すしログ No. 148 弥助寿司@和歌山市(和歌山県)

紀州和歌山の郷土寿司【鯖のナレズシ】。

近江(滋賀県)で生まれた「鮒鮓」は室町時代に入り、紀伊半島にて「ナレズシ(生成れ)」の形となりました。

生成れとは、鮒鮓のように1〜2年間発酵させるのではなく、3〜4日で食し、遅くとも1〜2ヶ月で食す鮓となります。

更にその後は発酵を伴わず酢を用いる「早ずし」となり、ご存知の通り京都・大阪の押し寿司、箱寿司、ひいては江戸東京の握り鮨へと形を変えていく事となります。

 

こちら弥助寿司さんは創業こそ1882年(明治15年)ほどと、古い鮓を継承する割に歴史は近年ですが、室町時代の味を現代に伝える全国で見ても非常に貴重なお店となります。

世界最古の歴史を持つ鮓店は奈良県のつるべすし弥助さんですが、あちらは現在古い形の鮓を作られておらず、早ずしを提供されております。

そのような意味でも、こちらで頂ける【鯖のナレズシ】は鮨好き、美食家の方であれば、一度は試す価値がある料理だと感じます。

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お店は外観、店内ともにざっくばらんで気の置けない街の寿司店と言った風。

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壁面に明治・大正時代の新聞広告が貼られているところが趣深いです。

頂いたメニューは【鯖のナレズシ】と【鮎甘露寿司】。

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そもそも、【鯖のナレズシ】とは、1ヶ月以上塩漬けにした鯖を真水で一昼夜塩出しし、塩飯と合わせ、アセ(葦)の葉で巻いて桶に漬け、10日前後発酵させたもの。

実に時間と手間がかかる料理ですが、お値段は1,350円と良心的。

【鮎甘露寿司】の方は紀ノ川上流から中流(かつらぎ郡〜那賀郡)にかけての名物寿司。

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秋に鮎を焼いて干しておき、魚の少ない時期に番茶で6時間以上煮て、その後1時間ほど味付けした押し寿司となります。

こちらも手の掛かる寿司ですが、1,100円とナレズシ同様に良心的。

ちなみに、10月から4月にかけて秋刀魚が美味しい時期には、紀南の秋刀魚を木酢(柑橘類の一種)で漬けた秋刀魚寿司を頂く事が出来ます。

 

さて、【鯖のナレズシ】。

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覚悟しておりましたが、これは届いた時の臭いが非常に凄い。

僕のメモには「かなり破壊力のあるにおい」と書かれております(笑)

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意を決して頂いてみると、まずは強い酸味が突き抜ける。

舌にヒリヒリする程の酸味ですが、結果的に嗅覚を麻痺させてくれる効果もあるように感じました。

その後、ひるまずに頂いていると、実に「慣れて」くる。

ナレズシの良い部分を感じる事が出来、酸味はヨーグルト程度に落ち着き、チーズ的なコクが広がってくる。

鯖の部分は旨味が凝縮されており、米部分の酸味やコクと合わさると唯一無二の旨味を提示します。

米の部分がすり潰されたようにグニャッとしているので、臭いと並んでこの食感は好みを大きく分けるところでしょう。

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ナレズシの妙を感じ取るためには、ひるまずに食べ続ける事が重要だと感じます。

ただ、かなりタフな相手だったので、ビールは早々に飲み干し、和歌山の銘酒・紀土の純米に切り替えて、酒肴としての相乗効果を狙いましたが…

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ちなみに、紀土も1合450円と寿司と同じく良心的な価格設定です。

頂いたナレズシは12日ほど熟成させたもので、時期(気温)によって日数を調整するそうです。

 

そして、【鮎甘露寿司】。

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こちらは「優しい味わいや〜」とメモにあります(笑)

味わいは日本人が皆好むような甘い醤油味で、骨までホロホロに炊かれております。

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骨の食感がリズムとなり、パクパクと頂いてしまいました。

和歌山独特の調味料である煮山椒との相性も抜群。

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煮山椒は山椒の香り、辛味だけでなく酸味も利かせた調味料となります。

 

【鯖のナレズシ】と【鮎甘露寿司】は対極にある味わいだったので、結果的にとても良いリズムで頂く事が出来ました。

各々の寿司でガリが異なるものを使用しているところも考えられており、ナレズシには生を水にさらしたもの、甘露寿司には甘酢を用いて漬けたものでした。

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総合的に考えて冒頭に記述した通り、日本の食文化史において非常に貴重なお店で、

今後も技が継承されていく事を切に願っております。

なお、もし余ったら持ち帰らせて頂けますが、時期的に7、8月はナレズシを提供されておりませんので、ご注意ください!

 

 

店名:弥助寿司(やすけすし)

予算の目安:1,100円〜

最寄駅:南海和歌山市駅から730m

TEL:073-422-4806

住所:和歌山県和歌山市本町4-31

営業時間:月~土11:00~21:30、日・祝11:00~21:30

定休日:水曜

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