すしログ日本料理編 No. 205 ねぎま@大塚

なべ家仕込みの絶品【ねぎま鍋】を頂ける名店、ねぎま

数年前に閉店してしまった、伝説の江戸料理店「なべ家」。

1935年に創業した老舗で、店主は江戸料理研究の大家である福田浩さん。

福田さんは『豆腐百珍』『大江戸料理帖』などの著書で知られる方で、現在も研究を行っておられます。

僕はなべ家さんにお伺いしたいと思いつつ、20代の頃には訪問を躊躇するお値段だったので、行けず仕舞いの内に2016年5月に閉店を迎えてしまいました。

閉店の情報を聞きつけた時は30歳を過ぎて経済的余裕が出来ていたので、すぐさま伺おう!と決断し、お電話しました。

しかし、2ヶ月分くらいが予約で一杯になっており、結局訪問は叶いませんでした。

若い頃は多少高くても、自身の糧となる行動には投資した方が良いと痛感した次第です。

 

店名の由来の【ねぎま鍋】とは?

数年来「なべ家」の味は頂けないのか…と思っていたところ、何と味を引き継ぐお店があると伺い、今回訪問致しました。

お店の名前は「ねぎま」。

【ねぎま】は江戸料理の名称で、ネギ+マグロで「ねぎま」です。

現代とは嗜好が異なる江戸時代、鮪のトロは脂ッ濃くて食べられないと捨てられていたところ、美味しく食べる方法として編み出された鍋料理です。

「なべ家」では季節替わりで名物料理を出されていて、【ねぎま鍋】は4月~6月の名物料理だったそうです。

「なべ家」の名物料理の名前を冠するお店、「ねぎま」。

お店の女将は「なべ家」に仲居頭として勤められた長橋公代さんです。

料理人ではない長橋さんですが、料理が大好きで、いつか自分でねぎま鍋のお店を出店しようという夢があったので、ご自宅で試行錯誤して「なべ家」の味を再現されたそうです。

晴れて福田さんのお墨付きを得た後、2017年8月にお店をオープン。

当初の地は北池袋でしたが、現在は「なべ家」が存在した大塚にお店を構えます。

大塚ねぎまさんの外観

「ねぎま」と控えめに書かれた看板は何やら美味しそうな期待に満ちていて、階段を降りると鰹節の香りが出迎えてくれます。

江戸料理は昆布出汁ではなく鰹出汁主体の料理です。

よって、力強く香ばしい、鰹節の香りを感じると、江戸料理を頂く期待が高まります。

現在は敢え無く江戸料理を出すお店が稀有であり、なかなかそのような期待を感じる人は少ないかもしれません。

しかし、同じような期待を抱く人が増えたら良いなと思い、僕は江戸料理のお店を巡っている次第です。

「ねぎま」さんの料理のスタイル

「ねぎま」では長橋さんが鍋を作って取り分けてくださります。

鍋料理にありがちな殺伐とした感じ、あるいはせわしない感じは皆無です。

出汁の上質な味、【ねぎま鍋】ならではな鮪の妙味、ネギの甘みを、それぞれベストのタイミングで引き出され、楽しませてくれます。

大塚ねぎまさんのねぎま鍋

また、カンター席に座ると気になるのが、カウンター上に鎮座する【玉子焼き】。

紛れも無い江戸料理の玉子焼きで、焼き上げて室温で馴染まされています。

この【玉子焼き】も名物の一つであり、ほぼ全てのコースに付いているようです。

「なべ家」の味を知る人いわく、【玉子焼き】も正しく「なべ家」の味との事です。

 

コースは酒肴主体のリーズナブルなものや、【ねぎま鍋・小皿料理3品コース】4,500円、【ねぎま鍋・燻製・鯖焼・小皿料理3品コース】5,700円などがあります(外税)。

今回は初訪問だったので、一番盛りだくさんな後者のコースを頂きました。

各御料理が印象深い味わいですが、やはり何よりも【ねぎま鍋】が鮮烈に記憶に残りました。

これは、他には無い味わいです。

鰹出汁に鮪のエキスが滲んだツユで頂く【胡椒めし】も絶品。

鍋料理店は出汁と〆が美味しいと、多幸感を抱かせてくれます。

鍋料理が好きな方も江戸料理に興味がある方も、決して裏切らない【ねぎま鍋】です。

御料理の品数こそ多くはありませんが、そこも江戸料理らしいと感じるのは気のせいでしょうか。

ただ、品数は限られていても、各々が日本酒にある味わいで、日本酒も多数そろえておられます。

お値段の記載はございませんが、非常に良心的なお値段で、恐らく1合900円(内税)です。

酒飲みにも嬉しいお店になります。

ちなみに、一人でも頂けるので、一人鍋&手酌酒なんて最高の楽しみ方も可能です。

 

頂いた御料理について、下記の通りです。

「ねぎま」さんの絶品!【ねぎま鍋】とお酒を進める料理たち 

【ねぎま鍋・燻製・鯖焼・小皿料理3品コース】

ねぎまさんの小皿料理3品

小皿料理3品の最初の2品は【江戸前玉子焼き】と【うるめ鰯の干物】、【葡萄汁】。

江戸前玉子焼きは出汁と醤油を用い、砂糖で甘みも利かせた味わいで、まさに江戸風。

うるめの肝の苦味とのコントラストが堪らない。

ねぎまさんの玉子焼き

玉子焼きと言えばお好み焼きと同様に「どっちが美味しいか?」論争があるが、個人的には笑止千万。

「別物として楽しみましょう」が論争への答えです。

同じようなメッセージがお店のカウンター上にも見られ、クスッと一人ほほえみました。

 

【葡萄汁】は比喩ではなく料理名の通り葡萄を用いた汁椀です。

強い鰹出汁に葡萄!

これが意外性があって、美味しい。

鰹の旨味や香り、さらには酸味が葡萄の味わいと好相性。

味付けは醤油と思うかもしれませんが、江戸で醤油以前に用いられた煮貫(煮ぬき汁)を用いている模様。

女将さんの「実は味噌汁なんですよ」の一言でピンと来ましたが、言われないと分かりにくい。

ねぎまさんの子持ち鮎の煮付け

子持ち鮎の煮付け

「なべ家」では9月~10月に落ち鮎を出していたそうです。

鮎は身も頭もホロッホロに煮られている。

ベタな甘みではなく優しい甘みである点が嬉しいです。

卵のプチプチ食感と日本酒が心地良い。

ねぎまさんの燻製の盛り合わせ

燻製の盛り合わせ

上から鯖、ポテサラ、チーズ、笹蒲鉾、鮪。

強い燻蒸香が酒好きには堪りません。

ちみちみと頂き、酒杯を傾ける。

ねぎまさんの鯖塩焼き

鯖塩焼き

脂が乗った鯖の塩焼き。

ついつい白ご飯が欲しくなる味わい。

そして、待望の【ねぎま鍋】の登場です。

ねぎまさんのねぎま鍋の具

鮪の部位はカマトロとハラモ。

要は脂が多い部位です。

個人的に江戸ッ子でなくても脂が過多な部位は苦手です。

しかし、鍋で頂くとガラリと味わいを変えます。

使用する鮪はバチマグロ(メバチマグロ)を選んだそうです。

ホンマグロ(クロマグロ)を含む数種類の鮪を試して選んだ結果で、選択のポイントは火入れした時の味と香りとの事です。

 

まずは出汁を頂いてみると、実に爽快です。

鰹の香りが鼻を抜け、味わいにはキレがあります。

端正でキリッとした味の鰹出汁は江戸料理ならでは。

鰹節は築地秋山商店の亀節を使用されているそうですが、調味料は日本酒と濃口醤油のみでしょうか。

ねぎま鍋の鮪のカマトロ

肝心の鮪についても、一口で魅了される味わいです。

カマトロは江戸時代には捨てられていたかもしれませんが、現代では希少部位。

熱々の鰹出汁で茹でられる事で程良く引き締まり、それでいて柔らかく、脂が落ちつつ脂を楽しませます。

脇を固めるネギと三ツ葉、若芽も実に美味しい。

ネギはとろっと甘く、三ツ葉はシャキシャキ、若芽は柔らかさと弾力を併せ持つ火入れで、これには技を感じます。

余談ですが、会社なんかで「鍋奉行」と自称しつつ素材を一気に投入する人がいますが、あれは頂けませんね。

個々の素材でベストのタイミングを把握してこその「鍋奉行」です。

ねぎま鍋の鮪のハラモ

カマトロに続くハラモは生だと邪魔な筋がゼラチン化していて、とろけます。

身はしっとり、ほろり。

これらに黒胡椒を掛けて頂くのがお店のスタイル。

ねぎま鍋用の黒胡椒

黒胡椒はミル挽きではなく、一粒一粒潰されています。

 

そして、その後に続くのが「育った」出汁で頂く【汁掛けご飯】です。

…と、その前に炊きたての白ご飯を頂きます。

ねぎまさんのご飯

これまた大変美味しいです。

ご飯に一家言ある福田さんの御薫陶を受けられただけあります。

土鍋で硬めに炊かれた白ご飯は、香の物と頂くだけで贅沢な嗜好品です。

東京には味の濃い副菜と提供したり炊き込んだりする日本料理店が多いので、個人的には大変嬉しいです。

ねぎまさんの汁かけ飯

出汁と黒胡椒で頂く【汁掛けご飯】で、これは江戸時代の【胡椒めし】の再現!

ねぎまさんの胡椒飯

「えっ!?江戸時代に胡椒なんて使っていたの??」と思われるかと思います。

しかし、確かに江戸の料理で、1764年(宝暦14年)刊行の『料理珍味集』に始まり、1802年(享和2年)に刊行された『名飯部類』で紹介されています。

これが現代にも余裕で通じる味なのですが、むしろ現代の日本料理の感覚からすると「出汁と黒胡椒を合わせて良いの!?」と感じますよね。

江戸時代にまで遡って現代でも意外性のある味の料理があるなんて、夢がありますね。

 

ちなみに、『料理珍味集』によると、レシピは下記の通りです。

  • 米一升に胡椒粉小匙に二はい
  • 醤油末のかさに一はい一所に交仕入飯にたく
  • しるは鰹出し醤油からくなきやうに加減して
  • 青きざみ昆布みじかく切入
  • こうとうは大根おろし陳皮唐がらし山葵

オリジナルは黒胡椒を炊き込むようです。

「こうとう」は吸い口の事なので、胡椒に加えて薬味も併用していたようです。

 

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小豆煮、焙じ茶

香り良い小豆は淡い塩気が付いていて、甘みが良い塩梅。

 

いやあ、味を思い出して、また頂きたくなるだろうなあ…と言う、心に残る味の【ねぎま鍋】でした。

ちなみに、冒頭の「なべ家」の福田さんは雑誌『食楽』で若手料理人の方と江戸料理研究を行っておられ、月島の「矢もり」さんや芝の「太華」さんと親交があるようです。

ともにお伺いしましたが、福田さんを大いに尊敬しておられ、お二人ともご自身の味を生み出しておられます。

ねぎま・長橋さんにおかれましても、今後のご活躍を祈念しています。

 

「ねぎま」さんの店舗情報

店名:ねぎま

予算の目安:ねぎま鍋・燻製・鯖焼・小皿料理3品コース5,700円、ねぎま鍋・燻製・小皿料理3品のコース5,400円など

最寄駅:大塚駅から350m

TEL:080-8739-8566

住所:東京都豊島区北大塚2-31-19 サテライトシティ大塚B1F

営業時間:18:00〜22:30

定休日:日曜、月曜、祝日

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