
こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
この度、「鮨みずかみ」の水上親方が長年お付き合いのある徳島の名漁師・村 光一さんの会にお誘いいただき、参加しました。
村さんの解説を聞きながら水上さんが仕事した村さんの魚をいただくというスペシャルなイベント。
魚の美味しさだけでなく、漁業の現状についてのお話も伺えたのが貴重な機会でした。
結果として、日本の漁業は意識を高めてみんなで守っていかないと厳しい状況だと痛感しました。
食の問題は強く主張すると過剰に「ポリティカル」だととらえられたり、大手与党の政策を批判するだけで「左翼」のレッテルを貼られたりするのが日本の現状…。
しかし、僕は客観的に伝えていきたいと強く感じました。
なぜなら美味しい鮨と魚が大好きなので!
そして、海は誰かの物ではなく、みんなの物なので。

素晴らしい生産者さんと料理人さん、そして、消費者の好循環こそが今後の日本の要だと確信します!
日本が世界に誇るのは深遠なる食文化です。


このイベントの直後に、たまたま「ブルーフェス」という素晴らしいイベントにも参加しました。
やはり、料理人も消費者も、魚料理が好きなら海のことを考えるのが当たり前ですね。
「ブルーフェス」については、僕の本記事の後に、こちらの記事もぜひご参照ください!

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さて、村公一さんのシグネーチャーとなっている魚は、やはり鱸でしょう。
僕も過去に様々なお店でいただき、やっぱり美味しいなあ…と感じていました。
そして、今回、村さんのお話を聞いて「やっぱり美味しい」の先に進むことができました。

今回選ばれた鱸は、23匹の中から選ばれたトップオブトップの3匹。
イベントの2.5日前に獲られた、「背中が丸くなっている鱸」とのことでした。
村さんは漁獲後に陸へと運び、水槽で寝かせてから締める。
一般的に言われる「ストレス」、正確には乳酸を抜くために。
さらに、最近は魚の血を抜きすぎないことを意識されているそうです。
これは食べ手の僕もここ数年感じていることですが、血を抜きすぎると魚の味や香りを奪うことに繋がるためです。
血抜きしきって熟成を掛けた魚は、魚味を活かすことなく旨味の塊に変貌させられてしまうだけではないでしょうか?
魚の血液の酸化に伴う酸の増加や、脂分の酸化による臭気の発生などは論外ですが、手当が良ければ血液は個性となり得る次第です。
村さんの鱸をいただくと、香りも味わいもピュアなのに旨味と甘味をハッキリと感じられます。
このような白身魚を食べると、人は白身魚の魅力に出会えると思います。
今回のイベントは水上親方と村さんで周到に日取りが決められました。
鱸は6月下旬に向けて味が落ちてゆくためです。
この理由は水温の影響が大きいそうです。
海水温が上昇すると、海の酸素濃度が低下します。
そして、魚がパワーダウンして補食力が下がることが問題。
魚がエサを活発に食べられなくなると、味が落ちてしまうというメカニズムです。
40年前は魚の腹がパンパンだったそうですが、今は痩せている魚ばかりとのことです。
また、鱸の漁獲量は、残念なことに20年前の100分の1まで落ちているそうです。
この理由は温暖化のせいではなく乱獲。
これはもはや他の漁師が認めている事実だそうです。
徳島の鱸ではありませんが、かつて香川県が鰆の資源回復のために漁業制限を加えたことがあるそうです。
その年は鰆を獲らないという英断です。
香川県は隣県にも追従して鰆を守ることを期待したものの、他県は香川県の漁場に乗り込んで乱獲を行い、「大漁」、「豊漁」と胸を張って地元に帰ったそうです。
メディアは外国船の乱獲を理由にしがちですが、自国内の問題を見直すのが先決です。
村さんの見込みでは、徳島の鱸はあと3年ほどで終わる、との談です。
「大漁」を良しとする文化は、改めなければなりません。
海を取り巻く状況は申告で、10年前から年々漁業日数が減っているそうです。
さらに漁師の高齢化も問題で、コロナ禍をきっかけに廃業する人が増えて、現在も減り続けています。
魚価は30年前から変わらないのに、操船などにかかる経費は3~4倍になっていて、とても続けられない状況だからです。
これはコメ問題と同じですね。
30年前に手を打っていれば日本の食文化は右肩上がりだったのでしょうが、バブル後に思考停止してしまった結果、惨憺たる未来=現在が待っていたわけです。
村さんは市場経由ではなく直販(相対取引)の道筋を模索されて、そのルートを確立されたパイオニアです。
どんなに良い手当を行っても漁協を通すと価格に反映されなかったり、もっと悪いことに、漁師仲間から良い手当をすると疎まれるという状況があるためです。
さらには、中間業者を通すと、漁師の手元には豊洲での販売価格の1/3ほどしか入らないそうです……1/3でも良心的な方とされるそうで。
そのような状況の中、一匹一匹の魚に向き合うため、村さんは直販の道を選ばれました。
当時は神経〆を行い直販する漁師が稀有だったので、村さんの試みは非常に勇気が要る行動だったと容易に想像がつきます。
現在は独自の手当や寝かせ、輸送のテクニックを生み出され、魚に負荷をかけず一流店の調理で至高の味となる魚を流通させることに成功されています。
これぞ、これからの日本のあるべき姿でしょう。
「エリートの魚」は、ジビエと同じく迅速かつ丁寧に手当を行い、個体のポテンシャルを引き出して、腕利き料理人のお店に送る。
そして、素晴らしい料理となり、食と食材に敬意を持つ食べ手の口に入る。
この好循環を生み出さなければ、日本社会と同様に低い位置でのどんぐりの背比べとなってしまい、海が枯渇してしまいます。
日本が誇るべきものは食です。
伝家の宝刀であった製造業が世界的に失墜してしまった今、食文化こそ日本が注力して保護、発展させていく分野であることは火を見るよりも明らかです。
なお、村さんが評価する漁港もあり、明石漁港が全国一であろうとのご評価で(活け締めが普及しているため)、次に加太漁港との談でした。
それでは、イベントで実際に頂いた内容をご紹介します。
黒龍 五百万石 純米大吟醸

上品な青メロン系の香りがスッキリ。甘味が広がり、黒龍らしい苦味がキリッと引き締める。

初夏を感じさせる先付けでスタート。

鱸は強い旨味と脂の甘味に、上品ながらタフな香りが馴染む。実に良い香りだ。鯛も旨味をしっかりと楽しめ、後から甲殻類っぽい香りが高まる。時期によってはエサの影響で甲殻類様の香りが一層強ようだ。

村さんいわく、蛸は趣味で獲っていて、現在は水上親方のところにだけ送っているそうだ。蛸の漁法は餌カゴ。しかも、鱸をエサにしているそうで驚き。そして、蛸は水槽で落ち着かないので船上〆を行い、すぐに血抜きを行うそうだ。この手間が掛かるので奥さんとともに蛸のためだけに船を出す必要があり、「趣味」である模様。さらに、漁港に戻ったら米糠でぬめりを落としてから、細胞を死活させるため最低限の火を入れ、そして冷凍処理を行う。蛸は冷凍を用いても良いと判断されている。鳴門の蛸は足が短く、潮流が速いので底に張り付いて短く太くなるそうだ。興味深い。
肝心の味については、柔らかくて旨い!香りも良い。水上親方は20分程度しか煮ていないそうだが、抜群の歯ごたえと歯切れで、繊維はみちっとしながらしっとりとほどける。桜煮らしく甘味のある下味を含ませつつ、蛸の味わいを全く殺しておらず、蛸の香りも味も広がる。素材と仕事が噛み合っている…そう、しみじみと感じた。

アスパラガスは新潟県産。加熱によって甘味だけでなく香りも高まる。そして、ゼラチン質がたっぷりであることを伝える。それでいて、クリアーなところが特徴だ。綺麗なのに味が濃い。このような味わいの魚は理想的だ。

厨房から高温の油で魚を揚げる音が聞こえてくる。「鮨みずかみ」さんで初めて聞く音に思わず笑顔になった。身はふっくらとジューシィで、断面からふんわりと広がる香りもピュアそのもの!酒蒸しとともにゼラチン質と甘味をたっぷりと楽しめる絶品の唐揚げ。

サプライズが続き、まさかの炊きたて土鍋ご飯が登場!昨今の会席料理店のような景色である。もちろん酢飯にはならない。

鱸の出汁が抜群の相性でこれは旨い。村さんファミリーのまかないとのこと!うーん。羨ましい。
大山 特別純米酒 にごり酒 夏の雪

乳製品系の香りがコクを予感させる。おりがらみの微発砲で、しゅわしゅわと爽快。コクが有りつつ後味はドライ。


昆布〆。暑くなりつつある初夏に冴えわたるシャリの酸!そして、しっとりした身から確かな鱸の味が広がり、昆布の旨味と調和する。そして、昆布の香りがふわっと広がる。波状的な味わいで、仕事ならびにシャリによって刺身とは全く異なる味を楽しませてくれ、刺身も握りも秀逸な調理法であることを認識させる。

時期的にアオリイカかな。むっちりした食感で、甘味が強いので、酢橘を数滴を使用されている。

旨味が強く、酸味と香りが高まる赤身だ。噛みしめるほどに香りと酸味が広がる。これは夏らしさがある。

身は柔らかく、脂が滲み、香りの良いトロ。それでいて酸味が後味を引き締める点が時期らしい。

夏らしく脂が弱い小鰭をビシッと〆る粋な江戸前仕事。塩も酢もバッチリの〆加減。爽快感を表現する初夏の小鰭の仕事かな。

しゃくしゃくと食感を立てる火入れだ。噛みしめることで甘味が高まり、シャリの酸味と協奏する。

抜群に美味しい鰯の仕事。香りが良く、ネガティブな要素が皆無で、身はとろりととろける。余韻と香りを残しつつ消え去るフィニッシュが堪らない。

味が濃いバフン海胆。シャリの酸味と相まって乳化のパンチの後に香りが広がり、シャリの酸味がキリッと味を引き締める。

香ばしくて旨味が強く。しっとりした身で、煮詰めを塗りつつ強い味の蝦蛄である。
日日 玉栄

低アルコールながらお米の甘味を上品に引き出し、旨味がありつつ後味のキレもあるので、終盤でも活きるお酒。

藁炙りによるスモーキーフレーバーの後に鰹の旨味、酸味、香りのすべてが広がる抜群の仕事。

ふっくらしていてほろり。穴子の香りが強く、個人的には好きな味わいの穴子であった。

吸い物であるが、濃密なテクスチャーだ。旨味と甘味が強く、香りよし。鮮烈な印象の椀であった。

皮下の脂が強いイサキ。珍しいことに仕事された直後故に香ばしさがあり、いつもとは異なる妙を楽しませていただいた。

安定感。


清見タンゴール、フィリピンパイナップル。
「鮨みずかみ」さんの予約については、お電話のみとなります。
営業時間を外し、余裕を持ってお電話するのがベターです!
店名:鮨みずかみ
シャリの特徴:米酢のみを使用し、酸味が強めで、塩気は穏やか。食べ疲れない米酢のシャリ。
予算の目安:ランチ20,000円〜、夜27,000円〜
最寄駅:半蔵門駅から250m
TEL:03-3230-0326
住所:東京都千代田区一番町3-8 大宮ビル1F
営業時間:12:00~14:00、17:30~21:30
定休日:火曜、水曜
みずかみさんの通常営業時の記事

noteの連載記事
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海をみんなで守っていきたいと痛感する、すしログ(@sushilog01)でした。
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