(旧すしログ No. 313)
こちらは新潟における「今後の鮨」を感じさせる、気鋭の一軒です。
お名前と評判は聞いておりましたが、新発田の登喜和の小林親方からオススメされ、この度機会を設けて訪問しました。
お店はもともと1960年(昭和35年)に創業された街場寿司だったそうです。
初代が兄弟で始めた事が店名の由来となり、何と夜中の27時まで営業されていたとの事!
現在は東京で修業された2代目が漬け場に立ち、暖簾を守っておられます。
兄弟寿しさんの立地と雰囲気
お店は新潟市の繁華街である古町にあり、アクセスは至便です。
商店街に面したドアは飾りなので要注意。
お店は入り口はビルの中にあります。
店内は小ぢんまりとした上質な雰囲気で、カウンターは9席のみ。
つけ場とカウンター席のレベル差はほぼゼロなので、親方の手元がしっかりと見えます。
鮨好きならば頂いていてワクワクする空間です。
兄弟寿しさんの鮨の概観
頂いてみたところ、東京で学ばれた江戸前の仕事と新潟の食材が見事に融合しておりました。
新潟の魚は昔は評価が低かったそうですが、今は手当(漁獲後の処置)が良くなり、船上神経締めをする方も増えてきたとか。
親方、本間さんはほぼ全て新潟の魚を用い、新潟らしい江戸前鮨を編み出しておられます。
仕事の精度に加えて構成力(ストーリー性)とスピードもバッチリ。
間違い無く、新潟の今後の鮨を牽引される職人さんの一人だと感じました。
なお、秋から冬にかけての鮪の旬であっても、鮪が無くても成立たらしめているのは新潟の魚と本間さんの力の相乗効果故だと心から実感した次第です。
シャリは今の若手職人さんとしては珍しく米酢のみ。
酸味が印象的な加減で利いており、塩気は穏やかで、硬めの仕上げ。
口の中でのほどけ方は良く、温度管理も申し分ありません。
途中、お話を伺ったところ、使用される酢は岩船酢との事で、登喜和さんと同じでした。
しかし、味わいは異なります。
ミツカンの白菊やヨコ井の與兵衛も同様ですが、同じ酢を用いても全く異なる味になるのが、酢飯の面白さでしょう。
新潟の調味料を用い、新潟のお米と合わせ、新潟の魚を握る。
新潟前の進化に目が離せません。
なお、コースの構成は握りと酒肴が織り交ぜられるスタイルですが、握り主体で酒肴はアクセントして登場するような印象なので、
全く嫌味が無く、食べ疲れる事もありません。
頂いたお酒
越乃景虎・虎七郎純米吟醸、無想・純米原酒
兄弟寿しさんの鮨の詳細
地物の揚げ銀杏
香ばしく甘い。
ガリ
そこそこの甘みに辛みもあり、食感は柔らかめ。
アラ
九絵でないアラ。
分類で言うとハタ科アラ族アラ属で、九絵はハタ亜科ハタ族マハタ属…呪文のようだ。
釣り人から「幻の魚」と呼ばれる好敵である。
3日寝かせているが、食感はむっちむち。
噛み応えのある肉肉しい身から、じゅわっと脂が滲み、香りが雄々しく広がる。
今回の魚体は6キロで、大きいと10キロほどになるそうだ。
インパクトのある一貫目で、新潟前を強く示す。
カマス
繊維質はほろりとほどけ、脂が横溢する。
そして、藁で炙った燻蒸香が芳しい!
食欲を刺激しつつ、それでも上品な仕事。
子持ちハタハタの焼き物
新潟と山形の県境の山北町(さんぽくまち)産。
卵の存在感が強く、とろみもあって香ばしい。
食感は軽妙。
身は卵を抱えても脂があり、これは意外な旨さ。
エゾバフンウニ
北海道産で、今回唯一県外産の素材だった。
海胆は甘みが強く、ほの苦味もある。
海苔は三河湾産の混飛びで、香りが良い。
墨烏賊
ねっちり且つむっちりした食感で、甘みが強めだったため、寝かせているのが分かる。
伺ってみたところ、「円盤サイズ」の大きな墨烏賊を1週間寝かせているそう。
かきのもと
白根産。新潟の秋の風物詩である食用菊。
こちらのものは味付けが出汁主体で上品。
酢と塩の当て方も良い。
菊も香りをふんわりと漂わせ、シャキシャキの食感が魅力的。
寒鰤
佐渡の定置網で、10.6キロほどだそう。
それを16日も熟成させている。
頂いてみると脂が旨く、身の旨味も強い。
それでいて臭みは皆無で、血合いを香りとして活かしている。
熟成向きだが、ある種香りのコントロールが難しい鰤を頂き、ご主人の熟成のセンスを実感した。
鯵
これも寝かせ方が巧い。
身はとろんと柔らかく、旨味を楽しめる。
合わせ調味料に山葵と金胡麻。
茶碗蒸し
具はアオサと梅のみと潔い点が素晴らしく、出汁もまた上品。
アワダチ
深海魚で、標準和名はヨロイイタチウオ。
むっちりした繊維質ながらきめ細かく、旨い。
底引き網で掛かった時だけ頂けるそうだ。
いくら
村上産。43℃でほぐし、塩や醤油には漬けていない生イクラ。
シャリの酸味が味わいを支え、殊に濃厚な味わいに感じさせる。
帛乙女(きぬおとめ)
新潟のブランド里芋。
京料理の海老芋のように、出汁を利かせ、薄い衣を纏わせてカリッと揚げている。
とろりとした口当たりは里芋ならではで、海老芋とは一線を画す。
これは魅力的な一品!
南蛮海老
むちっとした身は瞬時に弾け、トロトロと溶けるよう。
新潟を代表する海老で、旨い。
鰻
阿賀野市安田産の養殖鰻である「あがの夢うなぎ」。
焼き、蒸し、焼きと江戸前の仕事を施して握る。
蒸しの過程で脂は程良く抜けて、鰻の香りを残している。
握りに適した鰻と仕事だと感じる。
椎茸
弥彦産。香り良く、旨味もある。
この局面で出されるのが良い。
ズワイガニ
佐渡産。カニの旨味と香りは抜群!
海苔は有明産で、厚みがあり旨味も強い。
椀
濃厚な潮汁ベースの味噌汁。
穴子
ふわとろな仕上げの穴子。
煮ツメはコクよりも甘みが強めのもの。
玉子
芝海老の代わりに南蛮海老を用いた玉子。
完全にスフレ状で、しゅわっ、しっとり。
紅茶
村上の冨士美園の雪国紅茶を、大洋酒造の鄙願の仕込み水で淹れているそう。
美味しかったので村上で入手した。
再訪する日が楽しみです。
兄弟寿しさんの店舗情報と予約の取り方
WEB予約は行っておられませんので、全てお電話での予約となります。
上記の通り席数が限られていて、人気が高まっている鮨店なので、事前の予約は必須と言えます。
期間に余裕を持ってお電話しましょう。
店名:兄弟寿し(きょうだいすし)
シャリの特徴:岩船酢(米酢)のみを用いて酸味はスッキリ、塩気は穏やか。
予算の目安:おまかせ12,000円で、お酒を飲んで15,000円前後
最寄駅:新潟駅から2,300m
TEL:025-224-9581
住所:新潟県新潟市中央区古町通9番町1461-1 坂上ビル1F
営業時間:18:00~20:30(※一斉スタート)、21:00〜24:00
定休日:日曜