こんにちは、日本鮨酒文化振興協会の、すしログ・大谷(@sushilog01)です。
この度、鱒寿司とワインのペアリングのテイスターのご用命をいただき、富山県・魚津市にある「カナタワイナリー」さんにお伺いしました。
結果的に、非常にエキサイティングなテイスティングとなりました。

結論から申し上げると、合います、鱒寿司とワイン!
そして、郷土寿司や郷土料理とペアリングする試みには大きなポテンシャルを感じます。
そして、「カナタワイナリー」さんは、ワイン好きなら覚えておいて損はないワイナリーだと実感しました。
今後、人気が高まると思います(僕は日本ワインも好きで結構飲んでいますが、純粋に美味しいので)。
同時に、富山県の「寿司といえば、富山」キャンペーンは多角的に魅力を発信して価値を高めているので、注目しています。
県が鮨を盛り上げるという前代未聞の試みですが、すでに北九州市に波及するなど、社会へのインパクトを感じます。


「カナタワイナリー」さんは2022年に富山県魚津市に誕生したワイナリーです。富山県庁で果樹技術者の道を極め、果樹栽培家の指導を行ってこられた土井 祐樹さんが醸造長を務めています。

そして、土井醸造長のキャリアを活かし、ワイン用のブドウは自社生産。つまり、ドメーヌということになります(ドメーヌ=ブドウ栽培から醸造、熟成、瓶詰めまでを一貫して行うワイナリー)。

富山県は非常に独特の地形を持つことで有名ですが、魚津市も海抜0mから標高2,400m以上の立山連邦までが、奥行きわずか約25kmの間にあり、富山湾は水深1,000mになるため、高低差3,400mの地形にあります。そして、魚津の降雨量は非常に多く、一般的に多雨はワイン用のブドウ作りには適していないそうです。

しかし、「カナタワイナリー」さんは逆手に取って、魚津のテロワールを活かすワイン造りを志向しています。そして、いざ実際にテイスティングしたところ、土井醸造長の果樹栽培技術が遺憾なく発揮されているワインに舌鼓をうちました。
品種や製法のバリエーションが豊富で、実に美味しいワインを造られています。僕は日本酒だけでなく日本ワインも積極的に味わうようにしており、行く先々のレストランやワインバーでいただいたり、生産者さんのもとに足を運び入手しています。ですので、ソムリエでなくても「カナタワイナリー」さんのワインの完成度を実感する次第です。
また、「カナタワイナリー」さんのビジョンで素晴らしい点は、「ワインで魚津の「農業の伝統」を守り、郷土料理を“アウフヘーベン”させる」と言うミッションです。

農業の高齢化問題と後継者不足をワイン造りで解決し、郷土料理の魅力を新たな価値をもって昇華させることを目指していると聞けば、否応なしに応援したくなりますよね。
そして、実際に鱒寿司といただいたところ、アウフヘーベンされている!と感じました。
このような試みが成功すれば、日本各地が面白くなり、さらには日本酒業界にも好影響があるはずだと確信しました。日本社会全体としてのポテンシャルは東京よりも地方にあり、生産物と食文化に尽きる、と信じます(イタリアの成功事例のように日本も食に舵を切って欲しい!)。

食とお酒を組み合わせて郷土性、テロワールを表現する試みこそ、今後の日本で大切な取り組みだと確信します。
まず、イベントの前に、予習として自宅で鱒寿司とワインのペアリング実験を行いました。

ワインについては、「カナタワイナリー」さんの” UMI ROSE Cabernet franc 2023”を用いました。

その結果、実感したのが以下の2点です。
- 甘味がある酢飯の鱒寿司とワインの酸は相性が良い
- 脂の強いタイプの鱒寿司ならば脂を切ってくれる効果がある
香り、味わいの両方で魚とのネガティブな反応は起きず、非常に魅力的なペアリングが可能だと感じました。

その上で今回のペアリングイベントでは、以下の鱒寿司とワインでペアリングを検証しました。
テイスターだけでなく一般参加者のワイン通な方も多数参加されるイベントでしたので、活気があり大盛況でした!
この度の鱒寿司は以下の5社です。

- 青山総本舗舖(富山市)
- 関野屋(富山市)
- ます寿司屋 ヒロ助(黒部市)
- 魚づ鱒寿し屋(魚津市)
- はりたや(魚津市)
そして、「カナタワイナリー」さんのワインは、なんと11種!

- Tenjinyama KOSHU 2024
- Chardonnay 2024
- Albariño 2024
- D.O.V 2024 (Sauvignon blanc)
- Sauvignon blanc Barrique 2023
- D.O.S 2024 (シャインマスカットなどの生食ぶどう9種を混醸)
- UMI ROSÉ Cabernet franc 2024
- YAMA ROSÉ Merlot 2024
- D.O.B 2023 (バッファロー=アーリースチューベン)
- Buffalo Metodo classico 2023
- Pinot noir 2024
今回のテイスティングを踏まえて、感じた印象、ペアリングで重要なポイントは以下のとおりです。
- 鱒寿司ペアリングは、天然物のサクラマスと養殖物のサーモンで分けて考える
- 天然物のサクラマスの中でも、脂の乗りや厚み、〆加減で分けて考える
- 天然物のサクラマスは、その香りを活かすペアリングが良い
- 脂が強いサーモンは、酸や柑橘香が強めのペアリングが良い
- また、サーモンは脂の甘味にふくよかな味わいと華やかな果実味を合わせる方法もアリ
- 酢飯は塩気よりも甘味や酸味を意識する
- 使用するお米の品種も考慮する(多用されるコシヒカリを基準にアミロペクチンの含有量を意識する)
- 昆布を使用しているか、旨味調味料を使用しているか、分けて考える(同じグルタミン酸でもペアリングすると印象が異なるので注意)
そのうえで、僕が相性が良いと感じたペアリングの組み合わせは以下のとおりです。
鱒寿司ベース、ワインベースについての感想を、それぞれ記載します。
鱒寿司ベース
- 青山総本舗舖:Tenjinyama KOSHU 2024 酸味×酸味
- 関野屋:D.O.V 2024 旨味×旨味
- ます寿司屋 ヒロ助:YAMA ROSÉ Merlot 2024
- 魚づ鱒寿し屋:Chardonnay 2024、Buffalo Metodo classico 2023
- はりたや:D.O.S 2024
ワインベース
- Tenjinyama KOSHU 2024:ヒロ助>はりたや
- Chardonnay 2024:ヒロ助、はりたや
- Albariño 2024:関野屋 香りを添え、酸が鱒寿司を殺さない範疇で合う
- D.O.V 2024 :魚づ鱒寿し屋 厚切り鱒の旨味にワインの旨味+酸味
- Sauvignon blanc Barrique 2023:青山総本舗舖 香りを添える
- D.O.S 2024:魚づ鱒寿し屋>はりたや 四川料理に合いそうなワインなので鱒のパワーでバランス
- UMI ROSÉ Cabernet franc 2024:魚づ鱒寿し屋、はりたや
- YAMA ROSÉ Merlot 2024:魚づ鱒寿し屋
- D.O.B 2023 :はりたや 鱒の脂にワインの酸が活きる
- Buffalo Metodo classico 2023:万能タイプ(ロゼ泡は鱒寿司と合わせやすい)
- Pinot noir 2024:魚づ鱒寿し屋

いやあ、5社の鱒寿司×ワイン11種類のテイスティングは中々ハードでした(笑)
ハードさ以上に、めっちゃ楽しかったですが!
結論としては、冒頭に書いたとおり「鱒寿司とワインは相性が良い」となります。
さらに、どのような鱒寿司とワインを合わせるか、という行為自体が楽しいと確信しました。
なぜなら、テイスターや参加者さんごとに「合う」と感じた組み合わせが異なるためです。
「ペアリング」と聞くと高度な知識や理論が必要に思うかもしれませんが、決してそんな事はありません。
もちろん知識や理論があった方が充実するのは間違いありません。
しかし、まずは楽しむのが先決!
「これとこれは合うな」、「これは明らかに合わないな」などと、料理とお酒に意識的に向き合えば、飲食体験がさらに楽しくなってくるはずです。
そして、「◯◯の点で合うと思う!」と自分の考えを自信を持って伝えることも大切です。
日本人の多くは「間違っていたらどうしよう」、「間違ったら恥ずかしい」と思いがちですが、食に正解はありません。
絵画鑑賞は自分が美しいと思ったら美しく、料理もまた然り。
舌を使って頭の中でアレコレ考えて、自分なりに美味しさを考えることこそが正解なのだと思います。

そのように感じさせてくれた「カナタワイナリー」土井さんとワインに感謝します!
お酒も料理と同じで、上質なものに出会うと言葉(感想)があふれ出て、インスピレーションを与えてくれるものです。
本記事を読んでくださった方も、ぜひとも「カナタワイナリー」さんと鱒寿司のペアリングに注目してみてください。
きっと近い将来、富山でペアリングを楽しめる日が来ると思います。
また、日本酒の醸造蔵の方も、意外性のあるペアリングを行っていくと、お酒と地元の料理の価値を同時に高めることができるのは間違いありません。
ぜひとも積極的にペアリングを打ち出してください!
そこで、もしもすしログ・大谷にて何かお力添えできそうであればご相談ください。
飲食店だけでなく、企業様・自治体様にもコンサルティングが可能ですので、お気軽にご連絡ください。
富山でイチオシのお店
高岡の「和香奈」さん(2025年9月2日に「柳緑」へ改名・移転オープン)

魅力的な料理と精度の高いワインペアリングを楽しめる「シンポジウム」

食文化こそ日本の財産だと信じる、すしログ(@sushilog01)でした。
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