小浜から大原経由で京都へと続く、鯖街道。
朽木谷のあたりは独特の食文化、郷土料理が残っているエリアですが、界隈で突出した知名度を誇っているお店は、間違い無くこちらでしょう。
世間的に超有名になったのはここ数年内のように思いますが、実は1959年(昭和34年)創業と言う、老舗中の老舗。
10年ほど前から訪問したかったものの、近年余りにも人気が高くなったため、腰が重くなっておりました。
今回は、その反動あってかシーズンに2回訪問すると言う荒行(笑)
2ヶ月おいて、こちらご自慢の熊肉を堪能させて頂きました。
ちなみに、「型」が決まっているコースなので、2回訪問して楽しめるだろうか?と言う不安も実はありました。
しかし、鍋以外の料理が結構異なっていたので、不安は杞憂に終わった次第です。
お店は森の手前で威容を誇っており、夜に伺うとあたかも「千と千尋」に出てくる建物のようです。
店内はイメージとは裏腹にリフォームされており綺麗。
こちらの代名詞となる熊肉を用いた【月鍋コース】は20,000円。
サービス料15%が加算された後に税金が掛かるので、実際は料理のみで24,840円となります。
エリアを考慮すると突出した高級価格。
しかし、熊肉のクオリティは抜きんでており、肉質的にも調理的にも、他では味わえない魅力があるのは間違いありません。
料理の詳細は後述しますが、紛れも無く脳裡と舌に焼き付く味わいでした。
そして、味と共に感銘を覚えたのが、ご主人の熊肉処理への探求心。
特別な血抜き方法を10年かけて考案され、しかも、その方法を様々な猟師に伝播されております。
「におい」が臭みにも香りにも成り得るのが、血抜き。
繊維質の食感や旨味にも影響を及ぼしますが、大半の方がジビエ肉を苦手になる理由は、臭みなのではないでしょうか。
僕も幼少の頃に頂いた猪は臭みが気になり、長い間ネガティヴなイメージを抱いておりました。
なので、ご主人の心意気に感銘を覚えた次第です。
また、2回お伺いしたからこそ実感出来た事として、熊は個体差が非常に大きいと言う点があります。
初回と2回目で味、香り、食感が異なり、これは貴重な発見でした。
個体差が大きい以上、地域のみならず、〆方、処理、時期なども味に影響するのは自明。
野獣肉と言うのは、奥深い食材だと再認識しました。
尚、熊肉自体の美味しさで言うと、冬眠・冷凍前の11月末のものが上を行きました。
脂の旨味、香り、口溶けなど、全てが1月よりも上でした。
以上の通り鮮烈な印象を覚えたお店なのですが、一つだけ気懸りな点はサービス。
初回に伺った際、鍋のオプション具材として松茸を薦めてこられたのですが、尋ねるまで価格を名言されなかったのは残念なところ。
松茸は山口県産で「今の時期は貴重」との談でしたが、傘が開き、軸が細く、水分が飛んでおりました。
明らかに一日以上前に採られたものでしたが、価格を伺ったところ、「100g15,000円程度」との事。
グラム価格では総額が分からないので、総量も伺ったところ、「250gくらい」とのご回答。
つまり、サービス料と税金を加えると、250gで46,575円。
キロ換算すると186,300円もの松茸となってしまうので、お断りさせて頂きました。
折角、御料理の味わいが美味しいので、オプション料金は誠実に伝えられた方がベターかと思います。
以下、2回分を立て続けにご紹介致します。
八寸
右上から天然舞茸と菊花の酢の物、鮎のナレズシ、青干しゼンマイの寿司、アマゴの稚魚の南蛮漬け、松茸の旨煮、栗の天麩羅、銀杏とむかご、鹿肉のロースト。
酢の物は酢の強い酸味に加えて、柑橘の酸味も付加している。
同時に、アマゴの酸味も強いので、酢の使用量はお店の特徴だと感じた。
個人的にヒットしたのが、青干しゼンマイと鮎のナレズシ。
鮎のナレズシは旨味が強く、卵の風味や食感も楽しませてくれた。
お造り
鯉のお造りと、鰻の焼き霜造り。
あしらいは黄人参と万木蕪(ゆるぎかぶら)。
鯉は比良の水で半年間、泥を吐かせたものとの事。
非常に強い旨味で、臭みは皆無。
京都のなかひがしさんと双璧を成す鯉の造り。
鰻は脂が中々に強く、これは炙りで旨味を活性化し、強めの燻蒸を付ける仕事が奏功している。
なお、酢味噌は酢の塩梅が優しく、非常に上品な味わい。
子持ち鮎の焼きもの
あしらいはミズ。
もの凄い卵の量に驚くと共に、しっとりした焼き加減に満足。
これは鮎の旬にも伺ってみたくなった。
続いて鍋に移ります。
鍋は中川一辺陶(信楽雲井窯)さんの特注鍋。
炭火なので、周囲に良い香りが広がります。
レンゲなどの食器は寺地茂(京都WESTSIDE33)さんのもの。
美しい熊肉!!これは否応無しにテンションが上がる!
極薄だが、なんと手切りとの事。
当地では11月1日に解禁となり、本日(11月下旬訪問)のものは夕方に締めた熊であった。
野菜は芹、クレソン、九条葱など、全て地のもの。
キノコは原木栽培のなめたけとひらたけ。
熊
圧倒的な脂の旨味。
そして、口の中で瞬時にとろける。
赤身部分は野趣に満ちている。
余韻が圧巻。
また、こちらの熊鍋を最も特徴付け、人によっての評価を分ける点が、蜂蜜の使用。
頂く前は少々不安があったが、蜂蜜が熊の脂を包み込みつつも、脂の甘みが超えてくる。
そして、脂は粒子のキメが細かく、すぐに弾けて溶けるため、ベッタリとまとわりつくところが皆無。
よって、程良い量の蜂蜜と調和する。
熊の塩焼き
赤身でありながら、思ったよりも歯切れが良い。
また、熊の赤身としては香りも上品。
最後にふわっと漂う熊香は、あたかもナッツ的。
赤身を頂くと淡白な印象を受け、脂の凄さを再認識させられる。
猪鍋に向けて、味噌味にシフト。
雑茸(ぞうたけ)
アミタケやナメタケを塩漬けにして、冬を越すための保存食。
猪鍋
ぷりっとした脂は、口に含むととろけゆく。
脂は熊よりも濃厚であった。
猪にはクレソンを投入。
トチモチ
作るのが面倒な事で有名なトチモチ。
しかも、大振り。
通常のお餅よりも嬉しい。
三輪うどん
鍋の〆のうどんは、煮込み過ぎないのががセオリーだが、三輪のうどんについては、煮込んでももっちりしているので、育った鍋のツユを満喫すべく、煮込んだ方がベターである。
安曇川のお米
小粒なお米で、適度にもっちりしている。
炊き加減は硬め。
雑炊ではなく、汁掛けにすると美味しかった。
水菓子
栗のアイスクリームと山の冬苺。
ラム酒を軽く用いているところが魅力!
続いて2回目の訪問です。
結構な違いがあり、面白かった。
個人的に、純粋な「肉質」以外の「料理」に関しては、2回目の訪問の方が琴線に触れました。
八寸
近江富士を模した皿に、初日の出をイメージした梅干し。
鯉の子、味噌漬け大根、松茸の旨煮、鮎のナレズシ、川海老、チョロギ、鹿肉のロースト。
川海老は甘く、香りも楽しめる。
最も面白かったのが、今回も鮎のナレズシ。
旨味が実にしっかりしてる事は前回同様だが、酸味がかなり高くなっている点は魅力的であり、旨味と酸味のバランスが個人的にはヒットした。
中でも意外だったのは、チョロギ。
着色料を用いる事に加えて、カリッと仕上げる事が多い素材だが、優しい酢加減で、ほっくりとした食感に仕上げていた。
そして、大根の味噌の塩梅も優しく、前回の酸味が強い八寸よりも端正な印象を受けた次第。
唯一、鹿肉のローストがモソッとした食感であったのが残念。
お造り
前回と同様に鯉と鰻。
あしらいは紅芯大根、万木蕪、黄人参、二十日大根、壬生菜、三ツ葉。
鯉はぷるぷる、パツパツで心地良い食感で、矢張り旨味が強い。
鰻もまた安定の仕事。
黄人参の甘みが前回よりも強くなっていた点は嬉しい!
それでいて、人参特有の香りは優しかった。
鯉の白子の蒸しもの
餡は香茸を用いた餡。
大変創作的な一品だが、味の完成度は高い。
みっちりした濃密な食感に、濃厚な旨味。
白子のクセは無くない、あたかもクリームを用いて蒸したかのよう。
香茸は香りが強過ぎず、良きアシスト。
生姜も抑制を加えている。
熊鍋
先ず、前回はやらなかった常温でツユをテイスティング。
すると、殊の外、鰹がしっかり利いており、甘みも強い。
熊と頂くのとは異なる印象を抱き、熊との相性の高さに、秀逸なツユである事を改めて実感する。
熊肉は、ひたすら旨味が強い。
ただ、11月末の〆て間も無いフレッシュなモノよりも、脂の溶け加減ならびに赤身部分の柔らかさは下を行くか。
但し、異なる野菜を順次投入する事で違う楽しみを演出してくれるため、魅力は大きくは色褪せない。
そして、野菜については冬が深まった方が美味。
特に、ネギは香り豊かで甘い。
熊の脂を纏った菊菜、うぐいす菜も美味。
熊の塩焼き
今回は前回よりもしっかりした食感で、身が引き締まっていた。
そして、熊の香りがかなり強い。
前回のナッツ香と言うよりは、熊の香り。
よって、山椒で頂くとバランスが良かった。
猪鍋にシフト。
猪
熊肉とは裏腹に、今回の猪は前回よりも上。
脂の歯切れが極めて良く、美味!
脂が甘〜く、香りは上品。
自然薯雑炊
2018年の新作との事だったが、これは素晴らしい料理だった。
こちらの熊肉、猪肉の鍋の総合芸術とも言うべき逸品。
とにかく圧巻の旨味!
煮詰まっていても塩気や甘みが強まりすぎていない点も良かった。
そして、複合的なとろみも楽しい。
肉のゼラチン質、自然薯は勿論、トチモチやお米の粘度が加わり、濃密で甘美。
根底に上質な脂の存在感がひたすら在り、感動した。
尚、自然薯には卵を溶いて混ぜている為、火が入ると甘みが活きてくる。
水菓子
金柑のシャーベット、山の冬イチゴ。
金柑は皮ごと用いられており大人の美味しさがある。
店名:比良山荘(ひらさんそう)
食べるべき逸品:月鍋
予算の目安:月鍋のコースは税サ込24,840円
最寄駅:なし、京都駅から車で60分程度
TEL:077-599-2058
住所:滋賀県大津市葛川坊村町94
営業時間:11:30~14:00、17:00~19:00
定休日:火曜
※完全予約制です
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