鮨に限らず、渋谷は自身にとって馴染みが薄い街です。
学生の頃から渋谷に行く理由と言えば、BunkamuraとGLOBE SPECSくらい(笑)
自分にとって渋谷とはそんな街ですが、この度面白い鮨店を発見!
オープンは2018年3月30日と比較的新しい…とは言え2年近く経過する現在でも、食べログを含むwebサイト上の情報は限られております。
しかし、公式webサイト上のお店のコンセプトは明確で、否応無しに食好きの心を惹き付ける謳い文句。
即ち、以下の3つ。
- 違いを愉しむ:魚種や産地ごとの食べ比べを体験
- 希少を愉しむ:東京では珍しい魚介や今では希少となった魚種も
- 相性を愉しむ:魚の持ち味を引き出すお酒を中心に
最後のお酒については、お酒好きでありながら鮨店に求めるファクターではありませんが、ワインを国産中心に揃えていると言う情報は、飲む飲まないに関わらず、お店のスタンスを感じさせる面白い情報です。
結局、選んだのは日本酒でしたが(笑)
こちらはランチに4,500円のコースを提供されており、夜も【特選コース23品】12,000円と【軽めなコース16品】9,000円とリーズナブルです。
この度は夜にお伺いして【特選コース23品】を頂きました。
花おかさんのおまかせの概観
さて、結論から申し上げると、抜群に面白い。
「えっ、ここは本当に東京、それも渋谷!?」と思う魚種の数々!
地方の名店や実力店で鮨を頂く喜びをまさか東京で得られるなんて。
そして、江戸前の仕事はしっかりと押さえられているので、単なる「創作鮨」に堕ちる事無く、「江戸前鮨の進化系」の範疇に収める事に成功しております。
また、「変わった魚」を用いるセンスも感じさせ、個々に対して適切な調理法を施しておられます。
同時に「鮨店の酒肴」の粋を出ていない点も素晴らしい。
「変わった魚」を集客装置としてただ使うだけならば酒場や大衆寿司でも出来ますが、花岡さんは魚ごとの魅力、自分が言うところの魚味(ぎょみ)を十分に引き出す事に奏功しており、同時に「変わった魚」のみで構成しない点は非常に冷静で意識的な試みだと感じました。
おまかせのストーリー性=構成力が高く、魚の面白さ、酒肴、握り、全てを冒頭で体感させてくれます。
なお、現在、豊洲は勿論ですが、全国15ヶ所から直取しているそうです。
そして、鮨の生命線たるシャリの完成度も高い。
味わいは酸味を感じさせつつ、まろやかな味わいで、これは極少量用いた砂糖のお陰かと感じます(当たっておりました)。
硬さはやや硬めながら自然な硬さと言える炊き加減。
温度は微調整されており、適切な温かさ。
そして、少ない手数で酢飯をホロッとほどけるシャリたらしめております。
お米は割と大粒だなと思い伺ってみたところ、つや姫との事でした。
お酢はヨコ井を3種ブレンドされており、「劇薬」の與兵衛は20%程度に収めているそうです。
赤酢特有の強い香り、旨味、酸味のカドを取るブレンド比で完成度が高いと感じます。
昨今の東京は「鮨バブル」と言われる状況が続いております。
同じ仲卸の同じタネを用いる新店が急増していますが、「鮨バブル」が弾けた後、自然に淘汰されるのは必至。
そして、サステイナビリティ(持続可能性)も乏しい。
漁獲量が激減している日本において、料理人と消費者がサステイナビリティを考える事は大切です。
拙ブログではそのような警鐘を鳴らし続けて久しいですが、こちらは「鮨バブル」後の鮨界の一つの在り方を示す、示唆に富んだ気鋭の鮨店だと感じました。
僕は水上さんのような王道を行く硬派な江戸前鮨店も大好きですが、同時に鮨の多様性を愛しているため、自身のセンスで新たな鮨の道を切り拓く山田さんのような個性派鮨店も大好きです。
こちらの花岡さんも、己の鮨道を極めるべく、これからも精進して頂ければ鮨好きとして幸甚に思います。
荒削りな部分はあるものの、既に自己の型を作られており、今後進化し続けるのは間違い無いと感じました。
頂いたお酒
鈴木酒造店・磐城壽純米吟醸、土屋酒造店・亀の海純米
お酒のラインナップと料理に合わせた提案も良い。
花おかさんのおまかせの詳細
花山葵のお浸し、氷魚
なんと先付が氷魚とは!
氷魚は鮎の稚魚で琵琶湖が誇る湖魚。
滋賀、京都以外で頂けるのは嬉しい。
見た目は穏やかな品であるが、真の食好きであればテンションが上がる筈。
冒頭から飛ばしてくるな~と笑顔になった。
お浸しについても花山葵の火入れ、出汁の塩梅など、上品。
メジナ(右)、マハタ(左)
寝かせた白身魚の食べ比べ。これまた通好みの面白い流れ。
メジナは旨味がしっかりしており、マハタは食感ありつつコク(余韻)が強い。
脂が乗っているのは前者との事だが、旨味でここまで変わるのかと面白い。
共に寝かせつつ白身魚の妙味である食感を残している点も良い。
シュモクザメのフライ
シュモクザメは、洋名・ハンマーヘッドシャーク。
意外性に加えて旨い。
揚げる事で旨味が活き、サメ特有の酸味が引き締める。
調味料がソースではなく土佐醤油である点もセンスが良い。
フライだからソース、と考えるのは鮨職人としては凡庸過ぎるので。
なお、どうやって捌いたのか伺ったところ、出刃包丁との事。
ここから握りを交えて展開される。
ガリ
甘みを付けつつ辛味がスッキリしており、酸味がふわっと漂う。
カイワリ
相模湾では「カクアジ」と呼ばれるが、西日本が主産地の魚。
中々にマニアックな魚で、東京で食べたのは山田さん以来か。
脂がたっぷり乗っているので、シャリの酸味に合致し、すぐに乳化する。
希少性に加えてこのパンチとシャリとの一体感を味わうと、名刺代わりの一貫で惚れる人が多いのではないだろうか。
小鰭
マニアックな魚の後に鮨店の看板である小鰭を出す流れは粋。
しかも、ナカズミサイズの大きめのもの。
酸味を浸透させて、みっちりした食感。
〆てから1週間との事だったが、旨味と香りの面において、1日2日縮めて実験されても良いように感じた。
メジマグロ
煮キリを塗り軽い漬けにした後、皮目を軽く炙る。
そして、玉葱のすりおろしと共に。
鮪の旨味に加えて酸味が気持ち良い。
炙りの香りもアクセントとなり、玉葱と合う。
見た目は大ぶりだが、切り付けの厚みによりシャリとの相性を高めている。
ギンガレイ西京焼き
ギンガレイは標準和名・カラスガレイで、大型の鰈。
一般的にスーパーなどでは海外産が多いので、国産は嬉しい。
しっとりジューシィに仕上げており、漬け地の塩梅も良し。
海胆2種類と松葉蟹のミニ丼
バフン海胆は根室(左)と浜中(右)、松葉蟹は松江からの直送品。
濃厚な味わいを楽しませてくれる。
この価格帯の序盤でおかしい(笑)
アコヤガイのいしり焼き
力強い食感の身は旨味が強く同時に甘みもある。
いしりの香りがアクセントに。
ツムブリ
腹身の漬け。
脂の強さに加えて強い香りが魅力。
しかし、抜けるような香りでクドくない。
脂質も同様である。
青柳
大変甘く、特有の香りを爽やかに楽しませる。
シャクコリな食感と香りによって春を感じさせる江戸前王道のタネ。
スギの煮付け
初めて頂く魚!スギはコバンザメの仲間との事。
→スズキ亜目コバンザメ科コバンザメ属
→スズキ亜目スギ科スギ属
鰤っぽい肉質。
旨味があるので、甘みを付けた煮付けに合う味わい。
鯖
青森産でキロオーバーとの事なので、八戸前沖さばか。
非常に強い脂だが、鯖の香りも楽しめるので大味でない。
〆の仕事も奏功している。
鮪赤身
軽い漬け。旨味が強く、酸味もあって季節を疑う味わい。
産地を伺ったところ、やはりアイルランド産。
アイルランドの大西洋クロマグロは太平洋クロマグロのような血の野趣ある香りでは負けるが、味わいは良く、酢飯との相性は良い。
鮪中トロ
中トロと言っても、ほぼ大トロのような脂のトロ。
ロウニンアジの酒蒸し
重量が80キロにもなるアジ科で最大級の魚(最大はヒラマサ)。
俗称がカッコ良く、GT=ジャイアント・トレヴァリー。
この度頂いたものは、5~6キロと小型。
鰤のような見た目だが、香りは鯵っぽく、旨味も中々。
シマエビ
標準和名ホッカイエビ(別名ホッカイシマエビ)。
甘みが強く、それでいて媚びない甘みの質だ。
小鯛の昆布〆
春子。身質はしっとりで、甘みよりも旨味を強調した〆加減。
しかし、昆布の香りと旨味は非常に上品で、良いバランス。
小鯛の笹漬けなどの〆は酒肴として魅力があるが、握りであれば昆布のコントロールは必須である。
穴子
煮ツメならぬ穴子の頭と骨で作ったタレの蒲焼。
地焼きでじっくりと火を入れており、柔らかい。
皮がサクッと弾け、穴子の味わいが広がり、ホロッとほどけゆく。
産地は冬らしく対馬だが、蒲焼にする事で脂が程良く抜けている。
対馬の穴子で、こう魅せるか!と言う仕事。
手巻き、海老味噌醤油
パリッパリで非常にクリスピーな海苔を海老味噌のタレに漬けて頂く。
海老味噌は臭みが皆無。
赤出汁
魚介の旨味がしっかり出ており、トロトロの布海苔入り。
べったら漬け、玉子
プリン的な玉子だが、甘みは控え目。
鮨 花おかさんのお店の情報
WEB予約は一休、食べログより可能です。
店名:鮨 花おか(すし はなおか)
シャリの特徴:ヨコ井の3種類ブレンドで、赤酢のカドを巧く取ったシャリ。
予算の目安:ランチ4,500円、【特選コース23品】12,000円、【軽めなコース16品】9,000円
最寄駅:渋谷駅西口から550m
TEL:03-3461-8881
住所:東京都渋谷区桜丘町7-2 ラコリーヌ渋谷1F
営業時間:お昼(水、土):12:00〜14:00、夜18:00〜23:30(LO22:20)
定休日:日曜、祝日
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