こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
「恵比寿えんどう」さんは、「鮨ゆうき」の林ノ内親方から推薦頂き、長らく課題になっていたお店です。
なかなか機会を作れず、オープンから既に5年が経過した2024年に初訪問。
結果的に感銘を覚える内容でした。
単に美味しいと言うだけでなく、他の職人さんとは異なる仕事を意識的に選択されていて、しかも本質的である点に感銘を覚えた次第です。
鮨や日本料理を食べ込んできた人に特にオススメしたい、唯一無二の鮨店です!
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親方の遠藤 記史さんは異色の経歴を持つ鮨職人です。
18歳から25歳までイギリスへサッカー留学されたそうなので。
その後鮨職人に転向し、「鮨 水谷」、「鮨さいとう」で修行された後、広尾のイノベーティブレストランである「長谷川稔」で修行されたそうです。
その後、2019年に「恵比寿えんどう」を開店。
僕が「長谷川稔」に訪問したのは2018年5月なので、もしかしたらいらっしゃったかもしれません。
僕は冒頭に書いた通り、遠藤親方が入られた「鮨 水谷」でニ番手だった現「鮨ゆうき」の林ノ内親方から推薦頂きました。
林ノ内親方をして「変態」と言う職人さんならば伺わなければ!と。
結果的に、修行先のどこにも属さない独自性を打ち出しておられ、確かに「変態」だと実感しました!
遠藤親方は味覚を意識的に考慮したうえで、「食材の引き立て方」と「食材の組み合わせ」、「コース構成による印象」と向き合っている職人さんだと感じました。
何かを足すよりも、調理法によって食材を引き立てる方向性を重視されています。
そのうえで構成を組み立てている事は自明。
鮪を大トロ、中トロ、赤身の順番で提供され、その心は「焼肉のカルビと同じで、脂が多い大トロは始めの方が美味しく食べられると考えるため」との事。
コメント自体を聞くと人により賛否が分かれそうなものですが、実際に頂くと味わいとして奏功しています。
また、鮪の産地は親方自身聞かずに仕入、仲卸の「結乃花」さんから後日聞く「ブラインドテイスティング」のスタイルを採り入れておられます。
生命線のシャリについては、塩梅が非常に良いです。
米粒はぱらりとやや硬め炊き上げられていて、お米の輪郭に丸みがありつつ長いと感じる口当たりです。
噛み締めた時の粘度は非常に弱く、もっちり感も軽めで、甘味も穏やか。
どうやらコシヒカリの古古米を使用されているそうです。
そして、酸味も塩気も穏やかながらにバッチリ効かせています。
オールマイティに機能するシャリですが、おそらく単体で頂くと酸味と塩気を殊の外感じる塩梅だと思います。
名刺代わりの一貫目の真魚鰹を頂いた時に、意識的にタネを活かすための穏やかなシャリを志向されていると感じました。
全体的に、仕事のみならず出される酒肴や構成は独特で、王道の鮨店とは異なります。
よって冒頭に書いたとおり「鮨や日本料理を食べ込んできた人に特にオススメ」と書いたのですが、古典原理主義の方は意表を突かれると思います。
しかし、古典や伝統をしっかり把握されている食通の方であれば「おお!」と思う仕事に出会えると思います。
ただ、僕も1回の訪問では遠藤親方の引き出しを十分に把握する事は出来ませんでしたので、再訪しようと決めました。
お酒については、新政酒造・佐藤社長との関係性が深いので、希少な銘柄をほぼ全て揃えています。
それでいて安易にプレ酒として出しているお店とは次元が異なり、意識的にお酒を選択されているのが分かります。
「恵比寿えんどう」さんのおまかせコースは、38,500円が目安になっていて、季節・食材によって上下するとの事です。
2024年11月訪問時に頂いたおまかせの内容です。
お酒については、御料理に合うものを適宜ご提案頂きました。
今回頂いたものは新政酒造のお酒ばかりですが、他の酒蔵さんのものもあるそうです。
1杯目がスパークリング系とは嬉しい。香りの第一印象は芳醇で、クリームチーズ、ヨーグルト、グレープフルーツ。強い酸味からすぐに甘味に移行し、発泡は強め。甘味があるスパークリングは鮟肝や唐墨蕎麦など甘味や旨味が強い酒肴にドンピシャであった。同調しつつマスキングによって後味を切る効果がある。
5~6時間ほど掛けて抽出した桜海老出汁の餡。恐ろしいほどの密度が高い香りと甲殻類の旨味!瞬時に海老の姿が頭に浮かぶほどの密度である。甘味も付けつつ後味に残らず、甘味の抑制が巧いと感じた。
親方自ら打たれている模様(包丁立てに蕎麦切り包丁があった)。蕎麦のもっちり感と唐墨のねっちり感が合わさり、定番の酒肴的蕎麦であるものの鮨職人離れの技を伝える。そして、挽いた実を加えて香ばしさと食感を加えている点に工夫を感じる。
鮟肝も定番中の定番であるが、極めてピュアな香りである。脂の甘味が強いので、調味によって付加した甘味が嫌み無い。山葵は辛味が軽く、甘味と爽快な香りがある。面白い味わいの山葵だと思い、お伺いしたところ高津川のものだそう。僕が好きなお店「美加登家」さんのある河川で、嬉しく思う。
メロン、ヨーグルト。香りに対して味わいは軽い。酸味が上品で、甘味は穏やか。軽やかながら、じんわりと余韻が続き、物足りない事はない。温度が高まると酸味を感じやすくなり、旨味も伸びる。
2時間素揚げした後に炭火で炙る調理法。頂いてみると驚くべき凝縮感!!!表皮がパリッと弾けて快感を覚えた途端に、抜群な旨とも香りが席巻して驚く。油を巧みに用いている。
赤酢の香りと酸味、辛味が鮮明に伝わるガリ。ただ、個人的には鮨の完成度が高いので1切れしか食べず、最後に一気に頂いた(笑)
愛媛県・藤本さんのシグネチャーとも言える真魚鰹。噛みしめた時に炸裂する香りと脂の甘味が素晴らしい。それでいて余韻は綺麗だ。もちろんながらネガティブは無い。
甘酸っぱい方向性の新政と合わせられるとは意外な発見であった。
強い脂のみならず香りもしっかりしている大トロ。味わいが強く、遠藤親方の「焼肉カルビ理論」が奏功していると感じた。
血合いギシ。かなり柔らかい食感で魅力的だ。鮪そのものだけでなく包丁も効果的で、繊維質がほどけて溶けゆく。その課程で香りを広げる。脂も強く、季節が変わった事が分かる味わいの中トロだ。
これも柔らかい。そして、香りが素晴らしい!脂も乗っているので、中トロに続いて季節の変化を強く感じさせる。親方の「焼肉カルビ理論」については、脂の面だけでなく、酸味の変遷も構成の面で妙味であると感じた次第である。
メロン、生クリーム、軽いヨーグルト。微発泡。お酒の流れは酸味を軽くして、苦味や旨味を上げる構成だ。タネを頂いて実際に納得。
釧路産。脂が乗っていて旨い鰯であり、巧い〆方だ。薬味は当たり葱。
藁で燻製を掛けたメヒカリ。脱水してから程よく炙っているので、多層的な食感と脂の感じ方を表現している。多くのメヒカリは「柔らかく、脂が乗っている」事が多いものの、遠藤親方のメヒカリはそのような事が無く、表面に浮いている脂と身の内の活性化した脂を別々に味わえる設計だ。実に食欲をそそる。深海魚はこのような仕事を施して頂ければ楽しい。
なお、お話をお伺いしたところ僕が日本の中でも大好きな福島いわきの「鮨いとう」さんの紹介で仕入れているメヒカリとの事で、これまた嬉しく思った。
宍道湖産。皮はバリバリとハードに焼かれていて、脂が濃密で粘度がしっかりある。鰻自体の香りを楽しませる味付けも魅力だ。
口直しの野菜にも包丁で仕事を施して仕事で魅せる試みが素敵。
和歌山・串本のものとの事。話に聞く潮崎さんのものだろうか?脂がかなり乗っていて、香りはクリアなカンパチ。酸化とは無縁なようで、甘味が広がり余韻も長い。このタイミングのこのカンパチ、見事に鮮烈な印象であった。
ホエー、生クリーム、実にミルキー。終盤にコクを強める設計。酒蔵と繋がりが深い遠藤親方ならではな銘柄を頂き、ありがたい。
佐渡産。藁炙りを施しているが、サクサク感だけでなく苦味があり、非常に攻めている!鰹の脂と酸味が込み上げる。良いバランスの仕事だ。
昆布盛産。塩水ではなく昆布塩水で輸送している海胆との事。香りと喉に伸びる甘味が実に良い。余韻もピュアに長い。
対馬と韓国の間の谷間となる海域の穴子。キュウリエソが主食との事。繊維質はホロホロで、甘味を効かせつつ穴子の香りも楽しめる仕事。
海苔については、漁師に頼んで早摘みしてもらっているそうだ。食感が秀逸で、バリッと切れてから細かく溶けてゆく。香りと旨味が素晴らしいトロたく。海苔を活かすための手巻きを選択されている。
蛤出汁で、特有の旨味よし。吸い口は極少量の浅葱。
表面はガリガリとタフな食感で、中はトロトロ。
「恵比寿えんどう」さんは恵比寿駅から10分弱歩いたビルの4階に入っています。
店内は少し控えめな照明で、しっとりした雰囲気です。
恵比寿の鮨店と聞くと華やかなイメージを持つかもしれませんが、どちらかと言うと良い意味でひなびた印象で、幽玄を感じる空間です。
なお、カウンター上の箸は縦置き(中国式)。
これは鮨店、日本料理店では珍しいですね。
「恵比寿えんどう」さんについては、OMAKASE経由での予約受付となります。
店名:恵比寿えんどう(えびすえんどう)
シャリの特徴:酸味も塩気も上品に用いてタネを活かしつつ、守りには入っていない塩梅。
予算の目安:おまかせコース38,500円 ※季節・食材によって上下
TEL:03-6303-1152
住所:東京都渋谷区恵比寿南1-17-2 4F
最寄駅:恵比寿駅から300m
営業時間:昼12:00~、夜17:30~、20:30~
定休日:不定休
本質的に鮨の可能性を広げる職人に出会うと嬉しくなる、すしログ(@sushilog01)でした。
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