こちらは2017年4月25日にオープンして以来、京都のみならず東京のグルメな方々の間でも人気が高まっているお店です。
ご主人の木山義朗さんは名門・和久傳に長らく勤められた手練。
若くして京都和久傳(伊勢丹の店舗)の料理長になった聞き、寡黙で厳しい方なのかと思いきや、きめ細かい接客をされており、心が和みました。
かと言ってお客と馴れ合う事も無く、程良い距離感。
料理の味わいに加えその人柄も相まって、和久傳からの常連さんも多いようでした。
お店は丸太町の閑静な場所にあり、マンションの一階を改修されております。
店内に入ると新築香とお香の香りがお出迎え。
カウンターは最大9席ほどで、赤松の床柱が穏やか且つ凛々しくて存在を示しております。
ツヤツヤの檜葉のカウンターには穏やかな間接照明が照らされており、ギラついておらず、鄙びた風情もある内装だと感じました。
こちらで特筆すべきは、使用する水。
ご主人は物件を改修される際、井戸を掘り京都の地下水が蛇口から出るように改造されたと言います。
意識的に「京都の水」を活かした料理を志向されているとは、否応無しに期待が高まります。
水こそは料理の根幹であり全て。
使用する水で出汁もお米も変わってきます。
しかも、京都市の地下には豊富な水源があるとされており、琵琶湖に匹敵すると言う説もあります。
2013年には、鎌倉時代から続く冷泉家(れいぜいけ)が、半世紀ぶりに井戸を復活させ、水の旨さに驚いたと言います。
冷泉家住宅と木山さんのお店は、御所を挟んで対の位置にあり、至近。
同じ水と言っても差し支えは無く、料理好きのみならず歴史好き、歌道好きな方の琴線にも触れるのではないでしょうか?
御料理を頂いた感想としては、見事に水が活かされており驚きました。
スッキリしたキレのある余韻が多くの料理で感じられ、これこそが最大の特徴となっております。
意識的に頂いていなくても、味覚が鋭敏な方は個性的な余韻を感じる事かと思います。
それに加えて、伝統をモダンにアレンジする気概とセンスも感じます。
モロヘイヤやレモンなどの西洋野菜を嫌味無く使用されたり、蓮根饅頭に加賀太胡瓜のすり流しを合わせられるなど、抑制あるアレンジが魅力。
東京では何かと「高級食材の足し算」が目につく昨今ですが、このアレンジは東京の料理人の方にも体感して頂きたいと感じました。
【今回頂いた15,000円のコース内容】
・白湯
・先付:黒鮑と銀杏の飯蒸し
・山本本家の松の翆
・小吸物:蓮根饅頭、バチコ、加賀太胡瓜のすり流し
・酢のもの:車海老、蛸の子、栗、つるむらさき
・節の食べ比べ
・椀:湯葉真薯と松茸
・お造り:明石の伝助穴子の薄造り
・お造り:本鮪の大トロ、剣先烏賊
・鰻の印籠焼き
・白酢和え
・油もの:天然舞茸と子持ち鮎の天麩羅
・九絵の酒蒸し
・お食事、香の物、留め椀
白湯
頂いてみると意外にも甘みが低い。
温度帯ゆえかもしれないが、個人的には意外であった。
先付
黒鮑と銀杏の飯蒸し
鮑の食感はくにゅくにゅっと気持ち良く、柔らか過ぎず、旨味もしっかり。
香りも中々。
甘くほろ苦い銀杏が味の彩りを添える。
糯米は鮑出汁で炊いており、米の硬さは丁度良い。
伏見・山本本家の松の翆(まつのみどり)
口直しに米の旨味のあるお酒を一献。
温度帯は常温よりもやや低め。
尚、今回は水を活かした料理と聞いていたので、お酒は一切頼まなかった。
こちらを頂き少し心が揺らいだが、結果的にはお茶で通して正解だった。
水と向き合い味覚を維持するためには、水分及びアルコールは蛇足。
(あくまでも個人的な見解であり、ここまでストイックになる必要は皆無ですw)
小吸物
伝統的な蓮根饅頭に加賀太胡瓜のすり流しを合わせ、バチコを添える。
何よりもキュウリの香りの使い方が良い。
清々しく青臭さが無い。
そして、出汁のバランスも良い。
蓮根は香ばしく、甘くもっちり。
繊維質の食感も活かされ、リズムある食味。
酢のもの
車海老、蛸の子、栗、つるむらさき、焼き茄子と豪華。
蛸の子は出汁で2時間炊いたもの。
土佐酢のみならず生姜を利かせており、土佐酢のジュレは酢の存在感を強調した仕上げ。
芋の葉の上に盛り付け。
椀ものの前に節の食べ比べ
厨に固定してあるカンナで削ったばかりの節3種。
本枯節と荒節、鮪節を食べ比べ。
僕は家で料理の前に削っているので削る事自体に新規性は無いものの、プロが削った削り立ての節を食べ比べ出来ると言うのは、面白い。
しかも、木山さんは「パフォーマンス」色が極めて低く、純粋に料理の楽しみを伝えてくれる姿であった。
写真は節のみで取った試飲用の出汁。
椀
上記の節と昆布で出汁を取った椀。
椀種は湯葉真薯と松茸。
いやはや、旨い!
節のみならず昆布も力強く支えているが、尖ったところは無く、穏やかなまろみがある吸い地。
塩はかなり控えめで、とにかく節の調和が凄い。
そして、旨味の余韻がありつつ、スッキリ、キレのある食後感。
前述の通り、水が奏功していると思われる。
湯葉真薯も申し分無く美味しく、松茸は韓国産だが中々の香りとグアニル酸。
食感も良く、フレッシュ。
2017年の秋は松茸が不作で価格が高騰したため、京都産や国産に拘らず「旨い産地」で勝負されているのは好感。
鮨に於ける鮪に対する考えと同じである。
お造り
明石の伝助穴子の薄造り。圧倒的な脂の甘み!
恐らく少し寝かしているのだと思われるが、食感はあくまでもプリプリ、しゃくしゃく。
唯一、骨が少々気になったので、包丁については今後が期待される。
薬味は芽ネギ、赤紫蘇で、山葵は甘みが強く質が高い。
三重県本鮪の大トロ、剣先烏賊
海苔の佃煮とモロヘイヤを添えて。
大トロは脂が強過ぎず、甘みを楽しませてくれる。
この中では海苔の佃煮が印象深かった。
鰻の印籠焼き
琵琶湖産。まさかお昼にわらじやさんで頂いたものと同じ調理の鰻が出るとは!
そして、率直に申し上げてクオリティの差は歴然。
バリッ!と力強く弾ける皮、たっぷりの皮下脂肪、ホクホクの身。
噛み締めると、とろりととろける。
炭の香りが端正に引き締める。
とにかく脂が多くて旨い。
琵琶湖の鰻としては大型で、上質なモノだと感じる。
胡麻は香りの良いものが半すりくらい少量まぶされており、上品。
白酢和え
菊花、菊菜、大徳寺麩、だだちゃ豆、松の実と、クラシカルな素材を用いつつ、レモンで炊いたサツマイモを添えるセンス。
レモンの風味は得てして日本料理では過剰に主張して下品になる事が多いが、抑制が利いており、実に魅力的。
ちなみに余談となるが、一般的に、料理人の方はなるべくレモンを使わない方が良い。
お造りにレモンを添えるのは居酒屋ならば致し方無いとして、日本料理店や鰻専門店などで供すのは、最早時代錯誤も良いところである。
何故他の柑橘を用いないのか、心よりセンスを疑ってしまう。
天然舞茸と子持ち鮎の天麩羅
ツユではなく、こっくりとした煮ツメ状のソースで。
子持ち鮎は時期ならではの美味しさ(卵の食感)を楽しませてくれる。
舞茸はかなりカリカリに揚げられており、これは失敗であろう。
九絵の酒蒸し、冬瓜しいたけ
九絵は三重県産。
ぶりんぶりんの繊維質が気持ち良い。
酒の香りも良い塩梅で、酢橘の使用量も上品で好感。
お食事
これまでに水の美味しさを実感しただけに、ただでさえ美味しいであろう炊き立てのご飯。
お供は3種類。
即ち、ちりめん山椒、本枯節、いくら。
まずはちりめん山椒と本枯節をセットでお願いしてみた。
しっとりした食感のじゃこはたっぷりで嬉しく美味しい。
次に、いくらの醤油漬け。
いくらの漬けにはごくごく軽く柚子胡椒が使われており、良いアクセント。
最後3杯目にお米のみを頂いてみた。
裏メニューのTKGを断っての選択である。
しかし、選択は正解。
米そのものの美味しさを感じる事が出来、粘度があり、香りが良く、甘みの強い米であった。
搾りたての洋梨
自然の甘みたっぷり!洒落た口直し。
栗の茶巾
栗の風味がしっかり!中の餡の甘みや風味も上々。
和菓子の腕も確か。
トータルとして、満足度が高いのにスッキリした食後感が印象的です!
お酒を飲んでいないとは言え、税サ込み17,700と言うお会計はコストパフォーマンスが高いと感じました。
再訪したいので、人気が出過ぎて欲しくないなあ…
木山さんのお店の情報と予約方法
予約の難易度が高いお店ですが、一休よりWEB予約が可能です!
店名:木山(きやま)
食べるべき料理:京都の地下水を駆使し、伝統に洒脱なセンスを加えた日本料理。
予算の目安:お昼10,000円、夜15,000円、20,000円 ※夜は税サ別
最寄駅:丸太町駅から350m
TEL:075-256-4460
住所:京都府京都市中京区絹屋町136 ヴェルドール御所1F
営業時間:12:00~13:30、18:00~19:30
定休日:不定休
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