【知らぬは一生の恥】鮨店で押さえておくべきテーブルマナーとエチケット

アイキャッチ

こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。

さて、本記事では「鮨店のマナーとエチケット」について、解説します。

記事を書こうと思ったきっかけは、2024年1月に南麻布の鮨店でラウンジ嬢がトラブルを起こした炎上事件です。

トラブルの原因や、炎上の発端と経過を見ていると、お店に対して礼儀が無い人が多いことに気づきました。


また、礼儀正しい方であっても「鮨店のマナーがわからない」、「鮨店は緊張する」とのご連絡を多数頂きました。

真面目な方ほど「自分は間違っているのではないか?」と深刻に考えてしまうので、これはマズい…

マナーを守って欲しい方が内省せずに自信満々で、真面目な方が不安に思っている…

そこで、お客とお店双方のためにテーブルマナーとエチケットを整理しよう!と思い立ち、筆を執りました。


ちょうど現在、僕はSubstackに英語で記事を投稿しています。

そして、外国人旅行者向けに「鮨店のマナーとエチケット」を書こうと考えていたので好都合。

日本語でも書いてしまおうと一気に書いたのが本記事です。

取り上げる項目については、鮨職人さんや鮨マニア数10名のアンケートを参考に選択しています(なんと36名もの方からご連絡を頂きました)。

なので、鮨業界では普遍的な内容だと言えます。


ちなみに、Substackはアメリカで人気を博しているSNS/プラットフォームで、メールマガジンをベースにしている点が斬新なサービスです。

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それでは、本題に入ります。

最初に記事の趣旨を述べると、鮨店では「他のお客さんと空間を共有している」と認識すべき、という事実です。

すしログ
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ただ、真面目な人は「守れていなかった!」と重く感じないようにしてください(笑)

世間で「グルメ」や「フーディー」と呼ばれるトップの人たちでも、全て実践出来ている人は極一部なので、全て実践したら偏差値70オーバーです。

この記事を読んで実現できること

・初めての鮨店でも恥をかかない!
・親方とコミュニケーションがとれる!
・人間力がアップして、人生が豊かになる!

すしログについて

★全国6,000軒以上を食べ歩く食好き
☆鮨の食べ歩きは15年以上のキャリア
Twitterでは幅広く、インスタでは鮨・魚介料理日本酒をポスト
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鮨店で知っておくべき、テーブルマナーとエチケット

始めに断言しますが、鮨店でのエチケットは非常に重要です。理由としては、鮨店は大人のお店であり、お店の空間は他者と共有しているためです。会席料理を理解するために芸術の教養が必要なように、鮨店では礼節と食の教養が必要です。無くても表面的には楽しめますが、深淵に触れることは不可能です。

ここを見落として、スタンプラリー的にお店を巡ったり、SNSのいいね稼ぎのためにお店を巡ったりする人が増えたのが、鮨店が幼稚化して荒れている元凶なのは間違いありません。あるいは、「パパ活」と言う名の売買春が横行している世相も原因と言えるでしょう。鮨店と言うパブリックスペースにプライベートを持ち込むお客が増えすぎていますし、美食の本質は身銭を切って楽しむものです。


結論として、鮨店は本質的にクローズドな性質を持つ業態なので、成熟した大人しか訪問してはダメなのです。オーセンティックバーと同じ。社会性が必須。


この点については、僕は20代の頃から当然のものとして認識してきました。まだ「自分は成熟している」と自信を持って言い切れない段階でも、マナーやエチケットを守ればヘタを打たないので自信につながります。そして、気づいたら成熟した大人になっているものです。これがマナーやエチケットの効能です。マナーやエチケットは単なる道徳ではなく、魅力的な人間になるための教養ないし養分だと考えるべきでしょう。

しかし、優しい職人さんが増えたことで、言われなければ気づけなかったり、言われても逆ギレしたりする幼稚なお客が増えているのだと感じます。ただ、どうやら職人さんからは言いづらいようなので、微力ながら僕のような発信者が一石を投じられれば幸いです。鮨職人さんと魚に敬意を抱く人が増えて、真面目なお客さんが鮨に集中して美味しく食べられるよう…。国籍を問わず、職人さんと他者への敬意が無くては、本当に美味しい鮨には出会えません


まずは、絶対に守るべきエチケットをピックアップします。

  • ドタキャンや遅刻、早すぎる訪問はしない
  • 香水を付けない
  • 訪問前や飲食中に喫煙しない
  • 咀嚼音を出さない
  • 鮨を即座に食べる
  • おしぼりを美しく扱う
  • 時計やアクセサリーを外す
  • カウンターの上にバッグやスマートフォンなどを置かない
  • カジュアル/セクシーすぎる格好/帽子やサングラスを着用しない
  • 写真や動画に他のお客を入れない
  • 飲食中にスマートフォンを触り続けない
  • 店内で電話をしない/セルフィー動画を撮らない
  • 大声で話さない

なんて細かい!と思われる方もいらっしゃるかと思います。しかし、ハイエンドな江戸前鮨店は「劇場」の要素も持つ非日常的な空間です。よって、「他のお客さんと空間を共有している」と言う意識が常に必要なのです。これらはお店だけでなく、他のお客さんにも迷惑がかかる行動なので、注意しなければなりません。周りの人も笑顔になるような振る舞いが理想です。

食べる姿から食及びお店に向き合っているのが分かり、「美味しい!」とか「伺って良かった…」と笑顔で言っている方がいると、「このお客さんと一緒の空間で食べられて良かった」と思うものですよね。


フレンチやイタリアンのレストランとは異なり、鮨店のカウンターは6席~10席程度である事が一般的です。超小規模ビジネスです。自身の振る舞いはお店全体に影響を及ぼすため、どんなに寛いでいるとしても自分の家のように振る舞うのは野蛮な行為でしかありません。

最近は忘れられがちですが、日本においては食べ方は人の生き方の鏡です。どんなに稼いでいようが地位が高かろうが、食べ方が悪い人は人間的には未熟だと断言します。大切なのは権威などよりも知性と品性にもとづく振る舞いです。


なお、全て解説した後で、「鮨店訪問についてのQ & A」、「鮨職人とのコミュニケーション概論」、「飲食店で感謝と敬意を表せる立ち居振る舞い」を紹介します。読んで頂ければ、きっと鮨を食べるハードルが下がり、楽しく美味しく過ごせるはずです。ボリュームが豊富ですが(10,500字あります笑)、ご参考になれば幸いです!


ちなみに、「鮨店訪問についてのQ & A」のリストについては、以下のとおりです。

  • そもそも鮨の正しい食べ方は?
  • 箸で食べるのが正解?それとも手が正解?
  • ドリンクは何を飲めば良いの?
  • シャリのサイズを変えてもらうのはOK?
  • 「おまかせ」ってどういう意味?
  • 「おまかせ」コースに追加をする方法は?
  • 飲食物を持ち込んでも良い?

それでは、個別の説明に入ります。

文体が「だ・である」調になるので、ちょっと重々しいかもしれません。

ですので、適宜コーヒーブレイクしながら読んでください!

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ドタキャンや遅刻、早すぎる訪問はしない

まず、鮨店を訪問する上での大前提となるが、直前のキャンセルや遅刻、早すぎる訪問は致命的なマナー違反である。これは鮨に限らず、コース制のレストラン全てに共通するマナーだ。

鮨職人は、お客のために数日前から仕入れと仕込みを行い用意している。そして、豊洲市場で鮨職人が仕入れる魚は牛肉以上に高額である事も多々ある。よって、直前にキャンセルをしてしまうと、鮨職人に経済的な損失を負わせるばかりか、礼を失する事になる。当たり前だが調理なくして料理なし。美味しい料理を求めるならば、調理にも思いを馳せよう。そして、絶対にキャンセルをしないようにしよう。


また、逆に、早すぎる訪問も失礼だ。あなたは、ビジネスのアポイントメントで30分前にやってくる人間と取引がしたいだろうか?飲食店の予約時間は約束に等しい。時間を守れない人間は約束を守れない人間だ。

遅刻をせず、予約時間の5分前にはお店の前に到着する。20~30分前に到着してしまっても、お店に入らない。これは厳守したい。


なお、もしも周りの人間でドタキャンを悪いことだと認識していない人がいたら、すぐに付き合いを止める事を心からオススメする。人間として本質的な問題があるので、いつか不利益をもたらすはずだ。時間や約束にルーズな人間はレッドカードである。付き合う人間を選ばなければ、良い未来は決して無い。

香水を付けない、訪問前や飲食中に喫煙しない

絶対にダメなのが香水や香りが強い整髪剤を付ける事と、入店の直前や飲食中の喫煙だ。鮨は味わいの前に、香りも楽しむ料理である。他のお客さんの嗅覚を阻害する行為は許されない暴挙(ハラスメント)となる。


鮨を始めとする和食においては、コースの前半で味が淡い食材や調理法が選択されるのがセオリーだ。よって、「香りを取る」事がワインのテイスティングと同じく大切な構成要素である。言うまでもなく料理は味わいよりも香りで美味しさが決まるものだ。

科学的に考えても、舌の味覚受容体(レセプター)よりも鼻の嗅覚受容体の方が圧倒的に数が多く、優秀だ。味覚については100万分の1の濃度までしか溶液の味を感じることが出来ないところ、嗅覚は1兆分の1に薄めても感じることが出来る(検知閾値に圧倒的な差がある)。

なので、人の嗅覚を邪魔する行為は、隣のお客さんの白身魚の刺身に勝手に中濃ソースをブチまけるような行為だと言える(もっと酷いかもしれない)。料理の香りに深刻な影響を及ぼす香水や喫煙は慎まなければならない。


香水については、最近、お店側でルール化するケースが増えているので大変喜ばしい。守らなければ入店を拒否されても文句を言えないので、くれぐれも注意頂きたい。


そして、次に重要で、よく守っていない人を見かけるのが以下の3つだ。

  • 咀嚼音を出す
  • 鮨を即座に食べない
  • おしぼりを粗雑に扱う

咀嚼音を出さない

鮨に限らず食事中に咀嚼音を出すのは見苦しい行為だ。いらゆる「クチャラー」は飲食店では完全な罪人。食べるにせよ飲むにせよ、なるべく音を出さずに頂くのが美しいふるまいである。お寺の修行では、沢庵ですら音を立てると叱責される。これはあまりにもハードだが、一般人も食事中の音は注意すべきもので、音を出して食べる人は育ちが悪いか無知蒙昧と思われても仕方がない。

鮨を即座に食べる

鮨を頂く際に注意したいのが、食べるスピードだ。悲しきかな、鮨を即座に食べない人は意外なほどに多い。提供される皿の上に乗せて話に花を咲かせる人が多いのだ。しかし、鮨は出された瞬間が美味しい料理である。鮨は即座に食べるのが粋(素敵)な料理

数秒間、見た目を楽しんだり、写真を撮ったりする事は問題無い(と職人の多くも仰る)が、10秒以上放置するのは明らかにマナーに反する(しかも味が落ちる)。美味しくて楽しいと同行者とのおしゃべりに夢中になりがちだが、鮨を頂く時は「鮨第一主義」で向き合うと体験価値が高まるのは間違い無い。鮨通として必須のエチケットである。

さらに補足しておくと、鮨職人は一貫の鮨に集中して自身の技を込めている。一貫職人の全てである。よって、長時間放置したり鮨を粗雑に扱ったりすることは、職人を愚弄する行為に等しいのだ。

少しだけ余談となるが、筆者は「ピカソの30秒」と言うエピソードが好きだ。この話は、下記のような内容だ。

ピカソが市場を歩いていると、ファンの婦人に呼び止められた。大ファンなので絵を描いて欲しいと。そこで、ピカソは快諾して、30秒で絵を描き上げた。婦人は喜びながら、絵の価格を尋ねた。ピカソの答えは、こうだ。

「100万ドルです」

当然のことながら婦人は驚き、「あまりにも高すぎる!」と抗議した。「たった30秒で描いた絵なのに、なぜ100万ドルもするのか?」ピカソは言った。

「違います。30年と30秒です」

「私は今までに30年以上の研鑽を積んできました。それなので、この絵にかかった時間は30秒ではなく、30年と30秒なのです」と。このエピソードは実はピカソではなく、ジェームズ・マクニール・ホイッスラーの『ノクターン』と言う絵にまつわる話らしい。しかし、趣旨の価値は毀損されないし、誰もが知るピカソの方が意図が伝わるだろう。

比喩が長くなったが、鮨職人と鮨も、ピカソと30秒の絵に同じだ。要は、鮨一貫には鮨職人のキャリアが詰まっている。料理ジャンルの中でも特に厳しい鮨職人の修行時代からのキャリアが。ないがしろにする事は許されない。

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おしぼりを美しく扱う

おしぼりは言うまでもなく手を拭いて清潔を保つためのツールだが、自身のコピーのような存在だと認識すべきだ。過度に汚したり、乱雑に広げたりしていると、極めて見苦しい。まともな教育を受けていればおしぼりを丁寧に扱うものだが、守れていない人は老若男女問わずいる。しかも、企業経営者や士業の方にも散見される。周囲のお客さんと職人さんへの無礼になるので、気をつけるべきポイントだ。

カウンターを大切に使う

これは、白木のカウンターに座る時は時計やアクセサリーを付けないカウンターの上にバッグやスマートフォンなどを置かないということだ。鮨店の店内に入ると、女将さんもしくはお弟子さんが出迎えてくれて、荷物やコートなどを預かってくれる。その際に腕時計やブレスレットなどもカバンに入れて預けるのがスマートだ。理由については、白木のカウンターを傷つけないためである。同様の理由でスマートフォンなどを置くのも避けたい。鮨店のカウンターは樹齢数百年の木材を使用して職人が手で作る工芸品だ。お値段が張るばかりでなく文化的な価値も高く、職人の愛情が注がれている。もしも防犯上の理由で預けることに抵抗感がある方は、着けていてもカウンターを傷つけないよう気をつけて頂ければ幸いだ。たまにインスタで鮨店のカウンターで高級時計を見せびらかす写真を撮っている人がいるが、知性のある人間の行為とは思えない。鮨店よりも動物園の猿山の方が似合っている。

ファッションに気をつける

これは、カジュアル/セクシーすぎる格好や、帽子やサングラスを着用しないということだ。鮨店はレストランのようにドレスコードを設けているお店が少ないものの、過度にカジュアルであったり肌の露出が多かったりするファッションは不可だ。参考にすべきドレスコードはバーをイメージすれば良い。必ずしもフォーマルでなくても良いが、周囲の雰囲気に馴染む格好をすることが暗黙のマナーだ。夏場にはシャツでも問題無いが、サンダルや短パン、スポーツウェアなどは完全にアウトである(もちろん大衆的な寿司店についてはこの限りではない)。


また、カウンター商売の鮨店において、帽子やサングラスを着用したまま食べる行為も失礼で下品だ。これらも本来は敢えて指摘する必要など無い当たり前のマナーである。しかし、散見することが増えてきたので言及する。室内では帽子を脱ぐ、人と挨拶するときは帽子を脱ぐのは一般常識だ。個室やカジュアルな居酒屋ならいざしらず、カウンターのお店では一般常識に順応したほうが良い。下品であるばかりか、鮨と鮨職人に向き合っていない行為なので、格好つけていても完全にダサい。絶対に止めるべきだ。ちなみに、健康上の理由がある方は気にしなくて良い。予約時にお店に伝えておこう。

声やスマートフォンの使い方に気を使う

下記の行為は周りのお客さんと店員さんに失礼である。

  • 写真や動画に他のお客を入れてしまう
  • 飲食中にスマートフォンを触り続ける
  • 店内で電話をする/セルフィー動画を撮る
  • 大声で話す

一言で述べるなら、飲食店では食に集中しよう他者に配慮しよう、と言う2点に尽きる。そして、料理の写真を撮りたい場合には、着席のタイミングで「鮨の写真を撮らせて頂いて構いませんか?」と聞くと非常にスマートだ。インスタグラムが登場してこの方、勝手に撮る人が増えているが、料理写真を無断で撮影する事は原則的にはマナー違反だと考えるべきだ。「お金を払っているから良い。お金を払ったら自分のものだ」と言う論理は通用しない。他者への敬意は非常に大切だ。他者への敬意があれば、他者から敬意が集まり、人生は良くなる。自分本位では決して幸せにはなれない。


他に、致命的ではないまでも、守ると美味しくなるエチケットを紹介する。

守ると美味しくなるエチケット

守ると鮨が美味しくなるエチケットについては、以下のとおりだ。

  • 調味料をたっぷり付けない
  • ワサビなどの固形の薬味を醤油に溶かない
  • ワサビやガリを何度も追加しない

鮨、和食において、醤油や調味料は「ソース」ではない。フレンチにおいてはソースをたっぷり付けると美味しさがアップするが、和食において調味料をたっぷり付けると食材の味を壊す。フレンチではソースも主役と言えるが、和食では調味料は脇役なのだ。主役を引き立てるための使い方をする必要がある。


個人的にお薦めの使い方は、最初に少量だけ付けて、自身の舌で味を確認してから、次に付ける量を調整する方法だ。また、調味料が用意されているからと言って、使わなくても良い。特に白身魚や貝類については、調味料を付けずとも味がある。醤油を付けた方が味が引き立つ食材もあるが、調味料を付けない方が味が分かる事もある。よって、筆者は一切れ目を調味料無しで頂く。味覚や嗅覚の鋭い料理人は同様に調味料を付けない事が多いので、我こそはと思う方は実践してみて欲しい。鯛、鮃、鰈、鱸…多様な白身魚の味の違いが分かるようになると鮨店に行く楽しみが増える。


また、ワサビや生姜が薬味として供されることがある。これらは醤油に溶くと味や香りが弱くなるので、刺身などの料理に乗せてから料理を醤油に付けるのが正しい食べ方だ。特にワサビは持ち味の辛味成分アリルイソチオシアネートが揮発性のため、液体に溶くと辛味が無くなり、ワサビの魅力が失われてしまう。ワサビは辛味があるからこそ、甘味も感じて美味しいものだ。ネットではたまに議論が湧き起きているが、混ぜワサビの場合はともかく、本ワサビは科学的エビデンスに基づき溶かぬ方が良いと断言する


そして、ワサビやガリは追加で出してもらえるが、何度も頼むのは無粋である。理由は、これらも主役ではなく脇役である為だ。主役を差し置いて過剰に食べるのは格好悪い。ガリについては江戸時代には殺菌効果が期待されて使用されていた。そして、タネとタネの間に食べて、前のタネの味を切るのが存在意義だ。決してサラダではない。ワサビもガリに近しい役割を担っている。また、ワサビは薬味であり野菜だが実は非常に高級だ。上質なものは下手な魚介類よりもキロ単価が遥かに高い。ワサビは専門の生産者が作っている野菜で、気温が低い自然環境の中で丹精を込めて生産されている。鮨職人と生産者への敬意を踏まえると、本来の役割に従ってワサビと付き合うのが本質である。


最後に、鮨店に限ったことではないが、飲食店で守ると人間力がアップするエチケットを紹介しよう。

守ると人間力がアップするエチケット

守ると人間力がアップするエチケットについては、以下のとおりだ。

  • カウンターで肘をついたり脚を組まない
  • 鼻をかまない
  • 食事中にゲップしない
  • お手洗いは座ってする(男性)
  • お手洗いも手洗い場もきれいに使う

守っている人からすれば当たり前のふるまいなので、「そんな人がいるの!?」と思う行為ばかりで恐縮だ。しかし、鮨職人さんと話すと頻繁に聞く悩みである。これらは鮨店だけでなく飲食店全般で守って欲しい。


次に、上記エチケット以外のQ & Aを紹介する。疑問をゼロにして、気楽に鮨店を訪問して頂ければ幸いである。

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鮨店訪問についてのQ & A

Q & Aリストについては、こちら。

  • そもそも鮨の正しい食べ方は?
  • 箸で食べるのが正解?それとも手が正解?
  • ドリンクは何を飲めば良いの?
  • シャリのサイズを変えてもらうのはOK?
  • 「おまかせ」ってどういう意味?
  • 「おまかせ」コースに追加をする方法は?
  • 飲食物を持ち込んでも良い?

Q. そもそも鮨の正しい食べ方は?

A. 次のQAにも関わってくるが、鮨は一口で食べるのが正解だ。たまにタネをシャリから外して別々に食べる人を見かけるが、これでは鮨が不味くなる。一緒に食べて味の変化を楽しむのが鮨の醍醐味だ。そして、少しだけアドバイスをお伝えすると、普段は噛む回数が少ない人も、鮨については噛む回数を多くしてみて欲しい。面白いほどに味と香りの感じ方が変化するので。


なお、鮨職人さんからアンケートで聞いたのだが、「タネ(魚)を下にして、舌に触れさせてから食べるのが正解」と断言して、他のお客さんに喧伝するお客さんもいるそうだが、はっきり言って迷惑だ。正解ではないし、価値観の押しつけは良くない。

Q. 箸で食べるのが正解?それとも手が正解?

A. 答えについては、どちらも正解だ。鮨の食べ方については、自分にとって楽な方を選べば問題ない。ただ、個人的には手をお薦めする。理由としては、手の方が圧倒的に楽なうえ(落とす確率がほとんど無い!)、体感的に美味しいためである。鮨職人が手で生み出した料理を手で頂く、と言う行為も文化的に粋だと感じる。


ちなみに、旧態依然としたメディアや食マナー本では「女性は箸で食べるのが美しい」と書いてあるのを見かけるが、本当に勘弁して欲しい。しかも、不思議なことに女性ライター自身が書いていることが多い。そもそも性別で分けるのが馬鹿馬鹿しく、実に前時代的だ。大切なのは、美味しいかどうか。自分にとって最適かどうか。なので、周囲の女性たちが箸で食べていても気にせず手で食べて頂きたい。もしもジロジロ見る人間がいたら、その人が変なので、ご安心を。


ちなみに、箸と手を頻繁にスイッチする人もいるが、それは絶対に止めるべきだ。鮨職人によっては握り方を調整しているので、困惑をもたらす事になる。初めて鮨店を訪問する時にどちらが自分にとって最適化を試してみるのは良いが、慣れたら統一するのが得策だ。

Q. ドリンクは何を飲めば良いの?

A.飲み物については、何を頼んでも大丈夫。温かいお茶については、フリーである事が鮨店の暗黙のルールだ。ただ、お酒を飲める方であれば、日本酒を頼む事を強くお薦めする。鮨は米料理なので、米から造られている日本酒が最も調和する為だ。他のお酒を選ぶとしても、香りやアルコール度数が弱いお酒を選ぶのがベター。鼻と舌が麻痺してしまうと折角の鮨が台無しになる。アルコールドリンクを飲めない人には、お茶もしくは無糖のドリンクがお薦めだ。糖類を含むドリンクは飲み疲れてくるし、味覚を弱体化させてしまうので。たまにコーラを飲んでいる人を見かけるが、絶対に止めた方が良い(お店側も置かないで頂きたい)。

Q.シャリのサイズを変えてもらうのはOK?

A.シャリのサイズについては、大きすぎる場合にはお伝えして問題ない。鮨職人はタネとのバランスを考えて握られているが、口のサイズは人それぞれ。「自分にとって大きい」と思った場合には「小さくして頂けますか?」とお伝えしよう。これで気を悪くされる職人は人間性に問題があるか、技術が低い方だ。伝説の鮨職人として知られる新津武昭氏は、お客の口のサイズを見極めることが可能で、男性には400粒、女性には280粒ほどの米粒を精確に取れたそうだ。人によってサイズ感を変えるスキルも鮨職人には必要なので、お伝えして問題無いのだ。

Q.「おまかせ」ってどういう意味?

A. 「おまかせ」はフルコースに等しい。「おまかせ」は英語でも固有名詞になっていて、アメリカ・NYやタイ・バンコクではおまかせで鮨を食べる行為をクールだと思う人も増えていると聞く。ただ、「おまかせ」はもともとクールではなく、「おこのみ」の方がクールであった。好きなものを、好きなだけ、自分のリズムで食べるアラカルトが「おこのみ」で、鮨の真骨頂を味わえる。ただ、今や日本でも「おまかせ」が主流となっていて、「おこのみ」で食べられるお店は減っている。


なお、他に「おきまり」もあり、これら3つは以下の構成のようなイメージだ。

  • おまかせ:フルコース(酒肴全品+握り10貫~、椀、玉子)
  • おきまり:ライトコース(多くが握りのみか酒肴1~2品+握り10貫、椀、玉子)
  • おこのみ:アラカルト

そして、「おまかせ」の定番の流れは下記の通りだ。流れのイメージがあると、気が楽になるのではないだろうか?

  • 刺身2~3品
  • サッパリした酒肴や椀もの(冬なら茶碗蒸し)
  • 日本酒に合う酒肴、珍味
  • 焼きもの
  • ガリ ※握り鮨に移行するサイン(コースの冒頭に出す店もある)
  • 白身魚やイカなど2~3貫
  • 鮪、赤身・中トロ・大トロ
  • コハダなどの光物
  • 貝類
  • 海胆やイクラなどの軍艦巻き
  • 椀もの(味噌汁や潮汁など)
  • 穴子や蛤などの煮もの
  • 巻物
  • 玉子

Q.「おまかせ」コースに追加をする方法は?

A.「おまかせ」コースに追加をする方法については、おまかせの場合、先方から尋ねられることが一般的だ。「ご満足されましたか?」「お腹いっぱいになりましたか?」のように尋ねられる。追加したい場合には、ここで「何か頂いていないものはありますか?」とか「あと〇貫頂きたい」と伝えよう。先方からコースで出していないものをお伝え頂けるはずだ。

Q. 飲食物を持ち込んでも良い?

A. 飲食物の持ち込みは原則的に不可だ。持ち込みたいお酒がある場合だけ可能である。その場合には、事前に説明して了解を取り、持ち込み料金を支払うのがルールだ。


次に、「鮨職人とのコミュニケーション概論」を紹介する。

これはビギナーよりも中級者から上級者向けの情報になる。しかし、精通すれば鮨が美味しく楽しくなるのは間違いない。

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鮨職人とのコミュニケーション概論

鮨職人は古来より「さらしの商売」と呼ばれている。「さらしの商売」とは、お客の前に自身をさらして接客する商売と言う意味だ。よって、鮨職人にとってカウンターは「舞台」、お客にとっても店内は「劇場」と言える。ライブ感があふれる空間で上質な料理が次々と繰り出され、時に鮨職人と気の利いた話をするところが、間違い無く鮨店の魅力である。

なので、淡々と食事をするだけでは勿体ない!多くの星付きのレストランは、キッチンが奥まっていて、シェフと話せるとしても最後だけだが、鮨店においては常に話すチャンスがある。そこで、鮨職人さんに【話しかけるタイミング】や【話の種】を紹介しよう。


【話しかけるタイミング】

  • 特に美味しいものを頂いた瞬間
  • 職人さんの所作が格好良いと思った瞬間
  • 職人さんの緊張感が解けたタイミング

【話の種】

  • 美味しい!
  • これは何ですか?

「えっ!?素朴すぎない??」と思われるかもしれない。しかし、これらが正解だ。難しい事は必要ない。まずは「美味しい」と感じた事を、笑顔で伝えるのがベストである。筆者自身、様々な国を巡り、言語が通じない国で食べ歩きしてきた末の結論だ。美味しい料理はノンバーバルコミュニケーションでも心が通じる。


ただ、話しかけるタイミングについて重要で、ここにお客のセンスが表れる。会話の「間」は重要だ。例えば、親方が真剣に切り付けていたり、お弟子さんに指示したりしている時は避けるのが得策である。親方のタイミングを見計らって「美味しい」と伝えよう。鮨職人にとって、切り付け(魚のサクを刺身のサイズに切ること)は鮨の調理の中でも重要なパートだ。サラッと切っているように見えるが、実は高い技術が必要な調理過程である。切り付けをされている時は、話しかけて大丈夫かどうか慎重に見極めよう。中には切り付けの際にも余裕綽々な人もいる。


なお、話が前後するが、入店時や着席時もチャンスだ。親方と目が合ったタイミングで、「こんにちは/こんばんは」と伝え、着席時に「よろしくお願いします」と伝えるだけで、非常に効果的なアイスブレイクになる。


それでは、本記事の最後に、飲食店で感謝と敬意を表せる立ち居振る舞いを紹介しよう。

これらをマスターすれば、いかなるお店でも大丈夫だ。

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飲食店で感謝と敬意を表せる立ち居振る舞い

飲食店で感謝と敬意を表せる【重要なふるまい】と【ふるまいの意味】については、以下のとおりだ。Substackで外国人に向けて書いている内容だが、日本人にとっても参考になると思う。


【重要なふるまい】

  • 顔が正面を向いている
  • 背筋が伸びている
  • 美味しい!を態度で表している
  • 盛り付けを崩さずに食べている
  • リズムよく食べている
  • 箸使いが巧い

【ふるまいの意味】

  • 顔が正面を向いている =料理人への敬意
  • 背筋が伸びている =自分自身の自信や誠意
  • 美味しい!を態度で表している =料理人や食材への感謝
  • 盛り付けを崩さずに食べている =料理人のもてなしの心を尊重する心、美意識
  • リズムよく食べている =料理への敬意
  • 箸使いが巧い =文化への敬意

冒頭で述べたとおり、食べ方は人の生き方の鏡だ。そして、良い食べ方をすることで人生が良くなるのは間違い無い。上記のふるまいを踏まえ、具体的なテクニックを伝授する。

着席時の姿

椅子に座る時は、カウンターからこぶし1個分あけて座ると美しい姿を保ちやすい(カウンターに密着したり、離れすぎたりしない)。そして、同時に背筋を伸ばせば、顔が前を向き、凛々しい見た目になる(猫背にならない)。料理人への敬意、食べ手の美しさ、威厳、自信などを表現できる姿勢だ。食べる時の姿勢は面白い程に食べ手の教養を表すものだ。いかに社会的な立場が高かったり、経済的に成功していたりしても、食べる姿勢が醜いと敬意を抱く事は不可能だ。

箸と器の扱い方

箸の扱いは慣れていない人には大変かもしれないが、慣れてしまうと非常に便利なカトラリーだと思う。繊細かつ確実に食材を扱えるからだ。日本人は小学生の頃に、乾燥大豆などで箸の使い方を学ぶ。もしも日本文化に興味があり、箸を美しく扱いたい人は、豆でトレーニングすると良いだろう。方法は簡単だ。小皿を2枚用意して、適量の豆を右から左の皿に、左から右の皿にと移動を繰り返す。コツは人差し指の力は抜いて、中指と親指でコントロールする事だ。豆をスピーディに運べれば、大体の食材に対応できるはずだ。箸は食べている間、手に持ち続けず、箸置きに置く習慣を付けると扱いが楽になる。ちなみに、箸を置く向きは日本と中国で異なり、日本は横で、中国は縦である。


そして、和食では、手に持てる器は持っても構わない。小さな皿に盛られている場合は、口の近くに運んで食べれば美しい見た目を維持できる。手に持つ時も置いてある時も、器は大切に扱うのが原則だ。多くの鮨店で使用されている器は非常に高額なものだ。中には、人間国宝と呼ばれる生きる伝説的な陶芸家の作品や、江戸時代の骨董品を扱う鮨職人もいる。よって、割ったり傷を付けたりするのはもってのほか、繊細に扱う必要がある。繊細に扱うことで食べ手の立ち居振る舞いも美しくなる。良い事しかない。

料理の景色を美しく維持する

日本の陶芸界では、陶磁器の見た目を「景色」と表現する。「景色」は器の表情だ。焼成の炎によって変化した胎土と釉薬の表情を、実在する風景のように見立てる美意識だ。「景色」と言う言葉は、漆器、ガラス器などには用いられず、釉薬表現を活かした陶磁器ならではの表現、楽しみ方なので、料理を陶磁器で提供する和食の美意識とも言える。よって、料理にも「景色」があり、美しい「景色」を維持する事が重要だ。


食べている最中でも絵画的な美しさを維持して食べられる人は、その人自身も美しく見える。そして、食べ終えた後の皿も美しくあるべきだ。動物が食べた後の皿のように散らかっている人には、他者の信頼など集まらない。昔から日本では、魚の食べ方が美しい人は育ちが良く、仕事が出来るとみなされてきた。今の時代であっても変わらないと確信する。筆者は様々な成功者の方と食事をしてきたが、日本では食べ方を見れば付き合うべき人間かどうかが分かると断言する。

お店に対する礼の示し方

お店は単に美味しい料理を食べるだけの場所ではなく、居心地の良さを享受させて頂く場でもある。なので、もしも美味しくて居心地が良いと感じた場合には、お礼を述べるのが望ましい。お店の方の自信にもつながり、お店はより良くなっていくので。また、お礼を聞いた他のお客さんも清々しい気持ちになり、幸せを感じられる。お礼の循環こそが日本の食文化を向上させてきた。具体的には、食事の後の「美味しかった」以外に、退店時に「ご馳走さまでした」や「ありがとうございました」と伝えれば良い。笑顔があれば更に良い。

まとめ

以上で本記事を終えます。

情報がご参考になり、鮨を楽しむ人が増えることを心から願っています!


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日本の鮨店が世界一心地よいレストランとなることを願う、すしログ(@sushilog01)でした。

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4 COMMENTS

山口

とても勉強になりました。
一点、シャリのサイズを大きくしてもらうのはNGなのでしょうか?
女性のシャリは小さめにしている?記述があったので気になりました。
当方女性なのですが大きめが好きなので…

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すしログ

山口様

ありがとうございます!
大きめの鮨が好きとは、粋で素晴らしいですね!
女性だと小さくされる職人さんもいらっしゃるので、難しい問題ですね…
「大きくしてください」と伝えるのは勇気がいることと思います。
なので、僕ならば他の方のサイズを目視した上で明らかにサイズが異なる場合には、「親方は小さめのシャリがお好みでしょうか?」と鮨の哲学を確認する方向性で確認します。
職人さんによって最適だと思うサイズ感は異なるので、相手の立場で確認するのが美しいかなと思います。

ベテランの職人さんは性別によらず「大きくも小さくもできるので言ってね!」とおっしゃる人もいますが、それが正義なのかも知れません(笑)

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シャコ・パンチ

素晴らしいですね。
絶対に守るべきエチケットの一文に是非加えてほしいものがあります。

◯高級店に子供を連れて行かない。

いわゆる町ずしだったらいいと思いますが、高級店でも時々遭遇してしまうことがあります。
お店側も常連に頼まれると断れないのかもしれませんが、客としてはカウンターに子供がいるのはいい気分ではありません。
せっかく楽しみにしてきている気分が台無しです。
もちろん顔にも態度にも出しませんが…
冒頭の説明で成熟した大人しか訪問してはだめと書いてありますが、リストアップした一文の中に入れてほしいと思います。
長文、失礼致しました。

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すしログ

シャコ・パンチさま

ありがとうございます!
返信が遅くなってしまい誠に申し訳ございません。

高級店、特にカウンター店の子ども問題はありますよね。
極稀にヘタな大人よりも遥かに品性高潔かつ聡明なお子さんを見かけて清々しい気持ちになることもありますが、「子どもっぽい子ども」がいると僕も気分を害します。
さらに言ってしまうと、親の資本力をひけらかす子どもなどに遭遇した時は食事の味に影響を及ぼしますよね。
幼くして人間性が破綻してしまっている、と…。
子どもがそのような人間性なので、親も同様かそれ以下ですし。
全てが悪ではないので難しい問題ですが、文章を工夫して追記できないか検討します!

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