こちらはかつて紀尾井町にあり、予約困難と謳われた鮨店。
2011年に当地に移転されたとの事。
赤坂御用地に隣接する場所にあり、駅からはやや離れているものの、静謐な立地は道すがら期待を高めます。
暖簾をくぐり、お店に入ると、六席ほどの待合があります。
予約時間になると女将さんが笑顔で案内してくれ、奥に進むとキリッと美しいカウンターが目に入る。
カウンター周りは明るく、天井や小壁には影が降り、陰影のコントラストが妙に心を落ち着けます。
お店に漂う香りは、非常に香しい。
酢と米の匂いが絶妙に交じり合っておりますが、鮨店の中でもかなり良い香りのお店です。
鮨店では、香りも重要な要素。
お酒は奈良の春鹿を頼み、握りのみお好みで頂く事にしました。
一貫目の真子鰈を頂き、こちらのシャリと握りの完成度に驚嘆を覚えます。
温度が申し分なく、口の中のほどけ具合も絶妙です。
酢、塩ともに控えめなのに、非常に印象深く美味しいシャリ。
甘みは排除されておりますが、尖ったところは無く、上品でありながら存在感のある、かなり秀逸なシャリです。
白身に始まり、〆もの、貝、鮪、煮物と頂きましたが、全てのタネにシャリが合致しておりました。
タネとの調和性の高いシャリとしては福元以来の満足度です。
個人的には、シャリの「味わい」としてはイーブンですが、
シャリの「美味しさ」ではこちらに軍配。
話に聞く「沈むシャリ」は内包する空気によってシャリの味を高みに上げる。
ご主人の握りは無駄が無く、骨太な掌と指を優しく駆使した、的確な小手返しです。
ご主人の職人気質な雰囲気と無骨な外見とは裏腹な、柔らかで、優しい握り。
しかし、手元への目付きは鋭く真摯で、シャリに魂と気合を込めているかのようです。
ガリは程よい塩気に鮮烈な辛味で、食感強め。
美しく薄切りにされており、これを見ただけでも包丁の技術を窺い知れます。
接客に関しては、よく言われる「素っ気なさ」が確かに存在します。
しかし、僕は昨今では稀有な「職人気質」だと感じ、非常に格好良く感じました。
カウンターを挟んでの対峙。
向こうが手で魂を込めた握りを、こちらは口で吟味する。
職人さんから「どうだ」と付きつけられた刃を受けるような感覚は、今や鮨店では味わいにくい心地良い緊張感だと思います。
それでいて、よくよく見ると、ご主人は口元に笑みをたたえておられ、目元にも笑みも浮かべておられるのが印象的でした。
お会計は12貫と干瓢巻き(と日本酒一合)で、1万5千円を切るほど。
単価としては銀座並ですが、握りの完成度を考慮すると、「良心的」だと感じます。
お任せしかない飲み鮨店が主流になっている中で、お好みで頂けて、良心的な会計の鮨店は非常にありがたい。
頂いた握りは下記の通りです。
特に〆の仕事に感銘を覚えました。
真子鰈
昆布の旨味をしっかり乗せた〆方。
昆布の香りは余り無い。食感が程よい。
白烏賊
繊細な包丁。
細切りにしつつ、烏賊の食感を楽しませる。
春子
やや強めに〆つつ旨味と香りを立てる。
皮目が美味。
小鰭
こちらもやや強めの〆だが、皮の食感は活かしている。
時期的に旨味は少し弱いが、シャリとの相性が抜群。
仕事とシャリが奏功。
ミル貝
甘く柔らかい。包丁に妙有り。
青柳
香りは上品で、甘い。
一般的な青柳のイメージを裏切る。
鮪漬け
軽やかな食感。
しっかりと漬けているものの、辛すぎない。
鮪中トロ
上品な甘みを楽しませる。
赤貝
大ぶりながら野暮ったさは無い。
穴子
細身だが、香りを中々上手く引き出している。
旬に頂いてみたい。
蛤
しっかりとした火入れ。
噛みしめると旨味が滲み、ツメが美味。
玉子
薄切りで、おぼろを挟む。
ふんわりとした柔らかな甘み。
干瓢巻き
食感、歯切れ良好。
甘みは控えめで、程よい醤油。山葵と合う。
シャリの美味しさを感じさせる干瓢の仕上げだった。
こちらのシャリは当世流行のシャリに比べると、薄味かもしれません。
酢を立たせ、塩を強め、エッジを利かせたシャリは僕も好きです。
しかし、全てのタネを活かすシャリと言うのは、極めて珍しい。
店名:鮨 はしぐち
シャリの特長:タネとの調和が素晴らしい、バランスに長けたシャリ。温度、硬さも申し分なし。
予算の目安:夜15,000円〜
最寄り駅:赤坂見附駅から443m
TEL: 03-3478-3588
住所: 東京都港区元赤坂1-5-20
営業時間:18:00〜22:00
定休日:日曜、祝日
本記事のリンクには広告がふくまれています。