こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
この度、友人から「魚マニアの鮨職人がいる」と誘われて、銀座の「水天一碧」さんを訪問しました。
あたかも『鬼滅の刃』の技の名前のような店名ですが、鮨評論家の早川 光さんが『今夜、寿司屋で。』の第58話で紹介されたとの談です。
結果的に、親方は確かに魚愛が強い方で、他店とは異なる方向性を模索されていました。
鮨店が増え続ける鮨戦国時代で、是非とも頑張って頂きたいと感じます。
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「水天一碧」さんは、銀座6丁目に2022年5月にオープンした新店です。
立地(超一等地)と店名が示す通り、オーナーがバックにいるお店だと容易に推察されます。
しかし、親方を務める加藤 貴啓さんは個性的かつ意識的な仕事をされています。
加藤さんはオープン時26歳で、現在(2023年11月)も28歳の若手です。
そのキャリアは独特かつ実に現代的です。
加藤さんは大学を辞めて鮨職人になり、その後、大手スーパーの鮮魚部門に勤務。
そのスーパーは、魚だけで一日最大1,000万円もの売上があったそうなので圧巻です。
魚屋さんで研鑽を積んだ後は、出張鮨職人となり、そこで今回の「水天一碧」さんの漬け場に繋がったそうです。
お店が興味深い点としては、銀座の鮨店でありながら豊洲から仕入れない点です。
なんと全国230港と提携し、産地直送の魚のみを使用しているそうです。
価格競争を回避するとともに、他店とは異なる魚種を扱いたい、との事。
確かに今回頂いた魚についても、意外な産地のものが織り交ぜられていました。
そして、施す仕事は上品な方向性で好感です。
魚屋さんで膨大な魚を扱われただけあって、包丁の精度が高く、キレイな仕事をされています。
魚の活かし方についても魅力的で、臭いなどのネガティブな要素は一切なく、魚の魅力を引き出すのが巧みだと思いました。
魚愛があふれ、魚の扱い方が巧い職人さんなので、今後、江戸前の仕事が光るタネの比率を高めると更に面白くなります。
如何に個性的なお店であっても銀座の鮨店で小鰭が無いのは画竜点睛を欠くものですし、煮ものも無いのは寂しいところ。
また、コースの中で握りは僅か8貫でしたので、10貫以上にすると良いと感じました(握り以外にミニ丼と手巻きはあるものの)。
現状、「鮨店」と言うよりも「鮨も出す料理店」に近い構成です。
なお、全般的に良い仕事の中で気になった点が、薬味使いです。
魚味を超える使用量が散見されました。
具体的には、墨烏賊の酸橘、秋刀魚の当たり葱、鰹の玉ねぎ醤油など。
「魚の香りを殺さない薬味使い」を意識すると更に良くなるのは確実です。
本質的には鮨には山葵だけあれば良い、と言う点を押さえつつ薬味を選択すれば、魚と薬味が共存するのは間違いありません。
最後に、生命線のシャリについては、中々の完成度です。
温度管理に優れていて、口の中でパラっとほどけ、強すぎない味付けで万能タイプに仕上げておられます。
お米はササニシキ7:コシヒカリ3で、お酢はヨコ井の金将と與兵衛。
王道の組み合わせです。
シャリのサイズ的に最初は随分と小ぶりだと思いましたが、タネと頂き、コースの中で味わった際には問題無し。
ただ、数%ほどお米に芯があったり、たまに粘度が高い時もあったので、炊飯のブレを抑えていけば更に美味しいシャリになります。
加藤さんはお若い職人さんでセンスも感じる方ですが、調理面でのアドバイスをするお客さんがいないように感じたので、以上、細かくなりますがアドバイスも書かせて頂きました。
「水天一碧」さんには、3つのコースがあります。
- 【火曜日限定】若手が彩る水天一碧コース 16,500円
- 雲丹とイクラの王道江戸前コース 22,000円
- たっぷりキャビアに雲丹と鮑を満喫する特別記念日コース 27,500円
今回は友達が予約してくれたため、頂いたのは27,500円のコースです。
キャヴィアのコースなんて、自分が予約者であったら100%予約していません(笑)
これはこちらに限らず、多数のオーナーさんへのメッセージになりますが、そろそろキャヴィアを止めませんか?
外国産キャヴィアに多大なコストを掛けるくらいなら、国産の天然モノの魚にコストを掛けて頂きたい。
それが鮨なので。
個人的には、コースの価格が結論ありきで設定されている印象を受けたので、「〇万円のコースを作るための食材仕入れ」ではなく「親方の個性を伸ばすための食材仕入れ」を行う事で、お店のバリューが向上すると感じました(個人店の親方が当たり前のようにやっている事ですね)。
鮨店ビジネスは今やモデル化している状況ですが、類型に当てはめると無数のお店の中に埋没してしまいます。
また、「雲丹とイクラの王道江戸前コース」については、江戸前鮨ではなく「王道蝦夷前コース」なので、修正された方が良いと思います(消費者をミスリードするので)。
江戸前鮨の「王道」は「仕事」にあります。
お酒については、センスが良く、旨口系のラインナップで巧みにご提案頂けます。
お酒はグラスで1,000円なので、銀座としては明朗会計で好印象です。
そして、お酒のテイストに応じて酒器を変えられる配慮も素晴らしい美点です。
乾杯は「三度つぎのプレミアムモルツ」で。
泡が美味しく作られていて、良い導入となりました。
そして、頂いた日本酒は下記のとおりです。
- 龍勢 ゆらぎの凪(八反35号・60%)
- くどき上手 純米大吟醸 Jr.のWhite Beauty 29(雪女神・29%)
- 寒菊 電照菊 純米大吟醸 おりがらみ生原酒(山田錦・50%)
- 残草蓬莱 純米吟醸 Queeen 槽場直詰生原酒(山田錦&出羽燦々・60%)
- 百十郎 純米大吟醸 黒面(岐阜ハツシモ・50%)
蝦夷鮑は青森県産で、ほんのりと温かい点が良い配慮。
キャヴィアの脂を溶かす事がイメージされていて、あたかもキャヴィアのバイヤーが「最も美味しい食べ方」と豪語する「手の甲に乗せて頂くスタイル」を上品かつ高級に鮑で表現しているかのようである。
使用するキャヴィアは世界最大の生産量を誇るKALLUGA QUEEN(カルーガクイーン)。
中国の杭州千島湖迅龍科技有限公司のキャヴィアで、世界流通量の30%ほどになると言うから圧巻だ。
国内加工で2ヶ月ほど氷温で追熟させているそうで、濃厚な味わいだ。
頂きながら、キャヴィアの使用については、オーナーがいる銀座や麻布のお店では仕方ないものなのだろうか…などと真剣に考えた。
恐らくオーナーの意向があるであろうところ、加藤さんは調理で味わいを上げている点が涙ぐましい。
噴火湾産で、珍しい部位を頂けるのは非常に嬉しい。
ゼラチン質が豊富で、キャヴィアと鮑の後でも存在がかすまない。
そして、食用菊の食感とほのかな香りがアクセントになる。
甘味がありつつ、酸味のキレと辛味がキリッと味を引き締める。
淡路産。
墨烏賊の模範のようにパツパツした食感。
しかし、包丁でほどけさせて、甘い。
淡路の藻塩と酸橘を使用していて、調味料の産地を合わせている点がグッとくるが、酢橘の酸味はやや強い。
本質的に墨烏賊に柑橘を使用するのはリスクの方が大きい(アオリイカや白烏賊などの甘味が強い烏賊ならば調和する)。
印象的な海を想起させる器は、鈴木義宣さんの瀬戸焼。
徳島県産(※村公一さんではない)。
雑味が皆無で非常に美味しいボラだ。
脂が乗っていて、ぱつりとした後に、とろり。
食べる前はエビの香りを強く感じるが、頂くと燻製した舞茸の香りが広がる。
海老の甘味と香りの多重奏が魅力だ。
東京のお店でハトシとは、「天ぷら浅沼」さんを思わせる。
岩手県産。
〆加減が良く、パツッとした身は噛み締めるととろりととろけ、脂が滲む。
これは旨い!
ただ、仕事が良いだけに当たり葱を減らした方がベター。
余韻が完全に当たり葱であったので、秋刀魚の香りと味わいを残す設計が良い。
宇和島産。
肝は裏ごしせず、血抜きした仕立て。
雑味が無く、香りを楽しませてくれる。
そして、脂と香りがピュア。
これも良い仕事だ。
羅臼産の15キロで、部位は腹と血合い。
腹は脂がとろっとろ。
玉ねぎ醤油の味と風味が強いので、玉ねぎの香りと辛味を抑えると良い。
噴火湾産。
濃密な味わいばかりでなく、食感も魅力的。
内子のもっちり感の後に外子のプチプチ感が高まる。
…サステナビリティが気になる食材ではあるが(こんな事を考える鮨マニアは自分くらいかもしれないが)。
陸奥産。
掛けている調味料は黄身醤油。
味わいが濃厚で口当たりも濃密な調味料ながら、ワタリガニの香りと甘味を楽しめるバランスだ。
ただ、こちらに限らず、若手職人さんは花穂紫蘇を使うのが大好きだなあと感じる今日この頃である。
対馬産。
〆つつ生に近い鯖の香りと脂を表現している。
身は柔らかく、お酢は14分程度との事。
白子は臭みがゼロで、甘味をピュアに楽しませる。
いくらは皮が少し硬くなっているが、これは季節の変化として楽しめる。
個人的には、いくらと海胆を合わせる必要性は感じない。
油脂と油脂の組み合わせは多くの人が喜ぶのかもしれないが、予想の範囲内に収まる為だ(誰がやっても同じ味になる提供方法は行わない選択がベターではなかろうか?)。
八戸、110キロ。
まず、香りが良い鮪。
食欲をそそる香りがあり、脂も乗りつつ酸味もある。
余韻の香りが良い。
旨味と香りが実に良い。
北海道水産業の汚点とも言うべき失策により漁獲量が激減している本シシャモ。
もはや外食すると1尾1,000円を超える高級魚だ。
部位は血合いギシで、甘味があり、強い脂も楽しませる。
さらに、程良い酸味が味を引き締める。
良い部位の選択であり、シャリ温を62℃の高温で提供する現代的な手法も魅力的だ。
実にチャラい組み合わせだが、予想外に松茸が活きていて、これには笑った。
松茸は厚みがありつつ歯切れが抜群。
そして、トロは口どけが良く、脂だけでなく香りと旨味もある点が良い。
ワタリガニとセコガニの出汁に、アオサ。
長崎の麹味噌の甘味が強く、甲殻類の旨味や香りに合う。
お店は何と「銀座 寿司幸本店」さんの隣にあります。
「銀座 寿司幸本店」さんは「銀座の若衆ご用達のお店」として知られる、1885年(明治18年)創業の老舗です。
「水天一碧」さんの内装については、こじんまりしていてアットホームです。
施工に過剰なお金を掛けず、カジュアルな雰囲気を出している模様です。
「水天一碧」さんは、一休経由でWEB予約が可能です。
店名:水天一碧(すいてんいっぺき)
シャリの特徴:ヨコ井のお酢を2種類ブレンドしたバランス型、温度管理が良好
予算の目安:雲丹とイクラの王道江戸前コース22,000円、たっぷりキャビアに雲丹と鮑を満喫する特別記念日コース27,500円
TEL:03-6228-5959
住所:東京都中央区銀座6-3-8 オスカーKBビル1F
最寄駅:銀座駅から300m
営業時間:18:00~22:30(20:30)
定休日:水曜、日曜
銀座で独創的な仕事と卓越した構成力を誇る「鮨處やまだ」さん
進化する唯一無二の江戸前鮨!銀座で美味しい鮨なら「鮨處やまだ」鮨のことを考えるのが大好きな、すしログ(@sushilog01)でした。
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