すしログ日本料理編 No. 45 松川@六本木一丁目

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料理人の方や料理研究家の方の話題に上がる事が多く、世間的にも「東京一の日本料理」としばしば言われる名店。

訪問したくても、完全紹介制で一見客は立ち入れないので、半ば諦めつつ時が経過しておりました。

しかし、この度ありがたいお誘いを頂き、訪問の機会を得る事に。

完全紹介制のお店に限った事ではありませんが、人と人との繋がりで食の幅が広がるのは本当に心からありがたく感じます。

結局、美味しいものを食べるという事は、人と人との繋がり無くして成し遂げられないのだと思います。

 

こちらのお店は話に聞いていた通り、素晴らしい立地にあります。

国会議事堂や首相官邸の近くで、隣はアメリカ大使館。

東京、いや日本の心臓とも言える場所の閑静な一角に佇んでおります。

それでいて2011年のオープンから5年ほどしか経過していないというのは凄い事です。

そして、お店の外観はモダン。

店内に入ると外観とは裏腹に渋さを帯びた木の質感に彩られた小体なカウンターがあり、お店に漂う雰囲気は非常に凛々しい印象を抱きました。

 

ご主人の松川氏は滋賀県の招福楼出身。

京都の名店の料理人も輩出している招福楼なので、東京で京料理をどのように表現されているのか?と思っておりましたが、供される料理は純然たる京料理とは異なりました。

出汁の取り方、食材の取り合わせ、薬味のあしらいなどに松川氏のセンスを感じさせ、既存の日本料理を一歩先に進めた印象です。

日本料理の中で更なる引き算をされ、華を加えた料理。

引き算をする事は口で言うは易く行うは難し。

下手すると、「素材に頼り切った」料理になってしまいます。

こちらの食材も一級品が目白押しでありますが、昨今ありがちな「素材自慢」ではなく、ご主人の料理を成就するために一級品の食材を揃えたと言う印象です。

ここまでの素材を集め、穏やかながらに艷と華のある料理を繰り出されるのは圧巻だと感じます。

特に出汁の完成度は非常に高く、自身の好みにも合致しました。

 

ただ、その反面、端正な料理であるが故に料理に対する好みがダイレクトに出てしまうのは必定…

僕が頂いた中では、幾つかの点が気になってしまいました。

具体的には、

1. 椀の吸い地は良いものの、吸い口が使用過多である点
2. 鮎の火入れが強すぎて、繊細な繊維質を損ねていた点
3. 牛肉を出す点

の三点。

料理の詳細は後ほど記述しますが、自身の好みから外れる要素が三つ入るというのは少々厳しかった。

しかも、椀の吸い口と鮎の火入れは基本的な事なので、名声に比して疑問符が頭に浮かんだ次第。

そして、牛肉は、牛肉を食べたい時は肉屋に行きますので、日本料理店では極力出さないで欲しい。

出すとしても、味付けやソース、食べ方に個性的なプレゼンテーションが欲しい。

まあ、この辺りは自身の日本料理に対する嗜好によるところが大きいので、あくまでも個人的な理由です。

 

この度頂いたコース内容。
・赤海胆と鼈のジュレ
・蒸し鮑の焼きもの、くちこ
・海胆とアマテガレイのお造り
・オコゼの椀
・毛蟹と生キクラゲ
・鰈の焼きものとキャヴィア
・鮎の焼きもの
・牛肉の焼きもの
・賀茂茄子
・鱧のしゃぶしゃぶ
・フルーツトマトの酢のもの
・笹の冷麦
・鰻の焼きもの
・ご飯、赤出汁、香の物、イクラ、生唐墨、ちりめん山椒

頂いた料理は下記の通りです。

食事の前に香煎が供されるところは嬉しい。

特に夏の暑い日でしたので、涼を取る事が出来ました。

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尚、頂いたお酒は朝日酒造の洗心(純米大吟醸)と黒龍しずく(大吟醸)。

ともに日本を代表する高級日本酒であり、お店の風格に合ったラインナップ。

 

赤海胆と鼈のジュレ

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鼈の旨味と香りが非常に良く、海胆の甘みに寄り添う。

海胆は唐津産で、素晴らしい甘み。

現地でも頂いたが、東京で頂けるクオリティとは思えない超一級品。

 

鮑の焼きもの

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流石に上質な鮑を用いておられ、ゼラチン質と香りが圧感。

蒸した後に焼いており、独特の食感を楽しめる。

肝のソースも肝の持つ甘みが活かされている。

これは蒸し鮑と異なる食感と風味の伝達が面白い。

くちこもかなり厚めで美味。

なお、ソースには少量のご飯を入れて頂きました。

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海胆とアマテガレイのお造り

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アマテガレイは淡路産。

 

オコゼの椀

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椀種はオコゼであり、さしこみは湯葉。

前述の通り、椀の吸い地は良いものの、吸い口が使用過多である点が残念。

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具体的には、非常に穏やかながらに存在感のある出汁で、じんわりと甘みが広がり心が安らぎを覚え、旨味と塩分のバランスも好みなのだが、如何せん生姜が大量過ぎて、キツ過ぎる。

生姜の香りと辛みが折角のバランスを乱してしまっている。

吸い口の本来の役割を遥かに逸脱し、オコゼの甘みを打ち消す役割を担ってしまっていた。

 

毛蟹と生キクラゲ

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噴火湾産の毛蟹。

ジュレの扱いが巧いなと再認式。

出汁や酸味のバランスに長けている。

生キクラゲの状態が非常に良く、印象に強く残る。

 

鰈の焼きものとキャヴィア

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キャヴィアは嫌味になっていないものの、鰈との付け合せとは…。

魚の選択に少し疑問を抱く。

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鮎の焼きもの

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京都・美山の鮎と滋賀・安曇川(あどがわ)の鮎の食べ比べで、しかも活鮎。

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大変面白く、テンションが上がるも、美山の方は火入れが強くボソボソ。

焼き過ぎである。

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安曇川の方は異なる火入れだったのがせめてもの救い。

甘みが強い鮎で、香りは豊かな緑を思わせる。

安曇川の鮎に出会えた事が嬉しかった。

 

牛肉の焼きもの

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牛肉と山椒。

牛蒡が味わい深く、美味しい。

 

賀茂茄子の焼きもの

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これは秀逸。

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じっくりと焼き、とろっとろの食感と、強い甘みを楽しめる。

焦げの香りと茄子の香りと甘みが協奏し、野菜とは思えない深い味わいに。

 

鱧のしゃぶしゃぶ

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これは白眉。

利尻昆布を非常に強く利かせた出汁が素晴らしい。

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鱧は出汁に負けず、ジワジワと旨味を滲ませる。

好みの火入れで頂くと、軽やかで上品な鱧の旨味が横溢し、香りも鼻孔を優しくくすぐる。

食感も絶妙で、これはひとえに包丁の技が成すところ。

出汁は濃くなっていくので、味の変化がとても楽しい。

 

フルーツトマトの酢のもの

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毛蟹に使用していたジュレ。

素敵な箸休め。

 

笹の冷麦

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七夕月ゆえの特別冷麦。

氷から削り出した器が清涼感をアップ。

酢橘を利かせたツユは出汁と共に非常に美味。

冷麦は力強い食感。

 

鰻の焼きもの

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宍道湖産。ベストな火入れではないけれど中々美味。

 

ご飯

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いくら、唐墨、ちりめん山椒と一緒に頂く至福のご飯。
唐墨とちりめん山椒が非常に素晴らしいクオリティ。

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唐墨はしっとりと仕上げ、一般的なねっちりした食感は無く、明太子のようにサラリと頂ける。

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ちりめん山椒もまたしっとりと上品な口当たりで、個性を感じさせる調理。

 

水菓子

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水羊羹。消え入るかのような淡い食感が秀逸。

 

お酒を2合ほど頂き、サービス料込みのお会計は39,800円。

全国屈指の食材を一同に集め、東京屈指と言われる技で構築された料理は見事かと思います。

前述の瑕疵を考慮してもそのように感じます。

しかし、個人的には食材の質よりも仕事の妙で楽しませてくれるお店の方が琴線に触れる事が分かりました。

そう、松川さんは天才すぎて、自身にとっては変態性が足りないのかもしれません。

とは言え、訪問出来たのは心から嬉しく、屈肢の料理人とされる方の味を噛みしめられたのは心からの幸せでした。

 

店名:松川(まつかわ)

食べるべき逸品:東京随一の素材と、華のある端正な日本料理。

予算の目安:35,000円~

最寄駅:溜池山王駅から300m、六本木一丁目から500m

TEL:03-6277-7371 ※完全予約制、紹介制です

住所:東京都港区赤坂1-11-6 赤坂テラスハウス1階

営業時間:12:00~15:00(木・金・土のみ)、18:00~22:00

定休日:日曜、祝日

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