こんにちは、鮨ブロガーであり蕎麦好きな、すしログ(@sushilog01)です。
こちらは東京の「蕎麦懐石」を代表する名店です。
独自の美学でお店の世界観を創り出し、長年、多くの食通を立川の地に惹き寄せています。
「蕎麦」と聞くと「渋い」と感じる人も多いかもしれません。
しかし、そういった方こそ「無庵」さんを訪問すれば、蕎麦の「美しさ」と「面白さ」を知ることになるでしょう。
新体験の味わいとともに。
「蕎麦懐石 無庵」の系譜と魅力
オーナー料理人の竹内洋介さんがお店をオープンされたのは1989年です。
40歳を超えた折に、もともとのご自宅を古民家調の店舗に改修され、ご自分の城を生み出しました。
竹内さんの修行先は、足利の「一茶庵」。
「一茶庵」は創業を大正15年(1926年)にまでさかのぼる老舗です。
そして、竹内さんご自身も有名なお弟子さんを多数輩出されています。
その6軒とは、根津の雙柿庵(2000年)、葉山の蕎麦恵土(2006年)、東村山の土家(2008年)、松本の滿(2015年)、金沢の蕎味櫂(2015年)、洗足のすぎやま(2017年)。
いずれも押しも押されもせぬ人気店です。
「蕎麦懐石 無庵」で感じた魅力を挙げると、以下の通りです。
- 蕎麦の確かな美味しさ(強い甘み)
- 西洋の調味料をアクセントとして使用
- 蕎麦店では避けられがちな生の魚を出しつつ嫌味が無い
- 八寸における酒肴の一つ一つが日本料理として完成度が高い
- 前半の品々から蕎麦のエッセンスを感じさせ、蕎麦懐石である必然性を示す
トータルとして、「蕎麦懐石」の開祖的位置づけとしての説得力と存在感を、味わいならびに空間、おもてなしによって心から体感させて頂きました。
自由な気風がありつつ、日本の旬を感じさせるコース。
今までに無かった「蕎麦懐石」を生み出された着想の源泉はなんだろう…と考えていたところ、BGMで腑に落ちました。
The Cecil Taylor Quartetでした。
すしログ
「無庵」の蕎麦は八ヶ岳山麓から「信濃1号」を、茨城県から「常陸秋そば」を仕入れてブレンドを行い、完全自家製粉しているそうです。
年間を通して美味しい蕎麦を出すべく、湿度と乾燥状態に気を払い、徹底管理されている模様。
蕎麦は蕎麦殻ごと挽いて「ホシ」が飛んでいる、いわゆる「挽きぐるみ」。
角張った細麺で、切りつけは正確です。
訪問日はオーナーはご不在だったので、お弟子さんの仕事のようですが、精度の高さを感じました(そもそもいらっしゃる時でも、料理長の方が任されているように思います)。
蕎麦の味の詳細はこの後お伝えします。
なお、使用する野菜は狭山湖のほとりにある自家農園「無庵ファーム」で生産されたもの。
完全無農薬の味わい深い野菜たちです。
「蕎麦懐石 無庵」の【そば遊膳】の美味しさ
おまかせコースである「蕎麦懐石」に当たる【そば遊膳】は完全予約制です。
夜は7,200円、お昼は7,200円と4,180円(※平日のみ)になります。
コース以外にアラカルトも可能ですが、初めて訪問する場合は圧倒的に【そば遊膳】がオススメです。
本来は日本酒を頂きたいところですが、禁酒法が適用されていたのでジュースを頂きました。
赤しそジュースのペリエ割。
自家製ジュースは5種類あり、いずれも非常に魅力的である。
蕎麦豆腐
蕎麦粉と葛粉を用いた蕎麦豆腐。
付け合せは長芋とオクラ、車海老。
葛粉を用いているため正に葛餅のようで、もっちり、ねっちりした食感。
蕎麦の甘みと香りを爽やかに感じさせる。
ツユが蕎麦のかえしのような点が、懐石料理における胡麻豆腐などとは完全に異なり楽しい。
季節の前菜盛り合わせ
モロヘイヤのお浸し、蛸とキュウリ・ワカメの酢のもの、炊いたニシン・山椒・白髪ネギ、サツモイモのレモン煮、キュウリのかえし漬け。
個々が洗練されていて、穏やかに期待を高めてくれる。
モロヘイヤのお浸しは包み込むように穏やかな出汁と軽い塩気。
同時に、酢のものも酸味と甘みの両方が抑制されていて、都会的な味わい。
サツモイモのレモン煮も行き過ぎると下品なところ、レモンの香りが優しくて実に良い。
ニシン
乾物ではなく生の脂が乗っているものを炊いて、軽くスモークいるように感じる。
蕎麦で定番の乾物とは異なる食感と香りが魅力的だ。
焼き味噌
自家製味噌を使用。
クルミのコクと味噌の甘みと香り、そしてネギの香りと蕎麦の香りが渾然一体となり、美味。
こればかりは日本酒を飲めないのが残念であった。
蕎麦がき椀
合鴨に、ネギと三ツ葉、柚子皮を一切れ。
蕎麦がきを椀で表現する点がユニークで、センスを感じる。
蕎麦がきはもっちり、とろりと滑らかにとろけ、香りも良い。
鴨肉は柔らかい。
鰹出汁のスッキリしたスモーキーフレーバーも軽やかに混ざり、食欲を一気に高める。
イサキと白イカのカルパッチョ
酢橘、イタリアンパセリとともに。
イサキは脂が乗っていて、美味。
白イカも甘みが強く、臭みは無い。
蕎麦店で生魚を用いつつ臭みなどがあれば画竜点睛を欠くもの。
申し分ない質を担保しているからこそ、許されるのが変化球だ。
鴨肉のロースト
ロストビーフの調理を行った鴨肉で、野菜は丸茄子、オクラ、トマト。
金柑のソースと芥子を添えて。
しっとりと柔らかな鴨肉に、香ばしい苦味のある醤油ベースのソースが合う。
丸茄子は蒸して冷やしてから、餡を掛けて大葉を散らしている。
穴子と季節野菜の天麩羅
野菜はささげとズッキーニ。
穴子はぷるん、ぷちっと弾ける食感で、香りも楽しませる。
これは江戸前の可能性が高い!とテンションが上った。
夏場の蕎麦店で穴子天だと、やはり対馬ではなく江戸前が嬉しいもの。
ささげは香りと甘みが良く、黄色ズッキーニは瑞々しい。
浅漬け
長茄子、蕪、蕪葉のかえし漬けか?
優しい甘みのある醤油漬けだ。
ワイルドな盛り付けにはビックリした(笑)
蕎麦
お待ちかねの蕎麦。
非常に力強い食感の麺で、甘みが強く、瑞々しい。
香りもふんわりと楽しませる。
特徴として甘みの強さが印象深い。
添えられた蕎麦の葉と花がお洒落。
花は甘みがあり、葉は辛味がある。
辛味大根でキリッと頂く。
ただ、美味しい蕎麦だからこそ、「ぶっかけ」ではなく「もり」で頂きたかった。
蕎麦をすするリズムが違うので、やはり、コースの〆ならば「もり」で蕎麦らしくリズミカルに耽溺して締めたかったというのが偽らざる本音だ。
蕎麦湯はナチュラルタイプながら甘みがある。
蕎麦粉を大量に添加したドロドロタイプよりも遥かに好きだ。
水菓子
柚子のシャーベット、フェンネルのアイス。
柚子は言わずもがな爽やかな香り。
フェンネルも正にフェンネルの香り(インド料理店のキャッシャー前にあるあの香り)だが、違和感無くまとめられている。
「蕎麦懐石 無庵」の立地と雰囲気
立川駅からしばらく歩いた路地にあり、静かな一角です。
蔵があるような古民家風、田舎の豪農の家屋のような存在感のある建物です。
店内は想像以上に広々とていて、落ち着いた雰囲気です。
骨董品クラスのJBLのスピーカーもあり、真空管アンプでJazzを流しています。
僕も好きなStan GetzとAstrud Gilberto、Bill Evans、John Aaron Lewis、Thelonious Monkなどが流れていて、終始心地良い時間を過ごさせて頂きました。
蕎麦×古民家調×Jazzの組み合わせは他に無いかも!?
蕎麦に詳しい友人いわく、こちらは蕎麦×Jazzの先がけとのことです。
店内は広いだけでなく、ゾーニングと間取りがしっかりしていて、全てのお客さんが寛げるように配慮されていると感じました。
この点も、今までにない「蕎麦懐石」を編みだす上で考え抜かれたのではないでしょうか。
従来は(蕎麦屋酒を楽しむとしても)ファストフードであった蕎麦をコースにする以上、寛げる空間設計は必須だろうと、寛ぎながら考えました。
そして、建物や什器の隅に陰が生まれるように配置されているように感じ、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』が頭に浮かびました。
「蕎麦懐石 無庵」のお店情報と予約方法
予約についてはお電話のみとなります。
店名:蕎麦懐石 無庵(そばかいせき むあん)
予算の目安:【そば遊膳】夜7,200円、お昼7,200円と4,180円(※平日のみ)
TEL:042-524-0512
住所:東京都立川市曙町1-28-5
最寄駅:立川駅から450m
営業時間:11:30~14:30(L.O.14:00)、17:30~21:00(L.O.20:00)
定休日:日曜
※大丈夫だとは思いますが、強い香水は入店NGです。蕎麦店に行くのに香水を付ける人はいないと思いますが…
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もっと蕎麦懐石の世界を探求したいと感じる、すしログ(@sushilog01)でした。
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