こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
さて、かつて台東区根岸に存在した伝説のお店「高勢」。
今は知る人が少なくなってきましたが、驚きのエピソードが多数ある鮨店です。
バブル期には毎晩お店の前に黒塗りの車が停まるようなお店でしたが、親方が投資に失敗してバブル崩壊と同時に閉店…という、ある時代を描写する逸話があります。
そして、その系譜で現存するお店の一つが、こちら「大塚高勢」さんです。
すしログ
親方は現在2代目のようですが、物腰が非常に穏やかで素敵な方。
誰もが安心して寛げる鮨店です。
ベテラン職人さんなのに、8年ぶりにお伺いして腕を上げられていたところに、鮨職人の矜持を感じました。
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「大塚高勢」の魅力と系譜について
まずは「高勢」の系譜について、ご紹介します。
過去に浅草の「橋口」さんの記事でもまとめましたが、以下の通りです。
- 高勢(根岸):1926年(大正15年)創業。バブル期には政財界や球界御用達の鮨店であり、「座るだけで1人5万円」と言われる「日本一高い鮨店」であったが、2代目(職人ではなく経営者)が不動産投資に手を出しバブルの崩壊と共に閉店
- 高勢(浅草):通称「二号店」で、現在はご子息が「浅草 貴乃」として運営
- 明 高勢(旧店名:和びすとろ鮨 明):2010年創業。高勢3代目のご子息、現存
- 浅草高勢:2014年創業。新高勢で修業、現存
- 大塚高勢:1963年創業。高勢(根岸)初代に弟子入り、現存。2019年に移転リニューアル
- 新高勢(象潟):高勢2代目のご子息である高勢3代目が営んでいたが、2016年にご逝去され閉店
- 橋口(先代橋口親方):2004年創業。新高勢で修業された名職人だが、2017年にご逝去
- 橋口(2代目・奧親方):新高勢で修業し、橋口に入店
- 鮨 奥:2021年創業・奥親方が独立
なお、「高勢」のシャリは米酢ですが、「鮨 奥」の奥親方は「橋口」時代から赤酢のシャリを切っておられます。
「大塚高勢」さんの魅力は、確かな江戸前仕事を押さえた上での独創的な仕事、だと思います。
〆ものは抜群に美味しく、人気店の若手職人さんにも食べて頂きたいほどです。
もちろん煮ものも古法にのっとった粋な仕事。
それでいて、昔は独創的であった炙りなどを巧みに組み合わせます。
そして、使用している塩にも気を払い、薬味も穴子には黄柚子を、蝦蛄には青柚子を使い分けているところも素晴らしい。
山葵については今も昔も紛れも無い本山葵で、細かくすりおろされています。
これは初めてお伺いした2014年にも感心したところ。
一気におろす職人さんも多い世の中なので、一層感心する次第です。
若い食べ手には、味や雰囲気だけでなく、このようなところも見て頂きたい。
「映え」として表現されたものでは分からず、細部こそが鮨の醍醐味です。
こちらのシャリはやや柔らかめで、酢が立ち、ほんのりと甘みを残します。
これは昔から変わらず、「昭和のシャリ」の味を残しています。
しかし、決して悪いわけではありません。
米酢のみで甘みがあるシャリだと野暮ッたくなることがありますが、キッチリ仕事とバランスを取っています。
硬めでなくともパラりとほどけ、甘みをお酢の酸味が包み込み、タネによって様々な表情を見せます。
温度はほんのりと温か目です。
現代では「やや低め」に感じるかもしれませんが、気になりません。
タネの切りつけに合わせた細長い形状がユニークですが、船底を付け左手の親指を利かせているので、総合的にまとめられているのだと思います。
決して「今風」ではありませんが、鮨が多様化した現在でも通用し、独自の魅力を味わわせてくれる優良店です。
「大塚高勢」のおまかせの詳細
「大塚高勢」のおまかせについて、ご紹介します。
【ランチのおまかせ】は、土曜日限定です。
あまり知られていないため、知っている人が予約して訪問されている印象です。
お会計については、2人で5貫追加して、お酒を1合頂き、15,000円。
かつてはランチが3,800円でしたが、現在は5,000円ほどと推察します(内容も)。
【ランチのおまかせ】は酒肴が4品ほど付き、握り6貫に玉子と椀という、ややトリッキーな構成です。
握りの数は少ないので、2~3貫以上追加するのがベターです。
かなりのタネ数をご用意されています(笑)
ちなみに、夜は握りのみが9,000円、酒肴+握りが11,000円との事なので、現在の相場を考えると随分リーズナブルです。
2022年5月に頂いたもの
2022年5月に頂いた内容は、下記のとおりです。
この度頂いたお酒
上喜元、純米吟醸 五百万石 完全醗酵超辛。
香りは純米吟醸ながら穏やかで、苦味と旨味がある。
「キリッとしているお酒を」とお願いして出して頂いたのだが、正にドンピシャであった。
琵琶湖産天然ものの稚鮎、宮古島の茶豆
稚鮎とは嬉しい一品!
香りとホロ苦さが堪らない!
茶豆は味わい深く、茹で加減(硬さ)も良い。
赤イカ
酢橘と雪塩のようなきめ細かい塩を使用。
ごわりごわりと力強い歯応えの後に、とろりととろけ、酢橘と塩がイカの甘みを引き立てる。
鮪中トロ
モノはピンではなくともイカの後にコントラストがある。
脂は穏やかで、香りが後から高まる。
玉子
塩気と鰹出汁を利かせいていて、特徴的な味わい。
プリン状の部分とホロッとした部分があり、ジューシィ。
コースの前半に冷たい状態で提供されるところも良い。
タイラギの磯辺焼き
醤油を香ばしく炙っているので力強い味わいで、海苔と合う。
赤イカの耳
コリッコリと快感とも言える食感が気持ち良い。
車海老
しっとり且つほろりとした食感で、甘みがある。
茹で置きではなく、茹で上げをしばらく置いたものか。
来店前に仕込んでいると思われる。
ガリ
香の物は桜漬けの大根。
ガリは甘酢がしっかり利いたクラシカルなものだが、酸味と辛みが高まり後はキリリと味が引き締まる。
桜漬けの大根は桜の良い香りが広がり、お洒落!
イサキ
炙ってホロリとした繊維質。
脂とシャリの酸味の対比が良い。
鰹
芥子に白髪ネギを合わせる。
鰹は目を瞠るほどにねっちりで脂がとろっとろ。
特に脂が乗っている部位を用いていて、シャリとのバランスが良いため、一見すると多めのネギが嫌味にならず調和する。
海胆小丼
海胆に山葵の茎の醤油漬けを合わせるとは、面白い組み合わせ。
海胆のクオリティは高くなくとも調味料でバランスを取っている。
椀
蛤の産地は江戸前!
小さくとも嬉しい出会いである。
蛤の強い旨味がにじみ出ていて、それを壊さぬ味付け。
白系の味噌を上品に用い、軽い柚子香を加えている。
鰯 追加
〆をバシッと利かせて脂を凝縮している。
これは大変旨い。
小鰭 追加
〆でしっかりと脱水しつつ、瑞々しさを残している。
お酢の浸透による酸味は穏やかで、臭みは無し。
脂が弱くなっている時期に、完全に仕事で旨くする見事な仕事だ。
鯵 追加
脂が乗っていて、非常に柔らかい鯵。
味特有の臭みは無く、脂がシャリと見事に乳化する。
蝦蛄 追加
子持ちの蝦蛄で、煮ツメと塩で。
蝦蛄はしっとりした身から甘みが溢れ、卵の食感が気持ち良い。
断面よりもたっぷりと入った卵は、もちもち、プチプチ。
蝦蛄特有の甲殻類の香りも楽しませてくれる。
まず柚子塩でサッパリと頂き、次に煮ツメで濃厚に頂く。
煮ツメはコクがあり、苦味も甘みも程よい塩梅。
キリッとした味わいの煮ツメで、媚びるような甘みが無い。
蛤 追加
しゃくしゃくした弾力を楽しませたすぐに後に、しっとりとほどける柔らかい煮加減。
実に味わい深い蛤。
食感の表現が巧みで、キリッとした味わいの煮ツメも印象に貢献している。
水菓子
抹茶と小豆のゼリー寄せ。
ゼリーは柔らかく、とろっとしている。
抹茶の香りも、甘みも程良い。
クラシカルなお店だと、硬いゼリーや甘みが強すぎることもあるので…。
2014年11月に頂いたもの
2014年11月に頂いたランチのおまかせの詳細は、以下の通りです。
写真も文章も稚拙なのでお恥ずかしい限りです。
握りの特徴としては、昆布〆の鯛に「梅紫蘇唐辛子」という自家製調味料を用いたり、鱸に木ノ芽をかますなど、奇抜な創作性に富んでおります。
それでいて、印籠詰や煮蛤は濃厚な煮ツメで味わわせる古典的な仕事。
全体を通して、純粋な江戸前仕事と言うよりも、創作を取り入れた仕事であると感じました。
先付
鮨タネは玉子の後に中トロと始まり、意表を衝かれました。
玉子
芝海老の風味が強くしっとりした食感の玉子。
鮪中トロ
変わった切りつけですが、ランチとしてはレベルが高く、温度も良好。
墨烏賊
あえなく包丁が甘く、食感の爽快さに欠けます。
鯛
昆布〆、梅紫蘇唐辛子と独特の仕事。
シャリにタネが勝ってしまっているものの、「料理」としては美味しいです。
赤貝
超巨大で度肝を抜かれました。
タネとのバランスは考慮の外。赤貝を丸ごと食す為の一貫です。
鱸
木ノ芽を噛ませた鱸。
白身の旨味に輪郭を与え好印象です。
烏賊の印籠詰め
胡麻は控え目で、上品な仕上げ。
濃厚な煮ツメで勢いを付けております。
ランチのお任せで印籠詰めを頂けるのは、非常に嬉しい。
煮蛤
火入れはじっくり目。
これもまた煮ツメが奏功。
海胆飯
ここでも酢飯の柔らかさが気になりましたが、軍艦にするよりは良いように感じます。
干瓢巻き
硬めの戻しで、比較的上品な味付け。
海苔は直前に炙っており、香りが満足度を高めます。
椀
蟹入りの白味噌仕立て。
出汁がしっかりしており手抜きの無いところが好印象です。
水菓子
抹茶のゼリーと餡。
「大塚高勢」の立地と雰囲気
「大塚高勢」さんは、その名の通り大塚駅から10分弱歩いた場所にあります。
大正期から昭和初期にかけて巨大な花街を形成した大塚の名残がある一角で、風情があります。
移転前のお店は、外観から昭和の老舗感が漂っていました。
「鮨」の看板は、移転後も活用されていて、ほっこり。
店内は白木のカウンターに漆喰の壁、天井は洋風な木板と、自然な風合いです。
上品さと渋さを感じさせつつ、町に馴染んだ安らぎの鮨処と言った印象です。
かつてはゴージャスな雰囲気だったので、移転後にだいぶ印象が変わりました。
カウンター席は6席とコンパクトで、奥に個室があります。
ちなみに、大塚は大正時代から昭和初期にかけて三業地と呼ばれた町。
三業地とは芸妓屋、待合、料亭が営業を許可されたエリアです。
最盛期には、置屋68軒、待合61軒、料理屋22軒にもなり、芸妓は700名以上も所属していたそうです。
大塚は今でも花街として機能しており、芸妓を呼べる割烹・料亭があるそうです。
- 松し満
- 和可月
- うなぎ宮川
詳しく知りたい方は「大塚三業組合のブログ」をご参照ください(笑)
「大塚高勢」のお店情報と予約方法
「大塚高勢」さんの予約は、お電話のみとなります。
店名:大塚高勢(おおつかたかせ)
シャリの特徴:やや柔らかめで、酢が立ち、ほんのりと甘みのあるシャリ。
予算の目安:昼5,000円〜8,000円、夜11,000円~
TEL: 03-3941-0984
住所: 東京都豊島区南大塚1-45-3 →東京都豊島区南大塚1-42-11
最寄り駅:大塚駅から350m
営業時間:12:00〜13:30、17:30~22:00 ※ランチは土曜のみ
定休日:日曜、平日に月2回の不定休
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同じく大塚の鮨店、鮨勝さん
時を経て鮨店を巡る喜びを実感する、すしログ(@sushilog01)でした。
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