こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
「史跡料亭 花月」は、僕が長い間訪問したかった長崎きっての老舗料亭です。
創業はなんと1624年 (寛永元年)で、庭園内の茶屋として始まりました。
こちらは【卓袱料理】の伝統を伝えるお店で、建築も素晴らしいので、「史跡料亭」と言う呼称に相応しい格式を持ちます。
また老舗料亭でありながら御料理も美味しいところがポイント。
【卓袱料理】で、ただ個性を有しているだけではありません。
全国各地、料亭の多くは現代に通用しない味で止まっているため、現代人が頂いてもきっちり美味しい料亭料理は素晴らしいです。
「料亭は料理の味だけではなく、文化を味わうもの」と言うご意見もありますが、美味しくなくては料理店は失格です。
未来に残るお店とするためには、歴史ある料亭でも技術革新を行わねばならない、と再認識します。
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長崎「史跡料亭 花月」の魅力については、伝統的な【卓袱料理】を現代に美味しく伝える点と建物の素晴らしさに尽きます。【卓袱料理】は日本、中国、オランダの文化が融合した、長崎ならではな宴会料理です。江戸時代に日本で唯一海外へと開かれていた長崎では、各国の食文化が混ざり合って新しい料理が生み出されました。「和華蘭料理」とも称されます。
日本の伝統的な宴席料理=饗応料理においては、「膳」と呼ばれる四角い食卓を用い、料理が1人前ずつ配膳される点が特徴です。そこから発展したのが茶懐石であり会席料理です。着席する位置も、身分や立場によって厳密に分かれています。しかし、【卓袱料理】は円卓で、大皿から料理を取り分けて食す点が独特です。調理的にも食事のスタイル的にも自由な発想に基づくのが【卓袱料理】です。
「史跡料亭 花月」は、江戸時代には「引田屋花月楼」と言う屋号で、丸山遊郭で随一の規模を誇っていました。現在も「史跡料亭」と名乗るだけあり、圧倒的な雰囲気と格式を誇ります。
残されているエピソードがすさまじく、「坂本龍馬が酔って刀を振り回して付けた刀傷」や「岩崎彌太郎が酔って落ちた池」など、歴史を追憶できる料亭です。
今回、僕がお食事を頂いたお部屋は「頼山陽の間」でした。かの頼山陽が3ヶ月間滞在して、遊学利用していたと言うお部屋です。
他にも魅力的なお部屋があり、「春雨の間」は日本初の洋間として知られます。
タイル貼りの床に和風の格天井、中国の様式を取り入れた窓など、和洋中が折衷されている様式で、記憶に残る雰囲気です。
そして、極めつけは大広間。
広大な庭を見渡す大広間は料亭の格式を実感できる素晴らしい空間です。ここに件の坂本龍馬の刀傷があります。
お食事を頂く前には、「引田屋花月楼」ゆかりの資料が展示されている「集古館」をご案内頂けます。
これは歴史好きなら否応なしにテンションが上がる素晴らしいツアーです。
食後には庭も見学させて頂き、総合的な満足度は価格以上の料亭であると感じました。
…なお、提灯の風情に惹かれて夜の訪問と悩みましたが、全てを見学させて頂けたので個人的にはお昼の訪問で大正解だったと感じます。
それでは、実際の御料理、【卓袱料理】の紹介に移ります。
「史跡料亭 花月」のコースについては、以下のようになっています。
- 昼サービスコース:10,560円、14,520円、17,160円
- 昼・夜フルコース:23,760円、26,400円、33,000円
僕はサービスコースの真ん中のコースを頂きました。内容の違いについては、品数は13品ほどでほとんど変わらないそうです。何が変わるかと言えば、食材や刺身のグレードが変わるそうです。
なお、今では希少な南蛮料理【パスティ】を頂けるのはフルコースのみとのことです。【パスティ】は肉や野菜の上にパイ生地をのせて焼く料理。「史跡料亭 花月」の【パスティ】は豪華版で、フカヒレ、すっぽんの湯葉巻き、生麩、ネギが入ったスープを使用しているそうです。
もう一つのシグネチャーである【東坡煮】は全てのコースに付きます。
頂いたコースの内容
- 御鰭:吸い物、鯛の「鰭椀」
- 造り:刺身の盛り合わせ
- 湯引き:湯引きした魚料理
- 三品盛:海山里のもの口取り
- 取肴
- 満女(黒豆煮)
- 変り鉢:印籠トマト
- 凌ぎ:ハトシ
- 大鉢::季節の野菜と紅ズワイガニの鼈甲あんかけ
- 油もの:万願寺唐辛子の天麩羅
- 中鉢:東坡煮
- 御飯、煮物:ヒカド仕立て
- 香の物
- 水菓子
- 梅椀
お酒については、【花月酒 特別純米】を頂きました。奉仕料込みで2,400円です。
お昼のサービスコースであっても、一気にたくさんの御料理が配膳される点が卓袱料理らしくて嬉しい。
中居さんの「まずは御鰭をどうぞ」から始まるのが【卓袱料理】の流儀。筆者は長年聞きたくて仕方がなかったフレーズだ。頂く前から鰹出汁の香りがしっかりと香る。いざ頂いてみると出汁は予想よりも遙かに繊細!吸い地には鰹節の血合いの酸味が効いており、塩気もかなり軽くて上品だ。日本料理は椀を頂けばほぼ分かる。「史跡料亭」と掲げつつ、史跡のみならず調理も間違い無い事を確信した次第だ。
鯛、ひらす、水烏賊の3種類。鯛は訪問前日に台風が直撃した影響か、寝かせてしっとりした身質。しかしながら香りを楽しめる。ひらすは長崎で愛される魚種であり、標準和名はヒラマサだ。ムチムチ、パツパツした魅力的な食感で、味わいはしっかり。これは美味しい。水烏賊もねっちりした身で、甘い。椀に続き刺身も期待以上だ。なお、醤油は甘味の無い土佐醤油で鰹節の旨味と風味を感じるもの。
刺身に続いて湯引きした魚を出すところが非常に独特だ。この度は九絵とクジラ。実に長崎らしい。クジラの部位は、さえずり、ベーコン、すえひろ。ご当地を感じる嬉しい組み合わせである。
ヤングコーンの焼き浸し、白瓜の漬け物、車海老の黄身寿司、穴子の煮凝り、クリームチーズ玉子。車海老の黄身寿司の黄身酢オボロは甘味も酸味も穏やか。この味覚調整は料亭としては優秀。玉子は甘味の軽いスフレ状のチーズケーキ的でモダンな印象を与える。
長崎を起点に砂糖が全国へと流通した「砂糖ロード」を感じさせる【卓袱料理】の必需品。10粒並べると六寸の長さになったことから「十六寸豆」と呼ばれるそうだ。
トマトの中に豆腐と枝豆、帆立のミンチを詰めていて、これまたモダンだ。
最も広く知られる長崎の郷土料理の一つだろう。定番の海老のすり身以外に、玉子と鰻のオリジナルバージョンも添えられている。
サクサクな薄いパンからの海老の香りと甘味がたっぷりと広がる。
茄子、枝豆真薯、銀杏、生麩とともに。銀杏は翡翠銀杏で、8月下旬であったので早い走りのものだ。醤油をしっかり強めに効かせた餡でキリッと仕上げている。
万願寺唐辛子のフルーティーな酸味が爽やかだ。
繊維ホロホロ、脂はトロトロ。甘味をバシッと効かせてフィニッシュの料理に相応しい貫禄だ。
長崎で頂いた角煮の中でもトップクラスに美味しい。
香の物はキュウリの浅漬け、パプリカの甘酢漬け、湯葉昆布。煮物は長崎郷土の味わい「ヒカド」だ。
「ヒカド」は長崎に1600年代初頭から伝わる郷土料理である。ポルトガル人が食べていたシチューが由来で、もともとは牛肉や豚肉が使われていたところ、日本人が野菜、鶏、魚などでアレンジして定着したそうだ。「ヒカド」は、ポルトガル語の「肉などを細かく刻む」という意味の”Picado”が語源。
頂いてみるとコンソメを思わせる動物性の出汁が非常に印象的。火腿(ハム)で出汁を取ったような印象も受け、黒胡椒を使用している点も当地らしい。これはスープで飲むだけでなく、「じゅじゅまんま」で頂いても美味しい。「じゅじゅまんま」は「汁汁飯」の意味で、要は汁かけご飯だ。素朴でありながら記憶に残るお食事だ。
ヨーグルトムース、マンゴーかん、シャインマスカット。創作的な水菓子ながら上品にバランスが取られている。老舗の料亭の水菓子は、文字通り生のフルーツか洋風に寄せて失敗しているケースが多々あるので、きっちり美味しく仕上げている点に喜びを覚えた。
白玉団子と芥子の実のお汁粉。甘味が効いて美味しいお汁粉であった。
「史跡料亭 花月」の予約については、お電話のみとなります。
細かい照会については、WEBフォームからメール問い合わせが可能です。
店名:史跡料亭 花月(しせきりょうてい かげつ)
予算の目安:昼サービスコース:10,560円、14,520円、17,160円、昼・夜フルコース:23,760円、26,400円、33,000円
TEL:095-822-0191
住所:長崎県長崎市丸山町2-1
最寄駅:崇福寺駅から260m
営業時間:12:00~15:00(L.O.14:00)、18:00~22:00(L.O.20:00)
定休日:不定休(主に火曜)
伝統文化と歴史的建築に感銘を覚える、すしログ(@sushilog01)でした。
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