すしログ日本料理編 No. 65 蕎ノ字@日本橋

静岡・島田にあった頃、伺おうとして伺えなかったお店。

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奇しくも丁度東京に移転する予定だったため、訪問出来なかった次第です。

そしてこの度、少々時間が経ってしまいましたが、2月上旬に訪問が叶いました。

 

店内は温かみのある雰囲気で、艶々と光る檜のカウンターが心地良い。

ご主人との距離も程よく、直ぐに馴染める空間だと思います。

 

現在は「おまかせ」のみで営業されており、夜は6,900円と8,900円の2コースとなります。

8,900円の方を予約してお伺いしました。

税サ別となるものの、この価格帯は嬉しいですね。

→その後、12,900円、16,900円に値上げされました。

 

初訪問で感じたこちらの天麩羅の特徴は、

1. 衣は軽やかでふんわりしており、纏う香りも上品、
2. 天種の火入れは基本的に浅め、
3. 静岡産の食材に加えて、創作的な天種も用いる点。

2については、みかわ是山居・早乙女親方が言う「脱水」と言う観点で言うと、極めて軽やか。

よって、繊維質のほどけ方が非常に独特です。

1と2が合わさる事により、「天麩羅の重たさ」を限り無く除去する事に成功しております。

それでいて、単純に「浅い火入れ」と言う訳ではなく、素材に合わせて強弱を付けられている点が親方の最大の武器かもしれません。

素材によっては、力強い「脱水」を駆使されます。

そして、3については今回頂いた中では【島田人参】や【蝦夷鹿】に代表されます。

【蝦夷鹿】…肉を天麩羅で揚げる意味があるのか?と思われる方もいるかもしれませんが、頂いた感想としては全く違和感が無く、火入れ、衣、肉の食感などに一体感があり、創作天麩羅として非常に高いレヴェルにありました。

亜流も完成度を高めれば本流を凌ぎ得る好例と言えるでしょう。

独自性の高い世界観を構築する事に成功されているのは間違い無く、更なる進化が楽しみな職人さんだと感じました。

 

翻って言うと、この「独自性」とポテンシャルについて、食べ手がどのように解釈するかは、まだ個々人の好みに依拠する部分があるかと推察します。

しかし、色々な意見が出てくるのは寧ろ良い傾向だと思います。

色々な意見を踏まえて、ご主人が東京で進化されるのを、時を置いて訪問しながら見守りたいと感じた次第です。

きっと個々人の好みを超越した独自性まで昇華させられる職人さんだと思いますので。

前置きが長くなってしまいましたが、下記よりレビューさせて頂きます。

 

日本酒は島田のものを揃えておられるので、興味本位でついつい3合頂いてしまいました(笑)

島田の酒蔵・大村屋酒造の重兵衛純米、

若竹純吟生原酒SATORU.HIBINO。

頂いた御料理は下記の通りです。

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蕎麦の実、なめこ、生海苔

生海苔は浜名湖産。

水温が9℃程度になった時期に急成長する海苔なので、1月以降、寒くなったタイミングで頂く事が出来る。

甘く香りの良い蕎麦の実に、生海苔の芳しい磯の香りが合わさる。

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粗挽き蕎麦掻き

これまた香りが良く、掛けられた濃いめの蕎麦ツユも完成度が高い。

「出汁醤油」のような力強い味わいで、〆の蕎麦に期待を馳せる心ニクい演出。

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車海老(鞘巻)

何はともあれ、かなりレアな火入れで驚く。

しかし、旨味は引き出されており、個性的な海老の仕事。

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頭はカリッと仕上げている。

身、頭ともに塩、天ツユと、交互に頂く。

こちらの天ツユは甘みが抑えられており、塩派の自分でも気に入った。

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衣から現れるや否や、ホロリとほどけ、香りを立たす。

鱚の魅力を最大限引き出しておられ、見事。

友人は食感を「淡雪のよう」と表現していたが、まさしく。

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太刀魚のお造り

天麩羅で出す前に…と供される。

調理法違いの食べ比べは食好きの心をくすぐりますね。

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お造りはプリプリで、天麩羅はとろり。

食感のコントラストや香りの伝わり方の違いなど、大変面白い。

天麩羅屋で生を挟むのは結構トリッキーだが、個人的には琴線に触れた。

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島田人参

上質なサツマ芋のような力強い甘みと香り。

香りまで甘みを感じるよう。

インパクト絶大な天種である。

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蕗の薹

島田産。ほっこり柔らかで、印象的な食感。

これは天麩羅と言う調理法でしか表現出来ない食感であり、春の香りをひっそりと伝える走りの蕗の薹にぴったりな食感だと感じた。

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新玉葱

熱々、ホクホクで、甘い!!

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甘みに加えて心地良い酸味を感じさせてくれる。

鮨でも冬の定番白身魚だが、全く異なる魅力を有す。

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生海苔

当然ながらに、先付の生とは異なる香りを楽しめる。

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玉取茸

藤枝の玉取杉山農園で生産されている椎茸。

香り良く、滑らかな食感で美味。

天麩羅にしても焼鳥にしても、椎茸の火入れで職人の腕は分かる。

こちら鈴木さんは野菜の火入れが抜群です。

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牡蠣

浜名湖産との事で、驚き。

産地のみならず火入れも極めて個性的で、ぎゅっと凝縮された風味がある。

聞くところによると、低温でじっくり揚げているそう。

冒頭の海老や鱚、蕗の薹に加えてこの牡蠣など、バリエーション豊かな火入れを駆使されていて、目を瞠ります。

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蝦夷鹿 追加

噛み締めた瞬間、燻香がぶわっと漂い、そこに鹿の野趣が追いかける。

繊維質のほどけ方は良く、肉にはしっかりした甘みがある。

否、甘みをしっかりと引き出している。

中心部の旨味も融化しており絶妙。

ちなみに、燻蒸は無農薬米の藁で行っておられるとの事。

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穴子

この時期に江戸前とは、嬉しい。

対馬が主流となっているので…。

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江戸前(東京湾)の穴子は特有の香りがあり、雄々しい。

江戸前(の仕事)に於いては鮨よりも天麩羅の方が、香りを強く体感させてくれる。

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桜海老のかき揚げ

静岡と言えば、桜海老!

是非とも漁期に頂いてみたいと感じた。

余談となりますが、由比の漁期は3月中旬~6月頭、10月下旬~12月下旬に限られており、サステイナビリティを考慮した漁が行われております。

そして、国産の桜海老はほぼ100%由比産となります。

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蕎麦

江戸前の天麩羅だと、天茶やかき揚げ丼が定番ですが、蕎麦で〆るのも良いですね。

二八で打ちつつ香りを立てており、瑞々しさや甘みも良い。

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最初はそのまま頂き、途中、ツユで頂くと、蕎麦の甘みが引き立ち、中々のツユであると感じた。

鰹節のエッジは立ちすぎておらず、醤油の使い方が強めで自身の好み。

少しお酒が回り、本来の味覚を十全に発揮出来なかったのは無念です(笑)

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島田レモンのグラニテとネーブル

天麩羅、蕎麦の後に気の利いた水菓子。

舌が洗われ、キリッと引き締まります。

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焼き芋

玉取杉山農園の芋を使用。

ガス火ながらに甘みが引き出されており、美味。

良いサツマ芋はそのままが最も美味しい。

 

店名:蕎ノ字(そのじ)

食べるべき逸品:静岡産食材と個性的な火入れによる独自性溢れる天麩羅。

予算の目安:お昼3,800円〜、夜6,900円~ →おまかせ12,900円、16,900円〜 →昼おまかせ13,900円・17,900円、夜おまかせ17,900円

最寄駅:人形町駅から200m

TEL:03-5643-1566

住所:東京都中央区日本橋人形町2-22-11 井上ビル1F

営業時間:昼の部・11:45〜13:30、夜の部・17:30~21:00(LO20:00)

定休日:月曜、第2・第3日曜(年始、夏季休業あり)

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