぐな印象を受ける。
コースの流れ的に、低温調理寄りのロースト(?)よりも、グリルなどでタンパク質を引き締めたテクスチャーを打ち出した方が良い気がする。
それでいて、玉ねぎのピクルスは塊で荒々しく、くにゅっと柔らかなイノシシに対して粗野な存在だ。
また、ソースの量が多いが、旨味を凝縮した少量のソースの方が印象深い。
あるいは、塩と蚕沙でも良いのではないか…
幸いにも次の【コオロギラーメン】がリカバリーしてくれたが、コース料理のメイン、特に肉は重要だと再認識。
…まさか、虫の御料理ではなく肉料理に対して疑問を感じるとは(笑)
コオロギラーメン / WAKAZE 蛋沙どぶろく生
この度はスペシャルなコオロギラーメン。
通常は昆布と椎茸を10%程度ブレンドするそうだが、今回は100%コオロギ出汁の特別版を頂いた。
甲殻類を思わせる香りに強い旨味が印象深い。
他の出汁も同じであるが、独特の香りはハマる人がいてもおかしくない。
出汁は旨味だけでなく香りも重要なのだと実感する。
少量使用された柚子の香りとも相性が良い。
麺は細麺で、もっちりしつつ、もぎゅっと食感があり美味しい。
クレープの箇所で記載した通り、麺にもコオロギを使用。
そして、タレにはコオロギ醤油を、油はコオロギ香味油を使用するなど、微塵の隙間もないほど徹底している。
使用しているコオロギは、一杯に対して約110匹!
貸切で1,500匹近くものコオロギを使用したそうだ…圧巻。
トッピングのコオロギはコース内で珍しくそのままの見た目だが、コースを通して慣れてきた人には、むしろ「真打ち登場!」と言った印象になるだろう。
味わいとしても秀逸で、端的に美味である。
食感が良く、香ばしい。
合わせるのは、蚕沙(カイコの糞)を用いたどぶろく!
「カイコの糞」とはインパクトが絶大であるが、冷静に考えると、植物性のエサしか食べないカイコの糞は汚くない。
実際に香りが良く、エサの香りをそのまま凝縮したかのよう。
結果的に爽やかな風味のどぶろくに仕上げられている。
フェモラータオオモモブトハムシ
フェモラータオオモモブトハムシは森枝シェフ在籍時のサーモンアンドトラウトで頂いたことがある。
茹でて3~4日ほど冷蔵庫で寝かせると杏仁豆腐みたいな香りになるのが不思議だ。
杏のシロップと合わせる。
ぷちりの弾けた後に、杏仁豆腐香が広がる。
栗好きの仲間たち〜モミ,チョコ,クリシギゾウムシ / カモミール,エルダーフラワー
アイスに、もみの木などで作ったゼリーを添えて。
クリシギゾウムシはリキュールに漬けて、レーズンぽく仕上げている。
プチプチと弾け、気持ち良い食感だ。
ANTCICADA(アントシカダ)の立地と雰囲気
お店は幾つかの駅から歩ける立地にあります。
最寄り駅は馬喰町、浅草橋で、秋葉原、岩本町からも歩けます。
外観は分かりづらく、「A」の文字看板が目印です。
レストランのように洒落たアプローチですが、店内も同様です。
いかにもイノベーティブレストランと言った期待を高めてくれる内装です。
しかし、段ボールで自作されたとのことで、温かみもある空間です。
テーブルセッティングも自然を感じさせつつアーティスティック。
随所に洗練が見られ、「昆虫食」と聞いて連れられてきた人でも、安心して寛げることでしょう。
ANTCICADA(アントシカダ)のお店情報と予約方法
予約はWEB予約のみのようで、ホットペッパーに対応されています。
店名:ANTCICADA(アントシカダ)
予算の目安:コース6,400円、ペアリング3,600円、コオロギラーメン1,000円
TEL:非公開
住所:東京都中央区日本橋馬喰町2-4-6 ログズビル 1F
最寄駅:大塚駅から400m
営業時間:金17:30~、土12:00〜、17:30〜、日(コオロギラーメン)11:00〜15:00、17:00〜20:00
定休日:月曜〜木曜
エキサイティングな御料理に興奮冷めやらぬ、すしログ(@sushilog01)でした。
本記事のリンクには広告がふくまれています。