こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
いわゆる「海なし県」の奈良県は、スシと言えば江戸前鮨よりも柿の葉寿司の土地でした。
故に奈良を訪問した時は積極的に柿の葉寿司を頂き、比較記事を書いた事もあります。
すしログ No. 86 【柿の葉寿司の食べ比べ】奈良でおすすめの柿の葉寿司は?しかし、パンデミック前の2019年7月にある鮨店がオープンし、2022年にミシュランの一ツ星を獲得したと聞いて、ブックマークしていました。
僕は全てのミシュラン店に行こうなどと言う意味不明な行動は取りませんが、写真を見て、食材と仕事を確認したところ単なるミシュラン店ではない事が分かったので、訪問したいと思った次第です。
結果的に大正解。
「鮨かわしま」さんは奈良県ばかりでなく、関西全体で考えても訪問すべき鮨店です。
訪問時点で食べログ3.12ですが、今後伸びる事は間違いありません。
コース内容は個性的ですが、抑揚があり、親方のセンスを感じます。
ただ、実は極めて残念な事に、食事を頂いた時のメモがクラッシュしてしまい、情報をロストしてしまいました…
ついては、御料理は写真メインで記載させて頂きます。
味覚の描写が浅くなってしまい、川島親方、誠に申し訳ございません。
お店で頂いている時に再訪しよう!と決めておりましたので、再訪時に精密に記述いたします。
(余談になりますが、Google keepやWindowsメモ帳などは自動バックアップされないので、常にデータを2つ以上残しておくか、wordの自動保存機能を使う事を強く推奨します)
タップできる目次
「鮨かわしま」の親方である川島 洋行さんは、京都と大阪の日本料理店で修業された板前で、鮨は独学との事です(ミシュランガイドの説明より)。
2019年にオープンされ、独学で3年後にミシュラン獲得とは、ひとえに凄い事だと感じます。
お店を訪問して感じた魅力については、以下の3点です。
- 歴史ある奈良橿原の地で、江戸前鮨の古典への敬意を感じさせる仕事
- 海が無い事を逆手に取り、奈良らしいフォーマットに県外産の魚を落とし込む
- 食材の取り合わせ、コースの構成、味付けなど、全体と細部ともに考慮されている
これらが組み合わさる事で明確な「鮨かわしま」の世界観を構築されています。
食材のプレゼンテーションや、調度品、メニューリストなど、様々な仕掛けで世界観を作る試みをされていますが、それが「パフォーマンス」になっておらず、自然と世界観に馴染んでいるのは、全ての根底に確かな思考と哲学がある為だと実感しました。
仕事については、日本料理出身とは思えないほど江戸前鮨の古典的な仕事に基づいています。
〆もの、煮ものをしっかりと出され、それぞれに必然性があります。
熟成や寝かせも行いつつ、魚味を意識した加減で提供されている点も好印象。
熟成に伴うオフフレイバーも皆無で、その他の味覚調整も繊細です。
そして、「県内のものも使用しよう」と言う川島親方の心意気が表れているのが山葵です。
産地は、和歌山の野迫川、高野山の南にある集落です。
品質が高いのは言うまでも無く、親方が生産者を守ろうと考えている点が素晴らしいです。
得てして鮨のみならず和食でも、地方のお店は生産者を探すよりも安易に混ぜ山葵、粉山葵に走るお店も多々散見されます。
しかし、お店の経営や調理だけでなく生産者の開拓をされる料理人さんは、地方で更に輝いていくはずです。
そして、生命線のシャリについては赤酢を用い、関西の酢飯らしく甘味を付けています。
ただ、甘味が先行したり、舌に残ったりはしない「やや甘め」の範疇です。
砂糖はきび砂糖を用いているそうです。
そして、お米はササニシキ、あきたこまちを50%ずつブレンド。
硬さや温度管理はバッチリです。
トータルとして既に十分に魅力的なお店ですが、2~3年後に更に素晴らしい内容になっているのは間違い無いと確信しました。
おまかせは2つのコースをご用意されていて、18,000円と25,000円の2本。
こちらの価格にサービス料「基本10%・仕入れ価格等により8%~15%の変動」が掛かります。
僕は18,000円のコースを頂きました。
ちなみに、お店のユニークな点としては、握りに山葵を噛まさず別皿で提供し、お客の好みで使用するシステム。
握りが山葵無しでも成立していたので、僕は基本的にはそのまま頂きました。
…が、鮪で威力を発揮するのは言うまでもありません。
この度頂いた日本酒です。
…その前に、あまりにも暑いのでビールを頂きました。
日本酒以外のメニューは木製のキューブに印字されています。
そして、頂いた日本酒については、下記のとおりです。
- 今西酒造 みむろ杉 純米吟醸 山田穂
- 白糸酒造 田中六五 純米 山田錦
- 秋田醸造 ゆきの美人 純米吟醸 山田錦 超辛 6号酵母
- 峰乃白梅酒造 菱湖 純米大吟醸 なつのさけ
親方イチオシの【みむろ杉 純米吟醸 山田穂】は印象深い美味しさです。
メニューはありますが、ご提案が素晴らしかったので、オススメで頂く事をオススメします。
それでは、頂いた御料理をご紹介します。
食材や調理器具など細かくプレゼンテーションをしてくださる親方ですが、写真を網羅すると訪問時の興を削ぐと判断して割愛します。
気になった方は、是非とも訪問して体感してみてください。
一品目の酒肴が凡庸ではなく、お店らしさと奈良らしさを表す御料理で好感を抱く。
あらゆるジャンルの飲食店で先付(一品目)は極めて重要。
みむろ杉の酒粕の香りが良く、少量の三輪素麺と蛤の出汁で、胃が整う。
煮鮑の食感、旨味、香りの引き出し方は申し分無く、そこに甘味のある牛蒡を合わせるとは斬新だ。
香りの観点で調和があり、取り合わせにセンスを感じる。
親方が板前出身である事は訪問後に知ったのだが、成程…と、日本料理人としてのキャリアを活かされている事を実感する。
和歌山の新生姜を用いたガリ。
これは白眉と言える酒肴だ。
大和朝廷(6世紀)の頃から作られていた「和製チーズ」の【蘇】。
【蘇】自体は今やグルメの間では有名だが、食材の取り合わせが素晴らしく、しかも炙っている点が食材の魅力を引き出し切っている。
ほんのりと甘く、しっとり、軽くさっくりする食感の【蘇】は、味わいの強い時不知を引き立てる。
味わいだけでなく香りや食感の面でも一体感が高い。
ちなみに、【蘇】は全乳を加熱しながら練り、煮詰めて作る。
牛乳を約7時間煮詰めて【蘇】となるが、元の分量の13%程度にしかならないため、正に希少な嗜好品だ。
川島親方は「西井牧場」さんの【飛鳥の蘇】を使用されている模様(実はお店訪問前に立ち寄り、購入していた)。
ちみちみ食べるために提供される酒肴で、抜群に旨い。
親方は「塩辛いので、少量ずつ」と繰り返し仰っていたが、イメージよりも塩気は穏やかで洗練された味と香りだ。
「ノドグロ」と呼ばず、標準和名で呼ぶ職人さんに久々に出会った(ちょっと嬉しい)。
しかも、提供方法が素晴らしく、焼き魚を白米に乗せている。
目的は言うまでも無く酢飯よりもストレートにアカムツの味わいを伝える為だろう。
僕は「アカムツは炭火の焼き魚に限る」と考えている為、我が意を得たりと実感した。
アカムツの脂と酢飯の酸味を合わせて味覚をバグらせる手法は江戸前鮨においては得策ではない(素晴らしい仕事を施して握りとして完成させる職人さんもいらっしゃるが、失敗しているケースの方が圧倒的に多いのがアカムツ)。
奈良の名物【柿の葉寿司】を新子で作るとは!?
見た目と試みは100点満点だが、味はどうか?
…抜群であった。
小鰭と柿の葉寿司の相性の良さが斬新な発見で、しかも小鰭をしっかりと〆ている点が素晴らしい。
つまり、古典的な江戸前鮨の仕事を柿の葉寿司の中で表現されている。
これぞ地方の鮨職人の武器である。
郷土寿司は古臭いもの、不味いものなどと敬遠される風潮もあるが、それは現代的にアレンジしていない為だ。
如何なる料理であっても新陳代謝、温故知新が無くては現代人の味覚に合わないのは当然。
料理店一つ取ってみても、老舗が長らく生存している理由は、味や調理を微調整している為だ。
よって、郷土料理に下等なものと言うレッテルを貼る行為は思考停止に等しい。
郷土料理の再考は、圧倒的多数の食べ手にも考えて頂きたいテーマである。
握りとしての名刺代わりの一貫目は、メイチダイ。
ちょっと珍しい魚だな…程度に感じて口に運んだ人は驚く事だろう。
巧みに熟成を掛ける事で、滑らかなペースト状になっていて、バターのようなコクが赤酢のシャリにパンチを与える。
【新子の柿の葉寿司】とワンツーで心をつかまれる人は多い筈だ。
熟成を掛けた白身魚の後に、過剰な熟成を施していない金目鯛を出す点が素晴らしい。
かと言って仕事をしていないわけではなく脱水が奏功しており、金目鯛の味わいを引き出していて美味。
生のぶにゅっとした食感のままの金目鯛を握りで出されても全く美味しくない。
脱水や寝かせによって刺身以上の美味しさにしてこそ、金目鯛を鮨種として使う意義が生まれる。
烏賊に海胆を合わせる手法は広く使われているが、汐雲丹とはひねりがある。
しかも多くの生海胆よりも一体感が高い。越前名物の汐雲丹を自家製する事で、塩味やテクスチャーをコントロールし、握りとしての一体感を高めている。
さらに、端切れを考慮した包丁の入れ方も良い。
親方の細部への配慮と言うか、試作時の思考を慮ると敬意が湧いてくる。
ちなみに、余談となるが、「海胆」と「雲丹」は混同して使われがちだが、意味が異なる。
ウニは漢字で3つの表記があり、即ち「海胆」、「海栗」、「雲丹」だ。
「海胆」と「海栗」は生のウニで、「雲丹」はウニの加工食品を指す。
海胆の手巻き置き場が可愛らしい(笑)
海胆は非常に甘く、雑味が無かったが、宮城県石巻市のマルクニ水産(銀次郎)のものだそう。
海苔は有明。
ニュージーランド産のミナミマグロで、仲卸は白宝水産。
東京都外でニュージーやアイルの鮪を見ると、鬼の首を取ったように「タネがピンじゃない!」と言う東京の食通気取りがいるが、個人的には地方の職人さんは鮪にお金を掛けなくても良いと感じる。
他の魚にコストを使った方が楽しい。
鮪を出す以上、産地ではなく味わいが重要で、海外産でもコストと味の折り合いがつけば問題無い。
まして盛夏故に。
酸味だけでなく旨味を感じさせる赤身で、上記の想いを強めた次第だ。
赤身を煮キリで提供し、中トロは塩で提供する流れが良い。
時期、産地、魚体を考えて最適解を追及されている事が分かるし、味と香りのメリハリが付く。
「鉄板」に美味しい部位が血合ギシだろう。
味わいも香りも強いので、海苔で提供する手法に納得する。
味わいが強い毛蟹を殻の状態からバラして調理され、奈良県の【月ヶ瀬 原木椎茸】と合わせる。
椎茸の旨味、香り、食感が強いフックとなる茶碗蒸しだ。
茶碗蒸しから甘海老の流れが自然で良い。
口腔の温度が高いタイミングで甘味の強いタネを供する点で考えられている。
夏に頼れる貝として、今や大変な人気を誇る岩手県のエゾイシカゲガイ。
流れ的に握りではなく刺身で出される点が良いと感じた。
フルーティに感じる香りと甘味をストレートに楽しめて、スッキリとリセットされる。
味わいが抜群に強く、夏らしさを感じさせてくれる縞鯵。
味が強い縞鯵の後に、奈良「ヤママン醤油」の【いなか醤油】で漬けにした戻り鰹。
鰹自体の味が強いので、パンチのある味付けでも怯まない。
炙りの仕事も相まって印象に強く残る。
流れ的に塩での提供がベターだと感じる穴子であった。
このままでは未完成…
名前の焼き印を押す事で完成する。
これは親方の挨拶の意味が込められているそうだ。
しかも、奈良の地で王道の江戸前鮨の玉子焼きである点が粋だ。
終始、筋が通っている、と感じた次第である。
「鮨かわしま」さんは観光客が多い奈良市エリアではなく、橿原市にあります。
そして、飲食店が多い大和八木駅ではなく、橿原神宮前駅と言う点も渋い。
広大な駐車場の先にはモダンアートのギャラリーのような瀟洒な建物があり、店内もアーティスティックで上質です。
陽が差している時間帯の外観
夜の外観。
「鮨かわしま」さんのWEB予約は、公式テーブルチェックより可能です。
店名:鮨 かわしま
シャリの特徴:赤酢に、塩と、きび砂糖を用い、硬さや温度管理はバッチリなシャリ。
予算の目安:おまかせは18,000円と25,000円の2本
TEL:0744-35-1665
住所:奈良県橿原市石川町291-1
最寄駅:橿原神宮前駅から400m
営業時間:17:00~ ※予約は17時、18時、19時開始の3つから選択
定休日:
文中で言及した柿の葉寿司まとめと、他のお店。
すしログ No. 86 【柿の葉寿司の食べ比べ】奈良でおすすめの柿の葉寿司は? 美しすぎる柿の葉寿司!奈良県桜井市の「柿の葉すし山の辺」 すしログ No. 344 味な大富@法隆寺(奈良県)
江戸前鮨が少ないエリアにモダン江戸前鮨店が登場すると興奮する、すしログ(@sushilog01)でした。
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