
こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
さて、この度紹介する銀座の「鮨 門わき」さんは、伝統と個性を巧みにハイブリッドする独創的な鮨店です。
しかし、「独創的」と言っても決してバブリーな方向性ではなく、あくまでも魚の手当と仕事で個性を表現されている点が魅力です。


九州の仲買人との連携が奏功していて、豊洲に流れない魚でご自身の江戸前鮨を編む職人さん。
鮨、魚好きであれば、色々とサプライズがあるお店です!

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実は、「鮨 門わき」さんは先月お伺いした笠間の「鮨 松榮」さんにて知りました。
「鮨 門わき」の親方が兄弟子であるとの談で。
「鮨 松榮」の臼井親方がわざわざ名前を出されたので、これは良い職人さんに違いないとすぐに頭に記憶しました。
そのような中で、たまたまお誘いをいただき、これは僥倖とお伺いした次第です。
そして、結果的に訪問して大正解でした。

「鮨 門わき」の門脇 賢寿 親方は、豊洲市場だけでなく産地直送の魚を積極的に用いる点が銀座において独特です。
そして、それらの魚を確かな江戸前の仕事を用いており、見た目以上にユニークな鮨を編み出されています。
魚の素材力を仕事でギリギリのところまで攻めて活かすスタイルに、伝統と独創の巧みなバランスを感じました。

より具体的に述べると、鹿児島の仲買人である「ジョ兄」こと東 壽一さんから魚を仕入れ、伝統的な江戸前の仕事と、寝かせと熟成を効果的に用いておられます。
「ジョ兄」さんは津本式究極の血抜き公認の「仕立て人」ですが、魚の個性を見極めて締め方と手当を選択されているように感じます。
そして、親方も熟成を意識的に使い分けています。
ネット上では熟成を行う職人さんは熟成の名が独り歩きする傾向にありますが(「鮨處やまだ」の山田親方も当初はそのように書かれていました)、個人的には木を見て森を見ずであると感じます。
また、全ての魚に津本式を施して熟成しても魚の魅力は引き出されません。
よって、門脇親方と「ジョ兄」さんの連携は良い形で奏功していると感じました。
最後に、鮨の生命線であるシャリについては、赤酢と米酢をバランス良くブレンドされています。
まろやかな甘味を感じさせ、温度や粘度もバッチリ。
最後までタネと調和するオールマイティーなシャリです。
「鮨 門わき」さんのおまかせは35,000円+サービス料10%となります。
なかなかスペシャルな価格帯ではありますが、「独自の仕事を楽しんでみたい」という方ならば訪問する価値があると思います。
食材力や仕事など、本質的な部分に「鮨 門わき」さんの魅力は凝縮されているので、ビギナーから玄人まで楽しめる内容です。
一度の訪問で「引き出しが多そうな職人さんだ」と実感した次第です。

見事な泡!

季節感を感じさせる野菜の先付けとは嬉しい。甘味が非常に強く、シャキッとしていて気持ち良い食感だ。初夏でありながら温かい出汁で提供するスタイルも個人的に好感。走りのヤングコーンの甘味を活かそうという目論見を感じた。

千葉県産。2時間蒸していて、肝には「苦味を丸くするためにバターと柑橘を使用」…とお伺いして少々懸念したが、杞憂に終わる。まず、鮑の身の食感はむっちりしていて、食欲を刺激する香ばしさが高まる。甘味も強い鮑だ。そして、バターの使用法は上品で、親方の意図は奏功している。

シャリと食べた時に「使用している柑橘はレモンか?」と一瞬思わせる酸味であるが、実際にはレモンではなく酢橘である。クエン酸だけでなく、シャリに含まれる酢酸も加わることで、どことなくチーズケーキのようなニュアンスになるところが斬新であった。

毛蟹は北海道産で、紫海胆は豊洲に流れない天草のもの。唐墨、木ノ芽を合わせている。旨味と甘味の掛け算系の取り合わせだが、海胆の香りが活きているのが良い。毛蟹の甘味、唐墨の塩気、ともにバランスが良い。一品前のバターと同様に、一歩間違えると大味になりかねないところを絶妙な塩梅で抑制している。

ホタルイカは富山県産。すじ青海苔の香りが良く、非常に良い取り合わせ。産地をお伺いしたところ四万十ではなく熊本のものとのこと。初めていただいたが、品質が高い。

甘味と辛味がともにあるガリ。

ねっちりと密度のあるテクスチャーの鰹で、噛みしめると旨味が広がり、酸味もありつつ旨味が席巻する!これは粋な味わいの鰹だ。塩と極少量の当たり葱を使用していて、その塩梅は素晴らしい。当たり葱は今や万能調味料的に赤身魚や青魚に使用されるが、魚味を壊さないことが必須である。

佐島産。食感はコリッコリでありながら、むっちりとした反発もある。旨味が強く、噛みしめる喜びがある。これは煮仕事による技術が活きている。


小鰭を血抜きして、真空パックにしてから冷やし込んでから寝かせるという、独自の仕事!時期の味わいを考慮して棒寿司スタイルでの提供だそうだ。脂が凝縮されていて、香りも余韻も長い。淡くなった脂を巧みに仕事で引き立てる仕事であり、これは棒寿司を選択されたことが奏功している。「握り原理主義者」としては江戸前鮨のシグネチャーである小鰭を棒寿司にされると警戒感が高まらざるを得ないが、時期の味を把握したうえでの仕事が施されていると分かれば軽薄さを全く感じない。

敢えて漬け込みも行わず、煮ツメも付けない仕事を選択されている。蛤の煮汁で煮ているため、蛤の旨味と甘味が凝縮されている。味付けだけでなく火入れも良い。シャクシャクしつつ、艶かしさもある食感で、しっとりとほどける。シャリの酸味と米の甘味が蛤の味を引き立てるバランスだ。蛤のみの味わいだと全体的な印象がぼけることもあるが、門脇親方の蛤はそうなっていない。

5月下旬に三厩の鮪(無凍結)とは驚いた!!

室温によりトロの脂と中心の温度を最適化した後に、炭火を軽く押し付けて最大化。脂もさることながら香りも良い。食欲をそそる香りによって脂を軽く感じさせる。


これは凄い。全くサラッとしておらずねっちりしたテクスチャーで、海の香りと甘味が横溢する。そして、旨味が強い。海水で漬けているために、この軽やかな塩分濃度とテクスチャーに仕上がるのだと実感する。

食感が命の墨烏賊を極細切り!?と訝しんだが、いただいて刮目する。プチプチと弾けてゆく食感は正に墨烏賊。そして、甘味は媚びない範囲で広がる。墨烏賊の食感と甘味を活かす素晴らしいバランスの包丁仕事だ。寝かせの仕事に長けている職人さんだが、魚味を意識した選択をされているのがアドバンテージ。

茹で上げから寝かせての握り。味噌をレアに仕上げつつ、臭いや苦味などのネガティブな要素は無い。むっちりした食感があり、甘味がジワジワと高まる点は仕事の妙だ。

「甘」鯛の名の由来を強く感じせる仕事!身がとろり、とろりとゆるやかにとろける感じと皮目のパツパツ感のコントラストに惚れ惚れ!食感だけでなく脂や旨味についてもグラデーションがあり、魅力的な仕事でモノを活かしている。寝かせの発展的な仕事だと感じた。


直前に熱した石で軽く焼き、甘味を引き出す仕事。叩くことをせず甘味を活かすために選択されている。いただいてみると表面の温度はいたずらに上がっておらず、目論見通り甘味が引き出されていて、香りもたっぷり楽しめる仕事であった。

漬けによって食感をみちっとさせていて、ねっちりでな方向性ではなくぷちりと切れるような食感だ。旨味を感じさせる漬けの塩梅。


海胆は甘味と香りを活かすために混ぜて提供する。甘味もさることながら香りが良い海胆であった。

「海苔使黒滝」の海苔を使用されていて、食感はバリッ!!そして、香りが芳醇で、旨味も強烈なので鮪とも山葵ともバッチリ合う海苔である。これは抜群に美味しい海苔だ。

まさかのSAKE HUNDREDが登場。二番手さんが、僕が日本酒ペアリングを研究しているのを知っていてくださり、親方にわざわざお伝えして最後に飲ませていただいた。SAKE HUNDREDは現在破竹の勢いでブランド価値を高める高級日本酒である。メーカーの営業の方は「鮨に合う」との談であったが、個人的には鮨種を非常に選ぶ方向性の酒質である。要は香り酵母系の大吟醸タイプであり、バランスブレイカーだ。その酒質を認識して穴子に当ててこられた二番手さんは慧眼である。

泥臭さは無く、ピュアな香りを楽しませてくれる穴子だ。脂の香りが実にピュア。ぷりっとしつつ繊維の部分はしっとりしている。しっとりながら細やかな反発もある。当日仕入れで血抜きしてから使用する徹底っぷりだ。

蜆の旨味と味噌の甘味、コクをまろやかに楽しめる味噌汁。

芝海老と大和芋を使用する伝統的な調理法を行いつつ、しっとり感を最大化している。厚みがありつつシフォンケーキとカステラをハイブリッドしたような絶妙な食感。それでいて甘味は抑制されているのでスイーツ的ではなく鮨店らしい玉子焼きである。
「鮨 門わき」さんについては、一休もしくはテーブルチェックでWEB予約が可能です。
店名:鮨 門わき(すし かどわき)
シャリの特徴:赤酢と米酢をバランス良くブレンドされていて、温度や粘度はバッチリ。
予算の目安:おまかせ35,000円+サービス料10%
最寄駅:銀座駅から350m
TEL:03-6228-5660
住所:東京都中央区銀座7-4-6 ACN銀座7ビルディング 6F
営業時間:17:00~22:00
定休日:日曜、祝日
門脇親方と同門の、笠間にある「鮨 松榮」さん

本質的な仕事で個性を表現する職人さんが好きな、すしログ(@sushilog01)でした。
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