こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
京都市内から120km離れている京丹後にあって、全国から食通を集める名店、縄屋さん。
僕は2015年4月に初めて伺った時に魅了され、5回ほど足を運んでいます。
縄屋さんはコロナ下の2020年7月にリニューアルを行われ、「薪料理の日本料理店」に生まれ変わりました。
すしログ
早速9月に東京から車で訪問しようと計画したところ、指を大ケガ(屈筋腱と神経の断裂)してしまった為、断念…
この度、リハビリが奏功しているため悲願の訪問を達成しました!
結論としては、内容が以前からガラリと変わっていて、意表を突かれました。
この度、初回訪問時の記事(日本料理編No. 4)をリライトしつつ、過去と現在を綴りたいと思います。
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魚菜料理 縄屋とは? 吉岡幸宣さんの魅力
縄屋さんのある京丹後は上述の通り京都市内から120km離れていて、車で2時間、電車で3時間半の場所です。
ご主人の吉岡幸宣さんは仕出し業を営むご家庭に生まれ、大阪と京都で修業されました。
名店「和久傳(わくでん)」で6年間腕を磨かれた後、地元の京丹後に「魚菜(さかな)料理 縄屋」を2006年にオープン。
つまり、僕が初めてお伺いした時で既に9年が経過していたわけですが、足を運ぶ度に良い意味で期待を裏切られるので、毎回惚れ直します。
ただ、今回は仕事の精度だけでなくスタイルも変えられていたので、好きになる前にちょっとした戸惑いを感じました。
しかし、帰りの車中で反芻する内に矢張り好きになっている自分を見つけました。
吉岡さんの御料理は、もともと派手でも豪華でもありません。
しかし、美しく、どんな派手な料理よりも印象深い。
食材の持ち味を引き出しながら、他の料理人が出せない風味の組み合わせや食感を生み出す御料理です。
主な調理の特徴としては、極めて独自性の高い火入れや野菜出汁の使用、食材の食感の工夫など。
そして、自家製の調味料を組み合わせることで、唯一無二の御料理とコースが編み出されます。
縄屋さんの御料理は、東京で主流の日本料理とは真逆であり、高級食材を多用しなくても成立しています。
むしろ、それ以上の魅力を与えてくれる御料理で、心と胃袋に染み渡るとともに、土地の魅力を伝えてくれます。
東京で主流の日本料理のような、牛肉に海胆、卵料理や椀ものにトリュフ、蟹や帆立にキャヴィアと言った組み合わせは、分かりやすい足し算でしかありません。
甘みや脂分の掛け算や、香りのドーピングを使えば、誰しもが「旨い」と錯覚する「濃厚な味・香り」になります。
しかし、料理としての奥行きは浅い。
結果的に、そのような料理は料理人の調理哲学が浅薄である事を露呈します。
反対に、吉岡さんの御料理は、使用する食材の一番の美点に着目し、その美点を引き立てるために味、食感、香りを組み立てられています。
創作性が高いのに抑制されていて、抜群のバランス感覚です。
個人的に、このような引き算の美学を敷衍した御料理こそが、最先端の日本料理なのではないか?と感じます。
西洋料理は足し算を行う料理なので、西洋的なモダンガストロノミーを採り入れる日本料理だけを「最先端」と礼賛する行為は、日本料理の本質を見逃す浅い分析なのではないでしょうか。
縄屋さんのスペシャリテと薪火日本料理店としての今後
初めてお伺いした時から今までスペシャリテであり続ける御料理は【こなれ鮓(ずし)】です。
これは発酵させていない酢飯をお粥状にしたもの。
魚に添えられるソース的な存在で、穏やかな酸味、お米の甘みと香りが魚を引き立ててくれます。
鮨職人でない人間が鮨を握るのは、はばかられる…と言うお気持ちから生まれたそうです。
以前「試行錯誤して生み出した」と仰っておりましたが、その甲斐あって、一見すると素朴ながら一口で記憶に残る味わいの新たなスシに昇華されています。
【こなれ鮓(ずし)】の発想自体がユニークであるだけでなく、魚の魅力も巧みであるからこそ美味しいスペシャリテ。
見た目は握り鮨ではありませんが、握り鮨も酢飯と魚の仕事が調和して完成形となるので、料理の設計自体は握り鮨と同様です。
そして、もう一つ着目すべきは、魚の火入れです。
吉岡さんのそれは「火入れが巧み」と言うレヴェルではなく、もはや「独自の火入れ」です。
日本料理の若狭焼、中国料理の脆皮のような「皮のパリパリ食感としっとりした身のコントラスト」に留まらず、身にも食感のグラデーションがあります。
その結果、一皿で食感の多様性と火入れの違いによる味の変化を度々楽しませてくれます。
中心部はレアに仕上げられ、食感は艶かしくも旨味が活性化されていて、調理技術で新しい料理を生み出されている事に驚嘆します。
新たに薪料理のお店に改装すると伺った時は、真っ先にこの魚の火入れが浮かびました。
以前はスチームコンベクションオーブン(ラショナル製)と炭火による火入れでしたが、薪火でどう変わるのか?
大変興味深く訪問したところ、更に堂に入っていました。
スチコンを使用されているかは伺いませんでしたが、かつての火入れと酷似しているので、恐らく使用されているのだと思います。
さて、改装後のお店はオープンキッチンのカウンター中心で、奥に薪が燃えています。
以前の奥まった個室風のカウンター席とは趣が異なり、開放感がアップしました。
「薪料理」と聞くと、スペインのアサドール・エチェバリ、日本だと神戸のbb9(ベベック)が頭に浮かびます。
しかし、日本料理で薪火とは、非常に珍しい。
その理由は、伝統的な炭火の方が火力が高いところで安定するためでしょう。
吉岡さんが薪火を用いてどのような表現をされるのか…
今後も目が離せない京丹後の名店だと再認識しました。
縄屋さんのコースの詳細
コース価格については現在、6,000円と12,000円の2本になっています(+税サ)。
野菜は自家菜園と地元の有機農家のものを使用し、魚は京丹後の地魚と全国の名生産者(逗子の長谷川大樹さんなど)から仕入れておられます。
調味料は京丹後のものを多用され、お酢については宮津の飯尾醸造さんのものです。
薪火日本料理店になって初めての訪問(2021年2月に頂いた御料理)
薪火日本料理店となって初めての訪問は、以下の内容でした。12,000円のコースです。
- 最初の火で炊いたご飯
- 海鼠の茶碗蒸し
- お造り:ヒラメ、鯵、甘海老
- 椀:鮑、蕗の薹餅、菜の花、白味噌仕立て
- 九絵(クエ)の焼きもの
- 鰯のこなれ鮓
- 猪の背脂、自家菜園の野菜の薪火焼き
- 猪の赤身、きんぴらゴボウのソース
- 黒大豆と毛蟹のお粥
- 黒文字のアイス、焼き芋ソース
紅芋酢ソーダ250円
飯尾醸造さんの紅芋酢を用いたソーダ。
最初の火で炊いたご飯
お米と水の美味しさを伝えてくれる一品目でスタート。
海鼠の茶碗蒸し
京丹後で旬の海鼠(ナマコ)を用いた茶碗蒸し。
これが感動的な味わい。
海鼠は非常に柔らかく、トゥルン!と舌の上で踊り、ぷちりと千切れる。
磯らしい海鼠の香りを楽しませながら。
卵の香りも強く、滑らかで一体感の高い茶碗蒸し。
お造り
ヒラメ、鯵、甘海老の3種類で、全て調理を施したもの(生のままでない)。
ヒラメには海鼠から出た海水を煮詰めた塩を振り、鯵は山桜の葉で和えて、甘海老は海老味噌で和えて丸大根で挟みスイバをあしらっている。
ヒラメは寝かせてむっちり、ねっちりした食感で、ヒラメの旨味から顔を覗かせる海鼠のかすかな香りが印象深い。
鯵には桜の香りが軽やかに移り、実に心地良い。
甘海老は甘みと食感を楽しませつつ、スイバの香りが味を引き締める。
全て仕事を施した刺身である点が、縄屋さんの魅力。
椀
鮑、蕗の薹餅、菜の花、白味噌仕立て。
鮑は薄い衣を付けて揚げて、提供前に薪火で炙る調理。
蕗の薹餅は香りと苦味が白味噌にピッタリ!
九絵(クエ)の焼きもの
クエ出汁のソースと黒大根、付け合せはほうれん草。
これは前述の通りの吉岡さん流の火入れだが、流石!
皮はバリバリで香ばしいが、身の中心をレアに仕上げて、クエらしいむっちりした食感も残す。
ソースはクエの旨味をストレートに味わえ、野菜の風味が穏やかにアクセントととなる。
鰯のこなれ鮓
付け合せはキャベツと実山椒の塩漬け。
酸味と甘みが絶妙に合わさる一皿。
こなれ鮓のお陰で鰯の脂が上品にまとめられている。
猪の背脂、自家菜園の野菜の薪火焼き
地元醤油組合の醤油の絞りかすをまぶして提供。
猪の脂の甘みと野菜の美味しさをストレートに楽しめる。
醤油の絞りかすは香ばしい。
猪の赤身、きんぴらゴボウのソース
猪は非常に味わい深くて旨い上に香りが良い。
「きんぴらゴボウのソース」は香りが正にきんぴらゴボウで、猪との相性が抜群。
野菜は飯尾醸造さんのお酢で和えている模様。
黒大豆と毛蟹のお粥
〆がお粥と言うのも意表を突かれた。
黒文字のアイス、焼き芋ソース
黒文字は和菓子を頂く際の楊枝に加工される木だが、香りが非常に良い。
爽快感のある香りはアイスにぴったりだ。
初回訪問時の記事(2015年4月訪問)
写真の技術が低いので、直近の訪問の後に記載するのは恥ずかしいのですが…
対比を楽しんで頂ければと思い、記載いたします。
頂いたコースの内容(10,000円のコース)
- 葉山葵と鱒の燻製
- 穴子とうるいの椀
- お造り(平目、鬼海老、あまどころ)
- 鰆の塩焼き
- 赤目河豚とコゴミの揚げ物、ゴマ酢
- 金目鯛のこなれ鮓
- 筍、アスパラ、蛤の炊きあわせ
- 叩きわらびご飯
- 蓬のソルベ
葉山葵と鱒の燻製
強い酸味の葉山葵と、しっとりな鱒の燻製が非常に合う。
穴子とうるいの椀
穴子は地物。塩の利かせ方に妙があり、芳醇なゼラチン質を満喫。
お造り(平目、鬼海老、あまどころ)
山菜・あまどころは茎に甘みがあり、葉先には爽やかな苦味。
風味に豆っぽさがあり面白い。
鬼エビは秀逸。快感とも言えるシャキシャキした身から迸る甘み、香り。
付け合わせのワカメのソースも美味。
鰆の塩焼き
付け合わせはクレソンに赤酢。
火入れが絶妙で、皮がパリッと弾けた後、脂が豊かに滲む。
炭の香りも食欲をそそる。
赤目河豚とコゴミの胡麻酢
虎河豚よりも旨いとも言われる赤目河豚。
その判定はさて置き、何より、こちらも秀逸な火入れ。
シャクシャク、ぷりぷりした身からじわーっと旨味が滲む。
胡麻酢も抜群に合う。白眉。
金目鯛のこなれ鮓
熟成された米の香りが心地良い。
塩気もベストと言える。
筍、アスパラ、蛤の炊きあわせ
筍は甘み、香り、食感が巧く引き出されている。
叩きわらびご飯
醤油ベースの餡を掛けて。
蓬のソルベ
爽やかな蓬の香りで、非常に印象的。
縄屋さんのお店の情報と予約方法
予約についてはお電話のみです。
予約解禁日は訪問前月の1日です(5月に訪問する場合は4月1日に解禁)。
場所が遠隔地ではありますが、全国から食好きを引き寄せる名店で、席数も限られているので、余裕を持ってご連絡するのがベターです。
店名:縄屋(なわや)
予算の目安:6,000円、12,000円のコースに税サ
TEL:0772-65-2127
最寄駅:車がベター(JR峰山駅から7.6km)
住所:京都府京丹後市弥栄町黒部2517
営業時間:お昼12:00一斉スタート、夜18:30一斉スタート
定休日:火曜、水曜、臨時休業有、年末年始は12/24~1/4迄休業、12/30、31はお節のみ
※完全予約制です
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