こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
長野県には「菊寿し」さんのような街場寿司の人気店はあっても、江戸前鮨の有名店は殆どありません。
その長野県で燦然と輝く一軒が、今回ご紹介する長野市の「すし崇」さんです。
親方の久保さんは「世界シャリサミット2022」で講師を務められ、僕はそこで出会いました。
握りを頂いた感想としては、久保親方のシャリは飯尾醸造のお酢を使用するお店の中で最強のパンチ力!と感じました。
「海なし県」長野において、逆にその立地を活かした仕入れと熟成仕事を駆使し、存在感の強い鮨で魅せる鮨職人さんです。
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長野「すし崇」の魅力とは?
長野の「すし崇」は久保 崇嘉親方が、2008年にオープンにした鮨店です。
僕が訪問した2022年時点で既に14年が経過しておりますので、その過程でかなりの試行錯誤をされてきた事と推察します。
お店の魅力と特徴については、力強いシャリに協奏する力強い仕事です。
こちらは「熟成」で知られる鮨店ですが、全てが同一方向の熟成仕事でない点が魅力だと感じます。
熟成によって必ずしも食感と香りを損ねる事無く旨味を引き出し、「味噌だまり」などの特徴的な調味料によって独自の味に仕上げておられます。
そして久保親方が使用されるお酢は、前述の通り飯尾醸造のお酢です。
ブレンド比はお伺いしませんでしたが、他店よりも赤酢プレミアムの比率が高く、富士酢の酸味も強めに用いている印象です。
強い酸味に強い塩味を合わせ、キレのある香りのシャリ。
パワフルなシャリは、正に熟成仕事にアジャストされている事が明瞭です。
硬さや温度などの管理は申し分無く、違和感を感じる事はありません。
さらに着目すべき点は独自の仕入れルートです。
長野県には漁港が無いため、全国各地から仕入れておられ、ゆうに20ヶ所以上と相対取引を行っているそうです。
これは岐阜県の「寿司松岡」さんでも感じた事ですが、漁港が無いからこそ出来る工夫があります。
久保親方は見事な仕入れを実現されていて、漁港がある都市の上を行く仕入れを志向されていると感じました。
そして、流通の進歩により、鮨は海ではなく人から生まれるのだ、と実感しました。
「すし崇」のおまかせコースの詳細
「すし崇」さんのおまかせコースは、23,000円となります。
価格的には東京の鮨店と同じくらいですが、ボリュームはそれ以上です。
酒肴9品、握り14貫、椀、玉子と言う構成で、終始力強さを実感するアツいコース内容です。
この度頂いたお酒
井賀屋酒造 JUPITER
生産量が非常に少ない、ご夫婦で醸されている酒蔵。
乳酸的な酸味に軽やかなフルーツ香が混じり、程良い苦味が引き締める。
見た目とは裏腹に意外にも硬派な味わいの日本酒だ。
長野銘醸 聖山 純米吟醸
先付
北寄貝、墨烏賊、ほうれん草と、面白い食材の組み合わせである。
食材の食感と甘味、旨味、苦味を組み合わせている。
蛸の桜煮
蛸は宮城県産。
火入れの後に冷まして味を落ち着かせる点と、提供温度が良い。
とろりとした食感の後に、サクッと弾け、シャクシャクした食感を楽しませつつ、しっとりホロホロとほどける。
良き食感の表現である。
煮汁は先代の頃から30年継ぎ足しているものだそうだ。
ベースの甘味が少なく、蛸の香りを引き立てる煮汁だ。
チャイロマルハタのしゃぶしゃぶ
非常に珍しいハタ科の魚を、まさか長野県で頂くとは!
このサプライズも「すし崇」さんの魅力の一つなのだろう。
しかも2週間熟成を掛ける、独自性のある仕立て。
それをしゃぶしゃぶして、煎り酒とともに供する。
魚自体はパンチのある味わい。
脂に加えて旨味も強く、しゃぶしゃぶで湯霜にしているため旨味と食感を良いバランスで楽しめる。
煎り酒は杏干しを使用している点がユニークだ。
昆布に加えて煎り米も使用していて、その香ばしさがアクセントとなる。
鱈の白子
天龍村の柚子、熊本県産の青海苔の餡とともに。
白子の皮が消えてトロトロととろけ、甘味を楽しませる。
柚子の酸味をバシッと利かせ、皮目の苦味すら感じるところに青海苔の食欲をそそる香りが繋ぐ。
鰤
鰤は北海道産(つまり天上ぶりか)。
煮キリ漬けにしていて、付け合わせは味噌だまり漬けの葉唐辛子。
強烈な脂を持つ鰤ゆえに、漬けが良き仕事である。
葉唐辛子は味噌だまりの甘味と香りを色濃く感じる。
キハダマグロ
長井漁港の長谷川さんのキハダマグロ。
青森県佐井村の海苔を味噌だまりで作った佃煮とともに。
直前の藁炙りによってスモーキーフレーバーを付加している。
きめ細かい脂が瞬時に舌に甘味を伝えるが、酸味が抑制する味覚的構成は巧い。
あたり葱はかなりニンニク志向の香り。
ニンニクよりも遥かに上品であり、残り香も然り。
鰆西京焼き
信州味噌と大信州の大吟醸の酒粕に漬け込んでいるそうで、魅力的だ。
8キロサイズの鰆を、2~3週間熟成させている。
旨味が強く味わい深い鰆に満足。
付け合わせはべったら漬け。
茶碗蒸し
いくらとアオサの茶碗蒸しで、いくらは味噌だまり漬けとの事!
ガリ
薄切りでシャキシャキと強い食感があり、辛味が強いので甘味と酸味とのバランスを取る。
キジハタ
鹿児島県産、1週間熟成。
熟成が掛けられているが、流石キジハタで、みちっとしたテクスチャーだ。
そして低温でありながら感じる旨味が強い。
墨烏賊
長谷川さん仕入れ。
これは面白い仕事!!
熟成を1週間掛けているそうだが、しっかりと墨烏賊らしいゴワゴワと力強い食感が楽しめ、包丁の数を少なくして咀嚼回数を増やし、次第に高まる旨味の強烈さを演出している。
北寄貝
強烈な甘味と香りの北寄貝で、そこに力強いシャリと合わせ独特の表現を行う!
貝類に強い味のシャリをぶつける行為は勇気が要るだろう。
独自性が強い方向性だ。
松皮鰈
旨味が実に強く、香りもグイグイと高まる。
こちらの寝かせは決して長くなく、3日との事だ。
食感や香りがダレていないのが嬉しい。
鯛
長谷川さん仕入れ。
食感は寝かせによって弱まっているが、香りと旨味が共に高まりシャリに合う設計の仕事だ。
強い味わいのシャリに合わせる寝かせの仕事で、1週間との事である。
煮鮑
8ヶ月漬け込みを行っているそうで驚く!
香りが抜群で、噛むほどに旨味、そして香りが高まる。
重層的かつ重厚な味わいの煮鮑だ。
当日仕上げの煮鮑とは異なるテクスチャーを楽しめ、お隣の県、山梨で戦国時代から続く郷土料理【煮貝】をアレンジしたような印象を覚える、個性的な仕事だ。
キハダマグロ
この後、鮪が3連発となるが、決して本鮪(タイヘイヨウクロマグロ)の「前座」ではなく、本鮪と「共演」出来る美味しさであると実感させて頂いた点が僥倖だ。
この仕入れ、この構成、この仕事だからこそ実感させて頂いた幸せである。
ねっちりしたテクスチャーからの強い旨味が非常に印象深い。
舌で旨味を感じた後に喉に響くような旨味が残り、長い余韻となるキハダマグロであった。
鮪赤身
産地は大間。
旨味が乗っている鮪なので漬けの仕事と調和する。
しっかり漬けながら漬け地を超えてくる香りと酸味が魅力だ。
牛肉的な繊維質に仕上げる漬けの塩梅。
鮪大トロ
こちらは戸井産で、仲卸から直送してもらっているそうだ。
甘味のある煮キリを使用されているように感じ、鮪を頂く際にアクセントとなる。
鮪大トロ
3週間の熟成を掛けて、湯霜漬けにしてから2日寝かせる仕事。
大トロであるが強烈な旨味を感じさせた後に、酢飯と乳化する。
そして、香りと酸味が込みあがる。
マルアジ
マルアジとは、きっと長谷川さん仕入れだろう…と踏んだところビンゴ。
5日の熟成を掛けて、仕事は味噌だまり漬けとユニーク。
これは端的に言って、濃厚な鯵ペーストだ!
いきなり咀嚼した状態を表現する仕事だと実感する。
胡麻とあたり葱をアクセントとして使用。
小鰭
クラシックな〆加減で、繊維質はみしっとして、ホロホロほどける。
お酢の酸味をしっかりと浸透させていて、小鰭の香りも立つ。
車海老
黄身酢オボロ漬けで、2週間寝かせているそう。
みっちりと凝縮した身を噛みしめると、甘味が奥から込み上げてくる。
この仕事は…と思っていたところ、やはり「奈可久」さんの仕事であった。
海胆軍艦
海苔ではなくキュウリを用いて海胆の軍艦巻きを作るスタイル。
これは久保親方が浅草「すし游」さんで修業されたキャリアが活きている。
海苔の香ばしさを加えた海胆軍艦も鉄板の美味しさだが、キュウリで爽やかさと瑞々しい香りを加えた軍艦も一興である。
力強いコースの終盤なので尚更良き選択だと思うし、何よりも修行先の仕事を継承されて使い続けておられる点が粋と言える。
態度や言葉ではなく、仕事で系譜・修行先への敬意を表される職人気質は美しい。
穴子
ホロッホロで、しっとりしたモダン江戸前鮨の仕事を明確に表現する煮仕事。
長野の地で銀座クラスの味を提供しようと言う心意気を感じる。
椀
信州味噌は優しい味わいなので、貝の出汁が活きる。
玉子
見た目のとおり味わいも個性的な玉子焼きだ。
芝海老ではなく帆立を使用し、アマゾンカカオと合わせている。
アマゾンカカオと砂糖だけだと完全にスイーツ方向に寄ってしまうところ、醤油を巧みにカカオに合わせ、甘味は味醂で上品に付加している点が魅力的だ。
また、帆立の風味がチョイチョイ顔をのぞかせて、味の底面を支えている点も良い。
水菓子
予想外にお洒落なスイーツが登場して、最後にほっこりする(笑)
「すし崇」の立地と雰囲気
「すし崇」さんは、長野駅からは離れた場所にあり、善光寺の方が近い立地です。
静かな場所にあり、目を引く瀟洒な外観で、期待を高めてくれます。
店内も上質で洗練された雰囲気です。
おまかせでもタネ札があると、昔ながらの雰囲気があって素敵です。
長野市では屈指の雰囲気と言えるのではないでしょうか。
「すし崇」のお店情報と予約方法
「すし崇」さんのWEB予約については、ヒトサラ、食べログ経由で可能です。
店名:すし崇(すしたか)
シャリの特徴:飯尾醸造のお酢をブレンドしつつ、酸味と塩気のパンチが強い赤酢のシャリ。
予算の目安:おまかせ23,000円
TEL:026-235-5565
住所:長野県長野市県町477-15
最寄駅:権堂駅から710m
営業時間:18:00~23:00(L.O.22:30)、ランチは5名以上の貸切営業(11:30~13:30)
定休日:不定休
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