こちらはミシュランの星を獲得される前から長らく訪問したかったお店です。
ご主人・木村康司氏は独自に研究を重ね、熟成と言う新たな仕事を生み出されました。
全国の若手職人からの信望も厚く、地方で名前を聞く事、多数。
鮨好きとしては行かねばならないお店でした。
しかし、訪問を先延ばししているうちに、「熟成鮨」がブームとなってしまい、お店の予約難度が一気に上昇…。
最早一見の予約は取りにくい状況となり困っていたところ、常連さんからお誘い頂き、訪問を果たす事が出来ました。
お店は二子玉川の住宅街の入り口にあり、内装は非常に落ち着いた雰囲気です。
接客はご主人のお母さまが担当されており、そのお蔭でアットホームな空気感もあります。
握りを頂いた感想としては、想像以上に個性的で、それでいて行き過ぎていないのが印象的でした。
「ブームとしての熟成」は、旨味を強める代わりに魚の食感と香りを弱めてしまうので、眉唾な側面があります。
また、旨味も同質化し、タネの構成力=ストーリー性が低下すると言う弱みも持っております。
しかし、木村さんの仕事はメリハリが利いており、魚を異なる形で再定義するのに成功していると感じました。
前から通われている同行者の方いわく、一時期は白身魚や貝に関して少し過剰な熟成があったそうですが、現状に対する感想としては、紛れも無く新たな仕事として成功していると感じました。
ストイックな試行錯誤あっての創造である事は容易に想像が付きます。
また、正直なところ意外だったのが、シャリの美味しさ。
「熟成」ばかりがフィーチャーされ、シャリに対する言及が少ないお店ですが、赤酢を用いつつ上品にまとめたシャリは、旨味が強まっている熟成種との相性が良い。
酢がすっきり立ち、塩気は穏やかで、やや硬めのシャリはほどけ加減が良好です。
確かにこちらは繰り返し足を運び、仕事の進化を見届けたいと感じさせる名店だと思います。
再訪時の記事もございます。
頂いた日本酒は王祿酒造・溪、丸尾本店・凱陣 、旭菊酒造・大地。
頂いた酒肴は下記の通りです。
蛤のスープ
蛤の旨味は強過ぎず弱過ぎず、じんわり広がる。
「夏の蛤は犬も食わぬ」と言われる蛤だが、最初の一杯に嬉しい。
浅蜊の軽い燻製
軽くスモークしており、胡麻油を使用しているところも面白い。
黒ミンク鯨のうねす
これは非常に旨い。
トロトロ柔らかな身を噛み締めると、ねっとりした旨味が舌に絡む。
ただ、個人的には、コチュジャン的な味噌のタレが強過ぎる気がした。
風味や辛味がこの後の握りを阻害する事は無かったが。
鮎の卵入りの塩辛
一年熟成させたもので、嬉しい酒肴。
マナガツオの焼きもの
鮑
蒸し鮑に酢飯、肝のソースを混ぜたもの。
鮑の火入れは良いが、酢飯が冷たい点が残念。
やや温かみがあった方が、肝の旨味をより感じられると私見。
魚介のスープ
北寄貝、イサキ、ワタリガニを用い、酢飯と合わせたと言うスープ。
甲殻類の旨味がダイレクトに伝わり、複合的な旨味が何とも言えない。
創作性が高く、サプライズのある一品。
和製カンジャンケジャン
要は、ワタリガニの塩辛。
いかつい見た目に反して優しい味わいで、カニの旨味、甘みが芳醇。
塩加減や山椒の塩梅も良く、素晴らしい味わい。
サプライズが二連発で大満足。
この後、握りに移行します。
ガリ
酢がかなり立っているガリで、食感は柔らかい。
シャリの手巻き
シャリの試食から始まるとは、初音鮨のよう!
鮨好き、握り好きとしては非常に嬉しき名刺代わり。
シャリの美味しさは前述の通り。
白烏賊
シャリとの融合が秀逸で、塩気も良い。
縞鯵
1ヶ月熟成。これは凄い甘みで驚く。
それでいて縞鯵特有の香りは残っており、食感も嫌味が無い。
一般的な「熟成」とは異なり、魚味を把握し、再構築する仕事。
イサキ
1.5ヶ月熟成。縞鯵とは裏腹に食感はトロッとしている。
しかし、香りは残されており、横溢する旨味に喜ぶ。
なお、1.5ヶ月と聞くと、「大丈夫か!?」と思われる方が未だいるだろうし、僕自身も恐る恐る…と言うところがあったが、これら2貫を頂き、杞憂に終わった。
これには誰しもが同様だろう。
春子
昆布でしっとり〆ており、柔らかい身に魅力がある。
グルタミン酸の浸透は上品で、良い〆の仕事だと感じる。
北寄貝
塩を振って1日脱水した表、水で割った酒で洗う仕事。
丁寧な仕事が奏功し、嫌味が皆無で北寄貝の甘みをダイレクトに感じる。
鯵
4日寝かせた鰺。
食感はぷりっぷりっで、甘みが非常に強い。
香りは嫌み無く、余韻として楽しめる。
金目鯛
甘み、旨味が非常に強く、印象深い。
また、全体的にそうなのだが、切り付けの厚みがかなりあり、それがシャリと調和しているところがこちらの魅力と感じる。
甘みが強められた肉厚なタネに美味しいシャリを合わせる、かなり個性的なシャリとタネのバランスである。
鰯
6日寝かせた鰯。
強めに〆て、脂を閉じ込めている。
極厚な切り付けだが、脂の旨味とともにとろける。
鮑
包丁の仕事に妙があり秀逸。
大きく、薄く切り付けており、サイズがシャリにフィットしている。
そして、波を打たせており、シャリとの一体感、歯切れも良好。
旨味は強過ぎず、ゼラチン質が上品に舌を喜ばす。
握りの鮑としては、他に無い魅力を持っている。
マカジキ
これは極めて印象深い仕事。
48日間熟成と言うが、更に強めに漬ける事でインパクトのある味わいとなっている。
もの凄い旨味に驚くが、旨味と煮キリの塩分濃度のバランスも良く、完成度の高い唯一無二の仕事。
穴子
中心はふんわり、表面は強めに焼いて香ばしく。
ひたすらふんわりな穴子より、個人的にこういった塩梅の方がタイプ。
そして、濃厚な煮ツメも魅力。
玉子
みっちり詰まった端正な味わい、見た目の玉子
またお伺いするのを心より楽しみにしております。
店名:喜邑(㐂邑、きむら)
シャリの特徴:赤酢を用い、塩気は穏やかで、旨味を強めた熟成種との相性が抜群。→最新記事参照
予算の目安:15,000円~20,000円→25,000円〜30,000円(2018.07時点)
最寄駅:二子玉川駅から600m
TEL:092-726-6289
住所:東京都世田谷区玉川3-21-8/span>
営業時間:お昼は水曜、日曜のみで12:00~の1回転、夜は17:30~19:30 19:30~21:30の2回転
定休日:月曜
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楽しく拝見させていただきました。訪問したいお店がまた1つ増えました。
tabetemogmogさま
コメントありがとうございます!
ご参考になりましたら幸いです。
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