すしログ日本料理編 No. 139 尊尊我無@与儀(沖縄県)

f:id:edomae-sushi:20180618204923j:plain

※2021年8月をもって、敢え無く閉店されました

こちらは沖縄では珍しく日本料理の発想と技術を採り入れたお店です。

懐石料理とはご存知の通り茶道から発生した型であり、京都の文化に基づく日本料理の形式となります。

当然の事ながら琉球(沖縄料理)には存在せず、沖縄でコースを成す形式は一般的に宮廷料理となります。

宮廷料理のエッセンスを採り入れた郷土料理のお店もありますが、コースの流れは懐石料理とは全く異なります。

宮廷料理と言えば最も有名な美栄さん宮廷料理を八重山流にアレンジした潭亭さんなどがオススメです。

そのような沖縄で、懐石料理の型を以て沖縄食材を供する試みをされているのが、こちらのオーナーである村岡省吾さん。

ご出身は香川県ですが、10年前に沖縄に移住され、未知の領域を開拓されております。

訪問する前はその試みが吉と出るか否かは不明でしたが、実際に頂いてみて感動と共に吉である事を確信しました。

f:id:edomae-sushi:20180618204927j:plain

細かい事を述べると、お茶を前提とする懐石料理とお酒を前提とする会席料理は流れが異なり、現在の「懐石料理」とは後者である事が一般的です。

そして、そのコースは先付、前菜、椀、向付(お造り)、強肴、焼きもの、揚げもの、お食事、水菓子で構成されます。

こちらはこの会席料理の流れに沖縄食材を落とし込み、使用される技術は日本料理のそれです。

それが最大の魅力ですが、個人的に感じた魅力を具体的に挙げると、

1. 「カラフルだけど大味」と言うイメージの南洋の魚を仕事で美味しくしている点、

2. 「沖縄そば」と言う大衆的な麺料理を上品に再構築している点、

3. 希少性の高い古酒を揃え、泡盛でありながら「日本料理」に合わせる点

など。

とは言え、感覚的にとても楽しめるお店なので、難しく考えなくても他では出会えない料理との邂逅に頬が緩む事かと思います。

最初は【オリオンドラフト】600円を頂きましたが、お酒は古酒を中心としたペアリングでお願いしました。

古酒については「他で飲めるようなものはなるべく置かない」と言うコンセプト。

泡盛が好きな人であれば、お酒の面でも楽しいお店だと思います。

この度頂いたコース(1万円)の内容は下記の通りです。

・一口:沖縄そばがき
・前菜:寄せ蠂豆・竜髭菜・生もずく、浜鯛手綱寿司、
中味・島牛蒡・金平、うりずん豆・地豆和え、田芋唐墨
・御椀:金美人参の擂り流し
・お造り:メバチマグロ、波笛鯛、白鞍倍良、夜光貝、縞蛸
・酒肴:赤仁炭焼、棘鋸ガザミ香煎揚、冬瓜おろし、苦瓜、花椰菜
・主鉢:今帰仁アグーのすき煮、きのこ、金時草、華蕃茄
・氷菓:宮古島・甜瓜
・〆の逸品:沖縄そば
・甘味:紅芋餅

尊尊我無さんの御料理の詳細

f:id:edomae-sushi:20180618204926j:plain

一口

先付に当たる一皿目は、八重山産小麦全粒粉を用いた沖縄そばがき。

f:id:edomae-sushi:20180618204924j:plain

味わいの前に、先ずその試みに心が躍る。

f:id:edomae-sushi:20180618204925j:plain

目の前で作られるパフォーマンスも魅力的だ。

頂いてみると、香り良く、小麦の甘みを楽しめる。

上品な塩気が小麦の甘みを引き立ててくれる。

小麦粉での「そばがき」は予想を超えて美味しい。

後々に供される沖縄そばへの期待も自然と高まる。

f:id:edomae-sushi:20180618204929j:plain

前菜

上から反時計回りに、寄せ蠂豆・竜髭菜・生もずく、浜鯛手綱寿司、

中味・島牛蒡・金平、田芋唐墨、うりずん豆・地豆和え。

f:id:edomae-sushi:20180618204931j:plain

蠂豆とはバタフライピーで、真っ青な色素が出る花。

見た目は鮮烈だが味わいは爽やか。

酢が上品で鰹出汁の用い方も上品である。

f:id:edomae-sushi:20180618204930j:plain

浜鯛とは沖縄名をアカマチと言い、「沖縄三大高級魚」の一つ。

硬めの酢飯に甘みを付け、鯛は昆布〆で大葉を噛ませている。

鯛は脱水しているため、旨味が凝縮されている。

f:id:edomae-sushi:20180618204922j:plain

なお、他の高級魚2種はシロクラベラ(マクブー)とスジアラ(アカジンミーバイ)。

後ほど両方登場する(笑)

ちなみに、上記の付け合せはガリではなくパパイヤの酢漬け。

他の料理も期待を高めてくれるには十分であり、宮廷料理の中身(豚の内蔵)や田芋(たーむ)を交えている点も魅力的だ。

f:id:edomae-sushi:20180618204932j:plain

咲元酒造5年古酒・粗濾過25度

まずはスッキリ目の一杯目からペアリングスタート。

f:id:edomae-sushi:20180618204933j:plain

御椀

金美人参の摺り流し。

蓋を開けた瞬間に人参の香りがふわっと漂い、口にすると甘い。

強めの昆布出汁が独特であり、沖縄らしい味わいだ。

野菜の甘みに昆布の旨味をぶつけ、柔らかくも力強い味に仕上げている。

f:id:edomae-sushi:20180618204934j:plain

福島産のインディカ米を使用した珍しい泡盛の古酒。

一般的なタイ米のものとは香りが違う。

スッキリと爽やかだ。

f:id:edomae-sushi:20180618204936j:plain

お造り
メバチマグロ、波笛鯛(イナクフー)、白鞍倍良(マクブー)、夜光貝(ヤクゲー)、縞蛸(シガヤー)。

f:id:edomae-sushi:20180618204939j:plain

調味料は醤油とシークァーサー塩ポン酢。

醤油は宮古島の味噌造りにおける上澄みを使用。

よって、味噌の香りがしっかりであり、味わいとしても再仕込み醤油のよう。

付け合わせは島唐辛子のもみじおろしと浅葱。

f:id:edomae-sushi:20180618204938j:plain

白鞍倍良(マクブー)は前述の三大高級魚の一つ。

しっとりした食感に磯の香りを持っている。

白身なのにパワフルな香りがあるため、シークァーサーポン酢と相性が良い。

沖縄で一般的なタコである縞蛸。

湯引きにしており、旨味と香り共に強めで楽しめる。

f:id:edomae-sushi:20180618204937j:plain

波笛鯛(イナクフー)は強い脂の旨味が印象深いが、軽やかな酸味もある。

身質はしっかり目で、醤油と合わせると旨味が強まる。

夜光貝は見た目が華やかな貝であるが、意外にもしっかりした旨味があり、ごく軽い苦味が味を引き締め、磯の香りが余韻として広がる。

メバチマグロは甘みがしっかりだ。

f:id:edomae-sushi:20180618204935j:plain

ひとめぼれ使用の古酒

穏やかなな香りで、飲み口は泡盛だがお造りに合い、米の旨味がしっかりある。

f:id:edomae-sushi:20180618204940j:plain

酒肴(焼きもの、揚げもの)

赤仁炭焼、棘鋸ガザミ香煎揚、冬瓜おろし、苦瓜、花椰菜(カリフラワー)。

f:id:edomae-sushi:20180618204942j:plain

アカジンミーバイは上記の通り「沖縄三大高級魚」の一つ。

f:id:edomae-sushi:20180618204955j:plain

(こちらは美ら海水族館にいた大きなもので、食用サイズは上記アカマチの写真のものか)

旨味が非常に強い白身魚で、食感は懐石料理の高級魚である甘鯛よりも随分と力強い。

f:id:edomae-sushi:20180618204941j:plain

トゲノコギリガザミは、ほぐし身に内子を混ぜてボール状にして揚げている。

否応なしにお腹が空く香り!

そして、かぶりつけば旨味がストレートに伝わる!

トゲノコギリガザミは浜名湖で「幻のカニ」と呼ばれるドウマンクラブの近種。

ドウマンクラブも荒木町のわたなべさんで頂いた事があるが、トゲノコギリガザミも大変強い旨味であり、しかもたっぷりなのが嬉しい。

f:id:edomae-sushi:20180618204943j:plain

そして、付け合わせの野菜も美味しい。

ゴーヤーは鰹出汁の煮浸し。

そして、大根おろしではなく冬瓜おろしと言う点にもセンスを感じさせる。

アカジンミーバイに冬瓜の香りが寄り添い、軽い酸味と鰹出汁をごくごく弱めに利かせている点も嬉しい。

沖縄の焼きもので、熱源に炭を用いている点も面白い。

敢えて言うなれば、塩気を少し落とし、魚への火入れを弱めても良いように感じた。

f:id:edomae-sushi:20180618204944j:plain

石川酒造場・玉友甕仕込み10 Years Old

度数は高いが、甘みと旨味のある古酒で、この甘みが揚げものに合う。

f:id:edomae-sushi:20180618204950j:plain

主鉢

今帰仁アグーのすき煮、きのこ、金時草、華蕃茄。

こちらも目の前での即興調理をして頂く。

f:id:edomae-sushi:20180618204948j:plain

f:id:edomae-sushi:20180618204949j:plain

まず、香りが席まで届くピパーチ(ヒハツモドキ)にビックリ。

f:id:edomae-sushi:20180618204946j:plain

糸満産の自家製との事だが、甘い香りが印象深く、気持ちの良いピリリとした辛みを味わわせる。

本当に香りが良い。

f:id:edomae-sushi:20180618204945j:plain

そして、今帰仁アグー。

これはそもそも「アグー豚」とは全く異なる。

「アグー豚」は在来アグーと西洋種を掛け合わせたものだが、今帰仁アグーは純系島豚の掛け合わせであり、生産者の高田勝さんが絶滅寸前から復活させた豚である。

最大の特徴は脂身の旨味の強さと融点の低さ。

口に入れると直ぐに旨味が充満する豚肉だ。

脂身はぷりっとした食感でダレてはおらず、濃厚な旨味と甘みが広がり、口の中でトロトロ溶ける脂には感動するばかりだ。

それでいて身の方は力強い繊維質があり、野趣ある香りに魅了される。

「島豚」の名から想起される野性味も楽しませてくれる。

ハンダマの苦み、トマトの甘みなど、野菜が名脇役を演じる。

他には生キクラゲ、エリンギ、シメジ、ヒラタケ、クロアワビタケなど。

割下は鰹も醤油も非常に強く、甘みも付けられている。

非常にしっかりした味付けなので、この辺りは好みを分けるかもしれないが、個人的には沖縄らしい味わいを表現されていると思えば良いように思う。

f:id:edomae-sushi:20180618204947j:plain

残波限定古酒

これは香りが良い!味わいもビシッと引き締めてくれる。

f:id:edomae-sushi:20180618204951j:plain

氷菓

宮古島産のメロンを用いた果汁氷で、クインシー種。

塩気を付けて甘みを引き立て、青みがあり爽やかな香り。

控え目に、しかし効果的に口直ししてくれる。

f:id:edomae-sushi:20180618204952j:plain

〆の逸品

ここで冒頭の全粒粉に他2種類をブレンドして打った沖縄そば。

頂いてみると、甘くてビックリ!!

そして、艶めかしい口当たりに、力強い食感。

出汁は鰹が力強く、香りも旨味もパワフルだ。

他には豚、貝類で出汁を取っているのだろうか?

上品さと力強さを兼ね揃えており、存在感のある一杯。

丼サイズではなく椀サイズで大変な印象を与えてくれる沖縄そば。

「沖縄そば懐石」を謳う説得力を感じた。

f:id:edomae-sushi:20180618204953j:plain

久米仙酒造・樽熟成「沖縄」20年

凄い古酒!笑

味わいはウィスキーっぽいが、甘みはウィスキーよりも強い。

そして、キレがあり、香りも楽しめる新境地の蒸留酒。

多重層的に織り成しながら余韻に向かう点が魅力で、それも一口一口ごとに感じさせる点はドラマティックの一言。

f:id:edomae-sushi:20180618204954j:plain

甘味

紅芋餅。

紅芋の餡は甘みがしっかりで、満足度が高く、香りも良い。

餅の歯切れが良く、伺ったところ葛と黒糖で作られていた。

1万円のコースに古酒のペアリングとビール、

樽熟成「沖縄」20年を付けて18,000円ほど。

お酒も楽しむと高くなるが、こちらでしか頂けないお酒が多いので、

食材と合わせて一期一会の喜びを与えてくれるお店だと感じました。

店名:沖縄そば懐石 尊尊我無(おきなわそばかいせき とうとがなし)

予算の目安:夜8,000円〜、昼の沖縄そば懐石3,000円~、ランチ三枚肉そば750円

最寄駅:牧志駅から1,100m

TEL:098-996-1159

住所:沖縄県那覇市樋川2-16-15

営業時間:11:00〜15:00、18:00〜22:00

定休日:水曜

※昼夜のコース料理は完全予約制となります(夜は最大4組まで)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA