(本記事は日本料理編No. 25とNo. 140を再構築した記事になります)
こちらは那覇の全景を見渡せる「虎頭山」にある、八重山料理のお店です。
目の前には首里城が鎮座し、かつて「虎頭山」と言えば、「虎山松濤」と呼ばれ、「首里八景」に数えられた景勝地であったそうです。
首里城は敢え無く2019年10月末の火災で「正殿」を失ってしまいました。
自分を含めて多大なショックを感じた方も多いかと思いますが、幸いにも多額の寄付金が集まり、2026年までに再建を目指している状況です。
上記のような風景が復活する日は、そう遠くありません。
さて、話をお店に戻すと、こちらは「一般的な沖縄料理店」では珍しい、宮廷料理の流れを汲む逸品を頂ける名店です。
食通の友人に紹介すると間違いなくヒットするので、未訪問の方は是非とも訪問してみてください。
「洗練された味の沖縄料理」を求める方ならば、確実に感動されると思います。
潭亭とは?立地と雰囲気
正確に言うと、お店が得意とする料理は「沖縄料理」でも「琉球宮廷料理」でもなく「八重山料理」です。
八重山諸島は、石垣島、竹富島、小浜島、黒島、鳩間島、波照間島、新城島、西表島、由布島、与那国島で構成された島々で、沖縄本島から400kmも離れています。
よって、琉球本島とは異なる食文化が形成されました。
お店はご夫婦で営んでおられますが、御料理を作るのは女将の宮城礼子さん。
宮城礼子さんのご祖母は1890年代の生まれで、80歳超の頃(1972年)に「八重山生活誌」を出版された方だそうです。
「八重山生活誌」では、独自性のある「八重山料理」が生まれた背景として、八重山では琉球王国の役人と薩摩藩の役人を歓待する必要があったため、調理技術が洗練された模様。
宮城礼子さんはご祖母の知恵に基づき八重山料理を蘇らせるとともに、琉球料理の魅力を現代に伝えることに成功された方だと言えるでしょう。
なお、お店の名前は、10数年前まで首里城そばの池「龍潭」の近くに在ったことによるそうです。
お店はゆいレール儀保駅が最寄りとなりますが、少し離れています。
車で伺ったとしても細い坂道を上らねばなりませんが、その甲斐に十分応えてくれる素晴らしい眺望が待っています。
寒くない時期であればテラス席が圧倒的にオススメ!
目の前に首里城、遥か彼方には慶良間島。
また、ゆいレールが通過しますので、電車マニアな人にも嬉しいかと(笑)
テラスの脇にはアグレッシヴな風貌のシーサーもおります。
八重山料理とは?潭亭の八重山料理の魅力について
個人的に考える「八重山料理」と「琉球宮廷料理」の違いは、下記のとおりです。
- 琉球宮廷料理よりも豚肉の使用量が少ない
- 味付けが淡白で、特に糖分の使用量が少ない
- 山菜を含む野菜を多用する
- 味覚は塩味、甘味、酸味の三味が基調とされる
- 合わせ出汁を用いる(鰹節、昆布、椎茸、野菜出汁)
これらの特徴を巧みに組み合わせた御料理が、潭亭さんの八重山料理になります。
潭亭さんの八重山料理は、琉球王朝の宮廷料理である【菜飯】を八重山流にアレンジしているそうです。
自ら【彩飯】と呼ばれており、石垣島の食材をわざわざ取り寄せて作られています。
その結果、琉球宮廷料理の定番料理とともに、八重山特有の山菜を使用する御料理を含む、独自性の高いコースを生み出している次第です。
ちなみに、八重山山菜の一つ「オオタニワタリ」は台湾でも食される食材なので、琉球よりもより南ゆえの文化の特異性を感じるところです。
野菜については石垣島から取り寄せられているだけあって豊富です。
WEBページには「潭亭使用の野菜」のコーナーが有ります。
アダン、ウィチョバー、オオタニワタリ、サフナ、ニガナ(ンジャナ)、ハンダマー、ヒハツモドキ(ピパーチ)、フーチバー、ゴーヤー、ナーベラー、島にんじん、月桃、ローゼル、スーナ、クヮンソウなど。
このラインナップを見ると、沖縄を訪問する理由の一つは島野菜だと個人的に思うところです。
最後に、余談的な私見を。
八重山料理の味覚は塩味、甘味、酸味の三味が基調と挙げましたが、さらに苦味(=ゴーヤー、山菜)、辛味(=ピパーチもしくは島とうがらし)も多用されるので、中国料理の影響が大きいのではないか?と感じています。
中国では咸(塩味)・甜(甘味)・酸(酸味)・苦(苦味)・辣(辛味)が重視されているので、冒頭の三味に2つを加えると、中国で重要な味覚と完全にかぶる訳です。
八重山料理を含む琉球料理の味覚の成立には、中国料理の影響が大きいことは間違いありません。
潭亭の八重山料理の詳細(実際に頂いたもの)
僕は昼と夜ともにお伺いした事がありますので、別々にご紹介します。
お店のコースは幾つかあり、お昼の八重山会席5,500円、8,800円、夜の八重山会席11,000円、15,000円、22,000円となっています。
僕はお昼は5,500円のコース、夜は11,000円のコースを頂きました。
両者の違いは、八重山産の魚介と【どぅるわかしー】の有無です。
こちらの【どぅるわかしー】は至高の完成度を誇るので、個人的に強くオススメします。
【どぅるわかしー】は内地ではあまり提供されていない琉球料理ですが、作り手のセンスがダイレクトに現れる興味深い一品だと思います。
お昼の八重山会席の詳細
お昼の八重山会席5,500円の詳細です。
八重山東道盆 (トゥンダーブン)
琉球漆器のお盆を使った前菜の盛り合わせ。
泡盛に漬けたビワ、豆腐よう、ゴーヤーゼリー、八重山味噌の和えもの、なます。
こちらの豆腐ようは非常に滑らかな味わいで、泡盛由来の苦味が少ない。
ゴーヤーゼリーは殊のほかゴーヤーの存在感が立っており、ほろ苦く爽やか。
八重山味噌の和えものは米のコクが強く、ナッツと豚肉とのバランスが良好。
少量ながらに力強く贅沢な味わい。
島野菜と胡椒の葉入りがんもの炊き合わせ
アダン、オオタニワタリ、島人参、胡椒(ピパーチ)の葉入りがんも、揚げ麩の炊き合わせ。
「胡椒の葉」は生だと辛味が無く、香りがすっきりでディルっぽい印象。
出汁と素材の旨味を吸っており、美味い。
オオタニワタリは香りが良好で、軽い苦味が特徴的。
食感はシャキシャキ、するする。
アダンは見た目的には筍っぽいが、筍とは異なる食感で、シャキシャキ、むぎゅむぎゅ。
島人参の甘み、牛蒡の力強い香りと甘みなどに島野菜の魅力を感じる。
自家製ピパーチはバシッと辛味が走り、香ばしく癖になる。
なお、器は大嶺實清氏のものを使用されており、料理を引き立てております。
ジーマーミ豆腐
こちらのジーマーミ豆腐は、ねっとりした食感で、落花生の香りが強い。
タレはどことなくみたらし団子を思わす味わい。
甘みがあるが、控えめになっており、鰹出汁を使っている。
豆腐よう、ジーマーミ豆腐はお店の個性が出て面白い。
ンジャナ(苦菜)の白和え
ンジャナは海岸沿いの岩場や砂地に生える、苦味が魅力の沖縄野菜。
こちらでは、豆腐の旨味と風味を活かし、徐々に苦味を感じさせる調理となっている。
塩気は程良く、鰹出汁を用いつつも控え目で上品。
漬物の盛り合わせ
見目麗しき盛り合わせ。
ゴーヤー、パパイヤ、島らっきょう、甘草、ハイビスカス、瓜で、全て異なる漬け方。
添え合せはフェンネル。沖縄ではウィチョーバーと言うそう。
ゴーヤーは梅干しのような酸味と古漬けのようなコクがあり、ほのかな甘みも。
パパイヤは奈良漬けのよう。
島らっきょうは醤油漬けで、酢は不使用。
甘草は甘酢漬け。
ハイビスカスは花の色素が滲み出ており、酸っぱく脱水されている。
瓜は鰹出汁で漬けているようで、発酵感もある。
ジーマーミのお吸い物
白味噌ではなくジーマーミ(落花生)だけを使用した腕。
鰹出汁のコクが非常に強く、ジーマーミの甘みや風味と一体化。
目が覚めるようなインパクトがある逸品。
ジーマーミのみといえども、ベタッとしたクセなどは無く、落花生のすっきりした香りが心地良い。
あしらわれたハンダマもアクセントになっており、良い。
みぬだる、八重山蒲鉾、田芋
こちらのみぬだるは味付けが非常に控えめで、豚と胡麻の素朴な味わいを素直に感じる。
下に敷かれているのは長命草。
八重山蒲鉾にはブダイを使用。
ブダイは成長すると雄に性転換する魚で、青いのでいかにも沖縄の魚と言った感じ。
魚の香りがしっかりと感じ取れ、自然な甘みが旨い、丁寧に作られた蒲鉾。
田芋は素材そのものの味を打ち出すべく、ほとんど調味しておらず、少しだけ塩が掛かっている。
箸を入れるとするっと切れて、甘みが広がり、その後ねっとりとした食感が舌を這う。
手を加えていない分、田芋も魅力を感じ取れる個人的に好みの調理。
菜飯(さいふぁん)
さっぱりした鰹出汁をそそいで頂く。
具材は人参、卵、椎茸、キクラゲ、鶏肉、油揚げ。
沖縄の油揚げは薄くみっちりした食感。
自家製ピパーチを振り掛け、香りと辛味を調整する。
パパイヤ、パイナップル
デザートは南国フルーツ。
お茶はブレンド薬膳茶で、ドクダミなどの香りが強く、中国文化の影響を感じるお茶。
夜の八重山会席の詳細
夜の八重山会席11,000円の詳細です。
薬草茶
八重山東道盆 (トゥンダーブン)
前菜の盛り合わせとなり、泡盛に漬けた梅のお酒、豆腐よう、ゴーヤーゼリー、八重山味噌、ナーベラー(へちま)。
食前酒はキリッと酸味が立ち、媚びたような甘みが無い。
全て美味しいが、濃密な旨味の豆腐ようは矢張り秀逸!
島野菜と胡椒の葉入りがんもの炊き合わせ
オオタニワタリ、アダン、島人参、ピパーチの葉入りがんも、揚げ麩など。
がんもどきが印象深く、ピパーチ(ヒハツモドキ)の香りが良く、ピリッと引き締める。
濃厚な甘みを持つカボチャ、出汁が染み込み自身の甘みを強調する大根など、全ての素材が滋味深く、沖縄の野菜の骨太さを感じさせる。
出汁は昆布が利かされており、旨い。
どぅるわかしー
どぅるわかしーとはたーむ(田芋)を用いた和えもの。
こちらのものは旨味がしっかりと乗っており、絶品。
芋の甘みに豚肉や椎茸などの旨味が複雑に絡んでおり、インパクトが絶大だ。
これは後を引く旨さ!
ンジャナ(苦菜)の白和え
胡麻を積極的に用いつつ、大豆の風味が更に強く、これもまた美味。
苦菜の苦味が徐々に高まり、沖縄でしか味わえない料理になっている。
前回よりも一体感が高いように思ったところ、胡麻はすり胡麻のみとなっていた。
ジーマーミ豆腐
素晴らしき食感。
もちっ、くにゅっ、トゥルン、とろん…と飽きさせない食感のジーマミー豆腐。
そして、香りがぶわっと広がるのだが、香りが兎に角凄い。
鰹を利かせた醤油、これの塩梅も良い。
ジーマーミの椀
吸い地は主に鰹とジーマーミで、椀妻はハンダマ。
いやはや、旨くて甘い。
出汁と塩を巧みに操り、沖縄…いや、こちら独自の椀へと昇華。
ハンダマの独特の香りがふわっと優しく漂い、弱い苦味がアクセントに。
この吸い地は日本料理の椀では決して成り立たない塩梅であり、二度頂いても感銘を覚える。
漬物の盛り合わせ
パパイヤ、ゴーヤー、クワンゾウ、梅鰹、島らっきょうなど。
付け合せは生の長命草。
前回も魅了されたが、全て異なる漬け方、味わいと言うのが面白い。
夜景 その1
コウイカの燻製和え
沖縄で「コブシメ」と呼ばれる大型のコウイカであり、沖縄で有名なセーイカ(ソデイカ、標準和名アカイカ)よりも高価なイカ。
それをスモークして、長命草ならびに生姜と和えている。
どうやら島では生のイカを食べない文化との事で、必ず茹でたり燻製にしたりするそう。
これは意外だった。
スモークの塩梅は上品で、身はしっとりと火入れされている。
イカは、コウイカ科らしく歯切れが良い。
お造り(笛吹鯛とキハダマグロ)
この流れでお造りとは、面白い。
魚は笛吹鯛とキハダマグロ。
鯛は酢醤油で頂く。
山葵は完全に粉でアレだけど、魚はそのまま頂いても美味。
笛吹鯛は脂が結構乗っている。
キハダは鮪の中では脂が控えめなだけあり、爽やかな酸味とふんわりした旨味なので、終盤戦でも楽しめる。
肉巻き牛蒡、玉子、クロカワカジキの昆布巻き、八重山蒲鉾、田芋(たーむ)の素揚げ、みぬだる
田芋はひたすら甘いが、サツマイモみたいに糖化はしていないのでサッパリ感もある。
こちらのみぬだるは味付けが非常に控えめ。
胡麻の風味は濃厚ながら、ペーストには甘みを付加しておらず、胡麻の甘みだけで構成。
このようなみぬだるは結構珍しい。
八重山蒲鉾は魚の風味が強くて香ばしい。
クロカワカジキの昆布巻きはカジキの食感と昆布の柔らかな食感の組み合わせが良い。
味わい的にも旨味がありつつサッパリだ。
夜景 その2
菜飯(さいふぁん)
さっぱりした出汁をそそいで頂くご飯。
具材は人参、卵、椎茸、キクラゲ、鶏肉、油揚げ。
出汁にはお野菜の旨味、甘みが利いており、これが大変美味。
具材の椎茸の旨味も相まって印象深い。
自家製のピパーチは香りが素晴らしい。
パッションフルーツとパイナップル
「沖縄料理って濃くて大味だよね」と思っている方に是非とも行ってもらいたい名店です!
「沖縄料理」のイメージを覆してくれますので。
潭亭のお店情報と予約方法
完全予約制なので、スケジュールに余裕を持って予約するのがベターです。
そして、とにかく眺望が良いので、夜の場合は早い時間から訪問する事をオススメします。
特に夏は何段階にも景色が変化するので、眺めていて飽きません。
店名:潭亭(たんてい)
予算の目安:お昼の八重山会席5,500円、8,800円、夜の八重山会席11,000円、15,000円、22,000円
TEL:098-884-6193
住所:沖縄県那覇市首里赤平町2-40-1 1F
最寄駅:儀保駅から320m
営業時間:11:30~15:00、18:00~23:00
定休日:月曜
【関連する記事】
那覇屈指の琉球宮廷料理のお店
美栄の元料理長のお店
本記事のリンクには広告がふくまれています。