こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
こちらは新潟における「今後の鮨」を感じさせる、気鋭の一軒です。
僕が「兄弟寿し」さんに初めてお伺いしたのは、2019年10月。
本間龍史親方の躍進は目ざましく、今や新潟を代表する一軒になりました。
すしログ
鮨好きはもちろん、地方で奮闘される鮨職人の方にも強くオススメする一軒です!
タップできる目次
「兄弟寿し」本間親方の鮨の魅力とは?
「兄弟寿し」さんは、もともと1960年(昭和35年)に創業された街場寿司だったそうです。
初代が兄弟で始めた事が店名の由来となり、何と夜中の27時まで営業されていたとの事!
現在は東京で修業された2代目である本間龍史親方が漬け場に立ち、暖簾を守っておられます。
本間龍史親方は広尾の「蔵六鮨」で修行されたキャリアを持ちます。
2012年に新潟に戻り、2016年にお店をリニューアルされたそうです。
その後、メキメキと頭角を現され、今や東京で学ばれた江戸前の仕事と新潟の食材をが見事に融合されています。
新潟の魚は、昔は評価が低かったそうですが、今は手当(漁獲後の処置)が良くなり、船上神経締めをする方も増えてきたとか。
親方、本間さんはほぼ全て新潟の魚を用い、新潟らしい江戸前鮨を編み出しています。
しかも、今回再訪したところ、仕事を一歩先に進められていて、率直に感心を覚えました。
地方で人気をグングン高められているのに、ご自身の仕事に冷静に向き合い、更に先に進められる職人さんは稀有です。
また、「やま幸」の鮪を使わなくなった点にも好感を覚えました。
地方で無理して高い鮪を使う必要はありません。
魚が豊富な県であればあるほど。
すしログ
ただ、それを何となく理解していても、実行できる職人さんは稀有なので、僕は素晴らしい英断だと感じます。
消費者も、鮪の魚体・魚味ではなくブランド名で食べるのは止めにしましょう。
「兄弟寿し」のシャリについて
時を置いて訪問したところ、シャリは更に美味しくなっていました。
パラッとほどけ、酸味、旨味、塩味のバランスが良好です。
口の中でのほどけ方は良く、温度管理も申し分ありません。
味覚としては、特に酸味の使い方が印象的。
過度に主張せず、毎回漂わせる塩梅で、粋です。
お酢は前回と同じ「岩船酢」の米酢を用いつつ、村上の太陽酒造の酒粕を使ったお酢をブレンドしているそう。
これは一般流通していないお酢です。
料理人と生産者が組んで新たな味覚を生み出しているというのも、本当に素晴らしい試みです。
そして、お米は鮨専用米の「笑みの絆」。
鮨のためのお酢とお米、本間親方のためのシャリであると、味で実感します。
新潟の調味料を用い、新潟のお米と合わせ、新潟の魚を握る。
新潟前の進化に目が離せません。
本間親方は、仕事の精度に加えて構成力(ストーリー性)とテンポもバッチリです。
よって、握りと酒肴が織り交ぜられるスタイルでも、巧みに構成されています。
あくまでも握りを主体にして、酒肴はコースのアクセントとして用いられている印象なので、食べ疲れること無く鮨と向き合い続ける事が可能です。
人気が出ると定型化してしまう料理人が後をたたない料理シーン。
定型化や驕りとは無縁に仕事を積み重ねる職人さんは、手放しで信頼できます。
また、本間親方は引き算ができる希有な鮨職人です。
今後も足を運び続けようと強く思います。
「兄弟寿し」のおまかせコースの詳細
それでは、「兄弟寿し」さんのおまかせの詳細をご紹介します。
2021年12月に頂いたコース
2021年12月に頂いたコースの詳細です。
この度頂いたお酒
- 緑川、ゆららか生 純米にごり
- 鶴齢、特別純米 美山錦
- 越の鶴、にごり純米生酒 鶴飛千尺雪
里の芋子の唐揚げ
前回はコースの途中だったので、初手に出てきて意表を突かれる(前回の銘柄は帛乙女)。
しかし、やはり美味。
薄衣がバリッと弾け、とろっとろ。
出汁をしっかりと含ませて、芋の甘みと楽しませる。
冬なので温まって嬉しい。
ガリ
前よりも甘みが抑えられ、食感が良くなった印象。
九絵
佐渡産。
ねっちりした身はぷちりとちぎれ、熟成仕事の妙を楽しませる。
脂が身に回っているので、酢飯の酸味と調和する。
名刺代わりの一貫目はパンチのあるタネを用いるスタイル!
鯵
鯵は江戸前鮨では夏が旬のタネであるが、新潟は夏が駄目で、秋から美味しくなるそう。
薬味と胡麻を鯵の間に挟む仕事(噛ませるのではなく、切り付けて間に)。
とろりと滑らかな食感で、薬味を時間差で感じさせるところが粋だ。
まず山葵の辛味が来て、鯵の味がグイグイと高まり、最後に薬味が引き締める。
真鱈の白子
表面をじっくり焼いて脱水している。
よって、とろーりととろける。
虎河豚で日本料理人が用いる焼き方だ。
柚子をかすかに垂らしている。
南蛮海老
手返しの数を減らして一手で決める。
その心は、南蛮海老の美しい薄紅色を落とさないため。
言わずもがな、とろっとろで甘い。
なお、南蛮海老は深海性の海老なので旬が無く、年中美味しいそうだ。
新潟と言ったら、やはり南蛮海老。
ノドグロ(アカムツ)
久々に「美味しい!」と思うノドグロの鮨であった。
佐渡産のノドグロは、餌が南蛮海老だそうだ。
それゆえに海老味噌を噛ませて握られているが、一体感が抜群。
しっとり、ホロホロとほどけ、控えめに脂がじゅわりと滲む。
脂が強過ぎないので、ノドグロの繊維質と香りも楽しめる。
そこに海老味噌が味の奥行きを与える。
前面に出て存在を主張せず、極めて自然に香りも旨味も一体化する。
皮目を残しさらりと消えるノドグロに、ノドグロなのに奥ゆかしさすら感じた。
茶碗蒸し
アオサと梅の茶碗蒸し。
アオサの香りをバッチリ楽しませ、器の底から梅が穏やかに酸味を添える。
トロトロと滑らか。
控え目で大変魅力的な鮨店の茶碗蒸しである。
墨烏賊
肉厚で、むちむちっと反発があり、とろっととろける。
美しいフォルムだ。
海胆
時期的に北方四島のもの。
海苔の香りが良く、海胆の味を補強する。
海苔は愛知県三河産。
水蛸の柔らか煮
産地は佐渡で、茹で上げの水蛸。
くにゅ、とろっ、ぷにゅぷにゅっと、これは面白い食感!
水蛸なのに、食感が複雑。
そして、香りも良い。
弱火でじっくり煮るのではなく、強火で1時間煮ているそうだ。
いくら
地モノの生いくらで、バラしただけ。
実にピュアな美味しさで、皮は非常に柔らかく、独特の香りも皆無。
薄皮も全て取り除く仕事が奏功している。
いくらは手数で味が変わる事を教えてくれた。
鰤
魚体は8.5キロで、佐渡の朝どれ。
現地でワタ抜き、血抜きした鮮度抜群の鰤を、寝かせるスタイル。
脂が濃厚だけど、サラッとしていて、鰤のイメージを変えてくれる。
もちろん鰤らしい酸味もあり、何よりも香りが良い!
本間親方は「もっと大きいものが欲しかった…」との談であるが、2021年は鰤が厳しい事を知っている。
限られた選択肢の中でベストの鰤を入れて頂いた事に深く感謝を申し上げたい。
鰹
佐渡産…つまり、迷い鰹だ。
皮をサクサクに仕上げていて、これは敢えてガス火を選んでいるそうだ。
スモーキーフレイバーを付けず、迷い鰹の香りを活かすためだそう。
脂は濃厚!
しかし、鰹らしい酸味があり、臭みはゼロ。
これは美味しい迷い鰹だ。
なお、「ガス火は魚が臭くなる」と言う方が未だにいらっしゃるが、それは間違いだ。
完全燃焼しているガスに臭いは無い。
春子
血鯛の春子。
酢はさっぱり目で、穏やか。
昆布〆で脱水を行いつつ、昆布の香りが入らない範囲なので、上品だ。
旨味は入っている。
鮪トロ
漬け。
これが驚く程に美味しい。
しかし、産地はアイルランドで、生ではなく冷凍もの!
現代の鮪仲卸信仰に対するアンチテーゼのようだ。
しかし、メッセージ性だけでなく味も抜群で、それを己の仕事でやってのけている。
脂ノリノリで、それだけでなく旨味が凄い!と思いきや、驚くべき仕事をされていた。
冬のブランド産地である大間の鮪の主食である、スルメイカのペーストを煮キリに混ぜて漬けにしているのである。
しかも、「味を乗せている」のではなく「味を合わせている」かのような一体感。
漬けにより身質が軽く締まっている点も一体感向上に奏功している。
漬けの時間は12分ほどだが、常温で暫く置く事で馴染ませている模様。
結果的に大味ではなく、今後の鮪の可能性を感じさせてくれる。
天恵菇
美味しい椎茸を調理で更に美味しく仕上げる。
旨味と香りが凝縮している。
強火で一気に仕上げ、余熱で火を入れているそうだ。
香の物
香の物も美味しい。
ズワイガニ手巻き
佐渡産で、海苔は先ほどの海胆とは異なる有明産。
甘い!
バリッと弾ける海苔の存在感ともバッチリ合う。
椀
南蛮海老の濃厚な出汁と魚介の骨の出汁を合わせた味噌汁。
穴子
煮ツメは甘みよりもコク主体で、濃密ながらクドくない。
穴子は甘みのある下味だ。
村上紅茶
太陽酒造の仕込み水で淹れた美味しい紅茶。
玉子
新潟らしく芝海老ではなく南蛮海老を使用。
超しゅわしゅわ食感で、海老の香りがしっかり!
2019年11月に頂いたコース
2019年11月に頂いたコースの詳細です。
この度頂いたお酒
- 越乃景虎・虎七郎純米吟醸
- 無想・純米原酒
地物の揚げ銀杏
香ばしく甘い。
ガリ
そこそこの甘みに辛みもあり、食感は柔らかめ。
アラ
九絵ではないアラ。
分類で言うとハタ科アラ族アラ属で、九絵はハタ亜科ハタ族マハタ属…呪文のようだ。
釣り人から「幻の魚」と呼ばれる好敵である。
3日寝かせているが、食感はむっちむち。
噛み応えのある肉肉しい身から、じゅわっと脂が滲み、香りが雄々しく広がる。
今回の魚体は6キロで、大きいと10キロほどになるそうだ。
インパクトのある一貫目で、新潟前を強く示す。
カマス
繊維質はほろりとほどけ、脂が横溢する。
そして、藁で炙った燻香が芳しい!
食欲を刺激しつつ、それでも上品な仕事。
子持ちハタハタの焼き物
新潟と山形の県境の山北町産。
卵の存在感が強く、とろみもあって香ばしい。
食感は軽妙。
身は卵を抱えても脂があり、これは意外な旨さ。
エゾバフンウニ
北海道産で、今回唯一県外産の素材だった。
海胆は甘みが強く、ほの苦味もある。
海苔は三河湾産の混飛びで、香りが良い。
墨烏賊
ねっちり且つむっちりした食感で、甘みが強めだったため、寝かせているのが分かる。
伺ってみたところ、「円盤サイズ」の大きな墨烏賊を1週間寝かせているそう。
かきのもと
白根産。新潟の秋の風物詩である食用菊。
こちらのものは味付けが出汁主体で上品。
酢と塩の当て方も良い。
菊も香りをふんわりと漂わせ、シャキシャキの食感が魅力的。
寒鰤
佐渡の定置網で、10.6キロほどだそう。
それを16日も熟成させている。
頂いてみると脂が旨く、身の旨味も強い。
それでいて臭みは皆無で、血合いを香りとして活かしている。
熟成向きだが、ある種香りのコントロールが難しい鰤を頂き、ご主人の熟成のセンスを実感した。
鯵
これも寝かせ方が巧い。
身はとろんと柔らかく、旨味を楽しめる。
合わせ調味料に山葵と金胡麻。
茶碗蒸し
具はアオサと梅のみと潔い点が素晴らしく、出汁もまた上品。
アワダチ
深海魚で、標準和名はヨロイイタチウオ。
むっちりした繊維質ながらきめ細かく、旨い。
底引き網で掛かった時だけ頂けるそうだ。
いくら
村上産。43℃でほぐし、塩や醤油には漬けていない生イクラ。
シャリの酸味が味わいを支え、殊に濃厚な味わいに感じさせる。
帛乙女
新潟のブランド里芋。
京料理の海老芋のように、出汁を利かせ、薄い衣を纏わせてカリッと揚げている。
とろりとした口当たりは里芋ならではで、海老芋とは一線を画す。
これは魅力的な一品!
南蛮海老
むちっとした身は瞬時に弾け、トロトロと溶けるよう。
新潟を代表する海老で、旨い。
鰻
阿賀野市安田産の養殖鰻である「あがの夢うなぎ」。
焼き、蒸し、焼きと江戸前の仕事を施して握る。
蒸しの過程で脂は程良く抜けて、鰻の香りを残している。
握りに適した鰻と仕事だと感じる。
椎茸
弥彦産。香り良く、旨味もある。
この局面で出されるのが良い。
ズワイガニの手巻き
佐渡産。カニの旨味と香りは抜群!
海苔は有明産で、厚みがあり旨味も強い。
椀
濃厚な潮汁ベースの味噌汁。
穴子
ふわとろな仕上げの穴子。
煮ツメはコクよりも甘みが強めのもの。
玉子
芝海老の代わりに南蛮海老を用いた玉子。
完全にスフレ状で、しゅわっ、しっとり。
雪国紅茶
村上の冨士美園の雪国紅茶を、大洋酒造の鄙願の仕込み水で淹れているそう。
美味しかったので村上で入手した。
「兄弟寿し」の立地と雰囲気
お店は新潟市の繁華街である古町にあり、アクセスは至便です。
商店街に面したドアは飾りなので要注意(笑)
お店は入り口はビルの中にあります。
店内は小ぢんまりとした上質な雰囲気で、カウンターは9席のみ。
つけ場とカウンター席のレベル差はほぼゼロなので、親方の手元がしっかりと見えます。
鮨好きならば頂いていてワクワクする空間です。
「兄弟寿し」の店舗情報と予約方法
WEB予約は以前は対応されていませんでしたが、現在はOMAKASE経由で可能なようです。
席数が限られていて人気が高まっているので、OMAKASEにせよ、お電話にせよ、早めの予約が必須です。
期間に余裕を持って旅程を立てましょう。
店名:兄弟寿し(きょうだいすし)
シャリの特徴:岩船酢(米酢)のみを用いて酸味はスッキリ、塩気は穏やか。
予算の目安:おまかせ13,200円16,500円
TEL:025-224-9581
住所:新潟県新潟市中央区古町通9番町1461-1 坂上ビル1F
最寄駅:新潟駅から2,300m
営業時間:18:00~、21:00〜 ※一斉スタートです
定休日:日曜、不定休
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本記事は、すしログ No. 313を大幅リライトして構成しました。
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