こんにちは、学生時代は純文学ばかり読んでいた元・文学青年の、すしログ(@sushilog01)です。
さて、「初恋りんご風呂」に憧れて伺いたかった中棚荘。
こちらは 1898年(明治31年)の創業で、文豪の島崎藤村に愛されたことで知られます。
「初恋りんご風呂」は10月から5月限定で実施されるイベントで、島崎藤村の『初恋』の一説にちなみます。
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
風光明媚な小諸で殊に風情を味わえるお宿であり、空間や時間こそが贅沢な旅館だと感じました。
すしログ
つまり、味よりも量を重視したり、地域性の無い食材だったりする「一般的な旅館料理」とは異なるので、工夫を感じます。
料理長は京都の「たん熊」出身とのことで、腕を活かされていると感じました。
中棚荘の立地と雰囲気
お料理よりも先に、お宿の雰囲気をお伝えします!
あと、林檎風呂の魅力も(笑)
中棚荘は小諸の市街地から少しだけ離れた山の斜面に位置します。
林に埋もれたような雰囲気で、木々の合間にのぞかせる「大正館」は趣があります。
駐車場から斜面を登ってフロントに行くので、荷物の移動はちょっとだけ大変ですが、道すがら期待を高めてくれる素敵なアプローチです。
そして、お宿の中には暖炉付きの書斎風の一角があり、落ち着きます。
書架に並ぶ書籍は藤村にちなむものが主体で、「藤村文庫」になっています。
島崎藤村時代の「大正館」は決して豪奢ではありませんが、風情があり、大変落ち着きます。
廊下に漂うひんやりとした静謐が日常の疲れを癒し、窓外の緑を眺めると、ふと非日常に没入することが出来ます。
中棚荘の温泉は殊に小高い場所にあり、露天風呂からの見晴らしが良いです。
待望の「りんご風呂」は林檎の香りがふんわりと漂い、癒されます。
泉質は想像以上に高く、心地良かった。
さて、次にお料理について、ご紹介します。
中棚荘の会席コースについて
冒頭でお伝えした通り、一般的な旅館料理ではないので、食好きな方も楽しめます。
つまり、温かいものも冷たいものもドガッと一気に出てきて、刺身の表面は乾いていたり、天麩羅がフニャフニャになっていたりする、多くの旅館料理ではありません。
ご当地の魅力を加えつつ、ギリギリ一般に迎合する優しさも残しているお料理だと感じます。
余談となり恐縮ですが、旅館料理が今のようになってしまったのは、昭和の団体旅行ブームの影響があるのではないかと推察しています。
質よりも量がある方が豪華だと考え、食材もご当地のものよりも真鯛や伊勢海老、鮑や黒毛和牛を求める志向は、現在では時代遅れです。
地産地消の概念が定着して良かったと感じるばかりです。
旅行者の世代交代によって、今後更に美味しくなっていくのではないかと期待します。
旅館料理は「量よりも質」、「ブランド食材よりもご当地食材」であるべし、と僕は思うばかりです。
そのように思わせてくれた中棚荘の御料理には、感謝します。
総料理長である横田顕さんの工夫を感じました。
着目すべき点としては、地元を中心とした生産者さんの食材を使うばかりでなく、蕎麦や小麦は自社農園で栽培しているところだと思います。
地方の料理旅館として非常に素晴らしい試みであり、これぞ敢えて遠方から訪問する理由でしょう。
都会で食べられる食材を地方で食べて喜ぶ価値観は今後淘汰されるはず。
まして料理旅館、オーベルジュならば特に重視すべき点が、食材だと考えます。
すしログ
ただ、幾つかの点では疑問が残ったので、改善されると更に魅力が高まるのは間違いありません。
これは中棚荘に限った事ではなく、むしろ日本の一般的な事柄ばかりなので、消費者の方々も気にされると状況が変わると思います。
- 粉山葵でなく本山葵を使う
- 化学調味料を排除する
- 炊き込みご飯の塩気を落とす
山葵については、消費者の方が混ぜ山葵や粉山葵でも喜ぶ傾向があるので看過されがちですが、本当に食が好きな人を呼び込むためには本山葵一択です。
まして山葵の生産地である長野県ならば尚更でしょう。
ただ、繰り返しになりますが、これらは不満点ではなく、気になった点です。
全体としては大変好感で、食材の多くがご当地のものであったり、味噌が地元のものであったり、甘みと酸味が控えめであったり、遊び心があったりするのは美点です!
中棚荘の会席コースの詳細(実際に頂いたもの)
それでは、御料理の詳細について、ご紹介いたします。
中棚荘は御牧ヶ原に有機栽培するブドウ畑を保有されていて、2018年にGió Hills winery(ジオヒルズワイナリー)を立ち上げました。
メルロー、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランのワインに加えて、シードルも造られています。
僕は「りんご風呂」にちなんで、また、御料理との相性が良いように感じて、シードルを頂きました。
期待以上に美味しかったので、お土産でも頂きました。
食前酒
藤村のにごり酒。
先付
クルミ和えのクルミ餡が嬉しい。
地元の名産である【クルミ蕎麦】を先付に応用したものだろうか。
お造り
【信州サーモンの昆布〆】も地物を使っているだけで嬉しくなる。
山間部の旅館で海のものではなく、地の淡水のものを使用しているのは好ましい。
昆布〆は穏やかで、サーモン(鱒)の香りを楽しませる。
脂は乗っているが、輸入もののように強すぎない。
鮪はニーズがあるから致し方無しか。
筋は当たるものの、脂が乗っていて酸味もあるので、決して下品ではない。
惜しむらくは山葵で、山葵の産地であるならば粉の使用は尚更やめて頂きたい。
とは言え、醤油は生醤油ではなく土佐醤油(再仕込醤油に鰹節と味醂、日本酒を加えたもの)で、細部への配慮を感じる。
焼きもの:朴葉焼き
豆苗とエノキを豚で巻いて、朴葉焼きしたもの。
さりげない創作性が魅力。
海老芋をきっちり出汁で炊いている点は紛れも無い京料理の素地を感じる。
また、餡が白味噌と胡麻のものである点も同様だ。
お凌ぎ:蕎麦の茶碗蒸し
蕎麦の香りがたっぷり。
茶碗蒸しは旅館にありがちな硬いものではなく、極めて滑らかで、とろりととろける。
この口当たりは蕎麦らしい。
蕎麦がきと茶碗蒸しをハイブリッドしたかのようだ。
また、具が少ない点も素晴らしい。
百合根と銀杏だけ。
旅館の茶碗蒸しは鶏肉、海老、椎茸、銀杏、蒲鉾などなど一緒くたにする傾向があるが、家庭以外では望ましくない調理である。
その点、こちらは蕎麦を用いる発想が良い。
蕎麦の実も良きアクセントとなる。
…ただ、繰り返しになり恐縮であるが、粉山葵は蛇足だ。
頼むから本山葵を使用して頂きたい!
酢のもの:鱧柿みぞれ酢
みぞれ酢がスッキリした酸味と甘みで上品。
安い穀物酢の鋭い酸味と砂糖の甘みが強い田舎味とは一線を画する。
そして、付け合わせに極細切りのジャガイモを使用している点がユニーク!
あたかも中国料理の【涼拌土豆絲】のようだ。
さらに、フェンネルを使用していようで意表を突かれた。
しかし、決して嫌らしくない創作性で、センスを感じる。
佐久鯉の米粉磯辺揚げ
江戸時代、文政8年(1825年)には定着していたという、佐久鯉の養殖。
大阪の淀鯉を天明年間(1781年〜1789年)に持ち帰り、開始されたそうなので、歴史がある。
「米粉磯辺揚げ」は衣に青海苔を混ぜつつ、良い意味で鯉の香りも楽しませる揚げものに表現している。
守りに入るのではなく攻めているところが実に良い。
地物の食材の美味しさを伝えようと言う気概を感じる。
また、付け合わせのシナモン塩も相性が良いため、嫌みが無い。
お食事
栗の炊き込みご飯。
塩気は利いているが、塩っぱくはない。
栗の甘みを楽しめる。
そして、殊に嬉しいことに栗は宿の前に屹立する樹齢100年以上の栗の樹の栗だそうだ。
物語がある食材を頂くと、満足度が高まるのが人情。
椀ものも良い。
赤出汁に山椒を少量用いており、旅館料理よりも割烹料理に近い。
水菓子
梨のコンポートに半ゼリー状のヨーグルトを添えたもの。
中棚荘の朝ご飯
朝ご飯も好印象です。
朝風呂を浴びてからの朝食は格別です。
温泉卵には柚子餡を合わせ、味噌汁の味噌は地元の味噌、海苔が味付け海苔ではない点など、小技が利いている。
これは素晴らしい。
小鉢も工夫を感じ、佐久鯉の南蛮漬けなどにおもてなしの心を感じる。
何よりも朝ごはんの生命線であるご飯が中々美味しく炊けている。
麦ご飯と、とろろの相性は言うまでもないだろう。
鰈の西京漬けもじゅわっとジューシィに焼き上げていた。
キッチリお客さんの開始時間を見て焼いている事は明白だ。
旅館だと焼き置きしているケースも多いので、きめ細かい配慮を感じる。
余談となりますが、旅館の朝ご飯は非常に重要だと思います。
なぜなら旅行者がその旅館で最後に過ごす時間なので、印象に大きく影響してくるはず。
割と雑然にしている宿がありますが、改善することが将来の繁栄に繋がるのでは?と真剣に思います。
中棚荘の情報と予約方法
予約についてはWEB予約が便利です。
予約内容を変更するためにお電話したところ、先方もWEBをオススメされていました。
お食事付きプランの予約もトラベルサイト上で可能です。
店名:中棚荘(なかだなそう)
予算の目安:島崎藤村ゆかりの「大正館」2食(夕食・朝食)付14,300円~22,000円
TEL:0267-22-1511
住所:長野県小諸市古城中棚
最寄駅:小諸駅から1,400m
定休日:無休
温泉+郷土食材は日本の宝!と思う、すしログ(@sushilog01)でした。
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