すしログ No. 163  東麻布天本@赤羽橋

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こちらは2016年6月のオープン直後、凄まじい初速で予約困難店に突入した鮨店です。

ご主人の天本正通氏は青山の海味で9年間修業された後、滋賀県の人気店・しのはらさん(銀座に移転)で日本料理を学ばれ、満を持して開店されました。

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天本さんの人柄は非常に朗らか且つ丁寧なので、長丁場となりましたが、飽きる事無く楽しませて頂きました。

繰り出される食材は一級品のオンパレードで、調理、仕事のセンスは卓越しております。

この若さで凄いな…と心から感じました。

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ただ、8月上旬の訪問時点で年内の予約満了と言う恐ろしい状況でしたが、現時点に限って言うと、有名人の方々が煽り過ぎかなと言うのが率直な印象。

若い職人さんなので、当初から人気が過剰に高まると、成長のきっかけがつかみにくくなる可能性があります。

天本さんとお話した限りでは決してそのような方ではないと思いますが、超人気店=美味しいではなく、気付いた点はお伝えしていった方が、今後の長い職人人生が綺羅びやかになるのではないかと感じます。

 

其の上で、僭越ながら僕が個人的に気になった点を挙げさせて頂きます。

一つが構成力(ストーリー性)の弱さで、もう一つが料理に比べて握りが弱い点。

そして、どちらかと言うと、二点目が特に気になりました。

 

個々の料理は完成度が高く、使用されているタネ質も申し分無いものばかりなのですが、前後関係の必然性が少々弱く、「乱れ打ち」している印象を与えます。

それは所要時間の長さ故かもしれませんし、後述の通り酒肴に比べて握りが弱い故かもしれません。

料理のセンスがあるからこそ、惜しい…

開店早々は遮二無二に駆け抜けないといけないのは分かりますが、多忙な日常に飲み込まれない事を切に願います。

 

握りに関しては、手数が多い点が気になりました。

手数が多いためにシャリのほどけ加減に致命的なムラが生じ、折角のタネと仕事が6掛くらいになってしまっている印象です。

ひとえに、シャリの恐ろしさ。

握りの「形」に拘泥せず、少ない手数で握られた方が、美味しくなるのは確実かと思います。

修行が厳しいと言われた海味ご出身なので、微調整されれば飛躍的に向上するでしょう。

シャリの味わいとしては、赤酢を用い、酢の酸味を立たせ、塩気は控え目。

かなり硬めに仕上げており、古米に加えて古古米もブレンドしているとの事です。

頂いた料理、握りは下記の通りです。

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数の子と枝豆

枝豆は静岡産で、醤油に軽く漬けており、味付けの塩梅が良い。

数の子はアラスカのものを留萌で加工した干し数の子。

西京漬けにしている点が面白く、しっかりした歯応えが西京味噌の風味と相まって美味。 

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子鰯の梅オイル煮

三河湾産。炊き加減が良く、ふっくらと柔らか。

梅は酸味として使われており香りはそこまで強くなく鰯を活かす。

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神奈川県佐島産、3.5kg。

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天本氏は雄の3kg以上のものしか買わない!との事で、粋な覚悟。

肉厚だが歯切れが良く、トロトロ過ぎない点が好印象。

蛸らしさを残した柔らかさ。

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クロムツ

サク取り前の骨付きの状態で3日寝かした身は圧倒的な旨味。

非常に甘い脂が舌を甘やかす。

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真鯛

福岡県姪浜産との事で、ビックリ。

市街地に近い場所だが、旨味、香りが活き活きとしており、香りは雄々しい印象を与える。

酢橘を使っているが鯛を殺さず抑制が利いた範囲。

切り付け、盛り付けにもセンスを感じさせる。

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ツブ貝
北海道日高産。

香りがバシッと突き抜け、旨味の粒子が非常に細かい。

芳醇な甘みが横溢した後に軽やかな苦味を楽しませてくれる。

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イカの塩辛

大間産スルメイカで、昨年11月に仕込み、マイナス60度で保存。

大間のスルメイカはかの大間の鮪の餌。

美味しくフレッシュなイカで作られた塩辛。 

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ホヤ

根室産。現地で頂くホヤに比べると落ちるが、美味。 

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対馬産。酸と鉄の香りがストレートに伝わり、脂はすっきり。 

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ミンク鯨

千葉産。極めて素晴らしい火入れで、舌にねっとりと絡む脂に言葉を失う。

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鯨らしい香りの余韻はあるものの、全く嫌み無し。

素晴らしい仕事。

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気仙沼産。皮目に入れられた包丁に妙がある。

塩タタキにしており、ストレートに伝わる酸味に強めの燻香をぶつけている。

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赤海胆とズワイガニ

ズワイガニはほぐし身と蟹味噌を。 

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マダカアワビ

希少性が非常に高い大原産!

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日本酒だけで蒸し、塩も不使用との事で、マダカの旨味を活かし切っている。

圧巻過ぎる程に圧巻。

旨味と香りが口の中で力強く踊る。

歯切れも全く申し分無い。

これも秀逸な仕事。

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宍道湖産で、10日寝かしたもの。

寝かしているため、鰻の香りは上品。

脂は程良く、ねっとりと舌に絡むが、軽やか。

何よりも素晴らしいのが焼き加減。

皮はパリッパリ、ガリッと爽快な食感で、身は繊維が縦にスッと切れる。

皮目に穴を打ち、鰻自身の脂を用いて焼き上げている。

鯨、鮑、鰻は、天本氏の圧倒的なセンスを感じさせる。

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白甘鯛の焼き浸し

徳島産、2.2kg。

骨で出汁を取っており、スープが美味しく、皮のとろけ具合が印象深い。 

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このわた

非常に強い旨味のこのわた。

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ボタンエビ

増毛産。管理が素晴らしく、東京で頂くボタンエビとして最上級。

 

ここから握りに移行します。 

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ガリ

甘みの加減は海味の兄弟子のさかいさんと似ている印象だが、

こちらは薄切りにしているが故にしっとり感が強い。

林檎を思わせるガリ。

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新烏賊

煮キリに塩を合わせ、酢橘を極僅かに使用。

パツッ!とした食感は墨烏賊ならでは。

それでいて軽やかなあどけなさを感じさせるのは時期モノの新烏賊の魅力。

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新烏賊のゲソ

こちらは煮ツメで。さっぱりな煮ツメ。

コリコリとした食感に煮ツメの味わいが合い、使用しているのは酢橘の皮か。

ゲソなのにとろける感じも楽しめるのは新烏賊ならではで、嬉しい一貫。

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アズキハタ

松輪産。甘みが芳醇で、濃い。

舌に浸透するほどの旨味と余韻で印象深い。

食感はしっかりあり、これは好みの状態。

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シマアジ

西伊豆産。

これも中々美味いものの、アズキハタの後だと弱い。

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釧路産。身はとろろんと柔らかく、良い塩梅に脂を封じ込めている。

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新子

江戸前、木更津産!

しっとりした〆加減で、爽やかな印象を与える香り。

二枚付けといえども、旨味は少々弱い。

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小鰭

天草産。まだ小さいので立て塩で〆ているそう。

新子に比べて矢張り旨味が強い。

香りは優しい。 

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血合いギシのトロ。

酸味と甘みが良いバランスで、夏の鮪としては非常に魅力的。

この部位を選ぶ天本さんの選球眼が素晴らしい。 

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サゴシの松前漬け

鰆。甘みがしっかりしており、昆布のお陰でねっとり。

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筋子

新物の筋子で嬉しく、印象深い味わい。

香りはさっぱりとナチュラルで、旨味も上品で、余韻はすっきり。

子(粒)のほどけ加減は良く丁寧な下拵え。

用いられた酢橘が良い。

爽やかな印象を与える筋子。 

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海胆軍艦

余市産の塩水パック。

ミョウバン不使用だけあり口溶けが素晴らしく、じんわりと残る香りが気持ち良い。

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神戸のポートアイランド産。

脂はしっかりで、香りも強く、美味。

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筋子の巻物

先ほどの握りとは異なる印象を与え、楽しい。

海苔の風味とも相性良し。

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車海老

豊後水道産。雄々しい風味の車海老で美味しいが、シャリの味わいが勝つ。

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べったら漬け 

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穴子

小柴産。とろんとろんに煮て、カリッと炙る面白い仕事。

ねっとりとしっかりした脂で美味。

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赤出汁

魚介の旨味がしっかりした赤出汁。

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玉子

サル海老を使用した玉子。

みっちりした食感の中にしっとり感もあり、個性的な食感だが、理由はメレンゲを用いている為か。

甘みはしっかりしており、鮨店のスイーツとして良い味わい。

 

冒頭で少し厳しい事を書きましたが、上記の通り酒肴が美味しく、握りのタネと仕事がハイレヴェル且つ個性的なのは間違いありません。

握りを求めて鮨店に言っている人間としては、握りが最も重要だと思いますので、今後の成長に心から期待させて頂きます!

良い方向に進まれれば、日本を代表する職人さんになられる事は間違い無いかと…

  

店名:東麻布天本(ひがしあざぶあまもと)

シャリの特徴:赤酢を用い、酢を立たせつつ塩気は控え目。ごく硬め。

予算の目安:おまかせ38,500円~

最寄駅:赤羽橋駅から350m

TEL:03-6885-2274

住所:東京都港区東麻布1-7-9 ザ・ソノビル102

営業時間:18:00~24:00

定休日:日曜

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