こんにちは、春は山菜、秋はキノコが日本の贅沢だと思う、すしログ(
さて、山形県は西川町にある「出羽屋」さんは、今や広く知れ渡る名店です。
15年ほど前に訪問した食通の友人からオススメされ、ずっとお伺いしたいと考えていました。
その後、代替わりされ、現在は「シェフズテーブル」で一日一組をもてなすオーベルジュへと進化しています。
重厚な宿場の雰囲気を留め、現代的な感性でリニューアルを行う当代。
自ずと応援したくなります。
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過去のお料理を頂けなかったのは悔やまれますが、当代のお料理は秀逸。
標題の通り、集落の郷土料理を世界レベルの料理へと昇華される姿勢は崇高の一言です。
郷土料理には、まだまだポテンシャルがあります。
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山形県西川町「出羽屋」の魅力とは?
「出羽屋」さんの魅力を語るのは非常に容易です。
何故なら、郷土料理を古臭いと考えている人に対してすら、郷土料理の素晴らしさとポテンシャルを伝えてくれるから。
温故知新の美徳を実感し、日本の土地の食材の魅力を噛みしめることで、深い感動へと導くお料理です。
現在は四代目の佐藤 治樹さんが花板を務めておられ、二代目(お祖父さん)のお料理を見事に継いでいます。
お店のある西川町間沢の集落は、古くから出羽三山への登山口の一つとして賑わいました。
そして、1928年(昭和3年に)、間沢駅が作られたことを受けて、初代の佐藤彦太郎さんが「出羽屋」を開業したそうです。
出羽三山の一つ、月山は食通には知られた山菜の豊富な土地です。
しかし、初代が開業した際に山菜は家庭の食材であり保存食であったため、客人に振る舞うことはなかったそうです。
その後、二代目の邦治さん(治樹さんの祖父)が試行錯誤の上で完成させたのが、「出羽屋」の山菜料理とのことです。
著書の『出羽屋の山菜料理』を読むと、食欲が刺激されるとともに、想像力も刺激されます。
山菜という地味な存在であるにも関わらず。
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しかし、田舎暮らしの幼少の時分には、魅力を感じる事ができませんでした。
今となると勿体ない事をした、曾祖母ちゃんにくっついて森に入れば良かったと痛感しますが、山菜が高級食材にも勝る贅沢な食材となりうると見なされるようになったのは、決して昔の事ではないようです。
今でも高級食材を追い求める人の方が多数派ですが、日本人の心を揺さぶるのは、土地の食材と土地の味だと実感します。
日本各地に点在する土地の味を追求する料理人の方々に感謝。
「出羽屋」の佐藤 治樹さんは、そのような料理人の一人です。
作られるお料理は、二代目のお料理を踏まえつつ、現代的な感性で洗練を与えています。
盛り付けだけでなく味覚の面でも洗練が見られ、郷土料理が必然的に内包する古臭さを微塵も感じさせません。
同じような感性は滋賀県マキノの「湖里庵」さんでも感じるところ。
郷土料理のポテンシャルを信じ、センスと技術で世界レベルの料理へとイノベートします。
そして、調理面において「出羽屋」さんで刮目すべきは、保存の技法です。
山菜・キノコは、当たり前ですが冬には採れません。
それ故に塩漬けや乾物に加工する事で、冬を凌ぐのが伝統です。
しかし、「出羽屋」さんの保存と戻しの技術は卓越しており、言われければ生だと思うようなものもあります。
保存食と旬の食材が調和する、通常の日本料理には無い発想も魅力だと言えます。
さらに、「出羽屋」さんは雰囲気も素晴らしい。
店構えから宿場の風情を感じさせ、囲炉裏のある帳場の放つ雰囲気は、なかなか味わえません。
それでいて、お食事をする部屋は改修されていて、極めてモダン。
カウンターの木材は樹齢2,000年もの埋もれ木のケヤキ。
照明も抜かり無く、寛ぎを懐きながらお料理を味わえる色調です。
お部屋については、幾つかのタイプが有り、蔵を改修したお部屋もあります。
蔵だけあって広いです。
それでは、実際に頂いたお料理をご紹介します。
「出羽屋」の【山の幸コース(シェフズテーブル)】の詳細
下記が「出羽屋」さんのディナーの内容です。
【シェフズテーブル(宿泊、朝夕食込み)】は37,400円で、お酒のペアリングは8,800円となりますので、宿泊の場合は46,200円です。
お料理のみの場合、【シェフズテーブル】は19,800円と16,500円の2本立てとの事です。
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そのためにも、お料理の伝統を繋ぐ料理人さんと、それを支える生産者さんの二人三脚を心から願っています。
好みもあるかと思いますが、一般的な高級ホテルよりもお料理が格段に美味しく、伝統や文化にも貢献できますしね。
卓上にセッティングされたメニュー。
このラインナップでテンションが上がらない人間はいないのではないでしょうか?
お出汁(金蕪)
初手から白眉。
金蕪の出汁に小蕪を用い、赤根法蓮草を添える煮もの椀。
野菜出汁とは思えない味わい深さに驚嘆を覚える!
出汁はもちろん、調味料も塩のみとは凄い表現だ。
野菜が持つ旨味と甘味を最大化している。
赤根法蓮草の軸は特に甘い。
山形の伝統野菜の魅力とご主人の調理技術を伝えるばかりではなく、お店のスタンスを強く示す、秀逸な先付けであった。
ワインはブラインド形式で提供されるのが素晴らしい!
余市の「SAGRA」さんと同じく、お料理に集中しつつ、ワインは純粋な味としてペアリング出来る。
山菜小鉢〜仙人の霞〜
2品目も驚嘆に値する逸品。
「仙人の霞」と呼ばれる樹上に生える苔だそうだ。
冬場は雪深いため、樹上に手が届き、収穫できるとの談。
食材が乏しくなる冬に苔を食べるとは厳しい時代もあったのだろうが、現代に佐藤さんと出会った苔は素晴らしい食材として再構築される。
苔であるが、食感が海藻のようで実に美味しい。
コリッ、ぷりっとしていて、柔らかい…独特の魅力的な食感だ。
濃厚な胡桃餡も調和している。
クリスマス時期の訪問であったため、新政のクリスマス限定Xmas-typeを出して頂いた。
山菜小鉢〜野鴨とヤマドリのささみ〜
野鴨のみならず、たまたま捕れたヤマドリの笹身を使用。
浅葱と和えることで、食欲を上品に刺激する組み合わせだ。
繊細ながら確かな旨味と浅葱の香りが実に良い。
山菜小鉢〜こごみ〜
こごみの胡麻和え自体はオーソドックスな料理だが、驚くべきはこごみが塩漬けの保存食でありながら生の状態と遜色が無い点だ。
シャキシャキした後に、とろりとほどける繊維の食感は、言われなければ塩漬けだと分からないだろう。
塩漬けの保存食を塩抜きして使用しているそうだが、素晴らしい技術だ。
黒胡麻のコクとやや強めの甘味が絶妙に合う。
先祖から続く伝統の味わいだ。
お椀(季節の茸)
季節の茸、蕎麦ノ実
「季節の茸」は、食感がとても良いなめこ。
ぬめりが強いところが、冬の特徴だそうだ。
香りもある。
間沢の集落はお米が取れないエリアなので、蕎麦で雑炊を作って空腹をしのいでいたらしい。
蕎麦の甘味と食感はキノコに合う。
川魚料理(鮎西京焼)
鮎の西京焼きで、付け合せは大根おろしに 山椒。
これは10月の落ち鮎を保存して活用した当代の料理とのことで、これまた感動が大きい一品。
西京味噌と山形の麦味噌を玉味噌にして、鮎をどぶ漬けにして、落ち鮎ならではな子にまで味を浸透させている。
それでいて塩味が穏やか。
2ヶ月以上の漬け込みなのに塩味が軽い…と思っていたところ、ご説明を頂き、塩味を落としつつ保存性を維持するために砂糖を効果的に用いているそうだ。
鮎の漬け焼きや煮ものは伝統的に塩味も甘味も強くなる傾向があるが、味覚面でモダンにアレンジされる試みに惹かれる。
さらに、鮎料理において最重要とも言える、肝の香りも楽しめる調理であった。
鮎を用いていながら香りを捨てる料理人は、日本料理のみならず中華料理やイタリア料理などでも散見されるが、自分からすると愚の骨頂である。
「香魚」たる鮎の魅力を引き出せぬなら鮎を使う必要性は無い。
蓋物(百合根万頭)
秋に収穫された百合根を熟成して使用。
旬のものではないので、旬のものであるタラノメの新芽を添えている点が嬉しい配慮だ。
万頭にはチーズが用いられていて、品種はコンテとの事。
その理由は、百合根のコクや余韻の長さと合わせるためで、敢えて日本チーズではなくコンテを選択されたそうだ。
和食としては創作的なエッセンスを加えつつ、基本的な銀餡の塩気が控えで、鰹出汁の塩梅も上品で美味しい。
タラノメの芳しさについては言うまでも無い。
鳥料理(ヤマドリのサラダ仕立て)
ヤマドリは手前が胸肉で、奥がロース。
胸肉は柔らかく、旨味があり、脂のコクが強く、最後に酸味がキリッと引き締めてくれる。
ロースは、食感と味わいともに力強いかと思いきや、身質はしっとりしていて、野趣は軽やかで、脂が旨い。
添えられている朝採り野菜も味わい深くて美味しい。
揚物(香茸のフライ)
秋に収穫した香茸を乾燥させて、硬めに戻してフライにしている。
チーズは、パルミジャーノ。
香茸は生よりもドライにした方が香りが強くなる。
そして、それをフライにするとは面白い!…と、提供前に一同テンションが上がるが、味わいは予想したものとは違った。
香茸の妙味である香りが極端に弱かったのだ。
鍋料理(月ノ輪熊、天然きのこ)
美しき色合いの月ノ輪熊。
これをたっぷりのキノコと頂く上に、出汁は山鳥のガラ!
地のものを用いて、ここでしか頂けない逸品へと仕上げており、これは都会では頂けないし、食材を集めて頂いたとしても味が絶対に落ちる料理だ。
出汁が素晴らしく、旨味が強烈で、喉が軽くヒリッとするほどに強い。
醤油を抑えて、塩ベースで味を組み立てている点も良い。
香りも良い。
月ノ輪熊は赤身が旨く、脂は甘い。
キノコも種々多様で、ヤマブシタケ以外は天然モノとの事だ。
ヤマブシタケについても、生産者さんに特注して、長期栽培しているそうだ。
「地の食材」や「郷土料理」を売りにしていても、食材を一般流通品でまかなうお店もあるだろう。
別にそれを咎める事はしないが、生産者さんと連携して、より良い食材開発と流通を生み出す料理人こそが、日本の未来のための料理人だと確信する。
生産地が乏しい大都会は別として、地方の料理人で応援したくなるのは、そのような方たちだ。
鍋のタイミングで日本酒の燗酒を付けて頂き、光栄至極。
秀鳳酒造場が酒屋さんのために造るPB「La Jomon Six 純米酒」。
精米歩合65%、使用酵母K601、日本酒度-6、酸度2.9。
従来の日本酒の「燗上がり」とは異なる方向性で、燗酒の魅力とポテンシャルを教えてくれる。
少し前の時代の通人ぶった半可通のせいで「良い日本酒は冷酒で飲むもの」と言う誤謬が流布され、定着してしまっているが、実際はそんな事はない。
肉料理(天然真鴨)
冬の訪問の天然真鴨は嬉しい。
しかも野菜は雪の下で貯蔵、熟成させたもの。
シェフズテーブルなので、鴨は目の前で調理されるが、焼いている時から香りが良い。
味わいについては、濃厚。
そして、甘い!
香りも抜群だ。
甘味がありコクが強い鴨だと噛みしめる。
近県で鴨料理が有名な新潟と比較すると、新潟の鴨(無双網猟)は米がエサだが、山形は大豆を主食としているそうだ。
お食事(季節のご飯、ムキタケの味噌汁、やたら漬け)
山菜の混ぜご飯は今では非常に魅力的だが、もともとはカサを増やすために混ぜていたそうだ。
香の物、味噌汁も抜かり無い。
ご飯はおかわりが無いので、食後感は軽やかだ。
甘味(ラ・フランスと熟成サツマイモ)
ラ・フランスと熟成サツマイモの組み合わせとは嬉しい。
砂糖の甘味ではなく、サツマイモの甘味で構成する設計も良い。
この度ご提供頂いたワインと日本酒(一部僕が頂いていないドリンクもあります)
「出羽屋」の朝ご飯の詳細
続いて、朝ご飯のご紹介をします。
土地のもの、土地の味だけで固めている点が素晴らしい。
「料理旅館」と「旅館」を分けるポイントの一つは、ここだろう。
料理旅館の朝食では、炊きたてのご飯がメインディッシュだ。
味噌汁にもそのお店の味が強烈に表れるものである。
そして、朝ご飯で思わぬ大ヒットとなったのが、こちら…
【ひっぱりうどん】だ。
山形の郷土料理で、熱々の鍋から引っ張って皆で食べるうどん。
納豆、醤油、ネギ、鰹節と頂く。
なお、【ひっぱりうどん】には感銘を覚えたので、帰宅して早速作った。
ハマったので、定番となりそうだ。
水菓子は手作りヨーグルト、リンゴ(こうとく)、梅ジャム。
「出羽屋」のお店情報と予約方法
「出羽屋」さんの予約については、公式WEBサイトより可能です。
人気が高まっているので、早めの予約が必須だと思われます。
店名:出羽屋(でわや)
予算の目安:シェフズテーブル(宿泊、朝夕食込み)38,500円、シェフズテーブル19,800円・16,500円、季節の山菜料理6,600円~13,200円、月山山菜そば1,500円
TEL:0237-74-2323
住所:山形県西村山郡西川町間沢58
最寄駅:なし
営業時間:宿泊(チェックイン16:00・チェックアウト10:00)、日帰り11:30~19:00、そば処11:30~14:00
定休日:火曜
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