こんにちは、発酵大好き鮓ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
さて、遠野にある「とおの屋 要」さんは今や広く知られ、グルメな方々が憧れる名店となりました。
自身が伺った際(2016年=お店開店から5年後)には世間では無名でしたが、尊敬する食通の方にお連れ頂いて訪問が叶った次第です(当時はネットで検索してもほとんど情報がヒットしませんでした)。
そして、その方が絶賛する理由を衝撃とともに実感しました。
他の料理人の影響を受けておらず、我流で素晴らしい領域に到達されていたので。
自ら田を耕し発酵と醸造を駆使する佐々木 要太郎さんの姿勢に感銘を覚え、これぞ和食の最先端だと感じたものです。
ただ、こちらは紹介して頂いた方から「秘密にして欲しい」と言われたため、再訪しても長年秘密にしていました。
しかし、その方がネットに書かれたので、自分も記事にまとめたいと思います(それでも結構寝かせてしまいましたが…)。
東京の人気日本料理店の多くが油脂と過剰な旨味を多用する昨今。
しかしながら、和食の本質的な持ち味は発酵が生み出す旨味と複雑な味覚。
そこに今後の可能性があるのは間違いありません。
海外のイノベーティブ系レストランのシェフに再解釈されて魅力を再認識するのは遅すぎる筈。
ご主人の佐々木 要太郎さんは自身に多大な刺激を与えてくれた料理人の一人です。
僕が鴨のナレズシや魚醤、伝統的な漬け物、各種発酵食品を作る原動力を頂いたのは間違いありません。
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それでは、「とおの屋 要」さんの魅力をご紹介します。
ご主人の佐々木 要太郎さんは他店での修行経験はなく、ご尊父と辻嘉一氏の『懐石傅書』から料理技術を学ばれた方です。
著書である『遠野キュイジーヌ』によると、尊敬する料理人は「虎屋壺中庵」の岩本さんとの事。
そして、ご自身が作られる御料理のみならずお酒は、他の誰とも異なります。
御料理だけでなく、ご自身で造られる【どぶろく】も多大な魅力がある為、パートを分けてお届けします。
「とおの屋 要」さんの魅力については、発酵と「ここでしか体験できない世界観」に尽きます。
「世界観」の中には発酵も内包されますが、敢えて「発酵が魅力」と明言したくほどに御料理に発酵調理が馴染んでいるため特筆します。
佐々木 要太郎さんは、土地に根付いた発酵文化と独自の感性を組み合わせる事で、発酵食文化と日本の食文化のその先に進めておられる点が凄い。
初めて訪問した際に、語弊無く「偉業」だと感じました。
「型」があると「取り合わせの固定観念」や「(市場が定める)食材のクオリティ」に寄ってしまうところ、要太郎さんにはそれが無く、あくまでもご自身のセンスとバックボーンの文化に基づく御料理なので。
都会では市販の発酵調味料を使っているだけで「発酵料理人」を名乗る人がいますが、発酵は自分でゼロから生み出さなければ本物ではありません。
…このように述べると口うるさいと思われがちですが、言っている方が変に思われる世の中なので、口うるさくとも敢えて明言したい由。
さらに要太郎さんは集客のために発酵技術を採り入れるのではなく、場の環境を活かして発酵を行っている点も大きな違いだと言えます。
よって、個人的には、発酵の本質が分からないと「とおの屋 要」さんの魅力には気付けない気がします(実際に、レビューを見ると、都会の流行りの料理が好きな人はミスマッチを起こすようです)。
裏を返すと、味覚が鋭敏な方や、その土地ならではな御料理が好きな方、自らも個性的な御料理を作られる方、他では頂けない御料理が好きな方(=他との違いが分かる方)であれば、間違いなくヒットする筈です。
なにせイマジネーションを刺激されるのでワクワク感が高まり、味覚の裏切りにハラハラする御料理なので。
いわば「真に料理好きな人のための御料理」であると感じます(要太郎さんは決してそんな意図を持たず、ナチュラルに感性に従った作られているように思いますが)。
余談となってしまいますが、世の中の食文化が安易な方向に走った結果、発酵食品の魅力を感じ取るには、食の経験や確かな味覚が必要な世の中になってしまったように感じます。
分かりやすい例が、漬け物です。
もとは乳酸発酵が伴い、複雑な味覚と香りを楽しませてくれるものですが、現在は調味液に漬けた工業的で平板な味わいの漬け物が主体になっています。
それに伴い、乳酸発酵を行った真っ当な漬け物に苦手意識を持つ人が増えていますが、これは時代の変化ではなく味覚の退化に過ぎないのではないでしょうか?
漬け物以外についても顕著で、「強い旨味」と「強い脂」の足し算を好む人があまりにも増えすぎですが、「分かりやすい味」に感動はありません。
感動は奥深く複雑な味に宿るものです。
本質的に発酵食品は家庭にあるものなので、敢えて言語化しないといけない点が問題なのですが、最近のネット社会は「分かりやすい味」ばかりに注目が集まる為、意識的に脱却して「深みのある味」を探求する人が増える事を願うばかりです。
お店を訪問した時に「お店の料理の本質」ひいては「料理人の世界観」に触れるためには、自身の味覚と食の経験を相対視して、常に学ぶ姿勢が必須だと感じます。
最後に、佐々木 要太郎さんには好きな言葉があるそうです。
一流の料理人は最高な食材を使って、最高な料理をつくる。けれども、超一流の料理人は、そこにある食材で、最高の料理をつくる
『遠野キュイジーヌ』より
僕は食べ手として「超一流の料理人」の御料理こそ食べ続けたいと願うばかりです。
そして、「とおの屋 要」さんを知る上で忘れてはならないのが、自家醸造の【どぶろく】です。
僕は初回訪問時に「最高に美味しいどぶろくだ!」と、感銘を覚えました。
今でこそクラフトサケ醸造所が脚光を浴びており、美味しいどぶろくが多数リリースされていますが、その頃は野暮ッたい昔ながらのどぶろくも多々ありました。
よって、お米の粒感=存在感をハッキリと残しつつ、甘味や酸味のバランスから「上品」あるいは「スタイリッシュ」と感じさせる「とおの屋 要」さんのどぶろくは、「ワインとも勝負できる銘酒だ!」と確信させてくれました。
期せずして、2017年にスペインで最も有名なレストランの一つ「ムガリッツ」で、「とおの屋 要」さんのどぶろくを用いたコースが新設されたと聞いた時は、心から納得しました。
本当にお米だけで造られているの!?と思うほどに良い香りで、味わいに雑味がなく、それでいて奥行きのある美味しさなので。
なので、「とおの屋 要」さんを訪問される方は頼むのをお忘れなく!
サブブログで記事を書いておりますので、より詳細を知りたい方はご参照ください。
どぶろくだけでなく、新たな醸造酒も次々と造られているので、日本の醸造酒を知る上でも今後目が離せません。
「とおの屋 要」さんは、現在は御料理のみの予約は受け付けておらず、一泊二食付きのご宿泊のみとのことです。
そして、価格については時価ですが、目安としては1人55,000円(税サ別)の模様です。
下記については、2020年7月下旬に訪問した際の記事です。
笹森さんのマルヴァジア2019
青森の名店「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」の笹森さんが自ら育て醸造するワイン。
コシヒカリを使用した自家製どぶろく
鮮烈な香り!
そして、酸味と苦味のバランスが絶妙!
ピリピリと活きが良い発泡性もクセになる。
サケディプロマを取得前の訪問だったのが残念だ(笑)
今ならもっと詳しい認識が出来るのだが…
あしらっているハーブはミント。
岩魚の身はしっとり、ホロホロとした食感で、じっくりと炊いている。
頭の部分には野趣を感じさせる。
天然モノの岩魚は決して多くはないので、非常に嬉しい一品目。
極めてリアルなジャガイモの見た目の再構築に笑顔が誘われる。
ジャガイモの香りが良く、パニール(カッテージチーズ)とは面白い組み合わせだ。
玉ねぎに加えて、辛味のある漬け物(だろうか?)の微塵切りを加えている点が非常に良く、味の幅が広がっている。
素朴な見た目とは裏腹に印象に強く残る一品。
納豆と梅干しの梅肉餡とはストレートに心に刺さる取り合わせだ。
納豆の甘味、旨味、香り、そして更には苦味を活かしながら、飛竜頭のようにまとめている。
卵黄のコクと梅干し餡の上品な酸味が調和。
薬味はネギで、さらに極小さくダイスカットされた大根の味噌漬けもアクセントになる。
夏の名物だと思われる一品で、一般流通していない大船渡産の海鰻の焼きもの。
手前は鰻の煮凝り。
頂く前から鰻の香りがぶわっと広がる!
かなり肉厚な鰻で、身はむっちりしていて脂がねっちりと絡む。
香りが強烈な雄々しさで甘美にすら感じる。
これぞ天然モノの鰻だと。
繊維質はみっちりしていて、もぎゅっと弾力を覚えた後に、しゃくりとほどける。
皮はバリバリッ!
熱源は炭だろう。
実に食感の良い鰻の焼き方である!
繊維質の表現が独特だ。
肉の漬け物(つまり鮓)とは感銘を覚える。
スパイシーで旨味が強い。
山椒と馬告を合わせたような爽やかな香りが持ち味で、確かに麻もある。
納豆のような発酵香も堪らない。
帆立は脱水されていて、食感はみっちり、ねっちり。
旨味と甘味が強化されて感じる。
鮑もまた大ぶりながらに柔らかい。
ぷりっぷりした身を噛み締めると、香りが込み上げる!
野菜の糠漬けも美味しい。
魚介類を米糠に漬けてから揚げるとは、斬新な天麩羅だ!
酸味の理由は豚肉のナレズシだ。
豚肉のひき肉を炊いたお米、塩、実山椒で乳酸発酵させて作る、日本では非常に珍しい(存在となってしまった)肉を用いた鮓だ。
酸味が効いた豚肉とコクの強い豚肉の組み合わせは面白い。
後者はらふてーのようにさえ感じる。
卵のコクと合い、調理法の必然性を感じる。
ナレズシには山椒の香りが加えられている。
初訪問時に頂き感銘を覚えたが、最後頂いても実に美味!
海胆の甘味を再構築している。
焼きマツモの香ばしさ、椎茸の旨味、紫蘇やネギの薬味の爽やかさなど、味わいと香りの多様性が感動に導く。
以前は「ウニ」単体で出されていたが、餡と合わせる事で味を広げるとともに親近感も高めていると感じた。
中心に添えられているのは、天然モノのハタケシメジとキクラゲ、トマト、挽き肉、チーズを使用したもので軽い酸味がある。
豚肉は表面をカリッと香ばしく、中はジューシィに仕上げている。
豚肉がメインの食材として十分に成り立つ事を力強く証明するプレートだ。
実山椒は香りも痺れも申し分無し。
自家製玄米の出汁炊き雑炊。
驚くなかれ、添えられているのは鰹の内臓に漬け込んだ海老だ。
このような味の表現があるのか…と、心から感銘を覚えた。
日本料理で脂過多なお食事を出されたり、何品も出されたりする流行は、早晩沈静化して頂きたいものである。
その方、その土地、そのお店でしか表現できないご飯こそが真のおもてなしだろう。
「とおの屋 要」さんの朝ご飯について、ご紹介します。
和食のメインディッシュであるご飯。
お米の品種は遠野一号で、炊飯器材の釜は南部鉄器製。
カリフラワーと紫キャベツの茹で胡麻油和え、ワカメと大根おろしの和えもの、虎河豚のナレズシなど。
虎河豚のナレズシとは嬉しい限りだ。
朝ご飯から独自あるいは郷土の発酵食品を頂けるのは本当に幸せである。
さらに、イワナの一夜干しと2016年仕込みの4年熟成の唐墨。
そして、デザートも個性的だ。
合わせているクリームが面白く、自家製どぶろくを酢酸発酵させた【どぶ酢】のクリームをスモークしたもので、スグリを添えて。
オーベルジュの朝ご飯は、泊まった人しか味わえない贅沢な食事。
朝の散歩で土地の空気を味わってから頂くと、喜びがひとしおである。
多くのオーベルジュと同様に、「とおの屋 要」さんも早めにチェックインして周辺を散策するのがオススメです。
外観は趣深く、内装はモダンです。
宿泊は一棟貸しなので、お食事以外の時間も優雅に過ごせます。
土地の空気を吸って、お風呂に入り、お食事を頂く時間は人生の喜びを感じる瞬間です。
「とおの屋 要」さんの予約については、2ヶ月前から可能となっています。
ただ、一日一組限定と言うこともあり、現在、難易度が非常に高くなっているそうです。
お電話もしくはWEBに記載のメールアドレスで、空いているお日にちを照会する手段となります。
店名:とおの屋 要(とおのや よう)
予算の目安:時価(1人55,000円・税サ別が目安)
TEL:0198-62-7557
住所:岩手県遠野市材木町2-17
最寄駅:遠野駅から650m
営業時間:チェックイン・チェックアウト16:00・10:00、夕食の開始時間18:00~19:00
定休日:不定休
文中で言及した徳島の「虎屋壺中庵」さん
すしログ日本料理編 No. 46 虎屋壺中庵@佐那河内(徳島県)佐々木 要太郎さんの著書『遠野キュイジーヌ』
佐々木 要太郎さんの座右の書である辻嘉一『懐石傅書』(僕も持っていますが、言わずもがな名著です)
発酵と醸造に魅了される、すしログ(@sushilog01)でした。
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