すしログ:名店の仕事を継ぎ、俊英職人が握る、浅草の橋口

こちらは浅草で知る人ぞ知る名鮨店です。

9月に訪問して感銘を覚えたので、二代目親方・奥さんの仕事と秋鯖を求めて11月に再訪問しました。

結果的に秋鯖とは出会えませんでしたが、奥親方の仕事の凄さを再認識し、再訪問して季節の変化を楽しむ喜びを心より楽しませて頂きました。

鮨橋口さんの概要、立地と雰囲気

先代・橋口親方はかつて台東区で名店とされた「高勢」の系譜にある親方で、2004年に独立開店されました。

そして、2014年に移転された後、現在は浅草寺・二天門のそばにお店を構えています。

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お店は鮨店よりも懐石料理店に近い雰囲気があり、総ヒノキの数寄屋造りで、カウンターもヒノキの一枚板。

カウンターの手触りは見事で、丁寧に磨かれています。

この雰囲気の良さは圧巻です。

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キラキラしてはいませんが、渋く落ち着いた重厚感がある空間で、観光地である浅草にあって非日常感を味わわせてくれる空間です。

 

伝説の名店「高勢」の系譜

ちなみに、高勢の系譜については、かつて鮨の先輩に教えて頂いたところだと下記の通りです。

  • 高勢(根岸)→政財界や球界御用達の鮨店であり、「座るだけで1人5万円」と言われる「日本一高い鮨店」であったが、不動産投資に手を出しバブルの崩壊と共に閉店
  • 高勢(浅草)→通称「二号店」で、現在はご子息が「鮨貴乃」として運営
  • 大塚高勢→高勢(根岸)初代に弟子入り、現存
  • 新高勢(象潟)→高勢2代目のご子息である高勢3代目が営んでいたが、2016年にご逝去され閉店
  • 橋口(先代橋口親方)→新高勢で修業、2004年に独立されたが、2017年にご逝去
  • 橋口(2代目・奧親方)→新高勢で修業し、橋口に入店
  • 浅草高勢→新高勢で修業、現存
  • 明 高勢(旧店名:和びすとろ鮨 明)→高勢3代目のご子息、現存

鮨橋口2代目・奧親方の仕事

 

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2代目の奧親方は鮨職人としての実力はかなりのものですが、キャリアの途中で職人を辞められた時期があるそうです。

しかも、飲食とは全く別のお仕事をされていたと。

しかし、その間に鮨の調理技術こそ上がらずとも、人間力を上げられたのは間違いありません。

親方とお話すると、人間としての深みと職人としての味を感じ、ひいては鮨店に伺う喜びを実感させます。

ちなみに、料理人に戻られた時も、鮨職人ではなく天麩羅職人としてゼロから歩まれたとの事なので、変わってます(笑)

天麩羅店で働いている時に、先代・橋口親方からお声が掛かり、2度目に呼ばれた際に鮨職人として復活を遂げたそうです。

兄弟弟子と言う関係性、「高勢」の取り持つ縁と信頼。

実に職人気質で格好良いものです。

奥親方の仕事については、王道の江戸前鮨のタネと仕事を施しながら、十分な個性を与えるのに成功しています。

恐らく鮨好きな方であってもタネと写真を見ただけでは個性を判別しづらいかもしれません。

しかし頂いてみると、一貫一貫の味に存在感があり、食べている内に満足度がどんどん高まっていきます。

小鰭の〆が巧い…と言ったテクニカルで実際的な理由もありますが、最大の理由は、塩梅です。
細かい江戸前仕事の塩梅が良い。

今までに試行錯誤を行い、ご自身の味覚とセンスで調整されてきたのは明白です。

頂いてみると細部に個性を感じる鮨なので、鮨通を惹きつけるのだと実感しました。

男気溢れる握りです。

 

シャリについては先代の頃は米酢だったそうですが、現在は赤酢と米酢をブレンドしたものです。

お酢はヨコ井の與兵衞と金将をブレンドされています。

やや硬めに炊かれたお米は、ほんのりと程良い温かさで、まろやかな味の方向性。

「劇薬」與兵衞を用いつつ、全てのタネに合う味に仕上げておられます。

 

そして、こちらは酒肴も美味しい。

刺身は握りで出さないものに絞られていて、それでありながら仕事も施されています。

握りに出す魚を切って出しただけの刺身は鮨店で食べて残念に思いますからね…

刺身以外の酒肴についてもオーソドックスなものと創作的なものを織り交ぜていて面白く、しかし、握りを中心にした品数とポーションにまとめている点が嬉しいです。

酒肴の内容を見ると、鮨店の硬派度合いが分かりますよね。

おまかせは15,000円一本で、相場を考えると非常に良心的です。

再訪して感じた鮨橋口さんの魅力

端的に魅力を挙げると、

  • ザ・江戸前の仕事を深化させた握り
  • ちょっとした遊び心を加えた酒肴の組み合わせ
  • 全てのタネとの相性が良い赤酢のシャリ

です。

握りで使用されるタネは王道の江戸前鮨ならではなものばかりですが、調理の細部に工夫が見られます。

それ故に通好みな鮨だと言えるかもしれません。

脂の強いタネや味の強いタネと赤酢を利かせたシャリを合わせる握りがトレンドとなっている昨今、奥親方のような握りは一見すると地味だと思われるかもしれません。

しかし、実際には力強い味わいで、明確な個性と強い存在感があります。

初訪問でも感じた通り、一貫一貫が印象的。

シャリも赤酢のシャリとしては抜群の完成度で、全てのタネと調和する味付けの炊き加減です。

握りが大好きな鮨好きな方には是非とも味わって欲しい!

そして、同時に「回らない鮨」初めての方にも訪問して頂きたいお店だと感じます。

通好みであるが故に間違い無い基礎とセンスに裏づけられた鮨なので、初めて鮨を食べる人は美味しい鮨の魅力に魅了される事でしょう。

再訪時に頂いたもの(酒肴と握りの詳細)

2020年11月訪問

【酒肴】
鮃刺身
青柳刺身
鰯の青巻き
鮟肝
キンキの漬け焼き
白子の炙りとシャリ
牡蠣の漬け炙り

【握り】
小鰭
墨烏賊
鮪赤身
鮪中トロ
車海老


いくら軍艦
海胆
穴子
干瓢巻き

玉子

【頂いたお酒】
田酒、黒龍、日高見、磯自慢

橋口鮃

鮃刺身

淡路島産。寝かせつつ、決してゆるくなっておらず、しっとりした身は旨味もバッチリ。
塩を軽く当てて脱水していると推察したところ、その通り。
下ごしらえの仕事だけでなく切りつけの仕事も申し分なく、寝かせて引き出された旨味と食感にピッタリな厚みの薄切り。
このような細部に気を払われた刺身を頂くと、鮨店の凄味を実感できる。

橋口青柳

青柳刺身

北海道産。甘みが極めて強い!
しかも、良い香りで、甘美な磯の芳香を楽しませてくれる。

鰯の青巻き

鰯の青巻き

青シソ、ガリ、胡麻と〆た鰯を合わせた珠玉の酒肴。
鰯の産地は根室で、脂がノリノリで驚嘆を覚える。
しかも、躊躇せずバシッと〆て、魅力を倍増。
薬味の香りなども含めて素晴らしい塩梅。
杉田さん(日本橋蛎殻町すぎた)が定番化して以来、出すお店が増えた酒肴だが、奥親方のものは杉田さんと同等以上!

橋口鮟肝

鮟肝

産地は定番の余市で裏切らないクオリティだが、何よりも仕事が良い。
臭みや雑味は皆無で、ペースト状の食感に仕上げ、濃密な味わい。
甘みを付けず出汁で炊く仕事が奏功しており、鮟肝の強い脂を満喫させてくれる。
火入れは恐らく低温調理。
低温調理器は使用されていないようだが、鍋の不安定な熱では難しい火入れ=均一な口当たりに仕上げている。

キンキの漬け焼き

キンキの漬け焼き

漬けの塩梅も焼き加減も良い。
カマなので脂がジューシィ。

橋口白子の炙りとシャリ

白子の炙りとシャリ

ご説明頂かなかったが、当然混ぜて乳化させるのが食いしん坊流だ。
ペースト状の白子と酢飯の酸味が合わさり、焼いた香ばしさと一味のピリ辛が好相性。

橋口牡蠣の漬け炙り

牡蠣の漬け炙り

白眉!
産地は北海道、仙鳳趾。
トロットロな食感になるよう煮た後に漬け込みを行い、直前に炙る仕事。
しっかり火入れされているのにとろける食感は、ペースト状と言うよりもクリーム状。
これには驚かされた。
オリーブオイルを少々使用しているそうだが、全く気にならず。

この後、握りに移行します。

名刺代わりの一貫目は、前回と同様に小鰭から!

小鰭

小鰭

しっとり系でくにゅっとした口当たりだが、「なまくら」な〆方ではないので、ぶにゅっとはしない。
皮が印象的な食感で、ひたすらソフト。
柔らかさと香りを楽しませる〆の仕事だと感じる。

墨烏賊

墨烏賊

片面に包丁を細かく入れる事で、とろっとさせつつ墨烏賊らしい歯応えを残す。
伺わなかったが、少し寝かせているのかもしれない。

鮪赤身

鮪赤身

戸井(大間の対岸)。濃密な脂と旨味を持つ赤身!
軽い漬けにしつつ、漬けで生じるねっちり感は程ほどに、赤身のむっちり感を優先させる漬けの塩梅。
これはモノも仕事も良い。

鮪トロ

鮪トロ

中トロと大トロの間くらいのトロ。
脂に加えて香りが印象的な強さを誇り、酸味もあるので爽やかな味わい。

車海老

車海老

茹でてから暫く寝かせているため、甘みが強いレヴェルで落ち着いている。
海老味噌も残しているし、臭みは無い。
二番手さんの仕事であったが、バッチリ。

※車海老の「問題」については、旬魚コラムで記載しています

鮨が10倍楽しくなる旬魚の世界 No. 33~夏~クルマエビ(車海老)

鯵

脂が強く、香りも良い。
雄々しくも上品。
肉厚な切り付けで力強さを持ちつつ、鯵自体は爽やか。
淡路島の旬の名残の鯵で、旨い。

蛤


鹿島産。火入れと漬け込みが秀逸。
噛み締めるとしゃくっしゃくっと音を立て、繊維がほどける音が快感。
味覚的にも漬け込みと煮ツメの甘みのバランスが取れている。
さらに、煮ツメの香ばしさをアクセントにしている。
触覚(食感)、味覚、嗅覚の3点で楽しませてくれる煮蛤。

いくら軍艦

いくら軍艦

名残に入りそうなタイミングであったが、皮の硬さは気にならず。
さらっと酢飯と一体化して、山葵がキリッと引き締める。

海胆

海胆

四島産のバフン海胆。
室温で温度を馴染ませており、甘い。

穴子

穴子
食感はふわんふわんで、香ばしい炙りの穴子。

椀

蜆入りの味噌汁。

干瓢巻き

干瓢巻き

一週間炊いては寝かせて…を繰り返して作られた干瓢は、唯一無二の魅力がある。
食感は凝縮していて、ぶりっぶりっ!ごわっ!
実に独特な食感だ。
甘みはザラメで付けられていて、あとは醤油のみ。
山葵入りの鉄砲がピッタリだ。

玉子

玉子
芝海老と車海老を併用した玉子焼きは、海老の香りが良く、みっしりほろり、しっとりと印象的な食感。

初訪問時に頂いたもの(酒肴と握りの詳細)

2020年9月訪問

【酒肴】
真鯛の刺身
蛸の刺身
イシガキガイ(エゾイシカゲガイ)の刺身
穴子、オクラ餡掛け
煮鮑
太刀魚の漬け焼き
新烏賊のゲソ炙り

【握り】
小鰭
新烏賊
鮪赤身
鮪中トロ
車海老
サゴシ

いくら軍艦
海胆
穴子

干瓢巻
玉子

【頂いたお酒】
磯自慢、日高見ひやおろし、黒龍、而今

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真鯛

昆布〆。むっちりした食感で、昆布の香りが力強いものの、鯛の旨味も十分。
これは〆加減だけでなく切りつけの厚みでもバランスを取っておられる。

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関東のブランド産地、佐島のもの。
これが大変美味しい。
ぶちっ!と切れて、しっとりとほどける蛸は、香りが抜群!
そして、旨味も溢れ出る。
柔らかく仕上げず、旬の蛸の香りを十分に楽しませてくれる仕事だ。

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イシガキガイ(エゾイシカゲガイ)

軽く火を入れて、コリッと感を出しているか?
香りがフルーティで甘みがあるのは、この貝の持ち味だ。

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穴子、オクラ餡掛け

揚げた穴子はサクッと衣が弾け、身がしっとりホロホロ。
餡が秀逸。
塩気と出汁が穏やかで、オクラの香りが活きている。

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煮鮑

柔らかく仕上げつつ、むちむちした食感が気持ち良い。
また、香りも上々。

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太刀魚の漬け焼き

幽庵地の漬け焼きで、食欲を刺激する香り。

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新烏賊のゲソ

くにゅっと柔らかさを保つ炙り加減で、香ばしい。


この後、握りに移行します。

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ガリ

甘みを利かせつつ、酸味もあってフルーティな味のガリ。f:id:edomae-sushi:20200904142204j:plain

小鰭

皮の食感が独特。
艶めかしさを感じさせる柔らかさで、するっと溶けるような皮。
佐賀のものを〆てから1日寝かせている。
新子の大きなサイズなので、立て塩で7分程度。

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新烏賊

むっちりした身はコリッと弾け、とろっととろける。
徐々に墨烏賊らしさを高めているのが分かる。

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鮪赤身

切りつけの厚さに驚いた。
産地は大間との事だが、今の時期の大間としては抜群の脂を誇っている。
仕事は軽い漬け。
よって、赤身の香ばしい香りが強く活き、酸味も楽しませつつ、旨味が脇を固める!
脂は恍惚とともに舌に残る。
仕入れてから1週間との事なので、実際は10日程度の寝かせか。
ちなみに、仲卸は米彦(こめひこ)。

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中トロ

香りが強い中トロ!
そして、脂のノリも凄い!
…が、これも酸味が味わいを引き締めてくれる。
久々に鮪で唸ったワンツーコンボ。

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車海老

茹で上げてから、しばし置いて落ち着かせ、黄身酢朧を噛ませて握る。
黄身酢朧は甘みだけでなく黄身の香りを感じさせる個性派な味わい。

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サゴシ

魚体が50cm以下の鰆の呼び名だが、東京で「サゴシ」とは珍しい。
「サゴシ」は関西の呼び名で、関東だと「サゴチ」が一般的なので。
脱水してねっちり、しっとりさせた身を藁で炙っているが、藁の香りの付け方が個性的。
ドライなフレイバーと言うべきか。
藁炙りの鰆は人気の仕事だが、バッチリ個性がある。

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肉厚な鯵で、ぶりっとした身は脂があり、引き締まっている。
生姜+浅葱の合わせ調味料の塩梅も良い!

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いくら軍艦

濃密で旨味があるが、食後感は爽やかな味わいのいくら。
40℃少々の低温でバラしているので、卵の味を楽しませてくれる。
旬の走りのいくらだと特に嬉しい仕事だ。

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海胆

宮城のミョウバン無添加モノ。
非常に濃密な味わいで、香りも良い!
後味はクリアで余韻は濃厚。
香りが気持ち良く残る。
ミョウバンの収斂味が本当に無い。

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穴子

対馬。小型なので脂は多すぎず、身がしっとり。

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シジミとアオサの美味しい椀。

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干瓢巻

干瓢はブツッと力強い食感で、味付けは超濃厚。
甘みだけでなく醤油も利かせ、山葵をバッチリ使用した干瓢巻。

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玉子

芝海老に車海老を合わせて試作しているそう。
車海老が入ることでみっちりしている。
実は研究中との事で、高勢の玉子を目指しておられるそうだ。
かつては芝海老に白身魚を加え、卵白をメレンゲ状にしていたそうだが、今は違う。
奥親方ならではな高勢の玉子を完成される日を楽しみにしている。

鮨橋口さんの店舗情報

店名:鮨 橋口(すし はしぐち)
シャリの特徴:横井の赤酢と米酢を巧みにブレンドし、全てのタネに合わせるシャリ。
予算の目安:おまかせ15,000円〜
TEL:03-3847-0334
住所:東京都台東区浅草2-35-13

最寄駅:浅草駅(都営・メトロ・東武)から230m
営業時間:17:30~22:00(L.O.21:00)
定休日:日曜、祝日

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