こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
本記事は「津本式・究極の血抜き&熟成」を施した魚の実食レポになります。
前編に続いて、「津本式・究極の血抜き」を施した「熟成魚」第2回目のセットについての記事と本企画のまとめをお届けします。
前回の記事はこちら
実食した魚の味わいについての詳細レポート(後編)
第2回目のセットについては、以下のとおりです。
勘八(カンパチ)
ぷりっぷりな身で脂がしっかり乗っています。しかし、天然モノなので養殖カンパチとは異なり、脂の切れが良く、頂いた後の香りも上品です。個人的に面白かったのが、届いてから3日に分けて頂いたのですが、日ごとに味が大きく変わる点。食感、香り、旨味の質が日によって変わるので、一気に食べず日を置いて食べ比べをすると面白いと感じました。勘八は80cmを超える魚なので、大型ならば同様に日ごとに変わる楽しみがあるのかもしれません。
鮨との相性は勿論バッチリです。
鮎魚女(アイナメ)
異なる部位が入っていたので、通常でも食べ比べが出来て面白い。鮎魚女は関西、四国、青森で「アブラメ(油目)」と言われるだけに、白身魚でありながら濃厚な味わいがあります。仕立てによって魅力が更に引き出されており、津本式✗熟成がバッチリ決まる魚だと感じました。
これも第1回目の鰆と同様に、オーブン+フライパンで火入れをしてみました。サクの厚みを考慮して100℃5分強にしましたが、今回はバッチリ決まりました。申し分なく美味しい。ただ、矢張り「分かり易い」のは生だと思いました。魚自体を活かすべく調味料も極力使用せず、薄口醤油と味醂を塗って片栗粉と胡麻をまぶし、山椒油で焼いたのですが、レーダーチャート的に魚味のバランスが最も良いのは生でした。津本式✗熟成の威力とともに、刺し身と言う調理法の凄さを実感しました。
九絵(クエ)
流石の高級魚ですが、手当が良いので中々頂けない味わいに仕上げられていました。熟練の板前さんでもここまで巧く寝かせるのは難しいのでは?と感じるほど。「白身魚は淡白」と思っている方には是非とも試して頂きたい濃厚な味わいでした。
よって、鮨で頂くと「噛み締める喜び」が増幅され、更に印象が強まります。かなり感動的な味わいでした。
「津本式・究極の血抜き」がもたらすもの、そして熟成について
まとめに代えて、長所と個人的な危惧について、つらつらと書きたいと思います。
津本式の魅力を整理すると、「魚の臭みを出さずに、魚の香りを活かす熟成を可能とする点」と「熟成に際して腐敗のリスクを大きく下げられる点」だと実感しました。
従来、熟成は歩留まりが悪いので、習得するためには金銭的自己投資が必要な技術でした。しかも、日々の状態を確認しながらベストを模索しないといけないので、時間とセンスも必要となります。しかし、「津本式・究極の血抜き」が施された魚は熟成を掛けても臭みが出ないので、旨味を安定的に高めることが可能だと感じました。
そして、他にも期待される可能性があります。しかも、それらは社会的な貢献度が非常に高いものとなります。
- サステイナビリティ(持続可能性)への寄与
- 魚の付加価値の向上
現在、日本の漁業は非常にマズイ状況で、多くのマスコミは積極的に報道しませんが、様々な魚の漁獲量が激減しています。鮪(クロマグロ)に至っては、旬外れの本来ならば獲ってはいけない時期に「大漁!」などと報道されることもあります。そして、漁師の方の高齢化問題、後継者不足問題も聞きます。これらの問題については詳述すると別の記事になるくらいの文量になってしまうので割愛しますが、「津本式・究極の血抜き」によって魚のポテンシャルが高まれば、問題が部分的に解決されるのは間違いないのではないでしょうか?例えば、価格が付きづらかったマイナー魚や知名度が低く不人気な魚などに津本式✗熟成を施すことで、価値を再構築することが可能です。また、一流の漁師が獲った魚に付加価値を付けて高値で売ることも可能です。今までにない魚の売り方が確立すれば、後継者不足問題に一石を投じる結果になるのではないでしょうか?要は、お金になれば就業率がアップするということです。今後、日本の食文化は「大量消費」から「価値消費」にシフトしていかないと成り立たないと感じています。
ただ、個人的に感じる要注意ポイントもあります。それは即ち「熟成の勘所」。もとより当ブログでは「熟成一辺倒」や「熟成を礼賛するメディアの風潮」には批判的なスタンスを取ってきました。前述の二子玉川の喜邑さんの境地まで行けば話は別ですが、「熟成の勘所」が無い人が熟成で固めてしまうと、感じる旨味が同質化してしまい、魚の本当の味が分からなくなってきます。魚味として重要な食感と香りが弱まっていくのが「熟成仕事の諸刃の剣」。精度の高い熟成を掛けられるからこそ、旨味、食感、香りのバランスを取ることが必須だと思います。若い料理人、職人の方は、熟成はあくまでも選択肢の一つであることを念頭に置かれてください。これについては、自身が愛する鮨店、鮨處やまだの山田親方も仰っております(※山田さんはメディアで「熟成鮨」と描かれがちで、実際に熟成仕事の腕も立つ方ですが、熟成仕事で固めることはされません)。
また、熟成仕事を用いる際に気をつけるべきは、脂が過多な魚との組み合わせ。熟成による旨味が強化された魚と脂の含有量が多い魚を組み合わせると、魚とは思えないヘヴィな食後感になります。昨今は肉食の普及や脂を好まれる傾向に伴い、魚でも脂の乗った魚が好まれがちです。高級魚だとアカムツ(ノドグロ)、大衆魚だとサーモンのハラスなどを思い浮かべれば、容易に納得されるところでしょう。もちろん食の好みは個々人次第なので、他人の自分が否定する権利は全くありません。ただ、脂が乗った魚と熟成を掛けた魚のみで構成してしまうと、本来の日本的な魚食の魅力を損ねてしまうと危惧する次第です。日本の食文化の魅力を表す至言として、「妙味必淡」、「美味必淡」、「大味必淡」と言う言葉があります。全て同じ意味となり、「美味しい料理は淡い味」と言うこと。しかし、淡い=薄いではありません。味わい深さは淡い味に宿るものなので、熟成を効果的に織り交ぜることで、より淡い味が引き立ち、全体として引き締まると思います。
…と、少々口うるさい意見を申し上げましたが、メディアが飛びつき「ブーム」になると、食文化は高確率でおかしい方向に行ってしまいます。牛肉の熟成を含め数々の「ブーム」を思い起こせば、一時的に店舗が急増したり「なんちゃって」な店舗が生まれたり。そして「ブーム」が去ると一気に消えると言う始末。流行りに警鐘を鳴らすと、面白さに水を差す嫌な奴のように扱われがちですが、津本式✗熟成の力が強いからこそ、志の高い料理人のために記載しておこうと思いました。そして、もちろん、食べ手も一辺倒にならない事が大切だと思います。旨味、甘味、脂分などの「強い味」に偏ると味覚を弱める結果になってしまいます。熟成であっても複雑な味わいを求めるのが得策だと感じます。
前編
参考資料
本記事のリンクには広告がふくまれています。