こちらは佐賀県で数少ないミシュランの二ツ星に輝く、唐津の鮨店です。
親方の松尾雄二氏は陶芸家・中里隆氏の影響を受け、年に2回、銀座のきよ田に通い、新津武昭氏の薫陶を受けたそうです。
中里隆氏は中里無庵(十二代中里太郎右衛門・人間国宝)氏の五男として生まれた陶芸家。
親方は中里氏に握るために、東京ではなく唐津にお店を開いたとの事です。
こちらの握りは唐津周辺のタネに江戸前の仕事を施した唐津前。
親方に伺ったところ、八割くらいが地物を用いており、あとの二割は産地を選ばず、それでいて東京では頂けないようなタネを選んでいるそう。
実際、お伺いした際に、オオスケが出てきた時は驚きました。
オオスケとは、標準和名、鱒之介(マスノスケ)で、所謂キングサーモン。
北海道でしか頂いた事の無いタネであり、まさか唐津で…と興味深く感じた次第です(色々な意味で)。
しかし、何よりも強調したい点は、こちらのシャリの美味しさ。
赤酢を用い、塩気を利かせ、硬めに仕上げたシャリは抜群の味わいです。
温度も申し分無く、ほどけ加減に熟練の技を感じさせてくれます。
唐津という場所でエッジの利いたシャリを出されているなあ、と惚れ惚れしました。
このシャリの美味しさについては稀有なレヴェルにあると感じます。
また、仕事についても特徴的なものが散見されます。
ニンニクを用いた鰹、低温で蒸した帆立など、個性的な仕事を楽しめます。
美味しいシャリと個性的な仕事。
その上、ランチのお決まりは4,500円と中々リーズナブル。
内容を考慮すると満足度が高いかと思います。
ただ、極めて残念な点もあり、それは即ち提供スピードが極端に速い点。
店内のお客は僕一人でしたが、入店から完食まで、なんと僅か9分(笑)
一貫を噛みしめて食べているところに、ハイ、ハイと矢継ぎ早に出され、盛り板に並んでいきます。
なので、ペースを上げて早食いで頂かなければついて行けませんでした。
昔の屋台寿司ならいざ知らず、高級料理となった今、早食いは寂しい。
しかも、一通り頂いた後の追加もまたスピーディ。
じっくりと鮨に向き合いたかった…と言う無念を残してお店を去る事となってしまいました。
鮨と言うのは、職人と食べ手とのキャッチボール。
キャッチボールをしに行ったのに、いきなり千本ノックをされると、流石に辛いです。
噛み締めたほうが美味しさが実感できるものですしね。
頂いた握りは下記の通りです。
ガリ
鋭い酸味と辛味のガリ。
アラ
標準和名、九絵。
一貫目が地物を代表するス主役級の魚とは嬉しい。
旨味が強く、食感はシャクシャクと力強い。
アオリイカ
分厚い烏賊に表と裏で違う包丁を入れているため、歯切れが非常に良い。
アオリ特有のトロリとした食感と力強いゴワッとした食感の両方を楽しめる。
車海老
ペースが速く、印象に乏しい。
オオスケ
漬けており、とろとろな食感と香りが充満し、非常に旨い。
これは素晴らしい仕事。
鰹
揚げたニンニクを用いた醤油を使用。
軽い燻香にニンニクが嫌み無く合わさり、良いバランス。
鯵
〆加減が良く、旨味が凝縮されている。
帆立
低温で蒸したと言う帆立。
細かい包丁を入れる事でタネとシャリが見事に一体化。
煮ツメとの味覚的なバランスも秀逸。
赤海胆
唐津の赤海胆自体は旨いが、海苔の風味が強く、海胆を阻害。
海胆の味わい的に巻物ではない方が良い。
これは極めて残念な仕事。
穴子
食感を比較的残した蒸し加減で美味。
やはり煮ツメも旨い。
アシアカエビ 追加
標準和名、クマエビ。
生の海老を昆布で〆て、海苔を噛ませている。
これは個性的で素晴らしい仕事!
食感が凝縮され、もぎゅっもぎゅっと言う力強い身を噛みしめると、
海老の甘みと昆布の旨味がせめぎ合い、お互いを主張する。
強めの〆加減だが、海老の味わいに合った塩梅となっている。
アゲマキガイ 追加
瀬戸内海では絶滅し、有明海でも希少性が高まっている地物の貝。
蛤と同じく輸入物が多い。
ほのかな苦みが残るところを、すかさず煮ツメの甘みとコクがカバーする。
鮑 追加
地物。小ぶりだが、中々の旨味。
お決まり4,500円に3貫追加して、お会計は7,300円。
追加は少しお高い印象ですが、頼んで正解だったと感じました。
特にアシアカエビについては印象に強く残りました。
店名:つく田(つくた)
シャリの特徴:赤酢のみを使用し、塩気を立たせ、硬い、男前なシャリ。
予算の目安:4,500円〜
最寄駅:唐津駅から350m
TEL:0955-74-6665
住所:佐賀県唐津市中町1879-1
営業時間:12:00~14:00、18:00~22:00
定休日:月曜
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