すしログ No. 276 鮨処やまだ@銀座

春の定期訪問でお伺いしました。

こちらは江戸前の仕事をベースに個性的な仕事、握りを展開するお店。

何度も書いているので、読者の方は「知ってるよ!」と思われるかもしれませんが、足を運ぶ喜びがあるので、定期訪問で思うところがあった際には記事を書いております。

今回特に感じた新たな魅力は、

1. シャリの安定化

2. 新たな煮キリの開発

3. (改めて)香りの引き出し方の巧みさ

の3点。

シャリについては、かつてよりも硬さが安定しており、タネごとの温度調整も自然に馴染んでおります。

シャリを更に美味しくするのは職人でも難しい事なので、このようにさらりと書きつつ、凄い事だと実感しております。

そして、煮キリ。

通常煮キリは濃口醤油、もしくは淡口醤油で作る事が多いですが、山田さんは最近、白醤油の煮キリも作られ始めました。

しかも、淡い味わいの白身魚に合わせるのではなく、強い味わいの鮪に合わせる点が面白い。

どのように感じられるかは、下記のタネの項にて詳述致します。

最後に、「香りの引き出し方」ですが、熟成を掛けつつ香りを引き出す手腕は個人的にトップクラスかと思います。

特に、鮪。

こちらはクロマグロでもタイヘイヨウクロマグロよりもタイセイヨウクロマグロを使用される事が多いのですが、他の鮪が弱く、クロマグロの持ち味でありタイヘイヨウクロマグロが上を行く血の香り、野趣を引き出しておられます。

これは例の「白醤油の煮キリ」の力も大きいかもしれません。

しかし、他のタネでも香りを強く感じる事が出来るのが面白いです。

『魚味礼賛』の中で関谷文吉氏が強調した「香りを味わう」事は、鮨、魚を食す上で重要なファクターだと感じます。

「魚の香りって??」と思われる方は、山田さんの握りを頂くと、回答を得られるかと思います。

今回頂いた握り

通常の15貫に追加10貫の計25貫頂きました。

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昆布〆だが、昆布の香りは極めて控えめで、鮃の香りを活かす。

また、昆布の旨味の浸透についても上品。

鮃の香りと旨味と殺しては、昆布〆をする必然性が無い。

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金目鯛

むっちりした食感が独特。

聞けば、白醤油で脱水しているそう。

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尾長鯛

土佐。こちらは通常の煮キリの漬け。

とろりと滲む脂が旨い。

そして、特有の香りがふんわりと漂い、この少し渋い香りが魅力だ。

島寿司をイメージしたとの事で、身をねっちりと凝縮させ、芥子を噛ませている。

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墨烏賊

バツバツを通り越してバキバキとも言えるタフな食感。

しかし、最後はトロトロにとろける。

4日熟成を掛けて旨味を強めつつ、墨烏賊らしい強い食感を前面に出す素晴らしき仕事。

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椎茸

あたかも胡麻油?と思うような香ばしい香り。

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子持ち槍烏賊!

モチモチの子を抱いた槍烏賊を何と、握りで。

伝統的な江戸前仕事だと「印籠詰め」にする子持ち槍烏賊。

握りにアレンジされるとは、非常に粋!

身を柔らかく煮られており、直前に軽く炙っている。

これが大変素晴らしく、まずイカの甘みが広がった後に煮ツメの甘みが来て、最後に赤柚子胡椒の辛味が引き締める。

食感的にも味的にも魅力的。

なお、赤柚子胡椒は辛味よりも先に香りが届く程の量となっており、使用が全く嫌味無い。

センスの無い職人やパフォーマンスに走る職人ならば、調味料を多く使ってしまい、創作寿司に堕してしまうところだ。

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帆立

帆立はほの冷たいままで握り、そこに温かいシャリを合わせる。

冷たくとも甘みを感じる事が出来、清涼感も得られる。

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鮮烈な香り、それでいて上品な野趣。

味わいは強い酸味がありつつ、旨味が広がってゆく。

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北寄貝

食感に妙あり。ふんわり、ムチムチ。

サッと茹でて、軽く炙る事で実現。

黒胡椒を用いるのはいつも通り。

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イトウ

かつて頂いた事のある幻の魚、再び!

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繊細な味わいであるが、独特の味わいがあり興味深い魚である。

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身質はしっとりと上品ながらに旨味があり、酸味は軽やか。

そして、香りが当初はすーっと穏やかなのに、最後にぶわっと広がる。

このように味わいを引き出しているのは、山田さんの熟成仕事があってこそかもしれない。

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針魚

肉厚な身に細かく包丁を入れている。

陽春の針魚だが、旨味がある。

食感は〆よりも包丁でコントロールしている。

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春子

非常に短い〆であるが、酢が活きていて、それでいて食感がしっとりと柔らか。

皮目のじゃくっとした食感も活かし、身とのコントラストも楽しめる。

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1週間熟成。旨いのは勿論、これまた香りが良い。

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小鰭

まず指で触れた時の感覚が艶めかしい。

旨味と香りを引き出しており、いつ頂いても素晴らしい。

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玉子

定番の帆立の風味の玉子。

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車海老

強めの火入れで茹で置き…しかしながら、甘い。

単品で頂くと茹で上げの方がインパクトがあるのは間違いないが、一連の流れの中で精彩を帯びる。

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岸和田産を炙りで。シャリの酸味が活きる味わい。

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真梶木

神津島のマカジキ。

マカジキは古い江戸前鮨のシグネチャー。

旨味としっとり馴染む繊維は熟成の妙。

脂の含有率的に鮪よりも酸味が先行するが、晩冬~初春は鮪よりもマカジキを頂く喜びが勝る。

それは単純に味わいの側面だけではなく。

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鮪の天身

サクは普通の煮キリに漬け、白醤油の煮キリを塗って提供。

野趣たっぷりな香りはクロマグロならではの魅力であり、力強い血の香りが鼻腔に広がる。

これは知らずに頂けばタイヘイヨウクロマグロだと思うはず。

香りのみならず甘みが感じやすいのも、白醤油の煮キリの為か。

身質はしっとりしているが、ワイルドな魅力がある。

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鮪中トロ

12日熟成。

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鮪大トロ

あえて筋の食感を活かしており、牛肉のような繊維質を楽しませる。

と、その後間髪入れずに、何と…

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海胆

鮪の脂を凌駕し、口の中の脂を流し去る。

そして、獣肉に近い印象のある鮪の印象を払拭し、磯に戻す。

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穴子

トロトロ脂脂していない穴子だが、産地は対馬。

これは煮仕事の妙。

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力強い食感。漬け込む際に蛤の煮汁が身に戻っており、味わい深い。

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干瓢巻

山田さんのところでは極めて珍しい巻物で、しかも干瓢!

巻物で鉄火(鮪入り)を好む人が多いが、鮨好きならば何よりも干瓢巻きだろう。

食感は強めで、甘みも割と付けているが活きている。

シャリの味わいと山葵の一体感が高い。

店名:鮨處(すしどころ)やまだ

シャリの特徴:赤酢2種類をブレンドし、砂糖を用いつつ、多くのタネと調和する硬めのシャリ。

予算の目安:10,000円~ →15,000円~

最寄駅:新橋駅から350m、内幸町駅から450m

TEL:03-3572-7534

住所:東京都中央区銀座7-2-14 第26ポールスタービル3F

営業時間:18:00~21:30

定休日:日曜、祝日

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