鮨好きの友達が風の噂で聞きつけた、淡路島にある情報の少ない鮨店。
食好きの方が海を越えて通うという鮨店が淡路島に!?と関心を抱き、
この度、鮨を食べるためだけに淡路島に渡りました(笑)
お店はロードサイドにあり、情報を聞いていなければ素通りしていたかもしれません。
しかし、打ち放しコンクリート、木柱、濃紺の暖簾のコントラストが妙に美学を感じさせ、お店の前に立った瞬間、心が軽やかに踊りました。
中はゆとりのある配置で、カウンター席の数は8席。
カウンターの設えや俎板は街場寿司然ですが、シャリは藁櫃で管理されております。
見れば山葵もこまめにすり下ろされており、鮨には鮫皮でおろし、お造りにはおろしたものを包丁で叩かれております。
お造りでも、握りでもタネは同様とのことでしたので、握りのみで頂きました。
都合18貫と玉子を頂くことになりましたが、結論から言って、唯一無二の個性を持つ稀有な存在の鮨店でした。
タネはほぼ「生」で構成され、冒頭から白身魚が6連発。
食感、香り、旨味の妙なる協奏に、度肝を抜かれました。
「生」なのにシャリと一体化させ、ストーリーを構築しており驚きます。
シャリは塩分、酢ともに控えめなのですが、ハラリとほどける良い硬さ。
ご主人の握りは正確で、手を打ち鳴らすことも、捨てシャリもされません。
さらに、煮キリをくぐらせてから握られ、酢橘を多用されるのですが、これが独自の仕事となっております。
柑橘類の多用は個人的な好みではありませんが、こちらは全く嫌味にならず。
完成度の高い白身魚の仕事です。
まずは、【鱸(スズキ)】、【鯛(タイ)】、【鰈(カレイ)】。
冒頭の【鱸】は甘みのインパクトが強烈でした。
そして、間髪入れずに、【アコウ】。
これは高級魚のキジハタ(北陸ではナメラバチメとも)ですが、シャックシャクな食感が
極めて軽妙で、リズミカルに噛みしめると、芳醇な甘みが口腔を満たします。
更には、【アブラメ(アイナメ)】、【イサキ】。
瀬戸内の7月の【アブラメ】は鯛の倍以上の価格となるそうです。
大阪の末廣鮓で頂いた時も旨味に喜びましたが、こちらは生である分ストレートに伝わってきます。
生にもかかわらず余りにも旨味が強かったので、「寝かしているのでしょうか?」と聞いたところ、「熟成はしない。漁師さんの締め方(神経)が巧いから、旨味が強い」のだと。
実に巧い締め方と手当です。
熟成は食感を失う諸刃の剣。
最近の流行となっておりますが、食感と旨味、香りのバランスという観点では、職人のセンスが試され、過剰な熟成は食感という大きな魅力を損ねるものです。
ほどほどであれば「熟成」は「新たな江戸前仕事」かと思いますが…。
そういった意味では、熟成の対極にあるのが、こちらのお店。
食感を活かし、旨味を活かし、「鮨」たらしめるこちらの握りには驚きました。
そして、白身魚を締めくくるのは、長物の【鱧(ハモ)】。
火入していない生の鱧を、提供の直前に骨切りを行い、わずかな胡麻と合わせる。
これが絶品で、ハッキリ言って火を入れたものよりも旨い。
とろんととろけ、舌を撫で、旨味が長らく響きます。
この後は、以下のように続きました。
【剣先烏賊】
細かい包丁が奏功し、烏賊の甘みを素直に提示します。
【縞鯵】
脂がギンギンに乗っており、破天荒な旨味。これは後から煮キリ。
【箸休め】
沢庵、キュウリ、ガリ、大葉を細く切り、穴子を混ぜて、蓼を添える。
【鮪赤身】、【鮪大トロ】
鮪は東京で頂くものに比べると、ご愛嬌…。
また、鮪については熟成を掛けたほうが確実に美味しいかと思います。
【車海老】
茹で上げを炙る。香ばしくジューシー。
【タイラギ】
極厚に切り付け、炙る。
【鮑】
豊かな食感で中々芳醇。肝添え(生でなく身とともに炊いたもの)。
【蛸】
巨大な切り付けだが、波を打たせており、ゆるやかに切れる。
僅かな梅肉が甘みを引き立て、吸盤の食感が良きリズムに。
【海胆】
淡路産(上記も殆どが淡路産ですが)。
極薄切りにした烏賊を上に添えて。
透き通るような烏賊のヴェールに海胆が蠱惑的に微笑む。
見た目だけでなく味わいも調和し、海胆は飲み物のように甘く喉に溶けてゆく。
【穴子(焼き)】
半身を丸付のように握る。絶妙。
【穴子(煮)】
爽煮。これも半身。しかも、胡麻を少量噛ます。
ご主人は話の途中で「仕事は苦手やから生なんですよ〜」と仰っておられましたが、全くそんなことはありません(笑)
【出汁巻き玉子】
作りたて、熱々のふんわりを。
トータルで18貫、箸休め、玉子を頂き、 14,000円を切りました。
いやはや、情報が少ないものの、素晴らしい名店に出会うことが出来ました。
食べログでは3.3を切っておりますが、美食のためなら足を使うべしという好例です。
味だけでなく、ご主人の接客も印象深く、神戸からわざわざ足を運ぶお客さんも多いという理由に納得です。
「歌って踊れる鮨職人になりたい」とはご主人の談。
その言葉とは裏腹に、実直な鮨と俎板を拭く都度さらしを切って使用されている姿に、真摯な心意気を感じました。
これからの更なる進化を心から願いたいと思います。
店名:すし屋 亙(すしや のぶ)
酢飯の特長:塩分、酢ともに控えめで、甘みはなく、ハラリとほどける。
予算の目安:12,000円〜16,000円
最寄り駅:なし、車
TEL: 0799-62-4040
住所: 兵庫県淡路市志筑1871-5
営業時間:11:30~13:30、17:00~20:30
定休日:火曜
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